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第三章 遺跡へ

 舗装された岩壁に揺れる炎灯りが壁に点々と備え付けられた、薄暗い洞窟。所々に細々と映えた草が僅かな色どりを添え、足元を妨げる小石は歩行の邪魔にならないようにと脇へ除けられている。人が五人は並んで歩けるであろう広い通路を歩みながら、宝月 ルミナ(ほうづき・るみな)リオ・ソレイユ(りお・それいゆ)は手にした見取り図と遺跡内部の様子を見比べていた。どうやら殆ど違いの無いらしい様子に安心しながら、一先ず広々と開けている空間を目指して歩いて行く。
「ルミナ、疲れてない?」
「大丈夫……おにいちゃん、は?」
 こくりと頷くルミナに安心したように微笑み、リオは彼女の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。もう少しだから、頑張ろうね」
 嬉しそうに目を細めたルミナは穏やかに言い聞かせるリオの言葉に素直に頷き、手を繋いだまま真っ直ぐに歩行を続ける。途中少しでも大きな石があればすぐにしゃがみ込んで脇へ除けるリオを無表情に見下ろしながらも、彼女の足取りは軽かった。しかし、唐突にそのリオの表情が強張る。
「ルミナ」
 優しく呼び掛けながらも有無を言わさず彼女の身体を抱き上げ、すぐに駆け出せるよう身構えて、リオは背後へじっと視線を注いだ。ざ、ざ、と次第に大きくなる足音は、確実に近付いてきている。

「いやー、おまえと会えて良かったぜ」
 呑気に笑う鈴木 周(すずき・しゅう)の言葉に、清泉 北都(いずみ・ほくと)は呆れ交じりの苦笑を零した。三兄弟を探し遺跡を彷徨っていた周が突然の落石に巻き込まれかけたところを、咄嗟に展開された北都の禁猟区が守り、同行を申し出た周に北都が応えた結果、こうして行動を共にすることになっている。
「まぁ、目的は同じだからねぇ」
 まんざらでもなさそうに喉を鳴らす北都に上機嫌に腕を組み、周は頷いた。共にユリアナの救出を目的として、北都の調べた遺跡の情報を元に進んでいく。情報通りモンスターの気配は無いが、後に住み着いていないともわからない。警戒を怠ることは出来なかった。
 角を曲がった所で、不意に北都が動きを止める。道の先、微かに炎に揺らぐ人影を見付けたのだ。
「……誰かいる」
「ん? おーい!」
 警戒交じりに呟かれた北都の言葉に、周は大きく手を振りながら叫んだ。目を剥く北都にも構わず、人好きのする笑顔で周は前へと進んでいく。

「……どうやら、仲間のようですね」
 服装を判別できる距離まで近付いた周の制服をじっと眺め、ようやく安心した様子でリオは吐息を漏らした。しかしルミナを下ろす様子も無い。ルミナもリオへしがみ付いたまま、遅れて到着した北都の呆れを露にした表情を眺める。
「まったく……」
 やれやれと肩を竦める北都にからからと笑いながら、周は快活に話し掛けた。
「俺は周、こっちは北都。なあ、一緒にユリアナさんを助けないか?」
 じっとルミナを見詰めながら誘う周を見て、無意識にリオはルミナを抱きかかえる腕に力を込めた。
「僕からも、是非同行をお願いするよ」
 そう言う北都の視線は、ルミナが手にする見取り図に真っ直ぐ注がれていた。
「僕もある程度、遺跡の内部は調べたからねぇ」
 ちゃっかりそう言い添えることも忘れない。
 暫し疑わしげに二人を見比べていたリオは、判断を仰ぐようにルミナの目を覗き込んだ。
「ルミナ、いいかい?」
「……うん」
 小さく頷くルミナの様子に安心したように頷き返し、リオはゆっくり彼女の身体を地面へ下ろした。
 全員の中心に立ち、ルミナは見取り図を広める。
「……ここ、怪しい」
 ぽつりと口にしながらルミナが指さしたポイントに、北都は納得した様子で、周は感心した様子で、それぞれ頷いた。