空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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【ろくりんピック】最終競技!
【ろくりんピック】最終競技! 【ろくりんピック】最終競技!

リアクション



 個人戦 


「続いて第二試合は、東軍五月葉 終夏(さつきば・おりが)対、西軍オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)!!」
 実況の声で、終夏とオルフェリアが共に姿を現す。そこで観客席から聞こえてきたのは、またしても溜め息だった。
 オルフェリアが着ていたのはワンピース型の水着でポロリなど望むべくもなく、一方の終夏は水着こそオフショルダータイプという首の後ろで結ばれている、紐次第ではポロリが望めそうなイルミンスール水着装備であるものの、肝心の胸が悲しいくらいに装備されていなかった。もっともそれはオルフェリアとて同じで、ふたりとも水着を着ていることで悲しいバストサイズを露呈してしまっていた。
「観客の皆さんが意気消沈していますね。これは選手が可哀相です。観客の皆さんには女性のことをもっと理解してもらいたいですね」
 解説のアナスタシアがなぜかやや憤って状況を伝える。
 それでも一部の観客は「これがいい」などと妙な盛り上がりを見せ、程よい熱気の中試合は開始された。本当に最低な客層である。

「さあ試合開始です! 解説の志保さん、この試合の見どころは?」
「そうですね、先ほどよりは大人しい試合展開になることが予想されますが、ただでさえ不満げな観客からブーイングがこないかが心配ですね」
「なるほど、そんなスタジアムのムードも心配しつつ、試合を見ていきましょう!」
 リングサイドには、それぞれのパートナー、ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)が立ち契約者たちを応援している。彼らが見守る中、オルフェリアが最初の攻撃を終夏の足元に放つ。
「まずは……!」
「おおっと!」
 が、終夏も同様に下段にウレタンクッションを構えていたため両者にダメージはない。地味で、かつごく普通な戦いにただでさえ高くなかった観客のボルテージが下がり出す。
「もう本当にさ……ポロリなんて期待してる連中がすべて、水に落ちればいいと思うんだ」
 観客の露骨な低俗ぶりを嘆いたのか、終夏は笑顔を固めたまま振りかぶって怒りの一撃を放つ。それは見事に中段突きを目論んでいたオルフェリアの頭上からヒットするが、決定打にはならなかった。
「どうせ、見られるほどのお胸もないですし……ああ、オルフェ、自分で言ってて悲しくなってきました」
 負のオーラを放ちつつ、今度はオルフェリアが牽制気味に上段からクッションを振りおろす。逆に中段で仕掛けようとしていた終夏の肩にそれが当たり、互いに一撃ずつ浴びるという結果になっていた。
 一進一退の攻防を繰り広げるふたりを見て、ミリオンは我慢できなかったのか強硬策に出ることにした。
「ポロリを期待する愚か者たちの前に、これ以上オルフェリア様を晒すなど愚の骨頂! と、熱くなってはいけませんね、冷静に、静かにサポートを……」
 ミリオンがそっと手を前に出した。
「サイコキネシスの力を使えば、このような勝負、いともたやすく……」
 が、彼がその力を発動させようとする直前、ニコラがそれに気付き慌てて止めに入った。
「ふっ、このニコラ・フラメルの目を欺けると思ったのか? この勝負はふたりのものなのだよ!」
 上段、中段、下段……と息もつかせぬ猛攻でニコラはミリオンの手助けを防ぐ。突如始まった場外戦に、観客のテンションがちょっと盛り返した。
「……さっきまで胸の大きさで露骨にテンション下がってたくせに」
 ぼそっと終夏が呟く。ニコラが彼女を思って励ましの言葉を投げかけるが、それは思いっきり裏目に出てしまった。
「大丈夫だ終夏! 胸の大きさだの顔の整い具合だので人の価値が決まるわけではなかろう! 世の中には、まな板でごく平凡な顔立ちが趣味の人間も……ごっふ」
「え、フラメル何か言った?」
 最後まで言い切ることなく、ニコラは終夏が投げたウレタンクッションの直撃を顔に食らいその場に倒れた。突然倒れかかってきたニコラを避けきれず、ミリオンもまた彼の下敷きとなってしまう。
 そして肝心のリング上では、武器のなくなった終夏がオルフェリアのそれを掴みバトルを続けていた。ひとつの武器をふたりの女の子が奪い合う。浮島相撲ではよく見かける、「あるある」シチュエーションであった。



