空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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【ろくりんピック】最終競技!
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宴の終わり


 2020ろくりんスタジアムこと空京スタジアムから、程近い場所にろくりんピック記念公園がある。
 ここでは後夜祭イベントの中でも、特に重要な催しが開かれていた。
 今回ろくりんピックを記念するモニュメントに、聖火から採った火が灯されるのだ。
 その役目を任されたのは空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)。聖火ランナーも任された、空京の地祇だ。
 狐樹廊が掲げたトーチから、モニュメントに点火すると、公園に集まった観衆から大きな歓声が沸きあがり、カメラのフラッシュが無数に焚かれる。
 その光景を眺めながらリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はひっそりとため息をついた。
(この大会は、東西の団結の象徴だなんて謳っていたけれど……実際は東と西、ふたつのシャンバラを際立たせ、印象づけてしまったのではないかしら。
 狐樹廊の言うように、侵食が目に見えるようになってからでは手遅れだわ)
 リカインは暗澹たる思いで、イベント会場を見回した。


 スタッフの打ち上げ会場では、ろくりんくんことキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)に、同じゆる族のメメント モリー(めめんと・もりー)が花束を渡す。
「ろくりんピック、お疲れ様!」
 周囲のスタッフから拍手が起こる。
 ちなみにモリーは実況中継に名乗りをあげたが、賞味期限切れ気味のゆるキャラなので、任された仕事は裏方だった。
 それでもモリーは、音声さんとしてマイクや機材を抱えて会場を走り回ってきた。
「皆、ありがとうネ〜」
 キャンディスも、ほろりとしている。
「キャラの寿命は心配だけど……、次のろくりんピックで華麗に復活するまでの充電期間だよ!」
 モリーの言葉に、スタッフの中に不思議そうな顔をする者もいる。
 キャンディスはにんまりと笑うと、言い切った。
2022年冬季ろくりんピックもよろしくネ〜!
 茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)の受難はまだ続くようだ。




脱走


 暗闇の中を、列車が走っていく。
 ヒラニプラ鉄道の貨車だ。しかし、たったの三両と短い。また真ん中の貨車の車体は、奇妙な金属で覆われている。空京大学特製の魔法封じ加工を行なった車体だ。
 貨車で運ばれているのは、空京スタジアムを襲った鏖殺寺院のメニエス・レイン(めにえす・れいん)一味である。
 他にミストラル、ジャジラット、グンツ、プルクシュタール、如月和馬が一緒に、拘束具を装着させられて床に並んでいた。
 怪我を負ったエトワールは、包帯を巻かれてストレッチャーに拘束されたまま乗せられていた。
 彼らはこれからシャンバラ教導団本校に送られ、徹底的に取り調べられるのだ。
 なお、デカすぎるゆる族キャプテン・ワトソンは、出番が無かった事もあってシャンバラ大荒野に追放されるだけで済んでいた。
 特製貨車には窓もなく、室内は真っ暗だ。外部の音も、ほとんど入ってこない。エトワールの苦しげな唸り声だけが延々と続いていた。他の囚人も時々、唸りをあげる。
 彼らを貨車に投げ込んだ教導団の一般兵士達は、鏖殺寺院を憎んでいた。寺院との戦いの最前線に立ってきた彼らは、それだけ寺院から多くの辛酸を味合わされている。そもそも鏖殺寺院のテロで家族や友人が殺された為に、教導団に志願した者もいた。
 実は、メニエスとミストラル以外は、これから鏖殺寺院に加入しようというデモンストレーションの犯行だったのだが、そんな理屈は通用しない。
「このクソが! 最悪の人殺しどもめ!」
 兵士たちは、ことさら乱暴に囚人を扱い、上官の目を忍んで硬いブーツで蹴りつけ、ツバを吐きかけた。上官は上官で、それを見て見ぬフリをする。

 教導団では、装備や証言からメニエス達がどうやってエリザベートを誘拐するつもりだったか検証していた。
 エリザベートが競技に夢中になっている間にミストラルが後ろから忍び寄って、しびれ粉をまぶした布で動きを押さえ、縛り上げる。メニエスらが校長達を魔法で足止めしている間に逃走。
 あまりに無茶で、自身の実力を過信した計画だ。
 シャンバラ系鏖殺寺院末期のヒステリーと言えよう。
 まず、しびれ粉は空中に散布する事で、多くの敵の動きを鈍らせるものだ。布にまぶしては、単体のみに効果がない上に、顔に押し当てなければ効果を出す事ができない。
 しかも、しびれ粉には相手をマヒさせる効果はない。「しびれ粉」という名称だけを見て早合点し、効果を読まなかったのだろうか?
 単純な戦闘能力では校長の中でもトップクラスを誇るエリザベートを、そんな事でどうにかできると考えるとは、狂気でもなければありえない。
 この襲撃は、シャンバラ系鏖殺寺院の滅亡直前の悪あがき、として世間に受け止められた。

 ゴゴゴゥゥゥゥゥン!!

 突然の衝撃が列車を襲う。
 貨車は横倒しになり、芋虫状態の囚人はなす術もなく壁に叩きつけられる。
 だが脱線横転の衝撃で、貨車の外壁も破壊された。壊れた壁の隙間から、月明かりが射し込んでくる。
(何事?)
 メニエスがズレた目隠しの隙間から、ミストラルを見た。
(用意は整っております)
 ミストラルは隠し持っていた超小型ナイフで、自身の拘束を解き、次いでメニエスの拘束を解く。
 二人は外壁を隙間から破ると、貨車の外に這い出る。
「どういう事なの?」
 警備の兵士を乗せていた前後の車両は、横転しただけでなく炎を吹き上げていた。動く者はない。
 そこは野原の真ん中だ。町の光は見えず、細い月が弱々しく、暗い草原を照らしているだけだ。
「……運命は、私に何をしろと言うの……?」
 メニエスはつぶやき、ミストラルを従えて夜の暗闇の中へと消えていった。

 しばらく後、どうにか外壁の破片を使って拘束具を解いたジャジラットたちが、列車の外に這い出してくる。
 彼らはもはや、鏖殺寺院のテロリストとして追われる身だ。
 だがシャンバラ系鏖殺寺院はすでに壊滅状態。地球系鏖殺寺院は、シャンバラ系鏖殺寺院を駆除すべき敵と認識していた。エリザベートを狙ってテロを起こした彼らは、すでにその駆除対象として認識されている。
 当然エリュシオンも、彼らが加護する東シャンバラの要人を狙ったテロリストを許すはずがない。
 行く先を無くした囚人たちは、途方にくれながらも、その場から逃げ去った。
 今後は脱走犯として、日の目を見ることなく生きていくしかない。