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銀細工の宝船

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「はあッ!」
 向かってくる敵小型飛空艇をマニューバストライクで撃ち落としながら、リネン・エルフト(りねん・えるふと)はまっすぐ空賊の母船へと向かう。
「我輩も助太刀するのである!」
 母船へと向かっていると、横からノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)がリネンについてくる。ビッ! と誇らしげに親指を立てるロボットにリネンは何がそんなにいいのか頭に疑問符を浮かべるが、仲間なのは間違いないと気にしないことにした。
「あなた、名前は?」
「ノール・ガジェットである」
「ガジェットさんね、よろしく。早速で悪いけど、母船を狙うわよ!」
「元よりそのつもりである!」
 リネンと共に母船へと向かうガジェットの脳裏には、ルイ・フリード(るい・ふりーど)の言伝が木霊していた。
『ガジェットさん……困った事に今月の生活費がピンチです。 もし良ければこの「護衛募集中」という情報がありましたのでそこで一稼ぎお願いします。私は私でお仕事がありますので行けないのですが。貴方でしたら大丈夫でしょう。ロボですし。きっとその逞しいボディで安心感があるでしょう! 多分! ついでに言えばガジェットさん……貴方の維持費がけっこう辛いんで……。あぁ、失礼しました。気にせず……。あ、それでは私はお仕事に行って参りますので後ヨロシク!』
(なーんて言われて来てみれば空賊はともかく可愛い女の子がいっぱいなのである。正直気乗りしなかったであるが、まあ、眼福というかなんというか)
「ちょっと、どこ見てるの?」
「ひゅう!」
 リネンの一喝により目を覚ましたガジェットの真横を砲弾が通り抜けていき、ガジェットは慌ててバーニアを吹かしてきりもみ回転しながら砲弾を避ける。「しっかりしてよね」とリネンは言い残して母船のブリッジへ向かうと、ちょうど空賊の大将が見えた。劣勢と判断して出てきたのだろうが、リネンにとっては好都合に他ならなかった。
 大将が自分に気づくよりも速く、雲すらも切る爆発的な速度で急接近。そして剣を両手に握り、すくい上げるように銀色の軌跡を描く。
「まだっ」
 空中に打ち上げられた大将に追撃を加えるべく、雲を引きながらドリフトして転回。再度弾けるように加速して横薙ぎ一閃し、直後にネーベルグランツから飛び降りて仰向けに飛び上がる。そしてぎゅりッと無理やり重心を捻って、空中の大将を叩き落とした。
「おお、あの女の子もやるのである。我輩も負けてられんのである!」
 リネンが大将を仕留めたのを見て、ガジェットがふんふんと興奮して蒸気を噴く。しかしそれはエンジンでもかかったように蒸気の量が増していき、ガジェット本体の活動限界まで達していた。
「行くである!」
 大量の花火に一斉に火をつけたような音と共に、計十二個のミサイルが雨のように敵母船へと降り注ぐ。爆風が熱と破片を撒き散らし、母船が黒煙を噴いた。だがガジェットの気はそれで収まることはなく、体の中心へと光が凝縮されていき――一瞬の瞬きと共に母船の機関部へと一本のビームが照射された。ビームは母船をたやすく貫通し、そんな攻撃に耐えられるわけもなく、母船は火を上げながら墜ちていく。その様子を見て、ガジェットは「やったのである! ボーナスもらうのである!」とはしゃいでいたが、
「あっ」
 敵母船の落下軌道に、味方飛空艇があることに気がついた。



「こんなものかな」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は、船の甲板で船内に侵入した空賊たちの掃討を行っていた。
「船内には少し入られちゃったけど、上々ではあるかな? エオリア」
「うん、他の皆さんの活躍もありますが、ある程度はここで食い止められたようですね。金庫や船長室にもあまり敵は行っていないみたいです」
 死屍累々……とはいえ気絶か動けない者が大多数だが、空賊たちが寝そべる甲板でエースとエオリアは安堵の息を漏らす。
「だがまだ船内にも残党がいるようだね」
 相当な数を相手にしていたにもかかわらず、足元からはまだドタバタと慌ただしい音が聞こえてくる。エースは「やれやれ」と言った風に首を振ると、「無法者は淘汰しなくてはね」とこぼした。
 その直後、凄まじい衝撃と揺れにエースとエオリアは膝をつく。地震か、と思ったがここは空の上。地震などあるわけがない。だがその揺れの原因は、エオリアがすぐに見つけることとなった。
「エース、あれ」
 エオリアが指差した先には、墜落していく敵母船が自分たちの船に接触し、がりがりと船体を引っ掻いて墜ちていく。どうも事故のようだが、洒落にならないとエースは顔が青ざめるのを感じた。



 味方飛空艇、船内。金庫に向かう途中かオーナーを狙っているのかはわからないが、廊下を進んでいく空賊団体をセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)、そして湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)が見つける。忍は船内の空賊の相手をしていたところ、セレンとセレアナに合流し協力することにした。
 セレンが仕掛けたトラップの甲斐あって、物陰から覗く空賊たちは金庫に行こうかオーナーを狙うか迷っているようだ。セレンはどちらでも構わないと言った風ににやにやとその様子を眺めている。セレンの逆側の廊下には忍がいるし、最後のとどめとしてセレアナも見える範囲で待機している。もちろん隙を見せれば、
「ぉグムッ」
「後ろから一撃っと」
 背後に忍び寄り口を塞いで必殺。それを繰り返している内に、空賊たち御一行はもう二人だけになってしまっていた。
 そろそろかなー、とセレンはぷにぷにと唇をつつきながら様子を見ているが、「どこだオラァ!」と叫んだり忙しなく周囲を確認する空賊たちを見て十分と判断。忍にも合図を送り、悠々と空賊たちの目の前に姿を現した。
「出やがった!」
 セレンを見つけた空賊たちがセレンに銃を向けるが、セレンはチッチッと得意満面の顔で指を振る。そして自分のこめかみに指を立てて、
「……頭?」と空賊。
 くるくるとセレンが指を回し、
「くるくる」
 手のひらを見せて、
「パー」
 大爆笑しながら空賊たちを指差した。
「この水着女ァ……! ブッころぉわ!」
 銃を構えた瞬間、空賊の視界が真っ赤に染まる。視界どころか姿も段々赤く染まっていき、空賊たちは前もっての神経衰弱も相まって軽いパニックになる。原因は、単に忍が死角からカラースプレーを顔面に吹き付けているだけなのだが。
「くそ、くそっ! なめやがってこの――!」
「はい終了ー」
 爆発寸前、のところで天井に潜んでいたセレアナが頭上から槍で二人同時にノックアウト。きゅう、と肉体的にも精神的にもノビた空賊たちを見下ろして、「大成功ー!」とセレンと忍がハイタッチした。
「あのねえ……ちょっと意地悪が過ぎるんじゃないの?」
「何言ってるのセレアナ。これも立派な戦術よ」
「俺はフォローできただけでも十分だ」
 にこにこと笑い合うセレンと忍に、「もう……」とセレアナがため息をつく。その直後、船体が傾くほどの衝撃に襲われ、三人は廊下に転げ落ちた。
「ちょっ、何? なんなの?」
 尻餅をついて困惑するセレンと、頭を打ったのか悶絶している忍。その中でセレアナだけが、「外に出たほうがいいかも」と言って二人を助け起こした。