「さあ、突然ですが時間の関係上ここでもう一試合が同時に行われます! 水上にリングがふたつあったのはこのためだったんですね!」
「選手の入場だ!」
 実況のふたりがバトル中のスタジアムに響く。そう、この浮島相撲はあらゆるバトルを同時に行うことで観客の目を釘付けにしようというコンセプトがあったのだ。終夏とオルフェリアが戦い続ける中、既に入場を終えた新たな戦士が浮島に立っていた。
「こちらは団体戦ですね! 東軍は鷹野 栗(たかの・まろん)羽入 綾香(はにゅう・あやか)、そしてリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)の3人です!」
「対する西軍は騎沙良 詩穂(きさら・しほ)丸城戸 佐渡(まるきど・さど)、そして御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)だ!」
 わあっ、と観客がこれまでとは違う盛り上がりを見せた。栗と綾香は普通のユニフォームだったが、リリィはなんとスクール水着を着ていたのだ。一部の観客が異様な歓声を上げている。
 一方西軍も、千代は普通のユニフォームだが詩穂の着ている蒼空学園水着が予想以上に破廉恥なビキニであるため、観客の期待を煽っていた。さらに詩穂と千代は、どうやらアイドルグループ「秋葉原四十八星華」というものに属しているらしく、その認知度はいまいちよく分からないが一部はそれなりに盛り上がっているようだった。いつの時代も、アイドルとポロリは最強の組み合わせなのだろう。
 しかし、観客の期待を最も背負っていたのは意外なことに残るひとり、佐渡であった。この中で唯一男性である彼は、なぜかスクール水着を着ていた。さらにその下には、長いロープで自らの体を亀甲縛りにしている様子がうっすらと透けて見えている。これは生粋のド変態だ。
「あれだけの変態なら、何かしらハプニングを起こしてくれるに違いない」
 観客の注目は、その一点に注がれた。
「こちらの試合はどういったところに注目すべきでしょうか?」
「やはり団体戦ならではの相性やアクシデント、そして唯一の男性である佐渡氏がどのような行動に出るかが注目されるでしょう」
「なるほど分かりました、それでは試合を見ていきましょう!」
 そして、試合が始まった。
 6人が乗った浮島、その中央にまず駆けだしたのはリリィと詩穂だった。
「いきますよーっ、必殺っ、疾風突き!!」
 素早い下段突きを繰り出す詩穂。
「ああっと詩穂選手、早速必殺技を使ったぁッ! これはどういった技なんでしょうか、解説の志保さん?」
「ええとですね、手元の資料によると、急所(ランド・オブ・ちんたま)を狙って繰り出す強力な物理攻撃のようです」
「え、すいませんランドオブなんですって?」
「ですから、ランドオブ……」
 勤めて冷静に解説していた志保だったが、さすがにこの大観衆の前で卑猥な単語を連発するのは気が引けたのか、口ごもる。後ろからは骨右衛門が「もっとドッシリ構えるでござる」と囁いている。志保は仕事だと言い聞かせ、その口を開いた。
「ランドオブちんたまですね」
「ちんたまですか、分かりました。西軍は本当に卑猥ですね」
 ぽに夫がやれやれ、といった様子で解説に合いの手を入れた。同時に、わあっ、とスタジアムが盛り上がった。
 リング上では、詩穂の連続下段攻撃をかわしつつリリィが常に中段攻撃で詩穂を攻め立てていたのだ。
「武器がウレタンでも当たれば痛いものです。背中から水に落ちるのは誰でも正直怖いでしょう。命の危険が無い遊びとはいえ、恐怖と苦痛は避けて戦いたいですよね」
 そう告げるリリィの表情は、幾分余裕すら感じられた。
 突きに力が入るようにと、棒の真ん中を持っていたためリーチが短くなっていたリリィは、上下段に攻め分けるのは得策ではないと感じ中段のみに攻めを限定していた。それが、下段を狙っていた詩穂にとっては相性最悪のようだった。苦戦する詩穂。観客の視線がその水着に注がれる。ここで、観客席からリリィのパートナーナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)の声援が飛びこんできた。
「がんばれ〜応援してるよ〜!」
 メガホンを両手に持ち、リリィの勝利を疑わないナカヤノフ。彼女は応援に力が入るあまり、ついうっかり魔力を集めてリングに向かって放ってしまった。放たれた魔力の正体は、氷。つまり氷術であった。
 ナカヤノフの手から放たれたその氷はリング周辺のプールにどぼんと落ち、あっという間に水を氷水へと変えてしまった。思わぬ事態に、水面だけでなく選手たちの表情も凍りつく。
「あっ、うっかりなの〜わざとじゃないから許して〜」
「さ、さすがに死にはしないでしょう、死には……」
 のんきに謝っているナカヤノフとは反対に、さっきまでリリィの顔にあった余裕はもちろん消えていた。
「こうなったらわたくしも必死ですわっ、必殺、びっくりバニッシュ!」
リリィは光を生みだすと浮島にいるものの視界を塞ぎ、その隙にクッションにパワーブレスで力を与えると、全力で詩穂に突きをお見舞いする。
「きゃーっ!!?」
 詩穂が、氷水の中へと落ちていく。そう、売り出し中のアイドルにとってこういうバラエティ的要素も必要不可欠なファクターなのである。売り出し中のアイドルイコール、芸人という方程式がこの業界では不文律なのだから。
 ポロリがあるのでは、と詩穂に寄るカメラマン。彼女は落下しながらもそれに気付くと、カメラ目線で早口に告げた。
「え、今映ってるの? ええと、秋葉原四十八星華のDVDが発売されます! ひとり36枚買ってくれると嬉しいな!」
 直後、どぼんと詩穂が水しぶきを上げた。芸人扱いされるのがアイドルなら、いかなる時も宣伝を欠かさないのもまたアイドルである。そういう点では、彼女は生粋のアイドルと言えよう。僕らはそんな彼女のアイドル魂を忘れない。ちなみにDVDが本当に出るのか、そしてなぜひとり36枚なのかは分からない。

