空京

校長室

【十二の星の華SP】女王候補の舞

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【十二の星の華SP】女王候補の舞
【十二の星の華SP】女王候補の舞 【十二の星の華SP】女王候補の舞

リアクション

「ふむ」
 パートナーを変えながら踊るティセラの姿に、イルミンスールのニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)が声を漏らした。
「姿を見るのはまだ数回だが……ティセラといいミザルムといい、場にいるだけで華やかになるな」
「こうして見ていると、数々の事件が嘘のようだね」
 パートナーの五月葉 終夏(さつきば・おりが)はそう答える。
「月並みだが、ああいうのがやはり「王者の品格」という奴か」
 ニコラの言葉に軽く頷いた後、終夏はメイドからアイスティーの入ったグラスを受け取った。
 そして、ティセラの方へと歩み寄る。
「はい、どーぞ」
 曲が終わり、休憩を取ろうとしたティセラに終夏は、真っ先にアイスティーを差し出した。
「言うと胡散臭いかもしれないけど、毒は入ってないからね」
 にっこり微笑むと、ティセラも微笑んでグラスを受け取る。
「あそこのテーブル、空いてるよ」
 壁際の空いているテーブルに終夏はニコラと共に、ティセラを導いていく。
「どうぞこちらに」
 百合園の七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、メイドから布巾を借りて手早くテーブルを拭く。
 拭き終えて、テーブルから少し離れた歩に、パートナーの七瀬 巡(ななせ・めぐる)が近づく。
「すごい綺麗な人だね……。でも、色んなところ襲ってる悪い人なんだよね」
「うーん……その理由、何なのかなあ。聞いてみようかな」
 歩はちょっと考えた後、フルーツの盛り合わせに手を伸ばす。
「気をつけてね」
 巡は少し離れた場所で見守っていることにした。
「こういうことは、男の役目か? どうぞお姫様」
 言いながら、ニコラが椅子を引ひいて手を椅子に向ける。
「ありがとうございます」
 微笑んで、ティセラは椅子に腰掛けた。
「皆と色々お話してたよね。少しだけだけど、聞こえてきたよ」
 終夏は隣に腰掛けてティセラに話しかける。
「強い国って言ってたけれど、何故そこまで強い国にしたいの?」
 もしかしたら、彼女は弱かったこの国に傷つけられたことがあるのかもしれないと、終夏は考えていた。
「わたくしは、過去の鏖殺寺院との戦いで、一度命を落としていますから」
 僅かに悲しげな目で微笑んだ後、ティセラは瞳に強い意志を宿らせる。
「当時の女王、アムリアナはわたくし達十二星華を捨て駒のように扱いました。そして、わたくし達の存在はなかったかのように歴史から消されています。アムリアナが良い女王であったという言い伝えだけは残っているなんて……。自分に従う者――自分の一部でもあるわたくし達に対するあの扱いをわたくしは許すことができません。あの者のような政治は決して行わず、強靭な精神を持ち信頼関係で深く結ばれた隊を結成することも、わたくしの願いでもありますわ」
「そっか……」
 過去、彼女達の間に何があったのだろう。
 その過去を見てみたいと、終夏は思うのだった。
「初めまして、七瀬 歩と言います。フルーツでも如何ですか?」
「では、イチゴとパイナップルをいただきますわ」
「はい」
 歩はフルーツの盛り合わせから、イチゴとパイナップルを小皿に乗せて、ティセラに差し出した。 
「ありがとうございます」
 礼を言って、ティセラはフルーツを食べ始める。
「あの、ティセラさんはエリュシオンから来られたとのことですが……。女王にこだわるのはシャンバラのためじゃないんですか?」
「シャンバラのためですわ」
 微笑むティセラに、歩は不思議そうに尋ねる。
「でも、エリュシオンの使者として来られたんですよね? もしかして、エリュシオンに利用されているのではないですか?」
「そんなことはありませんわ」
 美しい微笑みを湛えるティセラに歩は不安気な目を向ける。
「エリュシオン側も何らかの思惑があると思うんです。それは、今の私たちには教えられないことなんでしょうか?」
「エリュシオンとしても、この地の建国が果たされた際には、良い関係を築きたいと考えています。エリュシオンに助けていただいたわたくしが女王になれば、代表会談などもスムーズに行えますから、わたくしがシャンバラ地方の女王になることを望んでいるのですわ」
