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【GWSP】サルヴィン川、川原パーティ

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第7章 イルミンスール生達の休日

 川の近くには、イルミンスール生が集まっていた。
 校長のエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の姿もある。
「ホイップちゃんも誘えたらよかったのに」
 エル・ウィンド(える・うぃんど)は好きな子のことを思い浮かべながら、肉や野菜、海老などを焼いていく。
「これも焼いて下さい〜」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)が近づいて、持ってきた分厚い肉を広げる。
「凄い肉だなあ? でも、牛とはちょっと違うよな。何の肉?」
「イルミンスールの奥地に生息する、巨大な生物の肉です〜」
「おおー。それは楽しみだ。どうやって入手したんだ?」
「ふふ、それは企業秘密です〜」
 にこにこ笑みを浮かべて、明日香はエリザベートの方へと歩いていく。
 自ら赴いて、力ずくでひっ捕まえて捌いたのだが、イメージとかその他諸々的な理由で伏せておいた。
「手、洗ったですぅ〜。食べるです〜!」
 エリザベートは明日香の言いつけどおり、川の水で手を洗っていた。
「それじゃ、戴きましょう〜」
 明日香はハンカチを取り出して、エリザベートの手を拭いてあげて椅子の方へ一緒に歩く。
 ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)も、椅子に座りながらエルが肉を焼いていく様子を眺めていたが。
「わ、煙が……」
 風向きが変わり、煙が目に入っていく。ミーミルは目をくしくしと擦った。
「ミーミル、こっちにおいで」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が、ミーミルの名を呼んだ。彼の冷徹な顔には、優しさが浮かんでいる。
「はい、お父さん♪」
 笑顔を浮かべて、アルツールが敷いたシートの方へとミーミルは向っていった。
 アルツールは専用のコンロを用意して、空京デパートから取り寄せたドイツソーセージを焼き始める。
「どうぞ。パートナーから持たされたものだけれど」
 フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)は、ザワークラウトとソーセージを、皆の皿に取り分け、配っていく。
「ありがとうございます〜」
 明日香はフレデリカから料理を受け取ると、エリザベートの前に置いた。次の皿は自分の前に置く。
「それじゃ、いただくでござる!」
 ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)がそう言った後、皆で一斉に
「いただきまーす!」
 と元気な声を上げて食べ始めた。
「すっごい大きなお肉……」
 フレデリカは明日香が持ってきた肉に驚きながら、ナイフで切って食べていく。
「うん、美味しい」
 フレデリカの感想を聞き、エリザベートも安心して肉に手をつける。
「あちっ。美味しくても、熱いのはだめですぅ。ちゃんと冷ましてから出すですぅ!」
「はいはい」
 すぐに明日香が肉を切って、エリザベートが食べやすい大きさにしていく。そうしているうちに、程よい熱さにもなっていく。
「食べたいもの言ってくれよ。エリザベート様は野菜は大丈夫?」
 人参やピーマンを焼きながら、エルが尋ねる。
「肉が食べたいですぅ〜!」
「野菜も食べないと、ナイスバディになれませんよ〜。とりあえず、少しだけ」
 言って、エルは少しだけ野菜をエリザベートの皿に乗せた。
「今はそんなことどうでもいいですぅ〜。明日から考えますぅ」
 エリザベートは美味しい肉やソーセージ、エビにジュースにと飲食に夢中だった。
「肉と野菜、戴いてもいいか?」
 アルツールが焼きあがったドイツソーセージを持ってエルに近づく。
「勿論です」
 互いが焼いたものを交換していく。
「……それじゃ、また後で頼むよ」
 交換を終えた後、アルツールはミーミルの元に戻り、シートに並んで腰掛けて一緒に微笑みを浮かべた。
 炭火で炙ったドイツソーセージに、ザウアークラウトを添えてミーミルに渡す。
「家政婦に作って貰ったり、一人暮らしの今も外食したりで今も昔もお父さんあまり料理をしたことが無くてな。軍で教えられたアウトドア料理か、後はせいぜいブラートカトフェルンくらいしかできん」
 続いて、貰ってきた焼肉にタレをかけてあげながら、アルツールはミーミルに語っていく。
「お前達には親の手料理と言うヤツを色々食べさせてやりたいんだが……すまんな」
 謝るアルツールに、首を振ってミーミルが口を開く。
「お父さんの料理は、心まで温かくしてくれます。私はお父さんの作ってくれる料理が好きです」
 ドイツソーセージを齧って、ミーミルが嬉しそうな笑みを見せる。

