空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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■パラミタ内海の海賊4


 船上。
 最初に、メインマストのトップ台(一番下の踊り場)に辿り着いたのは西チームのローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だった。
 彼女は、西側がメインマスト下で優勢になった隙に、隠形の術を用いてジョン・ポール・ジョーンズ(じょんぽーる・じょーんず)と共に駆け、メインマストの縄梯子を手にしていた。
ジョンが銃声の声真似をおりまぜながら、マストの根元で東を牽制し、その間に、ローザマリアはジャック・クロフォードという18世紀のとある有名な水兵に己を重ね合わせ、驚異的なスピードで縄梯子を登ったのだ。
「――どうにかアドバンテージは取ったけど」
 ローザマリアは踊り場に膝を付けながら、手早くマスケット銃を構えた。視線を細め見据えたのは、自分が昇ってきたのとは反対側の縄梯子の方。そこに居たのは、弾除け代わりのダンボールを投げ捨てて軽やかに登って来る東チームの泉 椿(いずみ・つばき)。彼女へと十分に狙いを定め、
「これからが勝負所って感じね」
 引き金を引く。

 マスト下では、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)らによって東が押し返しつつあった。
 ウィングは、己が散らした痺れ粉で動きの鈍った者を狙っていた。光学迷彩に加え隠形の術を用いた隠密行動で相手にペイント弾を浴びせていく。そんな彼の行動を、プリムローズが各種の術や手持ちのレイスを用いてサポートしていく。
「ふれーふれー! いーしゃん♪」 
 エステリア・メネルドール(えすてりあ・めねるどーる)が応援する中、ウィングは相手の死角を縫って、前線に出ていた西側生徒のそばへと音も無く近づいていた。
「よけられるかな?」
 声無く笑みながら、銃身を構え向け、引き金を引く。彼の胸にパァンっとペイントが散った。
 と――その向こう、
「ったく、埒があかねぇな。見てろよ坊主ども。こういうのは、気合だ!」
 西側のハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)がメインマストへ駈け出していたのが見える。
「退け退け!!」
「っと」
 ウィングはそれをすぐに追った。プリムローズのアシッドミストがハーヴェインの勢いを抑えこもうとする。しかし、何か妙に荒々しいパワーブレスで強化された彼はそれをものともせずに突き進んでいく。
 ウィングは銃撃を行ったが、弾はハーヴェインの翼によって防がれた。軽く舌を打って、でも、口端は跳ねる。
「なるほど――なら、リングアウトさせるまでです、ね!」
 瞬拍で息を取って、意識を一点に集中する。身体全体を強くしなやかな弦のようなイメージでしならせ、引き絞ると同時に踏み足。ドラゴンアーツによる攻撃を放出する。
「ッッ!?」
 翼による防御でウィングの攻撃を受け止めたハーヴェインの身体が吹っ飛ばされて、船縁の端を砕きながら船の外へと放り出されていく。とりあえず、運営側で船周辺のフォローは完璧だったはずだから、大事は無いだろう。
 そして――
 ハーヴェインのリングアウトとほぼ時を同じくして、ウィングの後頭部にペイント弾が撃ち当てられていた。
「と……警戒してたんですけどね」
 どうやらハーヴェインを囮にしたトラップだったらしい。何やら気合の入った気配の消し方をされて、気付かなかった。
 はは、と笑いながら後ろへ振り返る。
「囮のヒゲの暑苦しさにあてられて鈍ったんだろ。気持ちはよくわかる」
 早々に銃に弾込めを行い始めていた比賀 一(ひが・はじめ)が、破損した船縁の方を見やりながら言う。ウィングを撃ったのは彼だった。

「お行きなさい。誰よりも高く――椿に羽はいらないわ」
 緋月・西園(ひづき・にしぞの)の放った通常弾が椿を狙っていたローザマリアを牽制した。
「っく」
 ローザマリアが弾を撃ち出すタイミングがわずかに遅れる。
 軽身功で縄梯子を駆けた椿は弾丸を横に掠めながら、トップ台へと距離を詰めていた。
「ヒャッハー! 任せとけー!」
 弾を込め直している暇は無いと踏んだローザマリアが上を目指すために縄梯子に手を掛ける。
 そして、椿の後ろには東チームの毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がこそこそと続いていた。

■応援
『はーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!! ぅはーーーーっはっはっはっはっはっは!! ……こんな感じか?』
『頑張るですよぉ〜、いざという時は目を狙うですぅ〜!』
 白熱する試合会場のオーロラビジョンには、VIPルームに居るセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が映し出されていた。
 セレスアティーナの衣装は、男たちが思い描いているようなチア衣装とは違ったが、それはそれで趣きがあって士気向上に一役買っていた。
 片方は果たして応援と呼べたものかどうか微妙だったが。
 そして、桜井 静香(さくらい・しずか)が画面の端で、
『皆、頑張ってね。でも……怪我しな――』
『はーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!』
『時には非道になるですぅ〜、アウトローなパイレーツ魂を心に宿して是が非でも勝利を勝ち取りなさぁい!』
 オーロラビジョンに映る三人にあわせて、
「いけー! いけー! イーシャン!! 押せー! 押せー! イーシャン!!」
 会場のフィリップ・ベレッタが応援団員として懸命に東シャンバラチームの選手たちへエールを贈っていく。

