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リアクション
コウのブースの真向かいにある、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)とアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)のブース。
閑散としている。
「なんで女の古着は売れんのに、俺のは売れねーんだ?」
ラルクは退屈のあまり、売り物の筋トレグッズ、サンドバックを打ったり、大きい石で出来たダンベルを持ち上げたりしている。
「いや…その…なんだ…ラインナップおかしすぎないか?」
アインは、売り物を手につぶやく。
筋トレグッズのほかに並んでいるのは、下着やタンクトップだ。
石鹸を使って洗うような習慣はないので、とりあえずといった感じで水洗いしてある。
「らっしゃーい!いいの置いてあるぜ!!」
ラルクが叫ぶ。客は足を止めるが、身長が200センチと180センチの体格のいい二人に恐れをなして、近寄らない。
「なぁ…せめて宣伝を考えた方がよくないか?」
アインは、このままだと売り上げ0な気がしてきた。
「ウォーーーーーーーー」
向かいのコウのブースから低い男子特有の歓声が起こっている。
人波の隙間から、セーラー服を着て仁王立ちしているコウが見える。
「よし、あいつらをこっちに呼ぶぞ!!うっし!こうなったら最終兵器だ!!」
『腕相撲勝負!勝ったら100G差し上げます!!負けたら何か買ってね!!』
大きな看板を出すラルク。
看板に目を留める通行人はいるが、皆ラルクの巨体に恐れをなして通り過ぎる。
小さな男の子が立ち止まった。
「僕やる!!」
体重10キロにも満たない子だ。薄汚れた格好からすると、孤児の一人のようだ。
「分かったよ」
腕相撲勝負が始まった。
男の子は顔を真っ赤にして、全力でラルクに挑んでいる。
その様子に人も集まってきた。
ラルクは、男の子の後ろに立っているアインの顔を見る。
頷くアイン。
「オォーーーーーーーーーー」
見ていた客が一斉に歓声を上げる。
男の子の顔が、歓喜でより赤く染まる。
「俺たち、0どころかマイナスかもな」
ラルクは、また人のいなくなったブースで筋トレを始めた。
正午を迎えるころ、人も増えてきた。
「あれ、見たことあるじゃん?」
川村まりあは、孤児のリアと気が合って、いっしょに会場内を歩いていた。
リアはまりあが作ったワンピースを着ている。
向こうから、よれよれの衣類を大量に着込んだ女が三人、なよなよと歩いてくる。
顔はそれぞれ可愛い。
没落したお嬢様のようにも見えるが、良く見るとかなり胡散臭い。
「あっ!」
まりあが声をあげた。
「魅世瑠先輩だぁ!・・・先輩っ!」
駆け寄るまりあ。
「先輩、なんですかぁ、その格好は?」
「しー!」
話しかけられた、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)がまりあの口元を押さえる。
残りの二人はフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)とラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)だ。
いつも裸同然の三人なので、服を着ていると動きにくいようだ。
時々、洋服の裾を引っ張っている。
「わんちゃんの手伝いにきたんだよ」
魅世瑠が小声で話す。
「あたしたちの持ち物は盗んだモンか拾ったモンかわかんねぇ代物も多いから、ヘタなモンを売ると足がつくしねぇ・・・どうするかねぇって悩んでいたらねぇ、ラズが「ほしのぎんか」を持ってきて、ひらめいたんだよねぇ」
「なんだ?それ」
リアがまりあを見る。
「すごく泣ける本!ラズ、かんどうした!」
ラズは、話を思い出したのか、うるうるしている。
「よ〜し、売れて金が出来たら、わんちゃんのとこ行くからね」
そういうと、魅世瑠はふらふらと歩き出した。
いかにも観光客なおやじの方に倒れこむ魅世瑠。
「大丈夫ぅ?」
「はあい」
猫なで声を出す魅世瑠。
「なんか疲れたしぃ、あっち行こう!」
