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伝説のメイド服を探せ!

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伝説のメイド服を探せ!

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とも、パニック
「何度言われても、教えないってば!」
 捕獲したピクシーから、奥の扉を開ける方法を聞き出そうとする一行。
 だが、頑固なピクシーは決して喋ろうとはしなかった。
 説得に時間をかけているうちに、様子を見に来たことのはのチームや、回復役のみりチームも合流した。
 かなりの人数に囲まれているのだが、それでもピクシーは喋ろうとしなかった。
「ちょっと休憩……。さすがに疲れちゃった……」
 先の戦闘で疲れてしまったのか、ともが床にへたり込んだ。
「ともちゃん! 大丈夫?」
 すかさず騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がともを助け起こした。
「ちょっとがんばりすぎちゃったみたいだね」
「つ、疲れちゃった……」
 ふらついているとも。
「ちょっと回復させますので、3秒ほど目をつぶっていて」
 ともは、言われたとおりに目を閉じた。
「こういうときは……アリスキッス!」
 ふにょ。
「んんん?」
 ともは、柔らかい感覚に、思わず目を開けた。
「ともちゃんのほっぺた、あったかいよぉ……」
「お、おおおおお嬢様!」
「動いたらだめぇ。これ、アリスキッス。元気になるよぉ」
「ででで、でも……」
「ずるーーーーい!」
 その様子を見ていたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、ともに飛びついた。
「あたしもアリスキッスしてあげる!」
「ええええええ?」
 ともが焦っているうちに、ミルディアはともの額にアリスキッスをした!
「ひゃああぁぁ……」
「ともちゃん、元気になぁれ」
「なに、わしのアリスキッスも欲しいとな?」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)も、ともに近付いて言った。
「んふ、愛らしいメイドさんじゃの。個人的に雇いたいくらいじゃ」
 そう言いながら、ともの右手の甲にアリスキッス。
「あわわわ、お嬢様ぁ」
「わしのことはご主人様と呼ぶのじゃ」
「ご、ご主人様! は、恥ずかしいのでおやめ下さいご主人様!」
「聞こえぬなぁ」
「か弱いメイドさんが、このようなところまで無理をなさったのです。自分も元気をおわけしましょう」
 ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)はあくまで紳士的に、額にアリスキッス。
「ひゃああぁぁぁぁぁ……ご、ご主人様ぁ」
「こっちの手は俺が引き受けたぜ!」
 いつの間にかウィルネストも、左手の甲にアリスキッスをしていた。
「逆になんだかくらくらしますですぅ……」
 ともは違った意味で、ふらっふらになっていた。
 冒険の最中、何らかの理由でともがふらふらになる。
 このタイミングを待っていた者がいた……。
「ヒャッハー! ここは通さねぇぜっ!」
 ゴブリンの集団と共に南 鮪(みなみ・まぐろ)が現れた!
「えと……何事でしょう?」
「へっへっへ。おまえ、一子相伝の七つ星拳法の使い手なんだってなぁ?」
 じりじりと、ともの方に寄ってくる。
「ぜひ、一度お手合わせを願いたいもんだと思ってねぇ。へっへっへ」
「あの……このゴブリンさんたちは……」
「こいつらみぃんな、メイドカフェに行って、オムライスにお名前書いて欲しいんだとよぉ」
 ネタをバラすと実際そうではなく、事前に鮪が「メイドの姉ちゃんとお近づきになれば、うまいメシが食えるカフェに通い放題」だとふれ込み、連れてきたのだった。