 一方――
 西側の応援を行うティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)たちには、ムッキー・プリンプトによる魔の手が忍び寄っていた。
「最近の俺は確かに良いとこ無しだった! 全くなかった! それは認めよう! 覆しようの無い事実だ!」
 ムッキー・プリンプトこと、むきプリ君は競技に沸く観客たちの中にあって、その盛り上がりに勝るとも劣らない気合を燃え上がらせていた。
「しかし、全てはあの美女たちを俺が得るための長大なる前フリだったのだと俺はつい先ほど知るに至った。そう、あれやこれやムニャムニャな不幸の数々は輝かしい未来への布石に過ぎなかったのだ!」
 んぐぐ、と力の篭もるその手に有るのは当然ホレグスリである。
「ふっふっふ、今や東シャンバラ全体が俺にやれといっている、DO ITと叫んで俺をいざなおうとしている! 栄光とバラ色の美女ハーレムの園へ――」
「……ハムの園?」
 唐突に問いかけられ、むきプリ君は、ぎしっと固まった。
 目の前ではチアガール姿で会場売りのフランクフルトを食べながら首を傾げたリフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)の姿があった。
 リフルが無表情に、つぶやく。
「……栄光とバラ肉の美味ハムの園」
「いや、決してそんなお歳暮めいた園にいざなわれようとしていたわけではない」
「ふぅん。じゃあ、どんな園にいざなわれようとしてたのかしら?」
 ぽん、とむきプリ君の肩に手が置かれ、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が後方から、スッと顔を覗かせた気配。
 声の調子に不穏なものがある。そのため、あえて彼女の表情を確認しようという気はおきない。
「それを説明したいのは山々なのだが、お前たちのような淑女に誤解無くスムーズにそれを伝えるには様々な障害を超えなくてはならない」
「それは残念ですわね」
 す、と何やら優雅な動きで、むきプリ君の空いている方の肩に新たな手が乗る。
「わたくしたちは西シャンバラチームの応援をしなくてはいけませんから、そんなに時間はかけられません。東チームですけど、パッフェルの活躍も観たいですし」
「そうか、残念だな。非常に。とてつもない。言葉にならない。そういうことだから俺は早々に退散しようと思う」
 むきプリ君は、ぐるぅりと方向転換をして、二、三歩進んでから、ふと立ち止まった。
 ゆっくりと振り返る。
 チア姿のティセラとセイニィが、不思議そうにパチクリと瞬きながら見返してくる中、むきプリ君は手に持っていたホレグスリをそちらに掲げて見せた。
「せっかくだ。お近づきの印に、一口どうだ?」
 そうして、観客の歓声に混じって、むきプリ君の断末魔が響いて、消えた。

 むきプリ君の魔の手を退けたティセラたちが応援する中、十七夜 リオ(かなき・りお)フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)も共にチア姿でポンポンを振りながら西チームの応援を頑張っていた。
「フレー! フレー! 西シャンバラ!」
 ポンポンを持って踊り飛び跳ねながらエールを贈っていたリオは、むずむずと我慢の限界に達して、びたっと動きを止めた。
「あ、あのな! こっちばっか見てないでちゃんと競技の方を見て応援しろよ!」
 ポンポンを持った手を突きつけられながら言われ、鼻の下を伸ばした男たちが慌てて競技が行われている方へとザッと向き直る。
 これで何度目か。どうせ数分もしない内に、彼らはまたチラチラとこちらを見だし、その内に節操も忘れてガン見し始めるだろう。
「……ったく」
 リオは腰に手を当てながら溜息をついた。
「まあ、こんだけの顔ぶれがチア姿で踊ってるんだから仕方ないっちゃ仕方ないかもしんないけどさぁ」
 周りを見やりながらこぼしてから、リオは隣のフェルクレールトの方を見やった。
「でも、正直、フェルが付き合ってくれるとは思わなかったよ」
「……あんまり、こういう格好とかしたくなかったけど」
 フェルクレールトが、ぽそぽそと言う。
「リオが頑張ってるから、何か手伝いたかったし……それに、ペアルックって……なんか嬉し――」
「嬉しいこと言ってくれるねー」
 リオは、わしわしと上機嫌でフェルクレールトの頭を撫でた。
 と――
「仲が良いナ……」
 チア姿のシー・イー(しー・いー)が言って、二人にボトルに入ったスポーツジュースを手渡す。
「ありがと。仲良いよー、そりゃもう」
 リオは笑いながらボトルを受け取り、水分補給を済ますと、「よし」と気合を入れ直した。
「さ、僕らのエールで更に試合を盛り上げていこう!」
 ポンポンを持ってめいっぱい飛び跳ねる。
「フレー! フレー! 西シャンバラ! 負けるな負けるな、西シャンバラ!」
 その横で、フェルクレールトがおずおずとポンポンを顔の前で小さく振りながら、
「ふ、ふれー、ふれー、西シャンバラ」
「ファイト! ファイト! 西シャンバラ! 頑張れ頑張れ、西シャンバラ!」
 そうやってエールを贈るリオたちの方を、観客の男たちは、やはりこそこそとチラ見し始めていた。