まりあはことの次第を見届けたかったが、きっとリアの教育上よくないことに違いないと確信して、その場を去ることにした。
いつのまにか、魅世瑠たちは会場の隅に移動している。
数人のおじさんが三人を抱えている。
「大丈夫かい?」
おじさんの言葉は丁寧だが、視線はいやらしい。
「孤児の力になろうとここまで来たのですが・・・空腹で・・・」
よろけるフローレンス、胸がおじさんの腕に当たる。
「でも・・・私達は・・・売るものがないのでこの・・・服を・・・今、着てる服を・・・買ってもらえないでしょうか」
弱弱しく話す魅世瑠。
「しかし、キミたちの着る物が・・・」
「いいんです・・・私たちはいいんです・・・」
服を一枚一枚、脱いでゆく魅世瑠。
おじさんたちの喉がなる。
「×××で買ってもらえますか?」
魅世瑠が提示した金額は法外なものだ。だって、三人が着ている服は二束三文の価格で古着屋で購入したものなのだ。
「構わんよ、その金額で買おう」
「・・・」
ラズは無言で脱いでいる。
話すな!と魅世瑠に言われているのだ。
「不憫な子なんです」
フローレンスがよろよろ泣く。
善意と欲望が入り混じったおじさんたち、結局、三人が下着一枚になるまで、金を払い続けた。
当然のように、いつのまにか、少しずつ人が集まっている。
「本当は・・・恥ずかしいんです、でも・・・これも買ってください」
最後の一枚に手を掛ける三人。
「うぉ・・・・・・」
おじさんたちの控えめな小さな歓声が起こった。
おじさんたちは、三人が時々話す身の上話で、目の前にいる裸同然の三人が没落したお嬢様だと信じ込んでいる。
小声の、周囲を気にしての競りが行われ、結果、最後の下着は高値で売れ、相当な額が三人の元に残った。
その上、
「きみたちの勇気と奉仕の心に感動したよ」
人のいいおじさんが、裸の三人に大判のカシミアストールをかけてくれた。
なんというか、丸儲けである。
晃月 蒼(あきつき・あお)のブースは、女の子らしい愛らしい飾り気がなされている、と思う。
なんとなく違和感があるのは、あちこちに付けられたモヒカンのせいかもしれない。
ラビリーなラッピングのカラフルなマカロン、お茶に合いそうな甘い香り漂うパウンドケーキなど、見た目も香りも美味しそうなお貸しが並んでいる。
その横に置かれているのは、一見ラブリーな手作りのぬいぐるみだ。色彩はパステルでとても可愛いのに・・・。
ナイスミドルな守護天使、レイ・コンラッド(れい・こんらっど)は、客が来るたびに丁寧な接客をしている。
「お客様、お口に合いましたか?」
「うんっ、すっごくおいしい!」
口いっぱいにマカロンを頬張っているのは、アリシア・ノース(ありしあ・のーす)だ。小さい体に似合わず、美味しいものは幾らでも食べられる体質だ。
「焔、もっと買ってもいいかなぁ?」
警護を担っている村雨 焔(むらさめ・ほむら)は、周辺に眼を配っている。
「いいや!食べちゃえ!もういっこ下さいっ!」
レイがマカロンをアリシアに手渡す。
「ねえ、これ、作るの難しそうだね、今度教えてねっ」
もぐもぐ口を動かすアリシアが話しかけたのは、蒼だ。
「えっ?わたし?・・わたしかぁ・・・そうだよね、そうみえるよね・・・」
「作り方はとても簡単です。そういうお客様用に、作り方の紙をご用意しております。わたくしの方法ですので、間違いもあるかと思いますが・・・どうぞ」
メモをアリシアに手渡すレイ。
「これも、レイさんが・・・」
アリシアが手にとったのは、パステルカラーにモヒカンの鬣を付けたゆるスターのぬいぐるみだ。
「いえ、こちらは蒼様でございます」
アリシアは、モヒカンゆるスターを手にしたまま、ずっと考え込んでいる。
「買ってしまいたいっ!だめだよ、眼が離せないっ!」
「アリシア様、買いすぎです。警護を忘れていませんか」
機昌姫のルナ・エンシェント(るな・えんしぇんと)が、未練たらたらのアリシアを引っ張っていく。
「売れなかった・・・」
蒼は落胆している。
「やっと売れると思ったのに!」
「大丈夫です、やはり蒼様には常人とは異なる芸術的なセンスがおありなのです。でないと、あれほど人を惹き付ける品はつくれませんよ」
レイが蒼を慰めている。
アリシアを急きたてて歩いていていたルナが突然、足をとめた。
レッテたち孤児のブースだ。
