空京

校長室

【十二の星の華SP】女王候補の舞

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【十二の星の華SP】女王候補の舞
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リアクション

「あの……怒らないで下さいね。勉強不足なところもあって、解ってないんです。教えて下さい」
 蒼空学園のリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)は環菜にぺこりと頭を下げた後、質問を始める。
「クイーン・ヴァンガードとは、何を目的にしているんでしょうか? 蒼空学園との関係、ミルザムさんとカンナさんの関係について、説明をお願いいたします」
「女王器が保管されている宝物庫や、建設中のシャンバラ宮殿の警備、それから女王器の探索がクイーン・ヴァンガードの主な仕事で、概ね問題は起きていないわ。十二星華が絡む事件で、認識のない一部クイーン・ヴァンガードのメンバーが問題を起こしてるようね。ミルザム・ツァンダは知っての通りツァンダ家の娘よ。ツァンダ家は言うまでもなく、このツァンダを治めている家。6首長家の1つであり、シャンバラ古王国の王家の末裔でもあるわ。ツァンダ家だけじゃなく、他の5首長家も王家の血を引いているらしいけどね。詳しい記録は残っていないけれど、ヴァイシャリー家は王家に最も近い家系と言われているわ」
「……そのミルザムさんはカンナさんの手の上で踊っているのでしょうか? クイーン・ヴァンガードは女王候補の親衛隊なのに、カンナさんの命令で動かされているようにも見えますし」
 環菜の説明に対して、再びリースが問いかける。
「それの何が問題なのか、知ることに何の意味があるのか解らないわね」
 環菜が興味なさそうに言う。
 ドア付近で、皆を眺めているだけだったリースのパートナーレイス・アズライト(れいす・あずらいと)が、リースに近づいて彼女の耳に、「これ以上の問答は無駄だ」と囁きかける。
 環菜がこんなタイミングで、様々な立場のものがいる場で、本心を語ってしまうほど無用心な人じゃないことをレイスは見抜いたのだった。
 不安そうな、悲しそうな目で、リースは頭を下げてレイスと共にドアの方へと歩く。
「本心も語らない人に、ついてくる人はいないよ」
 ドアの前で、最後にレイスが小さく呟いた。
 環菜の眉間がピクリと反応するも、何も言わない。
 2人はそのまま校長室を後にした。

