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第一章 討伐


「キョウジがSM……SNS、だっけ? 作って情報共有できるようにするって!」
 そう言って、エクスはそそくさと走っていった。
「……だそうですよ?」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)はパートナーに言った。
「ええ、でも私達には確認する手段がないわね」
 クコ・赤嶺(くこ・あかみね)は面倒くさそうに答えた。
 霜月とクコはテロリストを探す、というより祭の警備をするつもりだ。
「とにかく、片っ端から怪しい奴を連行するわよ」
 そう言ってクコは周囲を見回した。
 会場には無数のテントや屋台が並び、人で溢れている。
「おや、早速……」
 近くの屋台で酔っぱらいが他の客に絡んでいた。屋台の店員も止めに入っているが、治まりそうにない。
 別のところでは、屋台前に集まる人の間から手を忍ばせている盗人の姿が見える。
「自分は酔っぱらいを……クコはあちらをお願いします」
「はいはい」
 霜月とクコが近づきながら声をかける。
「すみませんが、こちらに来て頭を冷やしてください」
「はーい、そこの不審者、こっち来なさい」
 別の場所では酒杜 陽一(さかもり・よういち)が軍用犬を用いてテロリストを探している。
 雑踏に行く手を阻まれ、屋台群からの様々な匂いで捜査は思うように進んでいない。
「予め他の連中と連携しておくべきだったぜ――今、何か……!?」
 イナンナの加護により研ぎ澄まされた感覚で、何か危険を感じる。左からだ。
「そこの屋台の後か」
 屋台の裏には、資材置場や店員の休憩室を兼ねたテントがある。その裏側から危険を感じる。
 軍用犬も嗅ぎつけたらしく、目標を見つけた姿勢でテントを指している。
「ここで待て」
 犬をその場において、陽一は光学迷彩と小暮スイーツを使用した。
 足早にテント裏に回り込むと、頭から黒いローブをかぶった人物が、今まさに放火しようとしていた。
 陽一はすかさずテロリストを取り押さえた。
「なんとか他の連中に連絡がとりたいぜ……」
 甲賀 三郎(こうが・さぶろう)は、パートナー達と連携し、自身が隠密であることを活かしてテロリストを探していた。
 本山 梅慶(もとやま・ばいけい)が奇抜な出で立ちとパフォーマンスで衆目を集めている。
 付近には人だかりができ、それを見た人がまた集まって、周辺に人の流れができた。
 その流れに逆らう人物がいないかをアシダカ・軍曹(あしだか・ぐんそう)が見張っていた。
「!? 三郎、いましたわ!」
 それを聞いた三郎は静かに走り出した。
 人にぶつからず、流れに逆らい進む姿はまるで風のようだ。
 要人にはマリア・アルシャイフ(まりあ・あるしゃいふ)が警護についている。
 しかし、要人である来賓の集まる祭会場中心部は、ここから遠くない。油断は禁物だ。
 三郎は一気に肉薄し、テロリストへ一撃を食らわせた。致命傷にならないよう、手加減をしていた。
 テロリストはその場にうずくまった。
 周りの人は梅慶に気を取られて気づいていない。
 近くの数名が見ていたが、急に倒れたようにしか見えていない。
 騒ぎになってはまずいので、三郎はすかさずテロリストを確保する。
「どうしました? 具合でも悪いのですか……」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は少し苛立っていた。
「いくらか情報は入ってきましたが、山葉からの連絡を待っていては手遅れになってしまうかもしれませんね」
 唯斗は一瞬、殺気を放った。すかさず殺気看破と超感覚で周囲を探る。
「ここは一気に行きましょうか……!」
 周囲の人達は全く動じない。普通の人には殺気など感じられないのだ。
 しかし、数名の人が反応したようだ。さらにその中の一人が、明らかに身構えてこちらを探り返そうとしている。
「いましたか……!」
 唯斗は走り出した。
 人ごみを体術回避で華麗に避けながら相手に近付く。
「どうやら、テロリストのようですね」
 封斬糸に雷術を付与して敵を拘束した。テロリストは痺れて動けない。
 周りを取り囲む人達はショーのひとつだと思い、拍手をしている。
 息をついたのも束の間、今度は明らかに殺気が高速で近づいて来る。
「仲間がいましたか」
 人だかりの間から出てきたテロリストは、仲間の拘束を素早く切ろうとしたが、封斬糸は簡単には切れなかった。
 テロリストは懐から何かを取り出し、地面に叩きつけた。濃い煙が立ちのぼり、周囲が見えなくなった。
「煙幕ですか……しかし!」
 テロリストは唯斗の視界を封じ、飛びかかって来た。
 唯斗は投げの極意を使い、合気道で敵をいなした。間髪を入れず、ヒプノシスで相手を眠らせた。