レッテたち、孤児のブースは一番奥まったところにある。販売する孤児は時間で交代している。
このブースを手伝っているのは、早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)とメメント モリー(めめんと・もりー)だ。
枝に棒を渡しただけの洋服ラックには、事前にレッテたちが直した古着が並んでいる。
他にも、孤児たちがつくった手作りのぬいぐるみや小物、百合園女学院から寄付されたエプロンやクッションなどが展示されている。
ルナは、じっと一点を見ている。何を見ているのか・・・。
近くに戻ってきた焔が、ルナの目線を探る。
視線の先には、小さな白いウサギのぬいぐるみが置かれている。子どもの手作りらしいピンクの少しいびつなチョッキを着ているが、その素朴な感じが愛らしい。
「カワイイッ!」
早速、アリシアがブース内に飾られた髪飾りを幾つも手にして、思案し始めた。
焔は動かないルナが愛おしい。
「欲しいのか?」
「いえ、別に」
ルナは否定すると、そのまま歩き出した。
「アリシア、買いすぎだぞ、ひとつに決めろ!」
焔はアリシアをせかすと、ルナが見ていたウサギを手にとって、モリーに渡した。
「プレゼントに」
「はい」
モリーはにっこり優しい笑顔を返す。
小さなテーブルにはあゆみが持ってきた色とりどりの布が置かれ、手先が器用な女の子たちが座っている。
実演販売のように、小さなバックや袋を作っている。
ウサギのベストを作った女の子の頬が赤く染まる。
「よかったね」
モリーが声をかける。
「たくさん持っているんだな」
隣のブースの朝霧 垂(あさぎり・しづり)があゆみに話しかける。
垂は、皆が購入した衣類やバッグにバラミタのワッペンや空京のロゴなどを刺繍するブースを開いている。
レッテたちのところで購入した品を垂のブースに持ち込む客が多いのではとの判断で、並んでブースを構えている。
垂の問いに、
「手芸が趣味なものだから、色んな模様の中途半端な布が沢山余ってるのよ」
あゆみは、手を動かしたまま答える。
子どもたちは、すでに針の使い方を覚えていたが、糸止めや曲がり角などは難しいらしくあゆみに聞いてくる。
「これはね・・・」
丁寧に教える。
どう見ても20代前半にしか見えないあゆみだが、実は結婚していて子どもがいてもおかしくない年齢だ。
「少し休みましょう」
小さな声であゆみが歌を歌いだした。日本の昔の歌だ。
「かーごーめ、かーごーめ・・・」
子ども達があゆみの声に耳をすます。
「この歌知ってる?」
みな首を横にぶんぶん振る。
「楽しい遊びがあるのよ」
あゆみの言葉を聴いて、垂が助け舟を出した。
「店番は俺がする。遊んでこいよ」
子どもたちから歓声があがる。
ブースから少し離れた空地で、あゆみはパートナーのゆる族メメント モリー(めめんと・もりー)を誘って、子どもたちと遊びだした。
モリーは、10年くらい前に日本で局所的に流行ったらしい、鳥っぽいキャラクターだ。子どもと遊ぶのはお手の物。
あゆみとモリーと遊んでいる子どもたち、次第に笑い声が出てくる。
普段は強気でがさつな子どもも、遊びの中で子どもらしさを取り戻してゆく。
垂は、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)と一緒に子どもたちを眺めていた。
ライゼはそわそわしている。
一緒に遊びたいのだ。
「いいよ、行ってこいよ」
「垂、ありがとっ!」
ライゼは、子どもたちのほうへ走ってゆく。
それまでそれほど混みあっていなかったブースに、突然、お客が押し寄せてきた。
なぜか、接客業は、こんなものだ。
「俺一人で・・・できるかな」
客の注文に応じ刺繍をする垂に、
「これ見せてくださいっ!」
別の客が声をかける。
「わかりました、こちらですね」
垂が振り返ると、天槻真士(あまつき・まこと)が立っていた。
「手伝うわ」
二人はそれからしばらく教導団らしい見事な連携で接客をこなしてゆく。
「忙しいんだろ、ありがとな」
「いいえ、まだ特に。襲撃してくる気配もないし。目立った動きはないの」
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