「それじゃ、ここいらいで余興といくかー」
 エルはパワーブレスを自分にかけた後、石を拾い上げて川に向って投げた。
 ぽん、ぽん、ぽん。
 水の上をぴょんぴょん飛び跳ねるように、石は対岸に向って飛んでいく。
「おー、役に立たない魔法ですぅ〜」
「そ、そんな未も蓋もない。魔法じゃないですよ、エリザベート様もやってみますか?」
 エルは苦笑しながら、エリザベートに石を渡す。
「上から投げ入れたらダメですよ。角度が大切なんです」
 そう、教えていくエルだが。
 ぼちゃん。
「キーッ!」
 一回も跳ねずに、エリザベートが放った石は川の中に沈んでいった。
「ははは、練習しているうちに出来るようになりますよ……ん? フリッカもやるか?」
 ふらふらと近づいてきた後輩、フレデリカにエルは石を差し出した。
 ふるふるとフレデリカは首を左右に振ったかと思うと、突如。
「お兄ちゃんっ!」
 がばっとエルに抱きついた。
「傍にいて、お兄ちゃん……。どこにも行かないで」
 顔を摺り寄せるフレデリカから、アルコールの匂いがした。
「んおっ、フリッカもしかして酔ってる?」
 テーブルの上には、大人の人に、とキャラという人物が注いでいった老酒があった。
 その他に、果実酒の缶も。
 ジュースと間違えて飲んでしまったらしい。
「言いたいこと、いっぱいあったんだけど……側にいてくれるなら、もういいの。絶対もうどこにも行っちゃやだよ?」
 涙を浮かべた笑顔でぼーっとフレデリカはエルを見上げる。行方不明の兄とエルを見間違えているらしい。
「うんうん、とりあえず、座って休もうな」
 エルはふらついている彼女を座らせるため、抱き上げようとした。
「天誅ー!」
 両手に持った水鉄砲のトリガーを、ナーシュが引いた。
「川で見境無く女性を襲うとは、なんて不埒な! 成敗するでござるっ!」
 こちらも酔っているのか。いやいつもこんなカンジか。
「いや、ボクから触れたんじゃなくて……」
「女の子の敵! 天誅でござる!」
 問答無用でナーシュはエルの顔面に水を浴びせる。
「ぶあっ」
「やっ」
 同時に、抱きついていたフレデリカの首にも水がかかった。
 目を瞬かせ、エルにしがみ付いているとう状況に気付いたフレデリカは次の瞬間に思いっきりエルを突き飛ばす。
「兄さんはこんな金ピカ妹中毒じゃないもん!」
「やはり強引な求愛行動であったか! 天誅、天誅でござるー!」
 華麗に動き回りながら、ナーシュは水鉄砲の水をエルの顔にかけていく。
「ぶあっ、ちが、げほっ、やめ……っ!」
「成敗!」
 フレデリカは火術を放つ。
「あちちちちちちっ!」
 どっぼーん
 ついにエルは川へダイビングしたのだった……。
「いつものこととはいえ」
 アルツールは苦笑しながら、彼らの今後を案じる。
「天誅ですぅ〜」
 事態の意味は分からないも、エリザベートはフレデリカ達を応援していた。
「んーと。……エリザベートちゃん、こちらのソーセージ食べてみますか〜?」
 明日香はエリザベートにソーセージをとってあげる。今回はちょっとエルが可愛そうだったかもしれない、でもエリザベートが楽しそうだからいいかな、などと思いながら。
「明日香は気が利くですぅ〜」
 エリザベートはパキンと音を立てて、ソーセージを食べ満足げな笑みを浮かべるのだった。

「上がって来い、完全に成敗するでござる……!」
「勘弁してくれ……っ、冤罪だー!」
 ナージュはまだ水鉄砲を構えている。
 エルは川の中で手を上げて降参する。それはまるで、天を仰ぐかのようでもあった。