空京

校長室

【十二の星の華SP】女王候補の舞

リアクション公開中!

【十二の星の華SP】女王候補の舞
【十二の星の華SP】女王候補の舞 【十二の星の華SP】女王候補の舞

リアクション


第4章 クイーン・ヴァンガード

 蒼空学園の島村 幸(しまむら・さち)は、クイーン・ヴァンガードのことをあまり良く思ってはいなかった。
 というのも、仲間からあまり良くない噂を聞くことが多々あるからだ。
 校長の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)に説明を求めてみたくもあったけれど。
 そう簡単にあのカンナ様が内情を話すわけがない。
「あ、彼方さん!」
 皇 彼方(はなぶさ・かなた)の姿を見つけ、幸はパートナーのガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)と共に駆け寄った。
「少しお時間いただけますか?」
「何?」
 彼方は足を止めて幸達に笑みを見せる。
「私はクイーン・ヴァンガードのこのガートナの手伝いをしてきました」
 幸がガートナに手を向け、ガートナは軽く頭を下げて挨拶をする。
「今後の為に、先輩である彼方さんのお話が聞きたいんです。よろしくお願いいたします」
「そんなに畏まらないでくれ。何でも聞いてくれていいからさ」
「ありがとございます」
 礼を言った後、幸は質問を始める。
「彼方さんは、ミルザム様のことをどう思っていますか?」
「素敵な人だ。女王になってもらいたいと思ってるぜ」
「そのミルザムさんを護る隊である……クイーン・ヴァンガードの他所での行為に対してはどう思っていますか?」
「皆頑張ってるよな。命を失った奴等のことを思うと……」
「そう、ですか……」
 言って、幸はガートナを見る。
 頷いて、ガートナが質問を続ける。
「上から下される命令について、疑問はないのでしょうか? 反論や意見はないのですか? それとも出来ないのでしょうか?」
「納得できない任務なら、最初から受けねぇし。反論や意見というか、愚痴くらいは直接の上司にいっちまうことはあるなー」
「彼方さんは何故クイーン・ヴァンガードに入ったのですか?」
「テティ……大切な人を守りたくて……あ、いや、あれだ、建国のために若輩者だが微力ながら力を貸した……っ、いてっ、舌噛んだ」
 言って、彼方は恥ずかしそうに笑った。
「ティセラ・リーブラの女王候補立候補についてはどう思いますか?」
 その質問に、彼方の表情が曇る。
「相棒を倒した奴だ。あの女のやり方を、俺は絶対認めねぇ」
「辛いことをお聞きしてしまい、申し訳ありませんでした。任務でご一緒した際にはご指導よろしくお願いいたします」
 幸が頭を下げた。
「おう! またな」
 再び、笑顔を浮かべて彼方は階段の方へと去っていった。

