空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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■パラミタ内海の海賊8


「向こうもそろそろ動くはずだぜ」
 西チームの大岡 永谷(おおおか・とと)は木箱の影から宝箱と、その向こうのマストの根元の方を伺った格好のまま言った。
「――俺はあと通常弾が二発しか残って無い」
「あたいは石化弾が一発分ね」
 熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が言って、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が続ける。
「私は石化弾が一発」
「わしも同じじゃ」
 天津 麻羅(あまつ・まら)が手にしていた眼帯の裏へフッと息を吹きかけてから、それを己の顔へ付け直す。
 その隣、弾込めを終えたレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が、おずおずと皆の顔色をうかがうような調子で、
「あ、あの……ワタシもこれで最後です。睡眠弾……あ、でも、銃は不慣れなので、当てられるかは……」
「私はねー、なんと四発も残ってるんだよ! 通常弾だけど」
 やたら楽しそうなエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が、よしゃー、と無意味に銃を片手で掲げながら言う。
 福が、木箱の端からひょっこり飛び出たエリーズの片手を、もふっと抑えて下げさせながら、
「ふむふむ、弾が足りない分はあたいの奇襲でカバーするとして……誰が宝箱まで突っ走るか、ね」
「あ、私はパス」
 緋雨がすっと片手を軽く上げて見せる。
「狙撃に集中した方が石化弾を有効に使えるだろうし――なにより、あまり表舞台に立つのって好きじゃないのよね。だから、裏方に徹させてもらうわ」
「まぁ、わしと緋雨は鍛冶師じゃからのぅ。例え、造った物が脚光を浴びることがあろうと、鍛冶師が表に立つは本質ではない」
 緋雨の言葉に麻羅は満足そうに頷き、「ということで、わしも援護に集中させてもらう」と付け加えた。
 永谷は、少し考えてから、
「弾が残っていれば金住さんや戦部さんたちも援護してくれるだろうとして――宝箱を狙うのはエリーズさんにお願いする。俺はフォローについて、レジーヌさんは援護と後方からの指示を」
「し、じ? ああの……ワタシ、そういうのは……」
「後方で全体を把握して、注意やタイミングの指示を出すだけで良いから――それに、さっき居合わせた俺たちに作戦の相談を持ちかけたのはレジーヌさんだ」
「そ……それは、そう、ですけど……」
 おろおろとしたレジーヌの肩を緋雨がポンッと叩いて微笑む。
「責任を取れ、って話じゃないんでしょ?」
「そう。なんとなく適任だと思った。それだけだ」
 緋雨の言葉に永谷は頷いた。レジーヌは、皆の視線をうろうろと見回した後、己を奮い立たせるように一つ大きく息を吸ってから言った。
「……あの、がんばります。皆さんのご迷惑にならない、ように……!」
 

 尋人とミアがマストの影から飛び出す。
 瓦礫の上部を駆けていく尋人を金住 健勝(かなずみ・けんしょう)の弾丸が掠め、低所を駆けていくミアを比賀 一(ひが・はじめ)の狙撃が牽制した。
「って、狙撃手がまだ残ってた!?」
 尋人が瓦礫と瓦礫の隙間に身体を滑り込ませる。一方、小さい遮蔽を渡っていたミアは、高所に潜んでいた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)に撃たれて、
「――くっ、無念。みんな、後は頼んだのじゃ!」
 ペイントの跳ねた頭を抑えて、ぱたりと倒れた。
 間髪入れずに――木箱の影からエリーズ、マストの影から朗と零が宝箱を目指して駆け出す。
「二人、か。ちょうど良いわね」
「一人一殺じゃな」
 木箱の影から緋雨と麻羅が朗たちを狙う。
 しかし――

 雷號は、隠れ身を行いながら荒れたデッキの上を駆けていた。
 向かっていたのは、西チームの選手たちが潜んでいる木箱の影。
 床に開いた穴をタンッと低く跳ぶ。
 片手の掌と両脚を使い、音少なに着地する。
「……楽しい」
 呟いて。
 雷號の視線は、床板がめくれ上がって刺々しい障害物となっている向こうに、麻羅の姿を捉えた。
 ヒゥ、と片手に持っていた銃先を彼女の方へ向ける。
 そして、引き金を引く――と同時に、別の音。己の銃声とは違う。鋭く振り向いた先では、樽が転がっていた。
 何だ? と疑問に思った瞬間に雷號は背中から何かに押し倒された。ぐっ、と背中に突きつけられた感触は銃口。
「――もう、同じようなこと考えてるんだもん。しかも、そっちの方が手が早いし」
 嘆息混じりの声が聞こえ、少しだけ銃口が背中から遠ざかる。
 ふと気づく。
 自分の上に乗っかっている者もまた、もふもふしている、と。
 そして、雷號は光学迷彩に身を包んで隠れ身を行っていたらしい福に石化弾を撃ち込まれた。

 雷號の放った睡眠弾は見事に麻羅を捉えていた。
 レジーヌが慌てて彼女を起こしに掛かっている間に、緋雨は石化弾を朗に向かって放っていた。
 が――
「日向! 避けろ!」
 緋雨に気づいていた尋人が叫び、すぐに反応した零が朗の後方に立ち塞がる。
「ガァァァァァァ!!」
 威嚇するような激しい咆哮を放ち、その格好のまま零が石化する。
 その一方――光学迷彩で姿を隠し障害物の向こうを移動していたレキがエリーズを狙って通常弾を撃ち放っていた。
 それはエリーズの首元に当たって色を爆ぜた。
「わっ!? とと、これってアウトー?」
「エリーズさん、そのまま走って!」
 光学迷彩で遮蔽向こうを進んでいた永谷が銃を構えながら鋭く言う。
「大岡さん!」
 レジーヌがレキが銃撃を放っていた場所を永谷へと告げた。
 永谷がレキを牽制して、銃を構え続ける向こう、エリーズと朗が互いに宝箱への距離を詰めていく。
「んなガキに負けてられっか!」
「――くはっ、分かった! これってかけっこだ! たーのしー!」
 と――
 唐突に凄まじい音が響いて、宝箱周辺の床が宝箱と二人諸共、ゴッソリと崩落した。


 ぽっかりと狭い青空があった。
 パラパラと木屑が降ってきている。
 エリーズは、なんだっけ、と思った。
「生きてっか?」
 男の声が聞こえて、エリーズはばさっと勢い良く上半身を起こした。自分の上に乗っかっていた細かい瓦礫や屑が、身体から零れ落ちる。
 声の聞こえた方を見やると、朗が転がっていた。
「生きてる?」
 エリーズの問いかけに朗が「おう」と返す。そうして、エリーズは朗の腹の上にデンッと乗っかている物に気づき――ぽんっと手を打った。
「負けた」
「勝ったぜ」
 ニッと笑ってから、朗は腹の上の宝箱を退かし、身体を起こした。
 天井の穴の淵には皆の気配がしていた。
 朗が、やれやれと宝箱の蓋を開ける。
 エリーズは、心配そうにこちらを覗き込んできたレジーヌたちの方へと元気一杯に手を振ってみせた。