 さて、競技の方はというとナカヤノフの氷術でプールに思わぬ罰ゲーム要素が加わったせいで、誰もうかつに攻めきれない展開となっていた。
「こうなったら……やってやるって!」
 こう着状態にピリオドを打ったのは、詩穂と同じ四十八星華の千代だった。かたき討ちか、それともちょっとアイドルとして画面に映りたかったのかは分からないが彼女は詩穂を倒したリリィに向かってクッションを振り回した。その口からは、なぜかメロディに乗って歌詞が流れている。
「愛と正義の四十八星華〜お茶の間のみんなに今日も幸せ届けるわ〜」
 お茶の間、というところに良い具合の昭和さが滲み出ている。四十八星華の中でも比較的年配と思われる彼女――しかも水着ではなくユニフォーム着用のその姿は、観客のテンションを上げるには至らなかった。否、もしかしたら水着を着ないことが彼女なりの心遣いだったのかもしれないが。
 そんな中、彼女に数少ない声援が向けられた。パートナーのバーバラキア・ロックブーケ(ばーばらきあ・ろっくぶーけ)のものだった。
「L・O・V・E・ラブリーちゃーみー! S・E・X・Y・セクシーちゃーみー! 永遠の18歳、ラブリーちゃーみー! 胸が大きいぞセクシーちゃーみー……」
 が、その声援は後半になればなるほどボリュームが小さくなっていった。
「……なんだこれ、内容酷すぎ」
 どうやら彼女は、半ば無理矢理応援させられているらしい。よく見るとさっきのコールも、千代に渡されたと思われるメモを読んでいるだけだった。
「えーと、頑張れー! 西軍頑張れー!」
 これ以上恥ずかしい応援はしたくないと思ったバーバラキアは、メモには無かったがまともなコールをすることにした。
 声援を受けた千代は、リリィに続けざまに上段攻撃を放っている。リリィは中段突きで対応するものの、リーチの差が出始めたのか徐々に押され出した。そして。
「あぁっ!」
 千代の振りおろしたクッションがリリィの頭に直撃し、バランスを崩した彼女はそのまま背中から氷水の中に落ちてしまった。決着の瞬間を収めようとカメラが近づくと、千代はにっこりと笑みを浮かべたくましく宣伝をした。
「応援ありがとうございますね。新曲はスタジアム入口で絶賛発売中ですので、よろしくお願いします。今なら私の直筆サインがつきますわ」
 詩穂もそうだったが、彼女らはどれだけ商売に徹するプロ根性があるのだろう。彼女もまた、アイドル魂を持っているのだ。僕らはそんな彼女のアイドル魂と昭和の匂いを忘れない。新曲が本当にスタジアムで販売しているのかはさておき。

