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リアクション
ジジジ…、オーブンから漏れる黄色い光を、高潮 津波(たかしお・つなみ)は真剣な表情で見つめていた。金色のティアラに光が反射している。 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、温度の表示と“予熱中”の表示をチェックしていた。お菓子作りをする人たちのために、ラズィーヤのメイドたちが予め、銀色に並んで光るピカピカのオーブンをいくつも設定温度を変えて用意してくれていた。
「ナトレアさんが作るのはバナナボートでしたよね。オムレットと同じくらいの温度設定で大丈夫かな」
「あら、バナナボートを知っているの?美味しいけど、知っている人が少ないので、今日はたくさんの人が食べてくれると嬉しいけど」
ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)は、中に入れるクリームを鋭意作成中だ。津波は、自分のカップケーキと、同じテーブルで蒼空学園の女の子と一緒に作ったパンプキンマフィンを並べたオーブン皿を“予熱中”表示の消えたオーブンに入れて時間を調整した。
「高潮さん、これも一緒に焼いてもらいたいんだけど……いいかな?」
朝野 未沙(あさの・みさ)が、見慣れない男子生徒と連れ立ってやってきた。本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、女性ばかりの空間にちょっと緊張気味らしく、ただ無口に頭を下げた。
「パウンドケーキでしたら、同じ温度で大丈夫ですね。今、入れたところなので一緒に入れてしまいましょう」
津波は涼介からパウンドケーキを受け取ると、今カップケーキとパンプキンマフィンを入れたオーブンにパウンドケーキも入れた。大きなオーブンは、こういう時とても便利だ。
「うわぁ、ここはとっても暑いどすなぁ……」
オーブンの並んだ空間は確かにとても暑い、が……胸元あらわで露出の多い格好の清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、素肌に直火。暑く感じて当然である。手に持ったパウンドケーキを焼くオーブンを探しに来たようだ。
エリスの蝙蝠の羽が揺れるのと同時に、その柔らかな胸もぷるるんと揺れて、涼介は目のやり場に困り、ものすごく不自然に目をそむけざるを得なかった。
「あの、お砂糖入れないと……、甘くならないと思うよ?」
「えっ、そうですの?生クリームは、もともと甘いのだと思っていましたわ……」
七瀬 瑠菜(ななせ・るな)に、そっと声をかけられて、ホイッパーで生クリームを一生懸命泡立てようとしていたナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)は、びっくりした様子で手を止めた。
「え〜、そうなんだ?!あたしももともと甘いんだと思ってた」
エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)の隣で、かぼちゃの形のクッキーに一生懸命顔を書き込んでいた秋月 葵(あきづき・あおい)も驚いた表情で顔をあげた。エレンディラは、今ならまだ大丈夫ですから、と優しい笑顔を浮かべて、さっと生クリームのボウルにグラニュー糖を入れてあげた。
「よかった。失敗しちゃうところでしたわ」
ナトレアは氷水につけたボウルを手に、まだホイッパーでそれほどかき混ぜていなかった生クリームを見つめた。たぶん、これから泡立てれば大丈夫。
リチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)は、杏のジャムの甘さを確認しながら呟いた。
「でも、お菓子作りって難しいです……」
「大丈夫だよ。リチェル、ちゃんと出来てるから!」
「うーん、でもやっぱり難しいよ。だってホラ、かぼちゃがこんな顔」
葵の手には、ゆがんだ表情を浮かべたジャック・オ・ランタンのクッキー。見ようによっては、愛嬌のある顔に見えないこともないそのクッキーに笑いが起こる。
「それも可愛いですよ」
ちょうど、オーブンから戻ってきた津波も、にこにこしながら会話に加わる。
「あら、ちゃんとお砂糖入れたのね」
「七瀬さんが教えてくれましたの。生クリームって、もともと甘いわけではないんですのね……」
瑠菜は、かぼちゃのおまんじゅうに、楽しそうにジャック・オ・ランタンの細工をしている。津波はナトレアの生クリームが出来上がるまで、瑠菜のお手伝いをすることにした。
「おかえりなさい。オーブンは空いていました?」
男の子に会って、より自分の格好に羞恥の募ったエリスは、生クリームの味見をしているティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)に、泣きそうな顔を見せる。
