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【第六章 妨害者を捕まえろ!】


……蒼空学園、デスクえ攻略合宿場……
 時刻はもう日をまたごうとしていた。『悪意の鎧』、『絶望の剣』、『迷妄の盾』を手に入れたところで一同は小休止をとることにする。『デスクエ攻略合宿』の給仕を担当するアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)アズミラ・フォースター(あずみら・ふぉーすたー)、ミラ・アシュフォーヂが大きな寸胴に入った夜食を教室に運び込んできた。
「みなさーん、お夜食をお持ちしまし――」
『きっしゃ――――!』
 過酷な廃プレイで精神が追い詰められている生徒たちは、奇声をあげながら我先にと料理に群がった。
「そ、そんな慌てなくても皆さんの分はありますか――あ〜れ〜」
 そこまで言ったところでアイリスが人波へと呑まれていく。
「ああ……俺にも分けてっ。お腹減った……」
 草食系男子の陽太は、他の生徒の迫力に気後れしてしまい出遅れてしまっていた。なんとか人垣の向こうにある夜食ゲットを試みる。
「おふぅ」
 しかし健闘むなしく誰かの肘が顔面にクリーンヒットし押し出されてしまった。痛さのあまり転げまわっていると、そこにパートナーのエリシアが現れた。
「相変わらず駄目駄目ですわね、陽太」
「そりゃないですよ。いてて」
 情けない声を出す陽太に、エリシアがすっと紙皿を差し出す。それには取り分けられた料理がのっていた。
「……わたくしも手伝ったんですよ。味わってお食べなさい」
「エリシア……」
 照れくさそうにしているエリシアから紙皿を受けとり、陽太はゆっくり味わうようにして食べた。

「大丈夫なの、総司? まだ全部クリアしてないんでしょ?」
 アズミラが心配そうに訊いた。彼女は呪われておらずゲームにも疎いため、総司の手助けが出来ないことに真剣に悩んでいた。対する総司はお気楽そうに夜食の焼きそばをすすっている。
「平気なんじゃない。おもしれーし」
「面白いのは関係ないでしょ。それで疲れてない? 吸精幻夜しとかなくていい?」
「だーいじょうぶ、大丈夫。それより便所行ってくるわ」
「緊張感ないわね、もう」
 総司の背中を見送りながらアズミラが頬を膨らませた。

 前述したとおり仁はデスクエストが原因でミラと喧嘩になってしまい、彼女の元を飛び出していた。そんな二人が何故か合宿場で相対していた。二人の間の空気が張りつめている。ミラは俯いており表情が読めない。
「ミラ、どうしてここに?」
「呪いのゲームを集まってクリアしていると聞いたんです。なぜ私の電話に出てくださらなかったの?」
「あー、いや。ミラだけじゃなく電話はかからないように設定してたんだ。アプリが中断されちゃうし」
「私、何度もかけましたのよ」
 彼女が俯いたまま歩み寄ってくる。仁は引っ叩かれると歯を食いしばった。
 しかし。
 とんっ。彼女は仁の胸に頭を預けてくる。
「……」
 仁はくしゃくしゃと後頭部を掻いたあと、彼女の頭を優しく撫でた。言葉はない。しかしそこには二人には解るなにかがあった。
「それで! 合宿が始まる前はどこにおりましたの? まさか野宿をしてらしたとは言いませんわよね」
 ミラが目元を拭うような仕草をしたあと明るく振舞いながら尋ねてくる。
「それは大丈夫。初島のところ居させてもら――あっ」
 仁が慌てて口を塞ぐ。しかし手遅れだった。ミラがわなわなと震えている。
「女の子の家に……泊まりこんでいたんですの?」
「あ、違げーよ。今、たぶんミラが考えているようなことは一切なかったからな」
「馬鹿――――!」
 結局引っ叩かれる仁なのであった。

