空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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【ろくりんピック】最終競技!
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リアクション



 団体戦 


 観客のざわめきがスタジアムに広がる。
 もちろんその声の大半は、ポロリに対する不満であった。そもそもポロリしそうな水着の少なさ、ポロリを狙おうとする者の少なさ、アクシデントの少なさが彼らのテンションを著しく下げていた。
「なんだよ、誰もポロリしねえじゃねえかよ」
「さっきの変態みたいな男も変態なのは格好だけだったしよ」
「誰か早くポロリしろよポロリ!」
 雰囲気はもはや完全に場末のストリップ劇場である。これは果たしてろくりんピックのスタジアムなのか、ろくりんピックとは何なのかを考え直したくなる瞬間だった。

 リング上では、残った東西の選手たちが勢ぞろいし、それぞれに距離を開け牽制し合っていた。
 東軍の百々目鬼 迅(どどめき・じん)、パートナーのシータ・ゼフィランサス(しーた・ぜふぃらんさす)は西軍の天貴 彩羽(あまむち・あやは)天貴 彩華(あまむち・あやか)と向かい合っている。
 彩羽の水着は黒地に赤の水玉をあしらったビキニにそれと合わせた色のパレオを巻いていた。そして、何を隠そう彼女の胸はきちんと大きかった。これには久々に観客の機嫌も良くなった。沸き起こるポロリコール。
「な、何なのこの空気……でも今はそんなことに構ってる場合じゃない、正々堂々勝負よ!」
 彩羽がクッションを下段から突き上げる。それを中段突きによっていなした迅は、試合前シータから受けた助言を思い出していた。
 ――中段攻撃やりまくったら勝てるぜ。
「理屈は分かんねえが、勝てるってんならやるしかねえな!」
 2撃目、3撃目と連続して中段を攻める迅。彩羽はそれを上段攻撃や同じ中段攻撃で応戦し、手数としては五分の戦いだった。……ここまでは。
 彩羽が4撃目を繰り出そうとクッションを振り被った時、とうとう待望の事件が起きた。
 ポロリである。
 迅のしつこい中段攻撃が、彩羽のビキニを少しずつずらし、ついにその水着がはだけたのだ。
「そろそろ決め……きゃああっ!?」
 腕を上に上げた瞬間胸元を覆っていた布がはらりと落ちそうになり、彩羽は顔を真っ赤にしてバッと両手でそれを隠した。が、今は試合中。そんな手が塞がるような真似をしてしまっては、対戦相手の格好の餌食である。
 そろそろか? いよいよアレが見えるか? 観客の誰もがそう期待した。
 しかし、意外な形でその期待は裏切られることとなる。
「ぶびゅっ」
 突然、噴出音とも悲鳴ともとれる音が聞こえた。それは、目の前でいきなりポロリを見てしまった迅の出した鼻血だった。
 ぶしゅう、と出血多量で死ぬのではないかという勢いでシャワーのように鼻から血を流す迅。この血しぶきがモザイクの役割を果たしたことにより、観客席からはポロリを見ることが叶わなかった。
「良い仕事したと思ったら何肝心なとこで邪魔してんだー!」
「血以外に出すもんあるだろうが!」
 観客からブーイングと卑猥な野次が飛ぶ。しかし当の迅は貧血でまったくそんなこと耳に入っていなかった。そのまま迅は倒れ、タンカで運ばれていった。
 なお彩羽の方も「こんな状態で試合は続けられません」と自らドロップアウトした。両者ドローである。

「助言したかいがあったな。迅のうぶさはからかい甲斐があり過ぎるったらありゃしない」
 そばで大量出血した迅を見ていたシータは、にやりと満足気な表情でその様子を見ていた。
「彩羽の分も、がんばるよぉ〜」
 そのシータに、彩華がブンブンとクッションを振り回しながら突撃してくる。その様子は、まるで小さい子供のようだ。とは言え、青地に白の水玉模様のビキニを着てうさぎ柄のパレオを巻いているその姿は彩羽ほど胸はなくても女性らしさが感じられ、観客の期待を再び煽った。
「さーて、オレも中段攻撃をしまくってポロリを……」
 観客の期待に応えるように、ポロリを目論むシータ。下段を攻める回数がやや多かった彩華との相性もよく、見事シータはポロリさせた上プールに落とすことに成功した……のだが、迅が出した鼻血の後始末のため急きょリングに上っていた清掃員たちのせいでまたもや観客席からはそれが見えないまま終わってしまった。
 観客のストレスその他諸々は溜まる一方だったが、ともあれこれで東の3勝目である。