「ティア〜。やっぱりこのかっこ、恥ずかしぃ、どす……」
「んんん?何?……何かありましたのですわね」
「おおおおお、お菓子を作るのに、こんなかっこ、する必要ないはずどすえ」
エリスの胸元は、白いふわふわの毛で縁取られ、白い肌が余計にエロスを掻き立てている。ハロウィンの小悪魔は、こういう意味の小悪魔ではないのでは、とエリスもちょっと気付いたらしい。
「似合っていますわよ。ふふっそのかっこでしたら、みなさんに存分に“イタズラ”、していただけますわよ」
ティアは面白そうに、エリスに囁いた。エリスは真っ赤になって言葉も出ない。
「そなたの格好が、この現代流の鬼道の儀式の正式な装束ではなかったのですか?」
2人のやりとりに、邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)は不思議そうな表情を浮かべる。壱与は美しい勾玉た植物をあしらった、本格古代日本仕様の格好だ。
「もちろん、これが正しい衣装ですわよ。ふふっ上手に焼けなかったら、イタズラさせていただきますわよ」
ティアはそう言うと、エリスの白く柔らかい肌をつんつん、とつついた。エリスは顔を赤くしながら、壹与がもちこんだ材料−天然で生命力溢れるどんぐり−をケーキにするべく、灰汁抜きの続きに専念することにした。
「どんぐりって、どんな味がするんだろうねっ」
みんなにたくさん配れるものをと、キャンディー作りに励んでいる山田 晃代(やまだ・あきよ)は、同じテーブルの壹与のどんぐりケーキに興味を持っていた。
「きちんと灰汁抜きをすれば、どんぐり自体にはそれほど強い味はない」
壹与は、晃代にどんぐりがいかに身体に良い食べ物であるか、説明を始める。やはり古くからある自然のものを取り入れていくというのは大変良いことで……云々。
「そんなに良いものなら、ボクもちょっと食べてみたいです」
真口 悠希(まぐち・ゆき)はそう言いながらも、いつもお忙しい静香様に食べてもらえたら…っ!と考えていた。手はせっせと晃代の作ったキャンディーを可愛らしくラッピングしている。赤いセロファン、青いセロファン、ピンクのセロファン、色とりどりのセロファンとリボンの色を考えて組み合わせて行くのは、とても楽しい。
「食感がどうしてもぼそぼそするのだが、ケーキにすることによって身体に良いだけでなく美味しさも……」
壹与が力説する横で、エリスはティアの視線に耐えながら、黙々とどんぐりをゆでて灰汁を掬っている。
「あ、ここ。いいかな?……わたくし、やりたいことがあるのだけど、協力、してくれない?」
ピーターパンの格好をした少女、スターシークス・アルヴィン(すたぁしぃくす・あるう゛ぃん)が現れ、キャンディーを大量に作っている晃代に向かって声をかけた。
「はいっ、いいですよ?」
晃代が快く返事をすると「あのね…」と、スターシークスは晃代の耳に唇を近付け、自分の計画を晃代に打ち明けた。小さなオレンジ色の封筒を手に持っている。
「内緒ね」
スターシークスは楽しそうに、人差し指を立てて“しーっ”の合図をして、晃代と悠希のキャンディー作りに加わった。
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、可愛く焼けた動物クッキーに満足しながら、焼けた分だけ先にお出迎えの人たちに届けることにした。パーティーは17時からとは言え、14時以降はとくに何時に来ても良いということだったので、もうすでに来ている人もいるかもしれない。セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、カゴの中に入ったクッキーの袋を見栄えがよくなるようにちょいちょい、と直しながら、メイベル、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と一緒に玄関ホールに向かって歩いていた。
「自分のイニシャルが当たったら、嬉しいですけどね」
結局、イニシャルクッキーがランダムに入ってしまった袋を見つめながら、フィリッパはどれに自分のイニシャルが入っているのか気になる様子。
「まぁ、どれでも美味しかったら良いじゃないですか」
セシリアはにこにこしながら言った。玄関ホールが近づくと、複数の人の声が反響して聞こえた。もう、誰か来ているらしい。
「時間までいっぱい、お菓子作りしたいですぅ」
メイベルは玄関ホールの柱時計を見て、言った。まだまだ、クッキーを焼くつもりらしい。みんながいろいろなお菓子を作っているので、今日はたくさんのお菓子を味わうことが出来そうだ。
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