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闇世界の廃病棟(第1回/全3回)

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闇世界の廃病棟(第1回/全3回)

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第1章 身体を奪われし死者の嘆き

-PM15:50-

 あの世に成仏できない魂たちが夜な夜な苦しみの声を上げ、それは外の空間に住まう人々の耳へ届いてしまうほど、かなり不気味な声色だった。
 事件の真相を知るべく、ゴーストタウンに通じるトンネルの前に、沢山の生徒たちが集結していた。
「このトンネルを夕方の4時に通ったら、ゴーストタウンに行けるはずですよ」
「なかなか面白そうな場所ですわね」
 影野 陽太(かげの・ようた)が指差すトンネルを見てエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、一刻も早くトンネルの向こうに行きたいという興味津々な表情をしている。
「(陽太が戦ったゴーストたち・・・どういう存在か、わたくしも見てみたくなってしまいましたわ)」
「今度は校舎でなく病棟の方で何かが起こっているんですね・・・」
 エリシアたちの近くにいる大草 義純(おおくさ・よしずみ)も待ちきれない様子だった。
「も・・・もうすぐ時間だな・・・」
 ビクビクと怯えた表情で渋井 誠治(しぶい・せいじ)は、トンネルから視線を逸らす。
「今更・・・怖いから帰りたい・・・なんてこと言いませんよね?」
 ハティ・ライト(はてぃ・らいと)は怯える彼の顔を覗き込み、挑発的な口調で言いながらも笑顔で話しかける。
「あっ時間になりましたね、では行きましょうか。怖くなかったら・・・ですけど」
「そ・・・そそそんな・・・怖いわけないだろ、ほら・・・行くぞ!」
 心中では帰りたくてたまらない誠治だったが、ハティの挑発に乗ってしまいトンネルの向こうに行くはめになってしまう。
 彼らの後に続き、他の生徒たちもトンネルの中に入っていった。

-PM16:02-

「この町の雰囲気は、廃校舎に行った時とまったく変わっていないな・・・」
 ゴーストタウン内のトンネルの前でベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)は、町の中をキョロキョロと見回す。
「そうね・・・あんなゴーストたちがいる町で、生きている人が暮らしているとは到底思えないし・・・」
 マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)はリボンの紐をそよ風になびかせ、考え込むように言う。
「ねぇ、あそこに人が・・・」
「どこだ?」
「若い女の人がそこの建物の角を曲がって行ったわ。生存者かしら?追いかけるわよ!」
「お・・・おい、待てよ!」
 生存者らしき女を追いかけて駆けていくマナの後を、ベアは慌てて追っていく。
 5分ほど走った先には大きな病院があった。
「ここに入っていったわ」
「よし・・・中に入ってみるか」
 ベアとマナは病棟の中へと入って行った。



 ゴーストなんて出ない眉唾物だと思って来てしまった氷見碕 環生(ひみさき・たまき)は、鉄パイプを片手に何か出てこないかと病棟内を見て回っていた。
 カラン・・・カラランと床を擦るように引きずる鉄パイプの音が、明かりがついてない真っ暗な静かな病棟内で響く。
「町に不気味な幽霊だとかがでるなんて・・・どうせ作り話とかに決まってますよ」
「さぁーどうでしょうねぇ?ここに来れた時点で本当に出るかもしれないし」
 高遠 響夜(たかとう・きょうや)が不吉なことを軽口調で、環生の傍らでボソッと言う。
「向こうに人が・・・」
「こんなところに・・・?どれどれ・・・後姿しか見えないけど・・・かなりの美人かもしれない!おーい、そこの彼女〜♪」
 ぼーっと廊下に佇む女の元へ、髪型を手クシで整えて響夜はそっと近寄る。
 響夜に気づいた両目を閉じている女が、彼の方に振り返った。
 10代後半らしき表情のない美人顔の女は、響夜の口元へ片手を近づけたかと思うと、いきなり彼の口の中に手を入れようとする。
 触れられた瞬間、あまりの手の冷たさに響夜は後退る。
 不気味にニヤリと笑う彼女の口の中には、あるはずべきものがなかった。
 その女には舌が丸ごとない。
 大抵の生き物には食事という行動するために舌があるが、彼女にはそれがなかった。
 代わりに獲物を探してギョロギョロと周囲を見回す2つの目玉がそこにあり、響夜の舌を手で引き抜いて奪おうとしていたのだった。
「―・・・人じゃ・・・ない?」
「高遠・・・逃げて!」
 環生の叫び声で響夜はよやく動けるようになり、すぐさま女の傍から離れるのと同時に、死者の口から細長い数本の触手が彼を捕らえようと襲いかかる。
 彼は後方へ飛び退き触手から逃れた。
「まったく美人と見ると目がないんですから!」
「そんなこと言っても、相手が美人だったんだから仕方がない。それに美人を見たら普通、声くらいかけるさ!」
 文句を言う環生に、響夜は全力で走りながら逆ギレする。
 2人は待合室にある棚の中に逃げ込んで隠れるが、女はペタペタと足音を立てて追ってくる。
「―・・・そー・・・こ・・・?そこ・・・にい・・・る・・・?」
 喉から無理やり声を出したような女の声が、2人が隠れている戸棚の近くから聞こえてきた。
 もし出てしまったら一巻の終わりだと思い、両手で耳を塞いで女がその場から離れるのを待った。



「この辺は誰もいないのか?」
 カルスノウトの柄を握り、有沢 祐也(ありさわ・ゆうや)は1人で病棟内を探索していた。
「それにしても死者の身体の一部が奪われるなんて・・・」
 ナースステーションの日報を見ても、それらしいことが書かれていない。
「幸いなことにゴーストに遭遇しないな・・・」
 ファイルの中に納まっているカルテを見つけ、どういう患者がいたのか確認する。
「この患者は病死のようだな。こっちもか・・・不可解な処理の仕方がされているようだが・・・。退院した記録もあるようだけど、本当に退院できたのか?他の所も見にいってみるか」
 カルテをファイルに戻し、他の場所へ移動していった。