 眠ったテロリストを、拘束されたテロリストの横に寝かせ、周りの人に見得を切った。
「これにて、一件落着!」
 辺りは拍手喝采に包まれた。

 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)はパートナーのレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)と共に、祭を楽しみながら歩いていた。
 あくまでもカモフラージュのためであり、時折、店員や警備員に聴きこみをし、テロリストの情報を集めている。
 得た情報は、涼司と一緒にいる凶司と連絡をとり、共有している。
「ダメですね。それらしい人物を見たという方は何人もいるのですが……」
 聴きこみを終え、綿あめを持って戻ってきたレイチェルに、泰輔が焼き鳥を食べながら言う。
「どこにおるかっちゅう事までは分からん、か。こっちもさっぱりや」
 場所を変えようと少し歩いた所で、凶司から連絡が入った。
「……このへんにおるらしいで。――あそこにおったわ!」
「例の作戦で行きます」
 レイチェルは敵の後から近づき、肩を掴んで振り向かせた。
「貴方がたの確固たる未来から、どうして過去である『現在』に干渉の必要があるのです?」
 慌てたテロリストはレイチェルの腕を振りほどいて逃げようとした。その時すでに回りこんでいた泰輔とぶつかった。
「わーごめんなさい! 堪忍してぇな!」
 態度と対照的に、泰輔から余裕を感じたテロリストは自分が追い詰められていることに気付いた。
 テロリストが戦闘態勢に入ると同時に、泰輔とレイチェルは一気に畳み込んだ。
「わー、なんかしらんけど、大変やー」
 周りの人は、喧嘩騒ぎだと思っているのか、騒ぎを笑ってい見ていた。
 別の場所では、二人の踊り子の周りに人だからができていた。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が旅の踊り娘に扮して情報を探っていた。
「くっそー、折角のデートがパーじゃない……!」
 膨れっ面で踊るセレンにセレアナが言う。
「ほら、笑顔で踊らないと周りに怪しまれるわよ」
「あら、何だかんだ言って、あんたノリノリじゃない」
「冗談じゃないわ。セレンと一緒だからなんとかやってるのよ」
 そうこうしているうちに、情報が入ってきた。装飾品に偽装した籠手型HC弐式・Pを確認し、周囲を見回した。
 セレアナがセレンに耳打ちする。
「いたわ。後の方に……こっちを見ないで歩いてる」
 孤立した行動をとっているのが如何にも怪しかった。二人組だ。
 セレアナは祕めたる可能性でディメンションサイトを使い、敵の位置を確認した。
「いくわよ」
 セレンが踊りながら移動していった。それに合わせて人だかりも道を開ける。
 テロリストがその様子に気付き、振り向いた。
 すかさずセレンはその身を蝕む妄執を使った。テロリストは錯乱し、セレン達に襲いかかって来た。
 一人はセレアナが、舞に見せかけたCQCで倒した。もう一人はセレンが殴り倒した。
 呆気にとられている観衆に、セレンが言った。
「あら、あたしの美しさに思わず理性の箍がふっとんじゃったわけ?」
 ドヤ顔でキメているセレンを見て、セレアナはため息をついた。
 次々とテロリストが確保されていく中、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)もテロリストを見つけた。
 隠れ身と殺気看破を使いながら巡回していたのだ。
 焼きそばを買い、食べ歩きながらテロリストに近付いた。
 羅刹の武術で割り箸を相手の腕に突き刺した。何事かと振り向いた相手の腹に、神速で素早く膝蹴りをかました。
 その場に崩れ落ちるテロリストを抱きとめる。
「おっとぉ、大丈夫ですか? 飲み過ぎは良くないよ」
 テロリストを介抱するふりをして連行した。

 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は占い師として、祭に参加していた。できる形で作戦に貢献しようというつもりなのだ。
「ラッキーな事が起こりそうなのは、ムムッ!あちらの方角だな。出会いの予感がするぞ」
 祭中央部は警備が厳重で比較的安全だと考え、客を誘導した。
 暫く占いをしていた時、情報に近い風体の人物が通ったので、呼び止めた。
「誠に失礼とは存ずるが、今日のそなたのラッキースポットは、チョコバナナ屋であろう……」
 そう言って、テロリストと思しき人物を、パートナーの黒崎 天音(くろさき・あまね)がやっているチョコバナナ屋の方向へ誘導し、自らの屋台へ戻った。
 その不審者は「なんだこいつは」と言いたそうな顔でブルーズを睨み、チョコバナナ屋の方へ歩いて行った。
 天音は、不審者が屋台を素通りしそうだったので、慌てて呼び止めた。相手は如何にも迷惑そうな顔をしていた。