「それは……つまり……」
 歩は少し混乱をした。
 ティセラの話が真実ならば、ティセラが女王となったのなら、エリュシオンと同盟に向けて話し合いが行えるということで……。
 ティセラを拒否して、地球との結びつきを強化していったら――。シャンバラはどんどんエリュシオンに危険視されていき、やがて力と力でぶつかり合うことになるのではないか、と。
「シャンバラを軍事国家にされたいと仰いますが……」
 教導団の軍服を纏った青年、【ノイエ・シュテルン】の【クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が物腰柔らかにティセラに近づく。
「あなたは教導団には何を期待しますか?」
 端正で真面目そうな容姿のクレーメックに顔を向ると、ティセラは「そうですわね……」と少し考える。
「何を基盤として、どのように作るのでしょうか?」
 同じく教導団の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)もティセラに問いかける。パートナーのリース・バーロット(りーす・ばーろっと)は心配そうに少し下がって、見守っている。
 ティセラが2人の問いの返答を考えている間、クレーメックのパートナークリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)は、集まる人々にダンスに戻るよう呼びかける。
「話の内容でしたら、後ほどお話いたしますから」
 更に興味本位で近づく若者、教導団所属の者には注意を促しておく。
「上の階から貴族の方々も見ていますし、携帯電話で各所へ連絡を入れている方もいるでしょう。取り囲んでいては、指示しているように見えかねませんわ」
 そうして、集まる人々を減らしていき、パートナーのクレーメックを見守ることにする。
「小次郎さん……。大丈夫だとは思いますけれど」
 小次郎のパートナーのクリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)も、遠くからパートナーを心配気に見守る。何かの際には直ぐ駆けつけられる位置で。
「教導団はシャンバラ建国後に国軍となる予定ですのよね? わたくしを女王と認めて下さるのなら軍事方面を手伝っていただきたいですわ」
「それは、あなたが女王になっても教導団を国軍にすると?」
 クレーメックの問いに、ティセラが頷く。
「強く、信頼に値する者をわたくしの側に置いて、首脳部を作り、政治部門を最も濃く王家の血を引くというヴァイシャリー家に。軍事部門は全面的に教導団に手伝っていただけたら助かりますわね。ただ」
 ティセラは瞳を軽く煌かせる。
「ヒラプニラ家が明確にわたくしを支持してくださらないと難しいですわよね。あくまで、教導団は地球人が建てた学園ですわ。協力は非常に助かりますけれど、地球からシャンバラ侵略の指示があった際、あなた方はどう動かれるのでしょう? 弓引く可能性のある者を側には置けませんわ」
「軍事国家にしたいと仰られているのに、ヒラプニラや国民の支持が得られなければ、軍事体制は整えられず、女王となったとしてもシャンバラはより混迷することになりませんか?」
 小次郎は少し口調を強めて問う。
「ですから、もちろんヒラプニラ家にもわたくしを支持していただきたいですわ。聞けば空京は現在地球の日本の領土とのこと。そのような場所に、シャンバラの宮殿を建てることにどんな意味があるのでしょうか?」
 パラミタ各国との戦争に備えて、地球との交わりは必須だ。
 だが、ミルザムは地球の、日本政府の働きかけで擁立された、蒼空学園の影響力が強い候補だ。
 この状態で、安定が望めるのかどうか――。
「あなた方、教導団がシャンバラのために手を取り合うべきなのは、日本ですか? それともパラミタの各国ですか?」
 ティセラは瞳に鋭い光を秘めながら、柔らかに微笑んだ。
「ヒラプニラ家、及びシャンバラに住まう人々が女王と認めた人物であるなら、教導団が認めないということは考えられませんが、ご存知の通り、現時点では教導団もミルザム・ツァンダを支持しております」
 クレーメックはそう言うと、そっと身を屈めてティセラの耳に囁きかける。
「お話の内容は上官に報告致します」
 と含みを持たせる。ティセラの問いかけに対する返答は一切せずに。
「ええ、お願いいたしますわ」
 ティセラの返事を聞いた後、小次郎に目配せをして、2人はティセラの側から離れていった。

