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アトラス・ロックフェスティバル

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TRACK 21

 遠くのステージを見ながらヨーコはぼんやり突っ立っていた。
「ライブ、うまくいかなかったなあ……零にもなんか迷惑かけちゃったし……
 ギター、見つかんないな……」
「探すのに苦労したぜ」
「ヨーコちゃん、戻りましょう」
 巽とミサ、それにあとから話を聞いた零が走り寄ってきた。
「でも、戻ってもどうしょうもないよ……」
 この距離からでも怪獣たちの姿は見える。
「観客は『P−KO』としてのお前の演奏をまだ聴いてないんだよ!」
 零に言われて、ヨーコは考え直す。
「そっか……そういやそうだったね」


「遅れてゴメン! 行くよ!」
 ヨーコが飛び込んでくる。マナが目を白黒させて問い質す。
「行くよって、どこに!? ギターはどうしたの!?」
「ステージだよ! ギターは……」
 ギターはない。
 ステージ上に誰かのギターが残ってはいないかと顔を出して様子をみると、そのヨーコを南 鮪(みなみ・まぐろ)がめざとく見つけた。
「あ、アレはヨーコさんじゃねえか! ギャギギィーズギャギャァン!!!」
 興奮した鮪は奇声を発しながら愛用のハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)に跨り、観客を蹴散らしながら舞台裏に転がり込んできた。
「ヒャッハァー俺と一体になろうぜェー!」
 そう叫んでヨーコを無理矢理バイクに乗せる鮪。ヨーコは思わずピックで鮪の顔をひっかく。鮪の悲鳴が、“ド”の音に聞こえた。別の場所をひっかく。“レ”。次は“ミ”。

♪ドレミ〜レド、ドレミレドレ〜

「流石ヨーコさん! こ、この俺も楽器扱いだァ〜!」
 なんだか知らないが鮪がギターの代わりになることはわかった。自我のあるバイク、ハーリーも嬉しそうにエンジンを唸らせている。ハーリーも熱心なヨーコ信者なのだ。

「ギター(?)があってもあの怪獣どうすんだよ! 三匹もいるんだぞ!!」
 マナはまだ納得いかない様子だ。しかし今のヨーコは『P−KO』のヨーコにスイッチが切り替わっていた。

「バカ野郎! 二匹はただのデカイ“ゆる族”だ!
 ライブの意味もわからねえアホどもをブチのめして、お得意の光学迷彩を使って姿を隠してブルブル震えるしかできないようにしてやる!」

 そういうとヨーコはハーリーに乗ってステージに出て行った。仕方なく後を追うマナと、嬉しそうに『うふふ、すてきすてき!』とつぶやきながらついていく珠代。

 3人+αがステージに出て行くと、観客席が沸き立った。3大怪獣も異変に気づき、のこのこ出てきたちっぽけな人間に視線を向ける。

 勢いで出てきたものの、ここからどうするか決めてはいなかった。
 しかし3匹がヨーコたちに注目しているあいだに、御弾 知恵子がだごーんの足にしがみつき、するすると登っていく。

 だごーんの体は目も眩むほど巨大で、おまけに魚のような悪臭がした。距離感が狂うのを感じながら、ともかく必死で上を目指す。
 気の遠くなるような時間が過ぎた。ようやく背中にたどり着くと、そこには信じがたい光景が広がっていた。人間の頭部ほどもある巨大な金属塊がずらりと並んでいるのだ。認めがたいことだが、それはチャックであった。やはりだごーんはゆる族だったのである。
 非現実的な光景にケタケタと笑いながら、さらに知恵子はチャックに沿って進んでいくと、とうとう巨大なスライダーに到着した。

 知恵子はスライダーにしがみつくと、腹の底から大声を出した。

「あんたたち! あたいがどこにいるかわかるかい!
 そう、このだごーんのチャックのところさ!
 さっさとこのバカ騒ぎをやめて、おうちに帰りな。
 さもないと、このチャックを開いてドカン、だよ。
 このウドの大木が爆発したら、どうなるか楽しみじゃないか!」

 それを聞いてだごーんは悲痛な(?)声を上げた。その裡に潜む暗澹たる驚異を蒙昧なる人間に知らしめるには、まだ星辰の位置が正しくないらしい。イオマンテとしても、爆発に巻き込まれるのはゴメンのようで、
「おぬし、相当な悪党よのう。覚えとるがええわ」
などと捨て台詞を残して山奥に引き返していった。

 知恵子の捨て身の努力で、だごーんとイオマンテはステージから離れた。
 しかしまだ最大の怪物、ドラゴンが残っている。