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リアクション
第8章 集って笑って
「む……。やはり知り合いはいないか」
ここで時々バーベキューが行われていると耳にした教導団員の大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、張り切って準備をして訪れたのだが、川原に知り合いの姿はなかった。
どこかに入れてもらえないだろうかと、辺りを見回す。
しかし、その剛太郎の格好ときたら、陸上自衛隊の格好そのもので、遊びに来たというより安全確保支援活動の為に派遣された軍人だった。
「こんにちは、ですぅ〜」
そんな彼の格好を気にすることなく近づいてきた女性がいた。伽羅というか、金団長を連れたキャラ・宋だ。
「ああ、どこかでお会いしたことがありますな。ええと……」
キャラの顔をじっと見る剛太郎に、キャラは。
「人違いだと思いますぅ。私は、情報コンサルのキャラ・宋ですぅ」
そして、直立不動だけれどどこと無く挙動不審な男の腕をぐいっと引っ張る。
「こちらは……」
「気にするな。通りがかりだ」
紹介をしようとするキャラを止めて、男は立ち去ろうとするがキャラはそれを許さない。
(団員にバレたら、お忍びも何もないだろう。指揮に影響も出る)
(いいえ、団員にバレるような格好や演技では〜、恨みをもたれているパラ実生にバレないはずはありませんから〜)
ひそひそ話をしている2人に、剛太郎は訝しげに眉を寄せる。
「よかったらご一緒しませんかー!」
近くに設置されたテーブルから、少し緊張した面持ちで、果敢なげな印象の少女が手を振ってくる。
少女2人と、少年1人で準備を進めているグループだった。
「伺いますぅ〜!」
即、キャラは笑顔で手を振り返す。
「ありがたい話であります」
剛太郎も下ろしていた荷物を背負いあげて、少女――エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)達の方へと向うのだった。
コンロの底には、真っ赤になった炭が敷き詰められている。片側に多く、もう片側には少なめに敷いてあった。
「焼きあがったものから、食べてね」
十分に熱せられた網に、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、肉を乗せていっていく。火力の強い方で厚い肉を焼きながら、弱い方で野菜を焼いている。
「これも是非使ってくれ、手伝おう」
背のうの中に入れてあった、肉や野菜を取り出して、コンロに向う剛太郎だが、ネージュは首を横に振って微笑んだ。
「大丈夫。今回はあたしに任せて!」
「すまない。では飯とタレの準備をしよう」
剛太郎は飯ごうを火にかけると、タレを器に入れていく。テーブルの中央に置き、好みで使ってもらうことにする。
「茶、淹れるか」
小さな女の子に全部やってもらって食べるだけでは流石に申し訳ないと、篠宮 悠(しのみや・ゆう)は、茶葉を取り出した。
以前凝っていた、紅茶の茶葉を取り出してティーポットに入れて、湯を沸かして入れていく。
保温や蒸らし時間に注意して、紅茶をティーカップに注ぎ入れる。
「私達は結構ですよぉ〜、長居は出来ませんし、持参したお酒がありますのでぇ〜。大人の方のみですが、いかがですかぁ〜」
キャラが差し入れ用にもってきた、とっときの北京ダックと、老酒をテーブルに置くと酒盃を自分を含めた大人の分のみ用意して配り、酒を注いで回った。北京ダックはあらかじめ切り分けてある。
「では、今日のこの日に良き仲間達と出会えたことを祝し、乾杯いたしましょう」
剛太郎が硬い口調で言い、酒盃を持ち上げた。
「乾杯」
「乾杯ですぅ〜」
キャラは声を上げた後、隣の金に手を向ける。
「きちんと紹介してなかったですねぇ〜。彼は、『恋人の』遊び人の金さんですぅ〜」
「グッ」
金が変な声を上げ、直後に咳き込む。思い切り気管に入ったようだ。
「皇……」
「慌てもので困りますぅ〜!」
名前を呼びかけた金を大声で制して、耳に口を寄せる。
「あくまで偽装ですからぁ。男女が一緒にいるといったら、それが自然なんですぅ〜」
「……遊び人がか?」
「普段の姿とのギャップが激しい方が、敵の目を欺けるものですぅ〜」
普段の数倍目つきを悪くして、金はキャラを睨みつける。ヒラニプラに戻ってからなにやら仕置きがありそうだ。とはいえ、公にはしないだろうから、1人執務室に呼びつけられるのもまた楽しいかもしれない、と、キャラはにこにこし通しだった。
「どうかしましたか? お菓子をどうぞ」
エルシーがプレートを持って、キャラ達に近づく。焼いたマシュマロをビスケットに挟んだお菓子、それから、チョコシロップ、ジャムが入った瓶も乗っている。
「戴きますぅ〜」
キャラは自分と金の分を受け取って、シロップをつけると、金の口へと向ける。
金は自分で食べれるといわんばかりに、ばしっと受け取って、口に入れると。
「では、自分達はこれで。皆、羽目を外さず楽し……んで下さい」
若干引き攣った笑みを浮かべつつ、金はすたすたと歩いて行ってしまう。
「挨拶回り中ですのでこれでぇ〜」
キャラもにこにこ微笑ながらぺこりと頭を下げると、「待ってください〜」と金を追って走っていく。
「ふふふ、何だか遊び人というわりに、硬そうな方でしたね。……よろしければ、どうぞ」
エルシーは微笑みながら、プレートを剛太郎に差し出した。
「すまない」
剛太郎は苺ジャムの方をつけてみた。自分でもちょっと似合わないと思いつつも。
「生ハーブウインナー焼けたよー!」
ネージュが明るい声を上げて、皆の皿に持参したウインナーを乗せていく。
素材に拘った一品だ。親に頼んで今日の為に送ってもらったのだ。
「おっ、美味い」
茶を配った後、もくもく食べていた悠が声を上げる。
「もう1本もらえるか?」
「どうぞー。でも他にも食べるもの沢山あるから、これだけでお腹いっぱいにならないようにね」
「非常に美味しい。自分にもお願いします」
剛太郎も皿を差し出す。
ネージュの顔に笑顔が浮かぶ。
下茹をしたりと、手間をかけて焼き上げた甲斐があったようだ。
肉や野菜、北京ダック、炊き上がった白米を食べながら、メンバー達は会話も弾ませていく。
「このお茶もとっても美味しいです。香り高くて、心が和みます」
紅茶を飲みながら、エルシーが微笑んだ。
「それは良かった。アイスティーでも美味しく飲めるぞ」
悠は残った茶葉をエルシーにプレゼントする。
「ありがとうございます。あっ、これ食べて下さいね!」
エルシーは嬉しそうな笑みを浮かべて、お菓子を悠、それから焼肉奉行をしてくれた、ネージュに差し出す。
「ありがとー!」
ネージュは手を止めて、お菓子を一つ口に運んだ。
甘い味が口の中に広がっていき、顔に笑顔も広がっていった。
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