「あたしもお訊きしたいわ」
 2人が去った後に現れたのは、教導団の早瀬 咲希(はやせ・さき)だ。
 クリストバルのお陰で、囲っての尋問のようにならずにはいたが、軍事国家という言葉に反応し、教導団員達が次々に質問に訪れる。
「シャンバラは、5000年前に国家としての形が崩壊してしまったわ。今のシャンバラ地方を技術や経済、インフラ全ての面において、大国……。そう、例えばエリュシオンと対等に持ち込む為の方策は考えているのですか?」
「にゃーん」
 パートナーで仔猫型の機晶姫であるアレクサンデル・ゲール(あれくさんでる・げーる)が、ティセラの隣の椅子にちょこんと乗っかって可愛らしい鳴き声を上げる。
 ティセラは微笑みを向けた後、柔らかな口調で咲希の問いに答える。
「そのシャンバラ地方を現在、他国が侵略してこないのは、ドージェ・カイラスの存在があるからですわ。パラミタの国には強者が必要なのです。強き者がシャンバラの女王となり、強き存在を束ね国家神を多く有すれば、他国と対等な立場となれます。その上で、国としてパラミタの各国に支援要請を出し、国々の力を借りてこの地を復興、繁栄させますわ」
「あくまで強さが重要だというのですね。強い存在を束ねられれば、他国と渡り合えると……では、現在までの行動から蒼学の傀儡にしか見えないという噂の、ミルザムさんについて思う事はありますか?」
 咲希の問いに、ティセラは目を細めて悲しげな表情を見せた。
「可愛そうな方ですわね。空京でお会いした時にはそのような方だとは知りませんでしたの」
 彼女のその表情が演技なのか本心なのか、咲希には判らなかった。
「隣、よろしいでしょうか?」
 そうティセラに声をかけてきたのは、教導団【ノイエ・シュテルン】のマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)だった。
「ええ、構いませんわ」
 承諾を受けて、マーゼン、それからパートナーのアム・ブランド(あむ・ぶらんど)は、ティセラと同じテーブルについた。
「エリュシオンからの使者と仰いましたが、エリュシオン帝国はシャンバラや地球とどのような関係を築こうとされているのですか?」
 感情を表さずに発せられたその言葉に、ティセラはアイスティーを一口飲んだ後ゆっくりと返答をする。
「互いにとって有益な関係を築きたいと思っておりますわ。対等に同じテーブルに着くには、まずシャンバラがきちんと国として認められる存在になることが大切です。どのような関係を結ぶのかは建国後の話し合いで決めていくことになるでしょう」
 大国がこのシャンバラ地方に目をつけている理由は、地球との玄関口がある空京がシャンバラ地方にあるからだ。
 そのあたりの説明を、ティセラはしてこない。マーゼン側も自分からこちらのカードについて言い出すべきではないと考える。
 復興の支援をする代わりに、空京の一部の領有権などを求めてきそうでもあるが――。
「教導団のことは、どう思っていますか?」
 アムが焼き菓子をティセラに差し出しながら尋ねた。
「戴きます」
 ティセラは焼き菓子を受け取って、2つに割いて食べ始める。
「頼もしい組織だと思っていますわ。お力をお借りしたいです」
 ティセラは問いかけにそう答えて微笑んだ。
 特別な力を有していないミルザムと、強力な力を有しているティセラ。
 女王としてよりふさわしいのはどちらだ。
「こちらも美味しいです」
 お菓子を進めながら、アムは表には出さず考えを巡らせる。
 パラ実以外の五校はミルザム支持で一致している。だが、教導団は蒼学や百合園ほど積極的に彼女を支持してはいない、とアムは判断していた。
 より大きな利益がもたらされるのならば――ティセラ支持や独自候補擁立も一策ではないか、と考えるのだった。
「ティセラ、さん……」
 控えめな少女の声が響いた。
 ティセラが振り向いた先には、黒髪の少女――アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の姿があった。
 アレナには、秋月 葵(あきづき・あおい)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)。それから氷川 陽子(ひかわ・ようこ)ベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)ら白百合団員が付き添っていた。
「話、聞きました。あんなにお慕いしていた女王様のこと、どうしてお嫌いになってしまったのですか?」
 不安をいっぱい秘めた瞳で、アレナがティセラに尋ねた。
「わたくしが女王を慕っていた? あなたは、どうしてそのようなことを知っているのですか?」
「それは……っ」
 アレナはティセラを知っていた。
 新たな情報を得られない状況で、精神だけ生き続けてきたアレナは過去のことを随分と覚えていた。
 ティセラのことも、他の十二星華のことも。覚えている。
 大切な仲間、だった人達だ。
 だけど、ティセラはアレナを見ても特別な反応を示さない。
「アレナ先輩も、女王様に仕えてたみたいなの、ね?」
 困っているアレナに、葵が助け舟を出す。
 アレナはただ、首を縦に振った。
「ところで……」
 そんなアレナの様子を気にかけながら、ベアトリスがティセラに話しかける。
「現在、シャンバラ地方に姿を現し、確認されており、私が存じている十二星華は『水瓶座のテティス』『獅子座のセイニィ』『蠍座のパッフェル』『牡牛座のホイップ』『魚座のエメネア』『山羊座のリフル』ですが、その他の十二星華はどこで何をされているのでしょう?」
「わたくし達は5000年前の戦いでバラバラになってしまいましたから。エリュシオンの助けで蘇った私とセイニィ、パッフェルの他の十二星華の所在については、わたくしにもわかりません」
「全員、エリュシオンからいらしているわけではないのですね」
「はい。また皆で集まれたらいいのですけれど」
 ティセラが少し寂しげな笑みを見せる。
 その後もティセラは飲み物も菓子も、提供されるまま躊躇することなく受け取って食べて。
 契約者達と建国について語り合っていくのだった。