空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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【ろくりんピック】最終競技!
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リアクション



VIPルームからの応援


 理子様親衛隊の一員アシュレイ・ビジョルド(あしゅれい・びじょるど)は、他の隊員と共に代王を守っていた。
 影武者の陽一を護る姿勢を取りながら、さりげなく本物のリコを周囲から隠す位置に立つ。
 だが、そうした護衛任務とはいえ、同時にろくりんピックらしく、西シャンバラチームのユニフォームである体操服にブルマ姿である。
 アシュレイはウィンドウに薄く移った自分の姿を見、それからすぐ近くで同じようにリコを護っている理子様親衛隊隊長前原 拓海(まえばら・たくみ)を、ちらりと見る。
 拓海は、籠手型HCでパートナーフィオナや、周辺警備のスタッフから送られてくる情報を確認していた。
 チェックを終えて彼が顔をあげる。アシュレイは「警備の為に、周囲を見回しています」という調子で、周囲を眺めはじめる。


 東西の代王が応援する順番が、また回ってくる。
 西では当初、これらの応援も影武者の陽一が行なうと申し出ていた。
 しかしリコは、自分で応援したいと言い、また大きな映像で見た際に、もし影武者だと気付かれては元も子もない。
 代王の衣装をまとった陽一が「着替え」に控え室へ戻り、時間を見計らってチアリーダーの衣装を着た本物のリコがVIPルームに戻る。
「当然、一緒に応援するわよね?!」
 リコが、永遠のライバル小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に迫る。
 ろくりんピックで何競技にも参加した美羽は、
「さすがにちょっと疲れちゃったよ。というわけで、今日はのんびり観戦ね♪」
 などと言っていたからだ。
「私一人で応援とか、ないからね」
 美羽は自身に満ちた笑みを浮かべる。
「あったり前でしょ! リコ一人が目立つなんて、許さないんだから!
 ……と、ゆーわけで、スタッフさん入ってくださ〜い」
 きっちりチアの衣装を着こんでいた美羽が、室内に撮影スタッフを呼び込む。
 代王の応援は、安全の為にVIPルームから中継で行なわれる事に決まったのだ。
 その映像はスタジアムのオーロラビジョンに映し出される。

「フレー! フレー! 西シャンバラッ!」
「頑張れ、負けるな、西、西、西〜!!」
 リコと美羽は両手のポンポンを振って、楽しそうに応援を始める。

 リコが応援する間、護衛者は中継映像に映り込まないように距離を置く。
 やはり警備の仕事があると、のんびりと競技を見ていられない。
 拓海は隣で待機していたアシュレイに声をかけた。
「ビジョルドさん、せっかく浮島相撲があるのに、西王陛下を御守りするのでは、試合はあまり見られなそうだね」
 アシュレイの趣味は、相撲観戦だ。しかし彼女は生真面目な表情で首を振る。
「理子様は、西シャンバラだけではありません。日本とシャンバラの友好を願う、全ての人にとっての希望なのです。命がけでお守り致します。この際、私の趣味など構ってはいられません」
 アシュレイは、テレビカメラの前でチアリーディングするリコと周辺の風景に、真剣な眼差しを注いでいる。
「じゃあ……今度、本物の相撲観戦に行かないか?」
「えっ……」
 アシュレイは弾かれたように、拓海を見あげる。その頬がかすかに赤い。
 拓海は彼女に、にっこりとほほ笑みかける。
「皆と一緒に、日本の国技相撲を観戦すれば、日本を思う気持ちもより高まると思うんだ」
 アシュレイは固まった。
「……あ……み、皆で……で、ですよねえ! いいですね、皆で相撲観戦!」
「ああ、皆と行けば、きっと楽しいだろうな」
 笑顔が引きつるほど嬉しかったのかな? と、拓海は考える。
 彼は恋愛事に関しては、超がつくほど鈍かった……。



 その間に、東シャンバラでも応援の用意が進められている。
「みんなでおそろいのチアをするです〜」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、東シャンバラのエンブレムがモチーフのチア服を広げる。
 東シャンバラ代王セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)は、そんなかわいいチア服を前に、後ずさった。
「わ、私にこれを着ろと?! 足を隠す物がないではないか!」
 スカートが短すぎる、と言いたいようだ。ヴァーナーは不思議そうに、彼女が今、着ている服を指す。
「でも、こっちの足はもう、おなじくらい出てます?」
 それは代王としてセレスティアーナに用意された衣装だ。右側に大きなスリットが入ったドレスである。
 セレスティアーナは視線を感じて、スリットを手で押さえる。
「ここここれはっ、歩きにくいから、こーなっているだけだ!」
 事実、彼女は普通の長いドレスでは、スソを踏みつけて転んだり、引っかけて破いたり、大股で歩いてまた転んだり、とロクな結果にならない。
 そこで苦肉の策として、チャイナドレスのような大胆なスリットが入ったドレスとなったのだ。
 そこにイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が、包みを差し出した。
「メアリからの預かり物だ。応援用だというから、着けてみてはどうか」
 セレスティアーナはバリバリと包みを破る。
「……なんだ、このヒラヒラは?」
「見せていただけますか?」
 セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が包みの中の、薄い布を手に取る。
「これは……ミニスカートの上から着用する物のようですわね」