「さあ、鼻血騒動も無事収まって浮島では新たなバトルが始まってるぜ!」
 実況の声に、観客が視線を注ぐ。リング上では、東軍姫宮 和希(ひめみや・かずき)ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)
弁天屋 菊(べんてんや・きく)親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)のパラ実コンビが西軍如月 正悟(きさらぎ・しょうご)エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)赤根 冴子(あかね・さえこ)羽田 優香(はねだ・ゆうか)らと攻防を既に繰り広げていた。
「おっぱい党党首として……ここで見せ場をつくる責任が俺にはある!」
 中段攻撃を繰り返しながら徹底的に正悟はポロリを狙っている。
 が、東軍の服装は正悟が予想していた以上に手ごわいものであった。和希、菊は共に水着どころか、胸にサラシを巻いているという任侠ファッションに身を包んでいたのだ。サラシをポロリさせるというのがビキニに比べてどれほど大変なことか、正悟は身を以て味わっていた。
 特に菊は正悟に対し上段攻撃で攻め続け、彼はろくにクッションをぶつけることも出来ぬまま悪戯にあざだけを増やしていった。
「はあ……はあ……」
 そういうアレではなく、息が荒くなる正悟。それでも彼は、一心不乱に中段突きを続けた。当然、菊の反撃を受けるばかりで菊の体は崩れることはない。
「ほら、どうした、そんなもんか?」
 菊が正悟の上段攻撃の合間に、脇腹目がけ不意の一撃を放つ。
「……ここだっ!」
 上から来る連続攻撃の中で繰り出された、自分と同じ角度からの攻撃。その一瞬を、彼は見逃さなかった。えぐるように、サラシを巻きとるようにクッションを菊の胸元に滑り込ませる。そして、瞬く間にその胸を覆うサラシを剥ぎ取った。もはやこれは芸術、プロの領域と言えるだろう。
 同時に、自らもバランスを崩し菊の方へと倒れこむ正悟。偶然か意図したものかは分からないが、彼の顔面は真っすぐ菊の胸へと向かっていた。
「うわっ、こ、これは事故で……」
 言い訳をしつつ飛び込もうとする正悟を、菊は冷たい目線で見降ろしていた。正悟の言葉が途中で止まる。彼がそこにあると思い込んでいたふたつの小さな宝は、絆創膏によってその姿を遮られていたのだ。
「ばーか、鼻の下伸ばしてるんじゃねぇよ」
 無防備に顔を晒している正悟は勢いをつけたまま、菊のクッションを真正面で受けてしまう。ぐしゃっ、とクッションから生まれたとは思えぬ音が響き、正悟はその場に倒れた。
「残念だったな。これでも食って出直しな」
 菊はどこからかお握り弁当を取り出すと、倒れている正悟の近くにそっと置いた。
「わが人生……是非も、なし……」
 今にも消えそうな意識の中、正悟がそう呟くとパートナーのエミリアが思いっきり背後からクッションで彼の後頭部をぶった。
「みんなが見てるってのに、何言ってんのよあなたは! ていうか何やってんのよ!」
 正悟の意識は、ここで完全に途絶えた。彼の屍はエミリアが「すいませんほんと」と周りに頭を下げながらプールに突き落としていた。
 そのエミリアは、正悟を片付け終えた後、和希のパートナー、ガイウスと一戦を交えていた。
「やれやれ、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら……とはいえ、これは少々はしゃぎすぎかもしれんな」
 どうやら元々このような華やかな場が不得手であったらしい彼だが、和希に無理矢理参加させられていたようだ。とはいえ、模擬格闘戦と思えばいささか気分も乗ってくるから不思議である。ガイウスは巧みに上段、中段、下段を使い分けエミリアを攻め立てる。両者の戦いはほぼ互角だったが、序盤に下段攻撃で足を攻めたエミリアの一撃がじわじわと効いてきたのか、ガイウスはリングサイドまで追い詰められていた。
「相当な使い手……天晴れ。乾杯だな」
 ガイウスは観念したかのように目を閉じ、自らプールへと飛び込んでいった。氷水に入る瞬間、彼はすっと両手を合わせる。
 ――このような平和な式典で、皆の絆が深まることを……冷たっ。
 良いことを言おうとしたが、バラエティ的にそれは御法度でありカットである。氷水によって良いリアクションをとった彼は、その瞬間カメラを独り占めできたという。
「ふう……いい勝負だったわね」
 ガイウスを倒し一息つこうとするエミリア。しかしその間も与えず、菊のパートナー卑弥呼が彼女に迫る。
「あたいの亀甲占いに間違いはないはず!」
 卑弥呼はどうやら、占いによって攻撃順を決めたらしい。が、観客にとって攻撃順などどうでもよかった。肝心なのは彼女の着ている水着である。パラ実女子の水着を着ている卑弥呼は、ビキニほどポロリの可能性はないもののホルターネックタイプで、首の紐次第ではポロリもなくはない。
 下段から上段へ、流れるような攻めが続く。その動きに対応しきれず、エミリアはここで力尽きてしまった。これは観客にとっては、喜ばしい事態とは言えない。なぜならエミリアの服装は水着ではなく、普通のユニフォームだったからだ。
「御神託の通りでした」
 どぼん、とプールに落ちるエミリアに背を向け、手をかざして呟く卑弥呼。