「あ――――!」
 一同がそれぞれの小休止を過ごしている中、涼司の叫び声が響く。
「俺の携帯がねえ!」
 一同が周りを見渡す。すると涼司の携帯電話を持ちこそこそと教室を出ようとしているメニエスとミストラルが目に留まる。
「メニエス様、見つかってしまったようです」
「問題ないわ。それでは皆さんごきげんよう」
 二人がそそくさと教室をあとにした。
「これって盗まれたってことですよね、涼司さん?」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
 涼司たちが慌てて追った。その後を一同が付いていく。
 一同は蒼空学園キャンパスに出た。
 そのとき、深夜の学園に高笑いがこだまする。一同が声のする校舎の屋上を見上げた。そこには五つの影が立っていた。月明かりに照らされ顔がわかる。そこに立っていたのはゲッコー、イリスキュスティス、メニエス、ミストラル、雪華だった。
「我らはデスクエ攻略を快く思わない者たち。名づけて妨害班でござる!」
「何ぃ!?」
「葉山さん、これお返ししますわ」
 メニエスが涼司の携帯電話を放る。それを受け取った涼司が大きく眼を剥き、そのあとへたれこんだ。
「涼司さん、どうしたんですか!?」
「俺のセーブデータが消えてる……デスクエの」
 セーブデータが消えているということは、せっかく上げたレベルがまた一からになってしまうということだ。それはデスクエストをやるにあたってとても致命的なことだった。『悪意の鎧』は他の生徒が持っており消えずに済んだのは不幸中の幸いだろう。
「ちなみに『迷妄の盾』もこちらで預からせてもらってるでござる」
「私らは明日のタイムリミットまでトンズラさせてもらう。せいぜい呪われるのを震えてまつんやな」
 そして妨害班がまた悪魔のような高笑いを響かせる。
 ぷちり。何かが切れた音がした。涼司がわなわなと震えている。
「お……お……お前らの経験値は何ポイントだ――――!」
 そして噴火した火山のように叫んだ。
「花音! 光条兵器だ! あいつらレアモンスターに違いねぇ!」
「あわわ。涼司さん、現実とゲームがごっちゃになってます」
 花音が今まで見たことのない剣幕の涼司に気圧されて光条兵器を出してしまう。涼司はそれを受け取るとスキル・バーストダッシュで校舎の壁を駆け上がった。
「わー、メガネが来たで」
「メガネ菌がうつるでござる。にげろ〜でござる」
「何がメガネ菌だ! お前ら小学生か! 待ちやがれ!」
 涼司は完全に頭に血の上ってしまっている。そんな彼についていくようにして花音たち合宿参加者は妨害班を追った。


 妨害班は時計台の最上部にある小さな部屋に隠れていた。
「どうやら撒いたようね」
「流石です、メニエス様」
 一行がとりあえず一息つく。
「あなた達三人は呪われているんでしょ。それなのになんであのメガネの邪魔をするの?」
「なんや、めーちゃんは呪い信じてんのか?」
「ふふふ、そう言えばそうね」
「さて、ゲームの方も逃げないといけないでござる。忙しくなりそうでござるな〜。ね、師匠?」
「ねむねむ」
「って寝てるでござる――――! まったく横になってプレイすると眠くなるとあれほど言っておいたのに。師匠、起きるでござる師匠」
 ゲッコーが携帯電話を片手にぺちぺちとイリスキュスティスの頬を叩く。すると彼女がうるさそうにしながら寝返りをうった。
 ばきっ。寝返りをうったイリスキュスティスの拳がゲッコーの携帯電話にヒット、折りたたみ式の半分があらぬ方向に曲がってしまった。
「ウッソォオオオオオオオオオオ!」
「……ばっちりじゃん!……ねむねむ」
「なんでそこで決め台詞でござるか!? もしかして起きてる!?」
「ゲッコー、何さわいどんねん! ばれてまうやん!」
「メアニス様、ご報告があります」
 そのとき、部屋の扉が開く。
「いいわ……わかってる」
 そこには葉山涼司の姿があった。

「なによ! ゲームなんかにムキになってんじゃないわよ!」
「メアニス様、おいたわしや……」
「依頼が全てハッピーエンドで終わることに慣れてしまったこの生ぬるい環境を打ち壊したかったでござる〜」
「ねむねむ」
「憎い! 学校入口にいつもおるメガネが憎いんや!」
 紐でぐるぐるに巻かれ身動きの出来なっている妨害班の面々がそれぞれ胸のうちを吐露する。最後の雪華に至っては何を言っているかわからない。ただのいちゃもんのようなものだった。
「どうですか?」
「うーん、これはただモニターとのケーブルが切れてるだけだな。すぐに直る」
 花音が尋ねると、ゲッコーの壊れた携帯電話を見ながら涼司が言った。
「それじゃあデスクエに参加している三人の携帯は預からせてもらうぜ」
「なんや! どうするつもりやねん!」
「ただデスクエストにログインするだけだ。お前らみたいのでも呪いで死なれでもしたら後味悪いからな」
「涼司殿……これで勝ったと思わないことでござるな。たとえ拙者たちがここで倒れても第二、第三の拙者たちのような存在が――」
「うるせぇ。反省してねーみたいだし吊るしちまおうぜ」
『ぎゃー』
 妨害班が時計台からミノムシのように吊り下げられてしまう。こうして妨害班の作戦は失敗に終わったのであった。