 セツカはセレスティアーナを連れて更衣室に入り、着替えを手伝った。
 チアのミニスカートの上から、アイドルがはくスカートのような花弁状の飾りを取り付ける。布が増えた事で、セレスティアーナも落ち着いた。
 着替え終えた彼女を見て、ヴァーナーが満面の笑顔になる。
「かわいいです、セレスティアーナおねえちゃん!」
 ヴァーナーから、はぐちゅ〜を受けてセレスティアーナは目をぱちくりさせる。
「うーむ、かわいい? よくは分からんが、さすがは私っ!
 では、私がこれから下に行って走ってくるとよいのかな?」
 秋月 葵(あきづき・あおい)がVIPルームを出て行きそうになる代王を止めた。
「ここで応援しましょう。セレスティアーナ様が応援されれば東チームの皆、もっと頑張ってくれますよ」
「そうなのか? では応援しようではないか! フレーフレー!」
 彼女達の応援風景を中継する為にデジタルビデオカメラをセッティングしていた五条 武(ごじょう・たける)が苦笑する。
「まだカメラは回ってねェから、応援しなくていいんだぜ?」
「遠慮せずに、グルグルと回すがいいぞ」
「いや、グルグルじゃなくてな……おっ、そのままこっち見てろ」
 カメラを覗き込みながら武が呼びかけると、セレスティアーナは素直に彼の方を見る。
 武はカメラチェックを装うが、頭の中では別の事を考えている。
(ボロッちい格好をしてる時はほとんどの奴らが気付いてなかったが、こーして見ると、やっぱり可愛いじゃねェの。俺の女を見る目も、ナカナカのもんだな)
 セレスティアーナの名付け親であるイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が、武を疑いの眼差しで見る。
「何か良からぬ事を考えているんじゃないでしょうね?」
「俺は真面目〜に(スェクスィーショットを)撮るつもりだぜ」
 イビーはセレスティアーナに注意をしておく。
「セレス、気をつけて下さい。敵襲も考えられますが、一番警戒すべきは……そこでビデオカメラを構えている男かもしれません」
「そうなのか?」
 きょとんとするセレスティアーナ。
 しかし、そこに飛び込んでくる影がある。
「主役を忘れるなぁ、ですぅ〜!!」
 チア服に着替えた、イルミンスール魔法学校のエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が武のカメラの前に、ずいと現れた。
「出たな、チビッコ」
「ラジオ体操で鍛えた腕前でぇ、東の選手をウハウハ頑張らせるですぅ」
 エリザベートは自信たっぷりだ。朝の体操に出ていた時と同じように、長い髪を頭の上でお団子にまとめている。
「エリザベートちゃん、かわいいです〜」
 彼女の髪をセットしたヴァーナーが、満足そうに笑い、ハグとキスを贈る。
「フフン、かわいいは正義ですぅ〜!」
 なぜかエリザベートがヴァーナーの決めゼリフを言って、ふんぞり返る。そのまま後ろにバランスを崩しそうになった。
「あうぅ」
 どうにか踏ん張る。やはり、重心がいつもより上にあると、バランスを取りにくいのだろう。
「そろそろ中継、来るぞ?」
 武がチアリーダー達をせかす。
 セレスティアーナは不安げにきょろきょろする。
「私はどうすればいいのだ?」
「みんなで応援するです! ボクがかけ声をだすから、それにあわせておどるのです!」 ヴァーナーがポンポンをセットし、セレスティアーナ、エリザベートと一列に並ぶ。いつの間にかセツカも、そろいのチア衣装を身にまとって、列に加わっている。
 武が手を振って、彼女達に合図を送る。
「よし! 派手にやってくれよ」

 ヴァーナーが音頭をとって、応援が始まった。
「手をあげるですよー、みぎて! ひだりて! くるっとまわってジャンプです♪
 ふれーふれーい〜しゃん! みんな、いけいけ、ご〜、ご〜♪」

 エリザベートは頭の重心でふらふらしながら、セレスティアーナはナゾのロボットダンスのように踊る。両側のヴァーナー、セツカが手本となる事で、どうにか動きを合わせているようだ。

 武はその様子を、デジタルビデオカメラに一心に撮る。
(せっかく撮影すンなら、男性選手の士気向上の為に、スェクスィーなシーンを撮らねェとなぁ、ヘッヘッヘ)
 彼女たちがチアリングで足を振り上げた瞬間、武は一気に低い姿勢を取り、ローアングルから撮影を狙う。が。
「って、何しやがるイビーうわやめろ?!」
 バイクに形態チェンジしたイビーが、武を跳ね飛ばしす。お宝ショットの予定が、衝撃のシーンになった。
「いってェェ〜」
 武は、しこたま打った後頭部を抱え、床をごろごろ転がる。
「大丈夫か、武?!」
 セレスティアーナが彼に走りより、抱き起こす。
「ったく、ひでェ目に……」
 武が頭をさすりながら目を開けると、セレスティアーナと目が合う。
 これが巨乳の娘だったら、ぱふぱふ状態になる程の近さだ。あいにく彼女は微乳だったが。
「うわうわうわうわうわーーッ!!」
 セレスティアーナは真っ赤になると、武を放り出し、大声をあげながらVIPルームの反対側まで後退した。武はふたたび、後頭部を強打。
「ちりょーするです?」
 ヴァーナーが天使の救急箱を出してくるが、イビーはきっぱり断った。
「今後の為に取っておきましょう。あれは自業自得です」
 その後はイビーがカメラを握って、応援風景を撮影した。
 VIPや警備員の中には、武を怪しげに見る者もいる。
 だが、セレスティアーナが各競技から応援要請が来ていると知った時、誰よりも熱く「危険を回避する為、VIPルームからの中継にすべき」と各方面に掛け合ったのは彼である。
 それを本能的に察知したからこそ、男性が苦手なセレスティアーナが思わず武を抱き起こしてしまったのだろう。