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みんなで楽しく? 果実狩り!

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みんなで楽しく? 果実狩り!

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●トヨミちゃん、みんなと出会う

「お母さん! お母さんっ!」
「うぅ〜ん、もう食べられないですぅ……んん?」
 目を覚ましたエリザベートのぼんやりとした視界に、ミーミルの涙を浮かべた表情が映り込む。
「お母さんっ! 私、私……ごめんなさーい!!」
「うわぁ! もう、何なんですかぁ……」
 ひしっ、と泣きついてきたミーミルを怪訝そうに見遣りながら、エリザベートの手がミーミルの頭を撫でる。
「ほう、おまえが話に聞く『魔法少女』とやらか。私ら魔女とはどう違うのかの?」
「えっと……何が違うんでしょう、ウマヤド?」
「俺に聞かないで下さい、おば……トヨミちゃん。気分の問題でいいんじゃないでしょうか」
 トヨミに矛先を向けられた飛鳥 馬宿(あすかの・うまやど)――同じく斑鳩の地で出会った、『聖徳太子』の英霊――が、言葉を濁して答える。
「……まあ、その辺はおいおい聞くとしようかの。とにかく、エリザベートを助けてくれたことは感謝するぞ」
「いえそんな、私はただ悪い人にお仕置きをしただけですから」
 手を振って謙遜する豊美を、環菜が興味深げに見つめていた。
(ふうん……あの子、蒼空に引き込むことができれば、かなりの戦力になるわね。何より彼女は日本出身、こちらに分があると言ってもいいわ)
「? 環菜、何を考えているのですか?」
「何でもないわ、ルミーナ。行くわよ、収獲はまだ途中だわ」
 そう言って歩き始める環菜の背中を、ルミーナが首を傾げながら見遣る。

「豊美殿と申したでござるか。修学旅行でお会いしたでござるな」
 農園に戻る一行の中で、椿 薫(つばき・かおる)が豊美に声をかける。
「あっ、あなたは坊主頭の……また悪いことしてませんよね?」
「覚えていただいたとは光栄……いえそんな決してやましいことは考えておらんでござる」
 杖を向けられ、薫がたじろぐ。彼女に魔法をぶっ放されでもしたらどうなるかは、彼も見てきたことであった。
「ならいいです。……もう、イルミンスールといいましたか? ここはとにかく悪巧みを企む人が多くて困っちゃいます。なので私もイルミンスールにお世話になることにしました」
 そんなことを呟く豊美、彼女自身の存在が騒ぎを引き起こしている可能性は決して否めない。
「ほう、それはそれは。拙者は蒼空学園所属でござるが、これからも仲良くしてほしいでござる」
「蒼空学園……確か日本出身の人がいましたよね?」
「それは御神楽校長のことでござるか?」
 言って薫が指す先、羽の生えた女性に付き添われる形で、背の高い――豊美基準で――女性が歩いているのが見えた。
(後で挨拶しておいた方がいいですよね)
 そう思う豊美の横で薫は、
(豊美殿がイルミンスールに……これで今までよりは覗きがしやすくなるでござるか……)
 などと不埒な考えに至るのであった。

「豊美さんごめんなさい! ちょっと目を離した隙に見失ってしまったのです……」
「ああ、いいですよ。私も利用させてもらっちゃいましたし。それに、せっかくの果実を置いてきてしまいました……」
「いえそんな、適当に走らせておいたのがいけないんです」(うぅ……せっかく収獲したのに、また一からやり直しだよ……)
 豊美と鷹野 栗(たかの・まろん)の会話がかわされる。豊美の登場時に乗っていた白馬は、栗が収穫の時に利用していた馬が、周囲を駆けている内に昂ぶり、駆け出してしまったものであったのだ。
「ねーねー、えっと、飛鳥? 鷹野がもし飛鳥に会ったら、【転生炎鳥魔法少女】名乗るといいよって言ってた! どうすれば名乗れるのだ!?」
 ループ・ポイニクス(るーぷ・ぽいにくす)の問いに、豊美がうーんと唸りつつ答える。
「私は構わないと思うんですけど……えっと、どうすればいいんでしょうね?」
「俺に振られても困ります。……そういうことだから、ちゃんと付与しておけ!」
 は、はい! 分かりました!
「? ウマヤド、誰と話しているのですか?」
「主にこちらの話です。……しかし、おば……トヨミちゃんのその位階は、これといった法的地位を持たないのでしょう? そんなものをもらって、果たして喜ぶ人がいるのでしょうか?」
「ふぇ? そういうのが必要なんですか? 皆さん喜んで名乗っていらっしゃるので、それでいいのではないでしょうか?」
 首を傾げる豊美に、まだ不満がありげの馬宿。生前に『冠位十二階』を定めたこともあってか、その辺には少しばかりうるさいようである。
「ほう、何やら面白い話をしておるようじゃの。私が開祖として君臨しとった魔術結社にも、位階が定められておった。イルミンスールにも位階を定めたなら、生徒の向上心に繋がるじゃろうか」
 二人の会話に、アーデルハイトが割り込んでくる。そのまま馬宿と息が合ったのか、あれこれと話し始める。
「んー? 話がよく見えないけどー、ルーは魔法少女、名乗っていいの?」
「はい、大丈夫ですよ。同じ魔法少女として、よろしくお願いしますね」
「うん! よろしくなのだ!」
「よかったね、ループ」
 微笑む一行の前に、再び果実が実る農園が近付いてくる。
 これからは豊美と馬宿を加えた、果実狩りが再開されようとしていた。

