イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

ねこぬこぱにっく!

リアクション公開中!

ねこぬこぱにっく!

リアクション

■魔王と猫たち

「なんでですかぁ!?」
 魔術式催眠型学習装置の設置される広間で、魔王エリザベートは研究員に対して怒号を張り上げていた。
 原因は装置を起動し、電子空間へ逃げ込みたいという魔王の要望を研究員達が装置の稼働で室温が上昇する為に拒否したからだ。
「うぐう、安息の地は何処……」
「マーオちゃん!」
「うひゃあ!?」
 がっくりと肩を落としているところを、友人であるノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)に肩を叩かれた魔王は驚きの声を上げる。
 しかし、氷の精霊である彼女が部屋に立ち入ったためか、気温はいつの間にかちょうどいいものに切り替わっていた。
「あー、いい感じですぅ。ってあれ、その人は?」
「陽太おにーちゃんだよっ! 」
 ノーンの傍に居たのは御神楽 陽太(みかぐら・ようた)だった。 
「いつもノーンがお世話になっています」
 ノーンに紹介された陽太が魔王に対してにこやかな笑顔を返す。
「ノーンの話には聞いてたですぅ! ふふん、魔王はノーンの友人ですぅ!」
「うん、いつもノーンから聞いていたよ。 仲良くしてくれてありがとう」
「い、いやぁ、そんなことはねえですぅ」
 陽太にそう言われ、魔王は照れくさそうな顔をしている。
「マオちゃんって電脳世界だと凄いんだよ? 大きなお城を動かしたり!
「い、いや、あれは…」
 ノーンが陽太に魔王の事を嬉々として語りだすと、魔王は顔を真っ赤にする。
「そ、そういや娘が生まれたらしいじゃねぇですかぁ! 写真とかあるなら見せやがれですぅ!」
「ん、ちょっと待ってね」
 恥ずかしさに耐えかねた魔王が話題を逸らすと、陽太は籠手型HCに表示された画像に写る娘と愛すべき女性の姿を見せた。
「……良い顔してるですぅ」
 恐らく、写真を撮ったであろう陽太に向けられた2人の笑顔は心の底から幸せを感じているようで、直接会った事のない魔王も自然と顔が緩んでしまうほどだった。
「……げっ」
 意識が写真に集中していたからだろうか、魔王は自分の足元に猫が這いよっていることに気づいていなかった。
 咄嗟に足を振って追い払おうとするが、猫はそれを華麗に避けて魔王にすり寄ってくる。
「マオちゃん、ネコさん苦手?」
「け、毛玉が、ちょっと……」
 魔王が猫からワザとらしく身を引くと、ノーンはひょいと猫を拾い上げる。
「ネコさん、可愛いのに」
「そ、それはわかるで……げえっ!」
 猫を抱えるノーンの反対側の通路から、大量の猫がこちらに向かってくるのが魔王には見えていた。
「随分涼しいな、ここ」
 そんな猫達の群れに紛れてやってきたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は部屋の涼しさに驚いた顔をしていた。
 猫に連れられてやってきた彼の片手に薄く発光する猫じゃらしが握られており、しっかり遊んできたのが見受けられる。
「おやつを無視してまで涼しい場所がいいんでしょうかね? ってこら!」
 涼しさに一瞬のスキを見せたエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の手から持ち込んでいたササミのおやつを奪い取り、猫達はエオリアの怒りも気にせず一斉に食べ始める。
「むむ、確かに遊んだあとですが……」
「はははっ、いいじゃないか。人懐っこい証拠だろ?」
 そんなことを言いながらエースは猫が食事をする風景を眺め、エオリアは額に手を当ててため息をついていた。
 が、食事をする猫の姿に仕方ないなぁ、と思うところもあるようだ。
「ひぃぃっ、毛玉がぁ……」
「ん、その子、大丈夫かい?」
 部屋に猫が増えたことで、顔を引きつらせる魔王だったが、陽太は彼女のすぐ傍に弱った子猫が居る事に気が付いた。
「……だ、大丈夫じゃなさそうですぅ」
 流石に弱った猫にを放っておくことが出来ないのか、魔王は猫を心配そうに見つめている。
「どれどれ、ちょっと見せてくれないか?」
 そんな様子に気が付いたエースは猫と遊ぶのを中断し、急いで駆け寄ってその体に手を触れる。
「随分弱ってるな、エオリア。さっきのおやつを水で解してくれないか?」
 簡単な触診から子猫が栄養失調という事を判断すると、エオリアのは頷いておやつを解して流動食を作り始めた。
「何か器具があればよかったんだが……」
「どうした、何かあったのか?」
 弱った猫によって、軽い騒ぎが起きていたのか酒杜 陽一(さかもり・よういち)が慌てて部屋へと駆け込んでくる。
「むぅ、猫が弱っているぞ!」
「大変ですリーダー!」
「すぐに医者を!!」
 そして、陽一に続いてやってきたのは、かつてキマクの動物園において騒ぎを引き起こした男達。
 既に改心して動物園のスタッフとして働いている彼らに陽一は目を付け、今回の猫騒動の解決を頼んでいた。
 実際、彼らの活躍ぶりはすさまじく、学園内の至る所で猫を誘導し、傷つけずに外へと連れ出しているのだが。
「……ちょっと、声が大きいんだよなぁ」
 陽一が連れてきた犬達よりもうるさいのが玉に瑕だった。
「そんなことはない! これは我らの動物達への愛ゆえの想い!」
「あーあー、少し静かにしてくれないか? 後、医者は俺だよ」
「む、エース殿か!」
 ああ、覚えていたんだ。
 と、思いつつも子猫の様子を見ていると、『魔獣使い』だった男が救急セットをその場で開き始める。
「ここに動物用の医療セットがある、処置をお願いしてもいいかな?」
 エースはその申し出を受け、迅速に治療を開始した。


 子猫の手当ては素早く終わり、無事元気を取り戻したのかみゃあと鳴き声を上げる。
「わぁっ、よかったぁ」
 元気になった姿を見て、ノーンは嬉しそうに声を上げ、陽太もよかったという顔をしている。
 しかし、まだ完全に体調を取り戻したわけではない為連れ帰って世話をしなければならないだろう。。
 最も、エースは全く気にしていなさそうだが。
「それにしても、なんでここに集まってるんでしょうね?」
「んー、そこの花にでも聞いてみようか?」
「エース、何を言って……」
 エオリアが突っ込むよりも早く、エースは部屋の隅に飾られていたユリに話しかけていた。
 傍から見れば、奇行に見えるのだろうが、きっと彼には植物の声が聞こえているはずだ。
「……どうでした?」
「音が変わってから猫が増えた、って。」
「音……?」
 陽一が繰り返すと辺りには狙いすましたようにチャイムが鳴り響く。
「ひょっとして、『音』に寄せられているんじゃ? なぁ、最近チャイムの設定が変わったとかは」
「あー、そういやチャイム音が最近変わったよーな気がしてるですぅ」
 魔王の言葉に、その場に居た全員は一斉にチャイムの鳴り響くスピーカーと、辺りに響く音波を気持ちよくその身に受ける猫を見比べていた。