「そこのお兄さん、チョコバナナはどう? ずごく美味しいよ」
 そう言いながら天音は手際よく、テロルチョコのたっぷりついたバナナに宝石キャンディーをトッピングした。
 先程から集まってきた子ども達が見とれている。
 天音に押し売りされた形でチョコバナナを買った不審者は、一口がじって歩き出した。
 しかし、数メートル歩いた所で奇声をあげてその場に膝をついた。
「嬉しいなぁそこまで喜んでもらえて」
 天音がそう言うと、様子を見ていた子ども達が屋台に殺到した。
 丁度そこに弁天屋 菊(べんてんや・きく)が通りかかった。
 不審者の様子を見るなり、状況を察した。
「おやおや、お兄さん大丈夫かい?」
 そのまま介抱するふりをして、連行していった。
「今、着物のお姉さんが確保しまました。テキ屋を仕切ってる菊さんです」
 天音は世 羅儀(せい・らぎ)に連絡した。連絡を受け、羅儀は叶 白竜(よう・ぱいろん)と共に菊の元へ向かった。
 菊は野外食堂の前で待っていた。羅儀は怪しまれないように声を掛けた。
「お姉さん、何か変わった料理あるかな」
「ああ、良いのが入ってるよ」
 二人のやりとりを聞いた白竜は、素早く天音に連絡する。
「天音君、ご苦労様でした。こちらは尋問に移ります――裏のテントを借りたいのですが」
「丁度そこにあるんだ。好きにしな。あたしはもう一回りしてくるよ」
 目立たないよう、作業服姿にしていた白竜と羅儀は不審者が拘束されているテントへ向かった。
 不審者は、既に毒が引いて、意識が戻っていた。柱に腕を縛られた格好をしている。
「オレは表に……」
 羅儀は外で見張りをしに出て行った。それを見届けた白竜は、いきなり不審者の腹を蹴った。
 蹴られた相手は顔を突き出す形になり、白竜はその顎を掴んで布を相手の口に突っ込んだ。
「自害などさせませんよ。こちらには時間がありませんので、少々手荒な形でやらせてもらいますよ」
 表を見張っていた羅儀は、背後から何度も悲鳴が聞こえても顔色一つ変えずに立っていた。
 暫くして、悲鳴が聞こえなくなり、白竜が出てきた。
「やはりテンプルナイツが関わっていたようですが、それ以上は……」
「やつは?」
「これ以上やったら死んでしまいますね」
「ここは菊さんに任せて、オレたちは他へ行こう」
「そうですね。一応、この事を皆に伝えておきましょう」
 そう言って、白竜と羅儀はその場を後にした。
 ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)は野外音楽堂へ向かっていた。
「今日は、お祭りを楽しみにやってきた『美人姉妹』って設定でいきましょう」
「……」
 タマーラはニキータに無言で裏手つっこみを入れた。
「美人はちょっと言いすぎたかしら」
 ニキータは下を出しておどけた。イラッと来ているタマーラを気にせず言う。
「カラオケ大会、盛り上げなきゃね! あの人達だって楽しみにしてるんだから」
「……」
 二人が振り返ると、数十人の老若男女が後をついてきていた。人形のように可愛いタマーラに寄ってきた人達だ。
 タマーラが歌えると知ると、是非ともカラオケ大会に出場してくれ、と頼まれたのだ。
 一般客を危険から遠ざける為に丁度いい、と思った二人は快諾した。
「叶少佐から連絡があったわ。テロリストの風体や元締めの情報が回っているわね」
「……私たちのやり方で……みんなを守らないと」
「あ〜ん、なんてカワイイの! 私の天使ちゃん!」
「……」
 タマーラはまたイラっと来た。

 シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)は焦っていた。パートナーのグレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)が暴走しそうなのだ。
「シャノン、どうしたのだ? 邪教の輩は撲滅せねば」
 向かおうとするグレゴをシャノンは慌てて止める。
「ちょちょちょっと待って! 確かにグランツ教もいたけど、回ってきた情報によると、捕まった人の中にはグランツ教徒はいなかったらしいわよ」
「むぅ……しかし、悪行は正さねばならん。やはり我等も向かったほうが――」
 シャノンは咄嗟にひらめいた嘘でごまかす。
「ああー、思い出した! 機晶コンロをつけっぱなしだったかもしれない」
「……なんと、それは一大事! 最後まで見物していたかったが疾く住居に帰還するのが得策であるな」
 シャノンがほっとしたのも束の間、グレゴが言う。
「しかし、周りが騒がしいな。……邪教徒がなにか悪を働いたのかもしれん。見に行ったほう良いだろうか?」
 落ち着かないグレゴをなだめるため、この後シャノンは、なんか疲れた、家の鍵をかけ忘れた、などの嘘をつくはめになった。
 会場では次々とテロリスト達が捕まっていった。