「トヨミちゃんはイルミンスールに決まったんですね。では、ウマヤドさんもやっぱりイルミンスールなんですかぁ?」
 収獲作業に勤しんでいたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、興味津々に作業の様子を見つめていた豊美と、あまり興味なさげな様子の馬宿に話しかける。
「それはですねぇ……ウマヤドの分だけ受理されなかったんですよ」
「『登録は一人までですので』などと言われて拒否されたのだ。くっ、何故に俺だけこのような仕打ち……」
 というオチです。だから精霊なあの者たち、さらにはミリア嬢も現時点では登録できません。
「そうだったのですか〜。どうしたのかなって、気になってました」
「……気にされるとは心外だな。まあいい、イルミンスールの校風なら、一人や二人部外者が増えたところで問題ないだろう」
「メイベルー! 見て見て、こんなに採れたよ!」
「お天気にも恵まれて、絶好の収獲日和ですわね」
 そこに、採れたての果実を抱えて、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がやってくる。
「リンゴですか〜。どうしても私、真っ赤な梨って思っちゃうんですよね」
「それに、これほど大きくはなかった。これも時の移り変わりがもたらしたものだろうか」
 セシリアが持ってきた林檎に、豊美と馬宿がそれぞれ感想を述べる。
「ねえねえ、これ少し持ち帰ってお菓子の材料にできないかな? 甘く煮込んでアップルパイとか、考えただけで作りたくなってきちゃうよ〜」
「あっぷるぱい……? それは甘くて美味しいものでしょうか?」
 聞き慣れない単語に首を傾げた豊美が、セシリアに尋ねる。
「うん、甘酸っぱくてとっても美味しいんだよ! う〜、何だかとっても作りたくなってきた! メイベル、僕ちょっと聞いてみるね!」
「気をつけてくださいねぇ〜」
 駆け出すセシリアを、メイベルがほんわかとした笑顔で見送る。
「おば上が迷惑をかけたようで、すまない」
「いえいえ、よろしいのではないでしょうか」
 頭を下げる馬宿に、フィリッパがこれまたほんわかとした笑顔で応えていた。

「収獲に精が出ますねー。どうしてそんなに張り切ってるんですか?」
 豊美の声に、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が振り向く。
「おお、トヨミちゃん! やはり『あの子』とはトヨミちゃんのことだったんだな! ……いやなに、ちょいと子供達に、って思ってな」
「子供たちに……話、聞かせてもらっていいですか?」
 尋ねる豊美に頷いて、牙竜が話し始める。
「俺は子供の頃孤児院で暮らしていたんだが、その時人気だったテレビヒーローのメッセージカードを贈られたことがすっげえ嬉しくてさ。今じゃ俺がそのヒーローじみたことしてるけどさ、ふと思い出したんだ。戦うだけが正義の味方じゃない、子供の心を救ってこそ正義の味方なんじゃないか、ってさ。……だから、ここで一杯果物採って、メッセージカードを添えて、昔の俺のように困っている子供達に贈ってやれたらな、って。老夫婦にはちと悪いことしてるかもしんないけど、話せばきっと分かってくれると思う」
「ううっ、いい話ですねぇ……私、涙が出てきちゃいました」
「おば……トヨミちゃん、鼻水まで出てます」
「か、感動的な場面に水を差さないでくださいっ!」
 鼻をすすって抗議の声をあげる豊美に、牙竜が笑い声を上げる。
「そうそう、トヨミちゃんも何か書いてくれないか? 子供達も喜んでくれるはずだ」
「えっ、いいんですか? えっとえっと、何にしましょうウマヤド?」
「そんなの自分で決めて下さい」
 カードとペンを渡されて、豊美がうんうんと唸りながら言葉を書き始める。
「ん? そういやあ、リリィの姿が見えないな? リリィもトヨミちゃんに会いたがっていたはずなんだが――」
 牙竜が辺りを見渡し始めたその時、彼らの上から声が響く。