 しばらく、沈黙が続いた後、真面目そうな少女が環菜の元に歩み出た。
「初めまして、赤村 柊(あかむら・ひいらぎ)と申します」
 環菜とルミーナに、柊は挨拶をして隣に立った人物に手を向ける。
「彼はパートナーのヒジリ・シルフィード(ひじり・しるふぃーど)です」
「紹介にあずかりましたヒジリ・シルフィードです。どうぞ宜しく」
「よろしくお願いいたします」
 2人の挨拶にルミーナがそう答えて微笑み、環菜は軽く首を縦に振った。
「私はまだクイーン・ヴァンガードには入っていないのですが、目指したいと思っています。ですのでいくつかお聞かせいただきたいことがあります」
 前置きをしてから、柊は質問を始めた。
「蒼空学園とツァンダ家との結びつきについては理解していますが、校長は何故ミルザム・ツァンダを擁立しようとお考えになったのでしょうか? 彼女は本当に女王になりたがっているのでしょうか?」
「踊り子として各地を回っていた彼女はシャンバラの民達にとても好かれているし、女王器を手にしてることから申し分はないはず。本人もシャンバラの為になるのならと、女王になる覚悟を持って女王候補宣言を行ったはずよ」
「自分自身が女王になりたくて、本人から名乗り出たわけではないのですね……」
 少し間をおいて、柊は質問を続ける。
「クイーン・ヴァンガードの行動に対しては、校長自身はどう思ってらっしゃいますか?」
「こんなものだと思うわ」
 環菜は感情を表さずにそう言った。
「改善しようとは思わないのですか?」
 ヒジリの問いに、環菜は何も答えない。
「現在のクイーン・ヴァンガードには当学園以外の生徒も散見され、クイーン・ヴァンガードに所属しながらもミルザムへの批判的な態度を表明するものもいます」
 蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)が疑問を口にしていく。
「現在の成り立ちからするとツァンダ家の肝煎りで設立された親衛隊、謂わば私兵ですよね。ツァンダ家や蒼空学園、つまりは日本政府との利害に反する存在を内包するのはどうなのでしょうか?」
「クイーン・ヴァンガードの任務に反する行動をしている者は除籍対象よ。ただ、ミルザムに多少の不満があっても、任務を全うしている者は解雇するほどじゃないわ。人手が必要だもの」
 環菜はそう答えた。
「あの……」
 葉月のパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、環菜の横に立つルミーナに近づいて、服の袖を引っ張った。
「ん? なんですか?」
「ルミーナ・レバレッジさんは、ミルザム・ツァンダさんと同じ種族だし、古くからの知り合いや親戚っだのかな。環菜校長とミルザムさんを引き合わせてのはルミーナさん?」
「ミルザムさんのことは、以前から存じておりましたが、わたくしが引き合わせたわけではありませんわ」
 こくんと頷いて、ミーナはもう一つルミーナに聞いてみることにする。
「クイーン・ヴァンガードを作るに当たって、ヴァイシャリー家ではなく、ツァンダ家の肝煎りで復活させたのは技術的な継承者としてツァンダ家が深く関わっているとか?」
 ミーナの質問に、ルミーナはちらりと環菜に目を向けた。
「クイーン・ヴァンガード設立に関しては、先に説明があった通りですわ。わたくしはそれ以上のことは何も存じておりません。シャンバラの技術をツァンダ家が特別継承しているというわけでもありません。ただ、蒼空学園は地球の技術を積極的に取り入れていますから、技術面を考えても百合園女学院より蒼空学園のバックアップが必要でしたでしょうね」
「蒼空学園のためには、ツァンダ家の御令嬢に女王になっていただくほうが良いという理由は、想像できますの」
 ルミーナが話終えた後、蒼空学園の荒巻 さけ(あらまき・さけ)が、パートナーの日野 晶(ひの・あきら)と共に、環菜に切実な目を向けた。
「ですが、それだけではないと思いますの。想像は想像でしかありません、できましたらこの場で説明していただきたいんですの。」
 確かに、ミルザムはシャンバラ地方の人々に慕われてるようだ。
 そして、良い人に、見える。
 だけど、そんな印象しかない、女性だった。
「特にそれ以上の理由はないんだけど。あったとしても、それをこの場であなた達に話す理由はない。余計なことは何も知らなくていい。与えられた任務を果たすことが仕事なんだから」
 突き放すような環菜の言葉に、さけは眉を顰める。
 やっぱり何か多くの者に語れない理由があるんだろうな、と。
 もっと近しい立場になったら、話してくれるかもしれないけれど……。
「沢山お金出してヴァンガードや凄い装備を作って……シリウスもヴァンガードで頑張ってる人も大切だから環菜も頑張ってる、私達はそんな環菜を助けるよ」
 少し間をおいて、環菜にそう声をかけたのは、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だった。
 パートナーの刀真と自分の気持ち、環菜を助けたいと思っていること。
 環菜がお願いしてくれたら、ちゃんと助けると月夜が環菜に話した時。
 環菜は本当にそう思うのならば、クイーン・ヴァンガードなどにも参加して協力してちょうだい、と2人に答えたことがある。
「あの時の言葉が『校長としての協力要請』じゃないなら環菜のお願いでしょ? なら私達はクイーン・ヴァンガードに参加して協力するよ、私と刀真は環菜の味方だから」
「お願いだなんて、そんな……」
 環菜は目を逸らす。
 あの時より、環菜は口数が少ない。
 様々な立場の者がいるこの場では、人の上に立つものとして、話せないこと、見せられない感情がよりあるということだろう。
「友達のシリウスを護る為に環菜はクイーン・ヴァンガードを作って、自分は悪役として振舞っている……そんなことはありませんか?」
