空京

校長室

【十二の星の華SP】女王候補の舞

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【十二の星の華SP】女王候補の舞
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リアクション

「ラズィーヤさん……」
 桜井静香がホールへと下りてくる。
 ラズィーヤは護衛に護られながら、他校生と会話をしているティセラとは少し離れた位置のソファーに腰掛けていた。
「控え室の貴族の人達は、一応落ち着いたよ。皆のお陰で。……ティセラ、さん側の人もいたけどね」
「ええ。地球人の中にも、ティセラ・リーブラさんについている方もいるようですわね」
 ラズィーヤは随時報告を受けながら、ティセラに注意を払っていた。
「ところで静香さん、わたくし考えたのですけれど」
「ん?」
「ティセラさんをヴァイシャリー家が女王候補として擁立し、彼女が女王になられたとして」
「うん」
「新たな女王にとって、切り捨てることが出来ない女王に最も近い存在になるためには」
「うん」
 不思議そうな目でみる静香に、ラズィーヤは目を細めてこう言った。
「わたくしのパートナーにお婿に行ってもらうというのはどうでしょう?」
「え……」
 きょとん、とした後、その言葉の意味を理解し、静香は目を見開く。
「え、えええええええええええええええーーーー!?」
「多分過激で刺激的な毎日が送れますわ」
「ら、ラズィーヤさん、何考えて……っ」
「それでは一緒に参りましょうか」
 ラズィーヤが静香の手をとった。
「う、ううん。僕は行かないし、踊らないよ。貴族の人達が心配だから、控え室に戻るね」
 静香は慌てて控え室に戻っていき、ラズィーヤはくすりと笑みを浮かべるのだった。
「俺様と踊ってくれないか?」
 緊張を静香で癒したラズィーヤに、教導団の南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)が手を差し出す。
「ええ、よろしくお願いいたしますわ」
「次はそれがしと頼む!」
 パートナーのオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)もラズィーヤに申し出る。
「まあ……わたくしで釣り合いますかしら」
 オットーは身長が220cmのドラゴニュートだ。
「どんな曲でも合わせるぜ」
 そうオットーが答えると、ラズィーヤが微笑みを浮かべる。
「頼もしいですわ」
 そして、光一郎と共に、ホール中央の方へと歩き踊り始める。
「お疲れでなければ、お相手願えるかな? 美しい星剣のお姫様」
 教導団のエルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)はティセラに手を差し出す。
「ええ、よろしくお願いいたしますわ」
 エルザルドの手をとって、ティセラは立ち上がり再び踊り始める。
「さすがエルであります」
 パートナーの土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)は、少し離れた場所、人ごみに紛れている。
「噂に聞く十二星華とはいったい何なのでありましょう」
 こういう社交的な場は苦手な為、決して前には出ずエルとティセラを見守ることにする。
「おーほっほっほっ! ラズィーヤ様とティセラ様が近くで踊ってらっしゃいますわ!」
 ロザリィヌがびしっと2人の方を指差す。
「撮らねばならぬのであるな。それにしても、痛いのであるな……」
 光学迷彩で姿を隠したシュブシュブが踏まれ、蹴られながら2人とも映る場所へ移動し、撮影していく。
「作法はどちらで身に付けましたの? とても魅力的ですわ」
 ラズィーヤが踊りながらティセラに話しかけた。
「ありがとうございます。元々身についていたようですわ。ラズィーヤ・ヴァイシャリーさんもとってもダンスがお上手でお綺麗ですし。わたくしの近くでシャンバラの顔となっていただきたいお方ですわ」
「ありがとうございます」
 微笑み合いながら、踊ってゆく。
「エリュシオンって、どんな場所なんだ?」
 ティセラの肩を抱いて近づきながらエルザルドが尋ねる。
「樹高10000メートルを誇る最大の世界樹ユグドラシルの加護の元にある、神々で編成された龍騎士団を擁したパラミタ最大・最強の国家ですわ」
「シャンバラじゃ太刀打ちできない国だよなあ……。どうしてそのエリュシオンは君達を蘇らせた? 十二星華とは何なんだ?」
「シャンバラを復興させるために、蘇らせてくださったのですわ。わたくし達が何であるかは、わたくしの口からは申し上げにくいですわね。シャンバラ古王国の女王の血を受け継いでいる、剣の花嫁とでも言っておきましょうか」