「天に輝く一番星! 仮面乙女マジカル・リリィ!」

 一行が見上げた先、木の上でリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が、名乗りを上げてポーズを決める。
「って、とと!? うわわーっ!!」
 しかし不安定な足場のおかげで、バランスを崩したリリィが落ちる……直前で駆け寄った牙竜に抱きとめられる。
「まったく、姿が見えないと思ったら……名乗るのはいいが危険のないようにしてくれ」
「えへへ〜、失敗失敗♪ トヨミちゃん、これでオッケーかな?」
「はい、よろしくお願いしますね。……ウマヤド、お願いします」
「またですか……そういうわけだから、ちゃんと登録しておけ!」
 は、はい! ……ってこれで何人目? 随分申請してるなあ……

「まったく……食べ物を粗末に扱うとはどういうことですか!? 収獲のお手伝いに来ましたのに、これでは本末転倒ですよ!!」
 先程悪ふざけをしてお仕置きを受けたウィルネスト・アーカイヴスは、志位 大地に背負われる途中で同じ蒼空学園の九条 風天(くじょう・ふうてん)に説教を受けていた。
「くっ、どうして俺だけ……ナーシュ、覚えてろよ――」
「聞いているんですか!!」
 声を荒げた風天が剣を抜き放ち、ウィルネストの首元にぴたり、と当てる。
「ひいっ!? ごめんなさいごめんなさいちゃんと聞いてます」
 かたかた、と震えるウィルネストを見遣って、一つため息をついた風天が剣を仕舞う。
「……分かればいいのです。せっかくの秋の実りを味わえる場ですし、これからはあなたも収獲に精を出してくださいね」
「ちぇっ、食べ物を粗末にしたのはナーシュだっつの。俺はイガを――」
「……何か言いましたか?」
 穏やかながら凄みの利いた表情を浮かべた風天の剣が再び首元に当てられ、ウィルネストが土下座して許しを請う。
「……とにかく、食べ物には敬意を払ってくださいね。一つ一つ丁寧に収獲を――」
「それー!」
 風天の言葉を遮るように、一陣の斬撃が吹き抜け、実っていた葡萄が等しく切り飛ばされて地面に落ちる。
「……おい、アレはいいのかよ」
「……食べ物が無駄になっていないのでセーフです」
 確かに風天の言う通り、落ちた果実は全て蒼空の生徒に回収されていた。だがそんなことで納得するはずもない。
「あんにゃろ待ちやがれええぇぇ!」
 ウィルネストが飛び出し、大鎌を振るって果実を落としていく蒼空生徒を追いかける。
「あらぁ? 誰か追ってきますねぇ〜、どうしたんでしょうか?」
 自分を追いかける者の存在に気付いたと思しき騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、構わず大鎌を振るう。その度にスカートが捲れ、外見からはちょっと想像のつかない中身が露になる。
「おっ、黒のレース……けしからん、実にけしからん! 俺が隅々まで身体検査だ! ついでに落とした果実は俺がいただきだ!」
 もう既に目的が摩り替わっていたウィルネストが、隠し持っていた栗のイガに炎を纏わせて投げ付ける。それはまるで手榴弾のように詩穂の近くで爆散し、無数のトゲを詩穂へ刺さらせる結果となる。
「へっへっへぇ〜……痛いだろぉ? 俺に服従を誓えば、抜いてやらんこともないぞ」
「あっ、痛いです〜、嫌、そんなところ、早く抜いてっ」
 もはや別のキャラに成り果てた感のあるウィルネストが、奪い取った果実を手に、もう片方の手をにぎにぎとしながら一歩ずつ詩穂に近付いていく。
「止めて、これ以上近付かないで! これ以上近付いたら……」
「近付いたらぁ? 近付いたら何するって言うんだ、オイ」
 すっかり調子に乗ったウィルネストが、止まらずに次の一歩を踏み出す――。

