空京

リアクション

エピローグ　新たな現実の始まり


　蒼空学園。

　御神楽環菜（みかぐら・かんな）の葬儀には世界中から弔問客が集まっていた。

　地球経済の支配者と言われた御神楽環菜である。
　地球・パラミタ双方からＶＩＰが集まったと言っても過言ではなく、
　一般学生の入場は禁止されていた。

　また、環菜が自らの死をトリガーにした為替・株式市場への破壊的介入、
“御神楽大恐慌”は発動しなかった。

“金融界が御神楽大恐慌対策を講じてから暗殺した”

　とも

“御神楽環菜はそもそも大恐慌など仕込んでいなかった”

　とも言われているが真相は不明である。

　そして、葬儀の中心は、眼鏡の少年であった。

「環菜、すまない。オレはカノンも、お前も……」

「……涼司さん」

　山葉涼司（やまは・りょうじ）である。
　落ち込んだ山葉をパートナーの花音・アームルート（かのん・あーむるーと）は心配していた。

　御神楽環菜の幼馴染であった山葉は、環菜から後継者指名を受け、
　今や蒼空学園の理事長兼校長兼生徒会長である。

　周囲はその重責に耐えうるか疑問に思っていた。
　一体、環菜は何を考えて山葉を後継者としたのかと。

（僕にはラズィーヤさんがいたからどうにか校長が出来たけど……）

　桜井静香（さくらい・しずか）は自分と似た境遇にあった山葉に共感していた。
　が、その心配は別の出来事でかき消されたのだ。

「俺は、俺は……うおおーーっ！」

　山葉が眼鏡を取り、両眼を光条兵器で斬りつけたのだ。

『山葉がおかしくなった！』

　周囲の人間が山葉を抑えつけようとした。
　が、それは出来なかった。

　逃げられたのではない。
　山葉から発せられる威圧感に、圧倒されたのだ。

「すまねえ。
眼鏡を……俺の弱さを、捨てただけだ」

　山葉の眼は傷一つ付いていなかった。

「山葉の奴、本当はダテメガネだったんですぅ」

「角膜を光条兵器で斬りつけ、視力を矯正したのだ。
常人に可能な技と思えないが……起きた以上、それは事実だ」

　エリザベート・ワルプルギス（えりざべーと・わるぷるぎす）の言葉に解説を加えたアクリト・シーカー（あくりと・しーかー）だったが、
　その表情は冷静な彼に似合わず驚愕に満ちていた。

「ほう、蒼空に大輪の薔薇が咲いたか」

「不思議ではありません。
彼の過去、“埼玉最凶”と呼ばれた中学時代を考えれば……」

　ジェイダス・観世院（じぇいだす・かんぜいん）と金鋭峰（じん・るいふぉん）から見ても、山葉の変質は明らかであった。

　山葉は校長たちに向き合った。

「環菜の跡を継ぐ、山葉涼司だ。よろしく頼む。

俺が校長になった以上、これ以上誰も犠牲にはしない。
まずは環菜殺害の犯人と命じた組織を探し出して、ブッ殺すっ！

……ん？　花音、何か獲物はないか？」

「はい、涼司様！」

　花音は体内から、一際光り輝く剣を取り出した。

「“ブライド・オブ・ブレイド”。
剣の花嫁の名を冠した、現存する最強の強化光条兵器です。

　涼司様なら使いこなせます」

「悪くねえな。……コソコソしてんじゃねえっ！」

　山葉は剣を一閃した。

　刃から放出された衝撃波が、
　光学迷彩で隠れていたイコンの片腕を吹き飛ばす！

　そのイコン、鏖殺寺院のシュメッターリングは煙をあげながら飛び去った。

「来るなら堂々と来い。いつでも相手してやるからよ」

　山葉は剣を花音に格納した。

「まさにサムライ！　あっぱれでありんす！」

　ハイナ・ウィルソン（はいな・うぃるそん）の絶賛の一方、静香は不安げな表情をしていた。

（そうなのかな？
僕には山葉さんが無理してるようにしか見えないけど……）

　エリュシオン帝国、帝都ユグドラシル。

　世界樹の中心部にある玉座に座るアスコルド大帝を
　選帝神が取り囲んでいた。

　アスコルドは呟いた。

「“シャンバラの三柱”の内、一柱が倒れたか。
……そして、もう一柱は」

　空中に映像が浮かんだ。
　ドージェ・カイラスと、マレーナ・サエフである。

　二人はユグドラシルを目指していた。

「闘神ドージェの目的は明白です。
奴らをユグドラシルに近づけてはなりません。

ニーズヘッグ不在の今、
ユグドラシルの防衛能力は衰えています。

龍騎士全軍で迎え撃つべきです！」

「……ですが、ドージェと正面から戦えば龍騎士団とて」

「どれほどの損失となる？」

　アスコルドの言葉に選帝神は言葉をつまらせた。・

「龍騎士団の五割、つまり帝国総戦力の三割を失う事となります。
そうすればマホロバなど周辺諸国への影響力も低下する事に……」

「やれ」

「誠ですか？」

「龍騎士団五割の損耗で、ドージェを屠れるなら安いものよ！

ドージェに止めを刺した者には「七龍騎士」の地位と、
末代までの褒美をとらせよ！

さすれば、勇猛な龍騎士達は進んでドージェを倒すであろう」

「ハッ！」

　数日後。
　龍騎士団はエリュシオンとシボラとの国境にフマナに布陣した。
　ドージェを迎つためである。



　東西シャンバラ両国はドージェと龍騎士団の戦いに対して不干渉を貫く事とした。

　ドージェはパラ実の生徒であったが、
　卒業生である以上、パラ実は責任が取れないと主張した。

　帝国内では東シャンバラ及びパラ実に制裁を加えるべきという意見もあったが、
　東シャンバラ総督に就任したアイリスによって退けられた。

　また、御神楽環菜の死は、
　パートナーであるルミーナ・レバレッジ（るみーな・ればれっじ）の意識不明も招いていた。

　ルミーナが管理していたシャンバラのインターネットの中枢、
　Ｘルートサーバは空京大学のアクリトが管理するという話も出ている。

　そして東西シャンバラ政府はロイヤルガードを設立した。

　以前から準備は進んでいた物の学校間の調整で難航していたのだ。
　それが御神楽環菜の死によって一気に準備が進んだのだ。

　ロイヤルガードはクイーンヴァンガードを実質上解体し、
　各学校から精鋭の契約者を勧誘し組織されている。

　その最優先の任務は代王の警護である。
　代王が殺害、ないしはコントラクターブレイカーで契約を解除された場合、
　国家解体の危機に陥る。それだけは防がねばならないのだ。

　そして、設立したばかりのロイヤルガードの前に、
　国家存亡の危機が突きつけられるのは少し先の話である。