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「水中での戦い!人魚と魚人の協奏歌」(第2回/全2回)

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「水中での戦い!人魚と魚人の協奏歌」(第2回/全2回)

リアクション

 ルファニーを守る魚人は6体、その周りにも多勢の魚人が群れていたのだが、沢渡 真言(さわたり・まこと)を含む7名は、その群れの内までの突開を成していた。
 それでも全方向からの襲撃に対応する必要があるのだ。
 蒼空学園のセイバー、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)は両腕で魚人の踵落としを受けようと身構えたが、迫りくる勢いに危機を感じ、間一髪で避けた。魚人の足は地に当たる、ではなく地を砕き落ちていた。
「あっぶなっ!!! くっ」
 顔に目掛けて拳が向って来た。シルバはブリッジをするように体を反りて避けたが、後方の魚人が拳を組んで振り上げているのを見て、銃弾の様に全身を回転させて避けた。
 着地、そしてすぐに僅かなスペースへ移動し、パートナーの雨宮 夏希(あまみや・なつき)と背中合わせになると、同時にライトブレードと光条兵器の和傘を突き構えて魚人たちとの間合いを取った。2人とも肩で息をしていたが、背中のぬくもりが少しばかり頭を冷やしたようだ。
「俺たち、今日、魚人とよく戦うなぁ」
「えぇ、これだけの数は…… 大変ですね」
 2人を取り囲んでいる魚人たちは誰もが目を血走らせていて、今にも飛びかかって来そうに身構えていた。
「こんな状況でも?」
「えぇ、戦いは生じない事が最良です」
「ふっ、違いない」
 シルバは、動き出そうとする魚人へ剣先を向けて視線で圧した。夏希が構えるのは和傘であれど、ほほえみをもって見つめる瞳はシルバ以上に圧しているようでもあった。多勢の魚人に囲まれながらも、2人はこう着状態を作り上げるを成功させたのだった。
 イルミンスール魔法学校のセイバー、姫神 司(ひめがみ・つかさ)はパートナーのグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)と共に、魚人の攻撃を避けるに徹していた。
「グレッグ、敵の初動を見て避けるのだ」
「えぇ…… なんとか……」
 ホーリーメイスを用いながら、ようやくに避けているようだが、プリーストであるグレッグが魚人の攻撃を避け続ける事は、長い時間はもたないだろう。
「血を流さない戦いは、やはり、難易度が高い」
 エペを用いての魚人との戦いは経験していた。それでも八方を囲まれての戦いは、呼吸すらまともにさせてはくれなかった。
 正面からの拳を半身になりて避け、背後から迫る拳を背面に跳びて宙に逃げ、着地と共に襲い来る拳と足を、地を転がりて避けた。
「くっ」
 上体を上げた司はグレッグを視界に捉えると、迷いなく叫んだ。
「グレッグ、バニッシュ!」
「了解です」
 息を切らせながらも司の声に笑みを得たグレッグは、両腕を胸の前で組んでバニッシュを唱えた。
 たちまち辺りに強い光りが放たれた。
 その時、イルミンスール魔法学校のバトラー、沢渡 真言(さわたり・まこと)はパートナーで英霊のマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)に抱きかかえられながらに空飛ぶ箒の上に居た。箒の上ならば、魚人たちの手は全くに届かないのであった、その高さに浮いていた。
「この光り、!! 今です、マーリン」
「オッケーィ、あの娘の所まで運べばいいんだな」
「えぇ。ユーリ」
同じくパートナーのユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)は箒の上からニコニコ笑顔で魚人たちを見つめていた。
「はいはーい、ユーリは魚人さんと鬼ごっこしてるね」
「お願いしますよ、マーリン」
「よし」
 魚人たちの襲撃を空へと避け、空からルファニーへ向かって行く発想は、正答に見えたのだが。
「がっ」
「うっ」
 マーリン、そして真言の乗る箒を氷術が襲った。真言は忘れていた、魚人の中には氷術を使う者がいるという事を。
 光りの中、宙を舞っていた箒が墜撃されたのを和原 樹(なぎはら・いつき)は駆けながらに視界に入れていた。そして、機はここしか無いと想起していた。
「跳んでっ」
「えっ、ちょっ」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)の前方で振り向いたフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)は両手を組んで土台を作った。そこに優希の足を乗させると、フォルクスは勢いよく優希を宙に放り投げた。
「きゃあぁぁっ」
「それを掴んでっ
 叫び舞う優希に樹は空飛ぶ箒を投げていた。瞳を見開いて優希が箒を掴むに成功すると、箒はそのままの勢いのままに高速で優希を引いて飛び滑っていった。