「詩穂、あなたを狩ることになっちゃいますよ☆」

 呟いた詩穂の姿が、突如消える。
「なっ!? ど、どこ行きやがった――」
 慌てふためくウィルネストの背後から、とても先程までの可愛らしい声とはかけ離れた、恐怖を呼び起こす声が響く。
「狩リノ、時間ダ」
 油の切れた機械のように首を振り向けたウィルネストは、何もなかったはずの眼前にテレポートしてくる者を、大鎌を振りかざした詩穂の姿を目撃する――。

 その後、ウィルネストを探しに来たイルミンスールの生徒が見たものは、葡萄の木にあやわ首吊りの勢いで吊り下げられていたウィルネストの無残な姿であった。
「果物の独り占めはダメですよ♪」

「そういえばこれ、収穫した後にお裾分け貰えるのか? ちょっと期待なのだわ♪」
 落ちている栗拾いに執心していた九条院 京(くじょういん・みやこ)の呟きに、林檎の収獲に着手していた御凪 真人(みなぎ・まこと)が答える。
「全くない、というわけではないと思いますよ。そうですね、もし持ち帰れるのでしたら、栗は栗ご飯などいいですね。林檎は、酸味が強ければアップルパイに利用するのがいいでしょうか」
「おお、料理できるのか!? いいなー、食べてみたいなー」
「もしかしたら、収獲した実を使って料理をしようとしている人がいるかもしれませんね。いるなら声を掛け合って、収穫後に料理を振る舞えるようにしてみましょうか」
「本当か!? ふふふ、楽しみなのだわ♪」
 会話の弾む京と真人を、少し離れたところからセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)文月 唯(ふみづき・ゆい)が見守っていた。
(ふん、何よ……「君は何もするな」って言っといて、ちゃっかり他の女の子と仲良くなっちゃって! サイテー、もう知らないっ!)
 探検家の服装に身を包み、木の上で収獲を行っていたセルファが、うっぷんを晴らすかのように木の枝を蹴りつける。
「おっとととぉ!? だ、誰ですか、木を揺らすのは、止めてくださいっ」
 ちょうどその先で収獲をしていた唯が、危うく枝から落ちそうになり、必死にしがみついている。
「おー? なんかあそこの木、ゆさゆさと揺れてるのだ」
「木に乱暴な真似をするのは感心しませんね。誰ですか、そんな真似は止めて降りてきなさい」
(なっ!? 私だって気づいてないなんて、真人のバカ、バカバカバカー!)
 セルファが、近くに成っていた林檎をもぎ取り、真人に向かって投げ付ける。やがてそれは、まるで木が林檎という弾丸を発射しているかのような勢いで投射される。
「うわ、うわわ!? なんなのだわ!?」
「くっ、これほど言っても聞かないとは……仕方ないですね」
 京をかばうようにして立った真人が、威力を制限しての魔法の詠唱を開始する。
「だ、ダメです、これ以上揺らされたら、力が……うわっ!」
「えっ!? ちょ、きゃーっ!」
 揺れに耐え切れずに、唯が枝から振り落とされる。一際大きく揺れた枝が、セルファの足場をも揺らし、その揺れにバランスを崩したセルファも木から滑り落ちるように地面に転がる。
「唯!? そこで一体何をしてるのだわ?」
「セルファ、この騒ぎは君だったのか」
 京に手を貸してもらいながら立ち上がる唯の横で、お尻をさすっていたセルファが近寄ってきた真人に冷たく接する。
「何よ、私を放って自分だけいい思いしちゃってさ。おまけに私のこと気づかないって、どういうことよ!」
「すみません、まさかセルファだとは思ってもみなかったんです。セルファがこんなことをするなんて思いもしませんでしたから」
 そっぽを向いていたセルファが、真人の言葉に視線だけ向けて答える。
「……そ、そう。それはつまり、私のことを信頼してくれている、って取っていいのかしら?」
「ええ、もちろんです。さあ、いつまでもそうしていては汚れてしまいます」
 微笑んで手を差し出す真人の、その手を恐る恐るセルファが取って立ち上がる。
「唯ー、京は栗拾い飽きたのだわ。林檎が取りたいから京を肩車するのだわ」
「はいはい、分かったよ。……ま、何はともあれ結果オーライ、だな」
「? 何がなのだ?」
「こっちの話さ。さーて、いっぱい採ろうな!」
「うむ、京に任せるのだわ!」
 京と唯が林檎狩りに興じる隣で、真人とセルファが並んで栗拾いに精を出していた。