 いい加減誰かポロリしろよ、と観客の不満げな声がところどころから聞こえてくる。
 何度かチャンスはあったものの、観客の視線もしくはテレビには依然誰ひとりとしてポロリが映っていなかった。しかし、ここにきてようやくそのビッグチャンスが訪れることとなる。
「……っ!?」
 突然卑弥呼を襲った強い衝撃。それは、西軍冴子のクッションによる急襲だった。思わぬ攻撃にバランスを崩した卑弥呼に、冴子は追撃を見せる。
「ちぇすとー!」
 剣道の面を打つように、華麗に上段から振り下ろしたクッションが卑弥呼の頭を打った。
「き、亀甲を読み違えていたのですか!?」
 あくまで占いにこだわる卑弥呼だったが、不意打ちを前に占いもへったくれもない。卑弥呼は頭部に食らった衝撃で、首の紐が緩んでしまった。いよいよ待望のポロリか? と観客の誰もが熱視線を注いだ次の瞬間、パートナーの菊、そしてチームメイトの和希が猛然とふたりのそばへダッシュする。
「やっと、お祭りって感じがしてきたぜ!」
 軽身功により身軽さを増していた和希は、目にも止まらぬ速さで卑弥呼と冴子の前に立ち塞がった。
「これ使いな!」
 和希はガイアスが持っていたと思われるタオルを、卑弥呼に向かって投げる。余計なことするな、と喚く観客の声を無視するように、和希はそのまま冴子とクッションでの攻防を始めていた。同時に、菊も冴子を攻め立てたことで完全な2対1が出来あがってしまっていた。
 バトルロイヤルを避けようと、早々リングから離れていた冴子のパートナー優香は、冴子の着ているビキニがポロリしないことを祈ることしか出来なかった。すると、次第に観客の視線は卑弥呼から冴子へと移っていった。そう、ふたりに攻められているビキニの女性。これがポロリしないはずがないと期待を抱いたのだ。
「チャンスだぜ!」
 先の先で絶えず冴子の一手先をいきながら、ドラゴンアーツで強化された攻撃は冴子に防御を強制させた。そこに、菊とのコンビネーションも加わり冴子はじりじりとリング際に追い詰められていく。
 そして、ぐらりと傾いた彼女の体はそのままプールに落ちるかと思われた……が。
「安心しろ、峰打ちだ……ってね!」
 和希は、最後の一撃をあえて全力で打たずバランスを崩すだけに留めた。が、それが逆に冴子のビキニの紐をいい具合に引っかけてしまった。
「きゃあっ、もうこうなったらどうにでもしてよっ!」
 やけになった冴子は、はらりと落ちてくる紐を押さえようともせず最後の抵抗を試みる。それはつまりポロリを意味していた。
「うおおっ、やっと、やっとか!?」
「待ってたぜ!!」
 盛り上がる観客。しかし。
「きゃあ、お姉さま水着水着」
 ここで優香が、まさかの飛び入りヘルプである。会場から一気に「空気読めよ……」と溜め息が聞こえる。女性としては読まなくて大正解である。
「お姉さま、このままではいけないわ」
 冴子の体に抱きつき、胸を隠したままリングから降りる優香。この瞬間、観客のテンションの下落と西軍のさらなる劣勢が決まってしまったのだった。
「……え、これ勝ったのか?」
 暴れ足りない、といわんばかりに和希がぽかんと口を開けていた。
「東軍強い! やはり東軍の浮島相撲は世界一ですね!」
「団体戦が裏目に出てしまいましたね」
 実況席ではそんなやり取りが行われていた。確かに、その言葉通り団体戦に持ち込んだはいいものの、勝ち星は東に積み上がっていく一方であった。
 このままではまずい。西軍の誰しもがそう心に敗北感を抱き始めた時、思わぬ助っ人が現れた。その人影はずずん、と大きな地鳴りを共に、どこからともなくリングサイドへと飛び込んできた。そこからさらに跳躍し、あっという間に浮島へと飛び移る。
「あ、あなたは……」
 その人物に、西軍の選手ばかりでなく東軍の選手たちも思わず声を上げていた。
「関羽様!!」
「待たせてしまって済まない。ここからは私に任せておくのだ」
 いつもの青龍偃月刀ではなくその手にウレタンクッションを携え、関羽・雲長(かんう・うんちょう)が東軍の選手たちの前に立ちはだかった。

 現時点での勝利数
 東軍……6
 西軍……3