 スクール水着を着ていたリリィ、そしてビキニを着ていた詩穂が早々にリングアウトしたため、観客の興味は早くも次の試合に向けられていた。それを、リング上に残っていた栗は不思議に思っていた。
「なんだか、周囲の空気がおかしいですね。気のせいでしょうか」
 そんな栗に、綾香が話しかける。
「それはおそらく、ポロリを望む男共の馬鹿げた欲望のせいじゃろう」
「ポロリ……? アレですか、それはもしかして首がポロリという猟奇的なシーンをこの方々が望んでいると……」
「……いや、違う。栗よ、私が悪かった。今の言葉は忘れるのだ」
 正しいポロリについて説明しようとした綾香だったが、よくよく考えたらそれ自体がおかしいではないかと気づき、これ以上ポロリについては触れなかった。
「さてお嬢さん方、そろそろ我輩の相手をしてもらおうか!」
 ふたりの会話に痺れを切らしたのか、佐渡がクッションをびしっと構えた。が、ご覧の通りスクール水着と亀甲縛りというファッションなので全然格好良くはなかった。
「栗にこれの相手をさせてはまずいの」
 危機感を覚えた綾香が、栗の前に立ち佐渡と対峙する。直後、ふたりの攻防が始まった。
 上段、中段、下段とバランス良く攻撃をしかける綾香に対して、佐渡は上段一辺倒だ。その一点集中の攻めに、綾香は守り切れず体をリング外へと投げてしまった。
「思う存分……暴れてくるのじゃぞ」
 栗へと遺言を残す綾香。栗は大きく頷くと、佐渡に向かって告げた。
「どちらが強い剣士……いや、ウレタンクッション士か、決める時です」
「ウレタンクッション士……?」
「ウレタンクッション士とは一体……何なのだ……」
 佐渡ばかりでなく、綾香もその聞き慣れない言葉を疑問に感じつつ、どぼんとプールに落ちていった。
「解説の志保さん、ウレタンクッション士とは何なんでしょうか」
「さあ、ちょっと分かりません。語呂が悪いことだけは確かですね」
 実況席ではそんなやり取りが行われていたが、栗は気にした様子もなく佐渡へと突進していった。
「己の力量を見極めるための、糧となっていただきましょう」
 どうも先ほどから彼女だけノリが周りと違うが、栗はそれすらも気にしてはいなかった。
 上段攻撃を放つ栗、それに佐渡も上段攻撃で応戦する。ふたりの攻撃は上段ばかりで、一向に決着を見せなかった。
 隣のリングでも、終夏とオルフェリアの戦いが長引いている。
 西軍は、ちらりと東軍メンバーがスタンバイしている陣地に目を向けた。そして誰からともなく呟きだす。
「このままじゃ……西軍が負けそう」
 現時点での勝敗は、東2勝西2勝と一見互角に見える。が、西軍が危惧していたのは人数差であった。
 ざっと見ただけでも、明らかに東軍の方が選手が多い。事実登録選手の数は、東と西で5人以上もの差があった。
「この時点で互角ってことは、このままじゃジリ貧かも……」
 漂い出す不安と敗戦ムード。それを払拭すべく、西軍は東軍にある提案を持ちかけた。
「ちょっと聞いてください! 今から残りの試合、個人戦ではなく団体戦で一気に勝負をつけたいんですが、どうでしょうか?」
 それは、一か八かのギャンブルだった。一度に大勢で戦えば、もちろん人数の少ない方が不利である。が、このまま戦っても勝ち目が薄いこと、そして陣形や戦術次第では五分に持ち込めるかもしれないということ、何よりこのままではシナリオとして成立しないことが西軍をこの策へと導いた。
 東軍はそれを聞き、少し考えた後あっさりと承諾した。数の利があるのだ、受けない手はない。
 こうして、現在戦っている終夏とオルフェリア、栗と佐渡、千代らの試合はドロー扱いとされ、チーム戦で仕切り直しとなった。
「解説の志保さん、これは意外な展開になりましたね。西軍はもう少し個人戦で粘ってもよかったのでは?」
「このままでは限界だったのでしょう。色々な意味で。そもそも登録選手数が少ない上に、こうも東西で偏りがあったのではやむを得ない判断と言えますね。大人の事情もあるのでしょうが、ここは東西どちらを責めることも出来ないでしょう」
 実況と解説が喋っている間に、プール中央の浮島はふたつがドッキングされ、大人数が乗れる巨大リングと化していた。
「さあ、なんだかんだあったけど、ここからはバトルロイヤル形式でお送りだ!」
 絃弥が微妙なテンションのままの観客を盛り上げる。こうして、半ば強引にグループバトルが開始された。

 現時点での勝利数
 東軍……2
 西軍……2