 刀真が小さな声で囁きかける。
 環菜は左右に首を振って否定する。
「そんなこと、あるわけないじゃない。私は元々こういう性格なのよ。でも……そうね。きちんと私やミルザムの命令に従ってくれる真の女王候補の親衛隊が必要よね」
 その言葉の後に「あなた達のことは、信じてあげてもいいわよ」と、環菜は刀真と月夜に小さな声で言ったのだった。
「具体的にどうすればいいかしらね」
「やはり実力優先で集めたのが問題ではなかったのでしょうか?」
 蒼空学園の葛葉 翔(くずのは・しょう)が問題点の指摘をしていく。パートナーのアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)は、ヴァイシャリーに行っており、この場にはいなかった。
「実力のある者は多いのですが、ミルザム様への忠誠心が足りない者が非常に多いと思われます。組織としての統一感がありません」
「クィーン・ヴァンガードの本来の目的は女王候補であるミルザム様の守護と女王器の捜索と確保……でも、それだけでいいんでしょうか」
 蒼空学園の水上 光(みなかみ・ひかる)はそう尋ねる。
「ボクらの活動が一部の人に不満を持たせているのは事実です。ミルザム様の顔に泥を塗るわけにはいきませんし、対応を考えなくては」
「誠意を持って接すれば他の方もきっとわかってくれる……私はそう信じていますわ」
 考え込む光の隣で、モニカ・レントン(もにか・れんとん)は手を胸の前で組んで、微笑んだ。
「パラミタの未来を思う気持ちは、皆同じですもの……」
 そう言って、光を見ると、光は首を縦に振ってみせた。
「このままではいけない……」
「そう、このまま統一の取れていない状態だと何が起こるかわかりません、俺はそれが心配なんです」
 光の言葉に、翔が言葉を続けた。
「統一以前に」
 教導団の軍服姿の女性――御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)が、腕を組んだまま厳しい声を発する。
「パワーゲームを繰り返す女王候補や十二星華や、いたずらに軍事力行使すクイーン・ヴァンガードはいらないのでは」
 皆の目が、千代に向けられる。
 千代の隣では、バーバラキア・ロックブーケ(ばーばらきあ・ろっくぶーけ)がはらはら千代を見守っている。
「最終的にミルザムを『完全なる女王』にする為には、結局武力をもって、他十二星華を『屈服』させないとならないのか?」
「教導団のあなたに言われたくないわ」
 環菜の答えに冷ややかな目を向けて、千代は問いを続ける。
「クイーン・ヴァンガードも、排他的な過激派集団にしか見えないが、蒼学としてそれでいいのか?」
 蒼空学園生の何人かが反応を示し、千代を睨みつける。
 バーバラキアは、有事の際にはいつでも千代に代わって応戦できるよう、光条兵器に手を伸ばしておく。
 さすがに校長室の中にはいきり立って掴みかかってくる者も、なだれ込んでくるクイーン・ヴァンガードもいなかった。
「本当に一部なのよ。問題のある隊員は。でも、問題児は目立つものだから。教導団ではどう対処しているのかしら?」
 環菜は感情の篭っていない声で、千代に尋ねる。
「教導団員であれば、刑罰が科せられる行為もクイーン・ヴァンガードでは不問のようじゃないか」
「言葉を慎むでござる」
 教導団の張遼 文遠(ちょうりょう・ぶんえん)が千代を諌めようとする。
「そのような態度では、彼女のような者は頑なになるばかりでござろう」
「認識が足りないのは、果たしてクイーン・ヴァンガードの隊員だけだろうか?」
 千代はその言葉を言った後、後ろに下がり口を閉じた。
「確かに、罰が甘いですよね」
 同じく教導団の夏野 夢見(なつの・ゆめみ)が環菜に問いかける。
「ルールに違反した隊員に対する制裁が、全体的に緩いと思います。これにはどういう意図があるのでしょうか?」
「相手は1人で数十人のクイーン・ヴァンガードを相手に出来る人物よ? 人手が足りないのよ。力のある人物を謹慎させておく余裕はないの」
「しかし、女王の私兵としてふさわしいとは思えない行動の人間が目立っていすぎる」
 蒼空学園の青葉 旭(あおば・あきら)がそう指摘をする。
(……旭くん、自分の事を棚に上げてる気もするけど、まあいっか)
 隣でパートナーの山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)はそんなことを考えていたが、あえて何も言わなかった。
「任務に当たり強硬な行動に出るのは問題ない」
 強硬派である旭ならではの主張である。
「しかし任務以外でクイーン・ヴァンガードの名で無体をする人間や、装備目的の入隊が多過ぎると感じてる」
「否定はしないわ」
「疑わしきは罰せずではなく、疑わしきは入隊させないのが正しい」
 旭の言葉に、環菜は視線を背けながら考える。
「皆さんの仰っていることは、正しいと思いますわ」
 ルミーナが柔らかにそう言葉を発した。
「ここに集っている皆、それぞれ本気でクイーン・ヴァンガードと女王候補について考えて下さっていますわね?」
 環菜にそう問いかけると――しばらくして、観念したかのように、環菜は大きく息をついた。
「制度を変えることや入隊試験を変えることは無理だけれど……。ここにいるクイーン・ヴァンガードの皆や、戦闘能力ではなく、よりクイーン・ヴァンガードとしての意識の高いもの、皆の見本となれる人物は積極的に昇進させることと、特別な班を設けたいと思う。今はそれで我慢して」
「うん」
 最初に返事をしたのは、月夜だった。
「じゃ、空京のミスドへ一緒に行こう。環菜が信頼できる、皆と一緒に」
 そう言って、月夜が差し伸べた手を環菜は掴みはしなかった。彼女の顔を見て、頷きの代わりに瞬きを見せただけで。
 そして、腰を上げて電話をかけて、飛空艇の手配をするのだった。