「……カンナ、あっち行けですぅ」
「嫌なら好きにすればいいじゃない。あなたお得意のテレポートとやらで」
「む〜、どこまでも気に好かないヤツですぅ」
 ぶつぶつと文句を言いながらエリザベートが落ちている栗を拾い、どこか余裕の微笑みを浮かべながら環菜が木に成っていた柿を籠に収めていく。
「……えっと、どうしてこうなったのかしら?」
 下手すれば一触即発の状況の中、十六夜 泡(いざよい・うたかた)が二人の校長を見守る者たちに声をかける。
「あれはじゃの、ミーミルが「みんな仲良くすれば、もうお母さんが攫われることもないです!」と言い出して、エリザベートと環菜をペアに仕立て上げたのだの。まあ、面白そうじゃから、このまま見守ることにしたのじゃ」
「いがみ合っているよりは、互いに手を取り合った方がこの先、環菜のためでもあると思いましたから」
 アーデルハイトとルミーナは、特に手を貸すこともなく静観を決め込んだようである。ミーミルはというと、エリザベートと環菜、二人の間を行き来しながら会話の糸口を探しているようだが、あの二人ではそうそううまくはいかないだろう。
「……まあ、これだけの人が見てるんだ、そうそう問題を起こすような真似はしないと思うけど……もし何かあったら止めに行こうね、リィム。それまでは収獲のお手伝いだ」
 泡の言葉に、胸ポケットに収まっていたリィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)がこくりと頷く。普通に手の届くところは泡が、少し高い所に成っている果実は、空を飛んだリィムの小さな火術で切り落とされ、見事泡の手に収まる。
(口ではああ言ってるけど、何かにつけて遊んでるよね、あの二人。本当、仲いいよね〜)
 泡とリィムが収獲作業を続けるその隣では、ラーフィン・エリッド(らーふぃん・えりっど)がのんびりと収獲作業を行っていた。
(……それにしても、何でボクが傍にいると、ヴィオレッテちゃん怒るんだろ? ……まあいいよねー。仲良しさんな二人を見てるの楽しいし♪ そうだ、後で何かお菓子でも作ってあげよっかなー。何がいいかなー、何が作れるかなー。後でお菓子作っていいか、聞いてみよっと!)
 そう言って微笑むラーフィン、片方はともかく、もう片方のエリザベートと環菜を仲良しさんと見ることができるのは、おそらくラーフィンとミーミルくらいであろう。
「ドン兄さん、向こう行っちゃやーだからね? 何起こるか分からなくて怖いから!」
「くぇー」(言われずとも分かっているさ。俺も騒ぎに巻き込まれるのは、御免だからな)
 そしてもう一方の仲良しさん、ドン・カイザー(どん・かいざー)ヴィオレッテ・クァドラム(う゛ぃおれって・くぁどらむ)は、ドンが肩車しながら、ヴィオレッテが木に成っている果実を集め、ドンの背中に背負った籠に収めていく。ドンも、下に落ちている栗を拾っては籠に収めていく。
「あ、あとラーフィンは来てないよね? 来たらすぐに教えてね!」
「くぇー」(……しかし何故にラーフィンを避けるのだ?)
 目だけで言いたいことを伝えるドンに、その言いたいことが分かったのか、ヴィオレッテが言いにくそうに小声で呟く。
「だって……見えちゃうから……中……」
「くぇー」(なるほど、そういうことか。年頃の女の子の恥じらい、か)
「そ、そんなんじゃないよ! もー、ドン兄さん余計なこと言わないで! とにかく、ラーフィン来たら教えて! あと、ぜぇぇったい、ものすごい音とか悲鳴が聞こえるようなところには近づかないで!」
「くぇー」(そのつもりだよ、ヴィオレッテ。俺とて、こんな危ない場所をヴィオレッテに歩かせたりしないさ)
 懇願するヴィオレッテに、ドンが渋く鳴いて答える。
「カンナ、それは私が先に目を付けたんですぅ。あなたはお呼びでないですぅ」
「あなたも意地が悪いわね。そんなんだから目つきが怖いって言われるのよ」
「な! ……あなただって、お凸とかデ校長とか囁かれてると聞いたですぅ。私には到底無縁な話ですぅ」
「……そんなに長いと、大抵枝毛になってるものよ」
「あわわわわ、お母さんも環菜さんも、仲良くしてくださーいっ!」
 互いに罵倒し合う二人の間で、ミーミルの悲痛な叫びが木霊する――。