○    ○    ○    ○


 ヴァイシャリー家主催の舞踏会に天秤座(リーブラ)のティセラが現れたという知らせを受けた御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)を蒼空学園の校長室に呼びつけた。
 女王の血を受け継いでおり、女王になることを望んでいるティセラという人物の存在と、十二星華が起こす数々の事件。そして今回のヴァイシャリーへの接触行為と、問題ごとが度重なり、周囲からの圧力も増すばかりで……ミルザムは疲れと疑問を感じていた。
 環菜は女王候補宣言を行う前のように、思い切り身体を動かして踊りたいと言っていた彼女に、お忍びで出かけることを許可し、空京へと送り出した。
 その直後に、校長室に次々と若者達が現れる。
 蒼空学園の生徒だけではなく、クイーン・ヴァンガードに所属する他校生、クイーン・ヴァンガードに所属はしていないがミルザムやカンナとの面会を希望し、警備員に招かれて校長室にやってきたものもいた。
「他校の依頼で一緒の薔薇学生がヴァイシャリーの貴族達を説得してくれてます……環菜、今後の為にも詳しい事情を聞かせて下さい」
 真っ先に、環菜に詰め寄ったのは蒼空学園の樹月 刀真(きづき・とうま)だった。
 刀真はミルザムの強引とも言える女王候補の名乗り上げには、巷で言われている以外にも事情があるように感じていた。
 だけれど、環菜は詳しい事情を説明しようとはしない。
 1人で背負い込み、自己中心的と思えるような一方的な命令を下し、他人の意見にあまり耳を傾けない。
「あっ……いやなんでもない」
 可愛い女の子を発見し、蒼空学園ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)はナンパに走りそうになるも、 パートナーの本郷 翔(ほんごう・かける)の鋭い眼光に圧されて、おとなしく壁際に立っていることにした。
「自分達の敵についてもっと把握しておきたいと思います」
 翔が携帯電話の画面を眺めている環菜に、問いかけていく。
「ティセラや、十二星華の経済的基盤については、何かご存知ではありませんか? 地球の援助勢力の有無も経済的観点からお聞かせいただければと思います」
「……援護してるのは、エリュシオンでしょ。さっき電話で知ったばかりだけど」
「地球からの支援などは受けていないのでしょうか?」
 翔の言葉に、環菜は一点を見つめながら暫く考え込む。
「エリュシオンが地球のどこかと関わりを持っていたら、間接的に支援は受けているかもしれないけれど……でもそうね。なんか引っかかるわね。あれだけの合成獣とか……エリュシオンから連れてくるには無理があるし。経済的に、物資などの支援をしている者がいそうに思えるわ。クイーン・ヴァンガードも警護や探索に奔走しているから、そこまでの調査は進んでいないのよね」
 環菜も十二星華の背後関係についてはまだ突き止められていないようだった。
「そのクイーン・ヴァンガードですが」
 蒼空学園のエルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)が、厳しい顔付きで話し出す。
「一部の学校や生徒に、クイーン・ヴァンガードがカンナ様の私兵という揶揄があります。カンナ様の命令で動くなら私兵といわれても否定できません」
「私の命令に従うのは当たり前よ」
「何故でしょうか? クイーン・ヴァンガードは女王候補の親衛隊ではないのですか? そういった疑問が生まれる原因は、クイーン・ヴァンガードの組織がしっかり固まっていないからです」
 不機嫌そうに環菜は携帯電話を操作する。
 エルシュは構うことなく、言葉を続けていく。
「また、カンバスウオーカーが殺された事件では、『星華との戦いで、クイーン・ヴァンガードは見ているだけだった』とも大勢に目撃されました。『威張るだけで役にたたない無能集団』と晒されてます」
「私はそんな話、聞いたことがない」
 一般的に、クイーン・ヴァンガードは憧れの対象になっている。
 ただ、実際にクイーン・ヴァンガードに所属する者や、共に依頼に携わった一部の学生から不満の声が上がっていることは事実だった。
「エルシュは、他校の友人たちから、蒼学であることでクイーン・ヴァンガードと見られて、肩身の狭い思いを何度もしました。民意も明らかでない今、クイーン・ヴァンガードは必ずしも我が校のイメージによろしくない部分もあります」
 ディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)が、そう言うと環菜は顔を上げて、エルシュとディオロスに目を向けた。
「その顔からして、本気で言っているみたいだけれど、世間一般的にクイーン・ヴァンガードは評判はそこまで悪くないわよ? どこの誰がそんなことを言っていたの? それが本当なら、敵側の情報操作じゃないかしら」
 クイーン・ヴァンガードが一部で評判が悪いことは事実である。
 だかそれは、警察の不祥事が目立つのと同じこと。多くの隊員はシャンバラの民の憧れの存在として任務に就き、全うしている。故に、現在のシャンバラ全体の評価は決して低くはない。
 ただ、クイーン・ヴァンガードを名乗っての、命令違反行為、暴力行為等によりクイーン・ヴァンガードの名を汚す行動をしている人物が1人いれば、組織全体が疑問視されることもある。
 そういう危険性のある状態だということもまた事実なのだ。
「それでしたら、尚更、取り返しのつかない状況になる前に『組織を固め、実績を上げること』が必要です」
 エルシュがはっきりと言う。
「いかに有効に使える組織とすべきかを、学内で一度会議するなりし方向性を明確にしてはいかがですか?」
 ディオロスがそう言葉を添える。
「会議なんてものは、するだけ無駄よ。皆好き勝手に動きたいんだもの、意見が纏まるわけがないし、まとまろうと……こういう場に現れるあなた達のような人達は、暴力沙汰や不祥事なんて起こさないでしょ? がちがちに規則を固めて、所属しにくい隊にしたら隊員は今の100分の1以下になるわ。ティセラと対峙したら戦力不足で死者が沢山でるわね。多少問題を起こしても、前線で戦う勇気のある者も必要なのよ」
 エルシュは深くため息をつく。
「評判は悪くないとか仰ってましたが、やっぱり解ってるのですねクイーン・ヴァンガードの問題を。……寧ろ、一番感じているはずですよね、カンナ様が」