空京

校長室

【ろくりんピック】最終競技!

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【ろくりんピック】最終競技!
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 浮島相撲開幕 


 キラキラと水面で反射する光と、スタジアムの熱気が混ざり合っている。
 スタジアム中央に設置された巨大なプールの真ん中には直径3メートルほどの発泡スチロールで出来た浮島があり、その上には1メートルほどの長さのウレタンクッションが2つ置かれていた。浮島は2つあるので、それがもう1セット配されているという具合だ。
 プール、小さな島、棒状のクッション。これらのアイテムが揃えば、行われる競技はひとつ――そう、浮島相撲である。

 浮島相撲。その歴史は室町時代まで遡る。
 作物の不作にあえぐ農民が憂さ晴らしに、水田の上で稲を持ち寄り互いに転ばせ合ったのが起源とも言われている。それが次第に、「これ女性同士だったら服がびしょびしょになってエロくねえ?」となっていき、「下手したらポロリとかあるんじゃねえ?」と男性の欲望がエスカレートした結果、現在の浮島相撲が確立されたという説が有力である。
 そんな男性たちの欲望が、ここ空京スタジアムにも渦巻いていた。
「お前ら、待ちに待った浮島相撲の始まりだー!!」
 実況席の棗 絃弥(なつめ・げんや)が、観客を煽るように威勢の良い声を上げる。観客もそれに答え、「うおおおお」と地鳴りのような歓声を発した。
「借り物競走? 海賊? 鏖殺寺院? グラシナ? そんなの関係ねえだろ!? 今お前らが欲しているのは何だ!?」
「おっぱい!!!」
「そうだ! この一体感! 俺は今猛烈に感動してるぞ!! お前らはどうだー!?」
「おーっぱい!!!」
「うおおおおおおおおおお!!!」
 絃弥の盛り上げで、会場は見事に一体化した。
「さあ今日は西シャンバラがどんな活躍を見せてくれるのか、今から楽しみだ!」
 ついぽろりと身内びいきの発言が出てしまった絃弥。それを、同じ実況席に座っていたいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)は聞き逃さなかった。
「いえいえ、今日は残念ながら西シャンバラの出番は少ないでしょう! 東シャンバラの皆さんが張り切っていますからね!」
 バチバチと火花を散らせる絃弥とぽに夫。実況という立場でありながらどうやらふたりは、東西それぞれに偏った実況をする気満々のようだった。
「何を争っているんですか、絃弥……きちんと実況の仕事をしないと駄目ですよ」
 これには絃弥のパートナー、アナスタシア・ボールドウィン(あなすたしあ・ぼーるどうぃん)も呆れ顔で突っ込みを入れる。しかし、彼女がこの後キャラが変わったようにおかしくなってしまうことを、この時点では誰も知らないのだった。
「それはそうと解説の榧守さん、この競技の見どころは何でしょうか?」
 ぽに夫が、解説役を買って出ていた榧守 志保(かやもり・しほ)に話を振る。東のぽに夫、西の絃弥ふたりの間に座っている彼は冷静なトーンでマイクに声を通す。
「そうですね、やはり女性陣の頑張り、そしていかに男性陣が暴走するかといった点でしょうか。特に今回は大半の人が護衛アクションをかけており、こちらに参加した方は少数ということで、よりはっちゃけた行動が期待できますね」
「なるほど、今の解説も随分はっちゃけていましたが、大丈夫でしょうか?」
「そうですね、リテイクにならないこと、他マスターに怒られないことを祈るばかりです」
「分かりました、ありがとうございます!」
「さあ、そんなこんなでそろそろ競技開始だぜ!」
 絃弥の声に続き、4人が改めて挨拶をする。
「実況はこの俺、棗絃弥と」
「東シャンバラに絶え間なく注ぐ愛の名を永遠と呼べたなら、いんすますぽに夫が」
「解説は榧守志保、そして」
「アナスタシア・ボールドウィンがお送りいたします」
 ぐぐ、と中継カメラが実況席にズームインする。
「……!?」
 その途中、カメラマンがびくっと動きを止めた。そこには、映ってはいけないものが映っていたのだ。志保のパートナーで骸骨姿のゆる族、骨骨 骨右衛門(こつこつ・ほねえもん)が光学迷彩を使い彼の背後に佇んでいたのだ。ちょっと弱めの迷彩だったのかそれとも光の当たり具合が悪かったのか、うっすら骸骨が志保の後ろでカタカタ言っている様は間違いなくホラーであった。
「榧守、相の手がそうですね、ばかりではワンパターンになってしまう故、気をつけるでござるよ」
 カメラに映っていることに気づかず、志保の耳元でアドバイスをする骨右衛門。志保以外の3人は、「どこからか聞こえるはずのない声が聞こえてきた」と大会終了後、自らの心霊体験を専門家に相談しに行ったという。
 もっとも彼らとてプロ、大会中は各々の役割をまっとうせんと懸命に声を上げ続けるのだったが。