 樹とフォルクスの想いも乗せて箒はルファニーの元へと飛んでゆくのだが、同時に氷術が迫っていた事は優希にも見えた。
「ダメっ」
 優希が瞳を閉じた時、段ボール箱が飛び出してきて、氷術を受けて盾となった。
 段ボール箱、段ボール箱が重なっていて、連なっていて。箱の先から見えた手が、箒を掴んだ事で優希にも人なのだと理解ができた。
 段ボール箱人間の正体は蒼空学園のウィザード、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)であった。彼女が箒に掴まったおかげで速度は落ち、ちょうどに2人はルファニーの胸に飛び込む事が出来ていた。
 墜落したと言った方が正しい。それでも優希が立ち上がるより先に筐子はルファニーに飛びついて、羽交締めにしていた。
「あなた…… 氷術も受けたのに……」
「ワタシは平気よ、それよりも早く! するべき事があるんでしょう?」
 優希は背筋を伸ばして立ち上がった。フラッドボルグの洗脳魔術からルファニーを救う方法、ノーム教諭から聞いた方法を実行できるのは自分しかいない。多くのみんなが自分を届けてくれた、それを思いて優希は恥ずかしい気持ちを飲み込んだ。
 優希はルファニーのうなじを覗き込み、真珠色のチョーカーに付いた鈴に、そっとキスをした。
「彼の洗脳魔術を解くには、対象者と同姓の者が鈴に、キスをする必要がある♪」
 優希の口づけと共に、甲高い鈴の音が一つ、神殿内に響いた、そして。ルファニーの瞳が赤から蒼へと変わっていった。
「ルファニーさん! ルファニーさん!!」
「んっ、うぅん、…… ここは?」
 意識を取り戻したルファニーが辺りを見回そうと首を立てた時、魚人たちの動きも一斉に止まり、しばらく動かないままとなった。
 多勢の魚人たちと睨み合っていたシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)も構えを緩めた。
「何だ? 一体どうした?」
 すぐに魚人たちは動きを始めたが、誰もがしばらくの記憶を失っていたかのように首を傾げていた。
「何だぁ? 成功したのか?」
「そのようだねぇ」
 教諭を守るように魚人と拳を交えていたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が振り向いた時、ノーム教諭は天井を見上げていた。
「何を見てるんだ?」
「脱出の術がやってくるのさ」
 ラルクも同じに天井を見上げるしか出来なかったが、次第に青刀の双岩間に空いた穴から、巨大な軟体生物が姿を現した。
「何だ、ありゃあ」
「君たちも乗って来たのだろう? あの火ラメに」
 姿を見せたのは「軟殻舞い舞い火ラメ」だと言うが、湾に向かって乗って来た時よりも体は薄く広がっている。広い神殿の半分を覆う程に大きく着地した。
「さぁ、急いで乗るんだ、魚人の諸君もだよ、急いでねぇ」
「魚人たちも、ですか?」
「当然さ、魚人たちが居なくては事態は収束できないよぅ。あぁ、通路は凍らせてくれたんだろうね?」
「えぇ、言われたままに」
 理由は分からないが、というニュアンスを込めて御凪 真人(みなぎ・まこと)は続け応えた。 通路を落ちてくる際に、わざと岩壁に剣を立て、通路の岩壁に氷術をかけながら降りて来たのを真人は思い出していた。降りてきた7人、全員での共同作業となったのだ。
「よろしい。湾内へ出たら龍を青刀の双岩に封印するよ、再びにねぇ」
 そう言ってノーム教諭を含め、神殿内に居た生徒と魚人の全員が火ラメの上に乗った。
 教諭の合図で火ラメは、体を丸めて皆を一斉に包むと、羽部分をしっかりと生やして広げると、ゆっくりと宙へと浮かび始めたのである。
 火ラメが双岩間の通路を飛び昇って行く。ゆっくりと、確実に昇って行く事は、包まれた生徒たちにも感じる事ができたが、その速さは本当にゆっくりとしていたのだった。
 

 火ラメに乗って生徒と魚人たちが移動を始めてから、神殿内に姿を見せたのはイルミンスール魔法学校のウィザード、メニエス・レイン(めにえす・れいん)とパートナーでアリスのロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)である。2人は神殿内での一部始終を見ていた上で、火ラメに乗りて脱出する機会にも身を潜めていたのだった。
 ロザリアスは2人で倒した3体の魚人を引きずりながら、メニエスに歩み寄った。メニエスは不敵な笑みを浮かべて火ラメを見つめていた。
「おねーちゃん、コイツら、どうする?」
「その辺に転がしておけば良いわ、ロザ、ありがとう」
 2人は一部始終を見ていた訳で、つまりはフラッドボルグが姿を見せた所から、黄水龍の復活とその後のルファニー救出劇まで全てを見ていたのだ。
「龍に乗っていた男、鏖殺寺院だって言ってたよね」
「えぇ、そうね」
 思い浮かべた、それだけで。幾つもの想いが湧いて来た事がメニエスに喜びを感じさせていた。
「面白くなってきたわ」
 ハーフムーンロッドを握りしめながら、メニエスは笑みを深めて歩み始めていた。