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リアクション
第3章 準備 【6限授業中】
 女子更衣室では、着替えをやめた沙幸がロッカーの扉を開けたまま出て行った。
 入れ違いに、のぞき部の沙耶とヴェルチェが入ってくる。
 彼女たちは、どこにのぞき穴を開ければいいか、“ベストのぞき穴ポイント”を調べ始める。
 そこに、パンダ隊も入ってくる。マリー、ゆかり、理沙、チェルシーの四人だ。
 パンダ隊は、まさか女子がのぞき部に入っているとは思ってもいない。完全に油断していた。
 しかし、理沙だけは違った。
 外見が女でも実は男って人を何人も見てるからねぇ〜。……気は抜けないわ!
 まず沙耶に接近する。転んだふりをして胸を揉んでみるつもりだ。揉めばわかるわ! と派手に転ぶ。
 が、なんと、予想を裏切る沙耶の動き!
 沙耶は避けようともせず、胸を掴めと言わんばかりに差し出してきた! そして……
 ムギュッ!
 理沙の手が沙耶の胸を捉えた。
「ああーっん!」
 沙耶は悶え、いやらしく話しかけてくる。
「ちょっとあんた〜、あたしをその気にさせてどないするつもりなん?」
「ご、ごめんなさい……」
 理沙は揉んだ感触ですぐにわかった。やわらかい。これは本物だ! 女の中の女だ!
 理沙の次の狙いは、ヴェルチェだ。(あの娘、怪しいわぁ〜)
 ヴェルチェは自分のシリコンおっぱいには自信を持っているが、理沙の手つきを見て警戒を強めた。(あの娘、できる……)
 と、そのときだった。
「恋人はいらっしゃるんですか?」
 キリン隊を携帯電話で呼び出していたチェルシーが、電話でナンパを始めていた。
「あら。わたくしも。似てますわね。……ええ、ええ。これはもう、ラヴですわね☆」
「そこ! ナンパしない!」
 理沙はチェルシーをたしなめるのに全力を傾けざるを得ない。
 その間に、確認が終わった沙耶とヴェルチェは更衣室を出て行ってしまった。
 女子がいなくなったので、キリン隊が中に招かれる。
 橘恭司、大草義純、葉月ショウの3人が入ってきた。
 橘は屋根裏を疑い、点検口から様子を見ている。ショウは、『のぞき注意!』のビラをあちこちに貼っている。
 マリー・ストークスは憲兵のような喋り方をするゆかりを呼んだ。
「ねえ、けんぺーちゃん。シャワーカーテンを壁の手前につけたらバッチリじゃない?」
 反応のないゆかりに、話しかけ続ける。
「ああ、でも天井が高いから、ちょうどいいの売ってるかな。どう思う?」
 この呼びかけは、全て独り言となった。
 秩序と規律を何よりも重んじるゆかりは、それどころではなかったのだ。
「この蒼空学園の一大事にうら若き蒼空女子たるものが、乱雑に衣類を扱うとは。ここの学生は皆娼婦か!」
 女子更衣室は、確かに乱れていた。中央の広いエリアには、タオルやシャツが転がっている。そのシャツを警棒で吊り上げると、ブラジャーが繋がっていた。
「なんとフシダラな!」
 ゆかりは散らかったものを驚愕のスピードで畳むと、開いていたロッカーにしまい、扉を閉めた。
「イエス!」
 このときロッカーの暗闇の中で、狭間が小さくガッツポーズ。
 が、次の瞬間――
 穴を塞ぐように、『のぞき注意』のビラが貼られた。
 キリン隊とパンダ隊は、「ひとまず異常なし」ということで、出て行った。
 狭間は、人がいなくなったのを見計らって女子更衣室から脱出しようと思っていた。が、そのとき――
 ギーッ。
 と物音がして、動けなくなった。まだ誰かいるのか……?
 それは、狭間とは別のロッカーが開いた音だった。
 静かに出てきたのは、キリン隊の大草だ。
 どさくさにまぎれてロッカーに隠れていたのだ。
 大草は、紙に『校長使用中』と記して、のぞき穴を塞がないように気をつけながら扉に貼る。そして、ニヤリ。
 再び『校長使用中』のロッカーに戻った。さあ、女子よ。そろそろ放課後です。着替えに来てください!!!
 大草がキリン隊に参加したのは、このためだったのだ。
 ガチャ。
 さっそく入ってきたのは、ショウのパートナー、パンダ隊のアクアだ。
 中央のベンチに腰掛け、携帯電話のイヤフォンをつける。パンダ隊の任務だろう、何かを聞きながらメモを取っている。
 何分経っても一向に着替える気配がなく、大草のイライラが頂点に達しつつあった。そのとき――
 他の女子が入ってきた。
 色白美人のアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だ。大草の興奮は、声にならない声として学園中に轟いた。
(おおおおおおおおお!)
 アリアは大草からよく見えるベストポジションに来た。
「校内が騒がしかったけど……何かあったのかしら?」
 アリアの言葉を聞いた大草の興奮は、留まることを知らない。
(おおおおお!!!!!!! この子、放送聞いてねえええええええええええええええ!!!!!!!)
 でも、アリアは『のぞき注意』の貼り紙に気がついたぞ……?
「のぞきだって。おっかしいの。できるわけないよー」
(おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!! できてるよー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
 アリアがブラウスのボタンに手をかけた。
 そのとき、作業に夢中だったアクアが、アリアの存在に気がついた。
 アリアを一応警戒して、距離を取った。中央のベンチから離れて、壁際のロッカーによりかかった。
 大草ののぞき穴は、アクアの後頭部に塞がれた。
(……。)
 大草は、暗闇でただただ妄想するしかなかった。
 アリアがブラウスのボタンを外す。ブラウスを脱ぐ。スカートを脱ぐ。スカートの裾に足を引っかけて転びそうになる。なんてね……
 大草の目には、うっすらと光るものが見えた。
 
 アクアは携帯電話でショウからの連絡を受けていた。ショウの声が聞こえる。
「あれは……、薔薇の学舎の、麻野樹だ」
 
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