「さあ、いよいよ競技開始です! 第一試合は東軍、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)! そして西軍は、えーと、ア、アルメイラ? アルジェリア? ポロメリア? すいませんちょっと読めないです」
「失礼だな!? 失礼だし露骨すぎるだろ! 改めて紹介するぜ! 西軍はアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)選手だ!」
 わあっ、という歓声と共に、ふたりの選手が登場した。百合園の水着に身を包んだレロシャン。一方アルメリアは水着ではなく西シャンバラのユニフォームをしっかり着こなしている。レロシャンの後ろには、パートナーのネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)もついてきている。彼女も競技に出るのか出ないのか、東シャンバラのユニフォームを着ていた。
女性の登場に観客はテンションを高めるも、彼女らの服装を見てそのテンションはちょっと下り坂となった。
 それもそのはず、登場した3名の女性のうち2名は水着ではなくユニフォーム、残る1名は水着ではあるものの百合園のそれは競泳タイプのものなので、ポロリは期待出来ない。ポロリ期待で観戦していた観客から、溜め息が漏れる。
「大丈夫、まだ第一回戦だ! それに見てみろよこの子たちのかわいらしい姿!」
 実況の絃弥が再びムードをつくる。観客は口々に「そうか、まだ初戦だもんな、これからこれから」「女の子が出てきただけでラッキーだぜ」「ていうかあの子かわいくねえ?」などと言い始め、最終的に観客のテンションは無事上がった。
「頑張れ女の子ー!!」
「ポロリがなくても応援するぞー!!」
 やや下品な声援が競技場に届く。それを良く思わなかったのか、観客席にいたアルメリアのパートナー、アルフレッド・エルドハイム(あるふれっど・えるどはいむ)はアルメリアにちゃんとした応援を届けた。
「お嬢! 今日は旦那様と奥様も応援に駆けつけております! 俺もここで旦那様たちと応援していますから、頑張ってください!」
「えっ……?」
 思わずアルフレッドの方を振り向くアルメリア。そこには確かに、手を振っている両親、そしてパートナーの姿があった。
「せっかくお父様たちが見に来てくれたのだから、いいところ見せておかないとね」
 浮島に乗り、気合いをみなぎらせるアルメリア。服装こそユニフォームだが、両親の前で恥ずかしいことになるかもしれない、というシチュエーションが観客の心をうずかせた。
「うおおーっ、頑張れ! マジ頑張れ!!」
 結果観客は大喜びとなった。最低な客層である。当然アルメリアは盛り上がりの理由を知らない。
「ご両親の応援は心強いですね。でも、私だって負けるわけにはいきません!」
 浮島では、既にレロシャンがスタンバイしていた。盛夏の骨気をまとったその体からは熱気が溢れ出ている。
「我々が最強だということを思い知らせてやるのです! 相手が誰であろうと関係ないのです!」
 アルメリアがウレタンクッションを持つ。不安定な揺れの中、試合開始の笛が鳴った。
「さあ始まりました注目の第一試合! 東が勝つのは当然として、試合展開はどう予想されるでしょう?」
「まずは牽制、というのがセオリーですが、元気のあるふたりなので最初から飛ばしていくことも考えられますね」
「なるほど、ありがとうございます」
 ぽに夫と志保が様子を伝えている間に、レロシャンの先制攻撃がアルメリアを襲う。
「落ちろー、フェニックスブロウ!」
 ウレタン越しに放った鳳凰の拳を、ちょっとかっこつけて言ってみたようだ。下段攻撃でそれを迎え撃つアルメリアだったが、レロシャンの中段突きに遮られる。初撃を受けたのはアルメリアだった。
「やるわね、でも、これを防ぎきれるかしら?」
 今度は、アルメリアの番だった。再度放った下段攻撃が、見事レロシャンの足元にヒットする。その後互いの中段攻撃、下段攻撃が相打ちとなり、迎えた5度目の攻防。
「これでとどめです!パワー・ド・鳳凰拳!!」
「それくらいじゃ、ワタシは倒せないわよっ!」
 レロシャンの上段攻撃が、見事アルメリアの中段攻撃より先にクリーンヒットした。アルメリアの体がぐらりと傾き、手からはクッションがこぼれ落ちる。
「強く……なった、わね。今のアナタなら……優勝……も……がんば、る、のよ……」
 そのままプールに落ちそうになるアルメリア。そこに、突如ネノノが乱入してきた。
「ろくりんピックでサッカーがないなんて理不尽だ! その上ここでも出番がないなんて許せない!」
 加速ブースターでものすごい速度をつけたまま、ネノノがアルメリアに突っ込んでいく。そのままネノノは、足でアルメリアを蹴飛ばした。
「お嬢!」
 アルフレッドが悲痛な叫びを上げる。アルメリアはスピードの加わった一撃を受け、島の外へ弾き飛ばされる。
 体が触れるのは基本的に反則だが、彼女の言い分としては「足にウレタンを巻きつけているからセーフ」とのことらしい。まあ、乱入している時点でセーフもアウトもないのだが。
「これがエースの実力だー!」
 勝ち誇ったようなポーズをとるネノノの後ろでは、アルメリアがどぼんとプールに落ちていた。何が何でもサッカーにこだわりたかったのだろう。そのこだわりに免じて、審判は乱入もキックも見逃した。
「第一試合、レロシャン、ネノノチームの勝利!」
「初戦から5回も攻防が繰り返される熱戦だったな!」
「まあお互いにやや中学二年生のような痛々しさは随所にありましたが、それはそれでかわいらしさととれるでしょう。いい戦いでした」
 絃弥の実況と志保の解説で、第一試合は締めくくられた。
「さあ、さくさくと行こうぜ! 次の試合だ!」

 現時点での勝利数
 東軍……1
 西軍……0