 女王の血を引いている存在だから――。ミルザム・ツァンダと同じ方法で女王候補宣言が行えるのだ。
「対立候補ともいえる、ツァンダの女王候補をどうしたい?」
「分不相応なことはおやめになって、ツァンダ家の令嬢としてお過ごしいただければよろしいのですけれどね。特別な力を有しているようには思えませんもの。わたくしが女王になった際にも、彼女にお任せすることはなさそうですわね」
 ティセラはミルザムと協力して政を行うつもりはなさそうだった。
「ラズィーヤはどう思う?」
 光一郎がラズィーヤの手を握って、ステップを踏みながら尋ねた。
「どうでしょうね」
 ラズィーヤは内心を語らず、ただ微笑んだ。
「オレとも踊ってくれないか?」
 音楽が終わると、教導団のロイ・シュヴァルツ(ろい・しゅう゛ぁるつ)がティセラに手を差し出した。
「ええ」
 と、微笑んでティセラはロイの手をとる。
 そして、次の音楽が始まり、ティセラとロイが踊り始めた。
「ずっと見てたけど、ダンスめちゃめちゃ上手いよな。流れるような動きだ。どこで覚えたんだ?」
「エリュシオンでも頻繁に舞踏会は開かれていますのよ。身体が覚えていましたから、5000年前も頻繁に踊っていたと思いますわ」
 他愛もない会話をしながら、踊っていく。
「んー……何かにやけてない? 気のせいだろうけど」
 ロイに好意を抱いているパートナーのエリー・ラケーテン(えりー・らけーてん)は、周囲に警戒を払いつつ近くでロイを見守っている。
 音楽が終盤に近づいた頃、ロイはティセラにこう問いかけてみる。
「十二星華って全員シャンバラの女王の血を引いているのか?」
「そうですわね」
 ティセラの返事は曖昧なニュアンスを含んでいた。更に。
「十二星華は女王器である星剣をそれぞれ有しておりますから。その力を見れば、女王に近しい者だとご理解いただけると思いますわ」
 と、言葉を続けた。
「その女王ってヴァルキリーだったんだよな? 剣の花嫁の十二星華が血族となった経緯は?」
「申し訳ありません。それはわたくしが、あなた個人に語るべきことではありませんわ。いつか機会がありましたら説明させていただきますし、どこかに記録が残っている可能性もありますわね」
「そっか」
 ロイはそれ以上追及はしなかった。
「次は僕と」
 薔薇学のハーポクラテス・ベイバロン(はーぽくらてす・べいばろん)が頃合を見て、ティセラの前に現れた。
「はい。よろしくお願いいたしますわ」
 スローテンポの音楽が流れ始め、ハーポクラテスとティセラの身体が接近する。
 ハーポクラテスは彼女の耳が、自分の口に近づいた途端、こう囁きかけた。
「僕は貴女の目標に心の底から賛同するよ」
「嬉しいお言葉ですわ」
 ティセラが微笑みを見せる。
 優雅に踊りながら、ハーポクラテスは自分の身の上について話していく。
「僕は小さなころ、両親や街の人達に毎日虐められてた。それは僕がこんな見た目だからっていうのも当然あったけど、でも僕がもっと強くていい子であればきっと僕も幸せに過ごせたんだ」
 ハーポクラテスは、人形そのものといえる顔と肌を有する異形な美貌の持ち主だ。その所為で、子供の頃は家畜のような虐待を受けてきた。
「ヴィシャリー家やツァンダ家なんて貴族達はどうでもいい。国民が幸せに過ごせる国に必要なのは綺麗事じゃない、他国に虐げられない力だ。そういう事だよね?」
「その通りではありませんわ。自分と共に強き国家を目指してくださる同志のことを、わたくしは大切に思っております。貴族も、国民も一方的に護られる存在ではありません。強き国家を築くということは、国に生きる人々、貴族も一般人も、強くあることを共に目指し、国を繁栄させることですわ。わたくしがここを訪れたのも、ヴァイシャリー家の持つ力で、わたくしを支援していただきたいからです。あなたが強くあれば、あなたは虐げられなかったかもしれません。しかし、そのように身近な者を虐めるのは虐める側が弱いからです」
 はっきりとティセラはそう言って、ハーポクラテスに慈しみを込めた目を向けた。
「あなたが強くあろうとわたくしに賛同していただけるのであれば、あなたはわたくしにとって必要な大切な人ですわ」
「戻りますよ」
 ぐっと、ハーポクラテスの腕を引くものがいた。
 ……パートナーのクハブス・ベイバロン(くはぶす・べいばろん)だ。
 遠くからティセラとハーポクラテスの様子を監視していたのだが、ティセラの彼への言葉がまるで誘惑のように聞こえ、危機感を感じた。
 クハブスは、亡くした兄に似ているハーポクラテスを拾った吸血鬼だ。
 身も心もティセラに奪われるわけにはいかない。
 ハーポクラテスの腕を引いて、強制的に下がらせる。