「というわけだから覚悟しなぁ!」
 鮪が今まさに、ともに襲いかかろうとしたその時!
 ドスッ!
「意味わかんないんだけど! ともちゃんから離れてよ!」
 一瞬、奥に秘めたドSの表情になった詩穂の蹴りがみぞおちに炸裂!
「ぐほぁっ!」
 鮪は思わず両膝をついた。そこへ!
「邪魔者排除! 全速全開!」
 バシッ!
 ミルディアの蹴りが、今度はあごに入った。
「あべしぃ!」
 反動で立ち上がる鮪。
「わしは女の子の敵には容赦せんのじゃよ」
 ファタが、本気にサンダーブラストを放った!
「ひでぶぅ!」
 鮪の身体から煙が!
「ともさんを守るのが自分の役目!」
 ユウがランスを鮪の頭めがけて振り下ろした。
「どぐぁ!」
「準備は整ったよ!」
 詩穂は、呆然と見守っていたともの腕を引っ張って、鮪の前に連れて行った。
「え、え?」
「大丈夫。ふらっふらにしておいたから!」
 詩穂のウインク。
「あとは七つ星拳法で決めちゃうだけ!」
 と、ミルディア。
「遠慮はいらぬ。一番ヤバイ秘孔を突いてやるがよい」
 ファタがにや〜りと笑った。
「自分はともさんのすることを見守るだけです」
 ユウが一歩下がりながら言った。
「で……では、いきます!」
 ともがかまえる。
「あーたたたたたたたた!」
 ぺちぺちぺちぺちぺち!
「ひゃくれつけーーーーん!」
 ともは両目を固く閉じて、ただひたすらに拳を突き出した。
 目を閉じているから、当然周りを見ることが出来ない。
 だからともは、詩穂、ミルディア。ファタ、ユウが声を出さず、音もなく、鮪に数発喰らわせていることを知らなかった。
「ほあたぁ!」
 とも、渾身の一撃が決まる!
「う、うわらば……」
 何かよく分からない叫び声を上げて、鮪は地面に突っ伏した。
 しばらく倒れていたが、やがて起き上がり、仲間になりたそうにとものことを見ている。
「……」
「ここから先は危険だぜ? な、一人でも連れて行った方が……」
「どうするのじゃ、これ」
 ファタが、タタキのようになった鮪を、ロッドの先でつついている。
「……手当をしてあげてください」
 はあっと息を吐き出しながら、ともは言った。
「お優しいですね。騎士としてあなたを守るつもりで来ましたが、あなたこそまことの騎士なのかもしれません」
 ユウはにっこり笑顔でともを見つめた。
「ご一緒できて光栄です」
「……なんだか照れます」
 ともは、恥ずかしそうにうつむいた。
「ともちゃんがああ言っていますし……お手数ですけどスターシークスお嬢様、手当してあげてくださいますか?」
 みりが本当に申し訳なさそうにスターシークス・アルヴィン(すたぁしぃくす・あるう゛ぃん)にお願いした。
「みりちゃんとともちゃんが言うなら……まあやるけど……」
 ちらりと鮪を見て、一度肩をすくめた。
「怪我人は怪我人、か」
 スターシークスは鮪の側に立ち、言った。
「もう分かったであろうけど、ここにいる全員、あんたがメイドさんに指一本触れることを許さないのだよ」
「うう……まいったぜぇ」
「あんたは一子相伝の七つ星拳法と戦いたかったのであろう? 七つ星拳法の正体は、こうして周りが何故か助けてしまう究極の拳のことなのかもしれないな……」
 自分で言い、一人納得するスターシークス。
「ヒャッハー……。とりあえず早く……治してくれえぇ……」
「分かったから動かずにいるがいい。メイドさんを回復するために同行したのに、あんたの回復役になったこちらの気持ちも察して欲しいものだよ」
 余談だが、鮪が連れてきたゴブリンたちは、鮪の「メイドさんとお近づきになれば……」という言葉を忠実に守り、ともやみりの友達になっていた。

「あなたたち……おもしろすぎるわ!」
 鮪と一行とのやりとりを見物していたピクシーは、腹を抱えて笑っていた!
「いやー、こんなにおもしろい人たちだとは思わなかったぁ。え、扉の開け方? 教えちゃう教えちゃう! いいもの見せてくれたからサービスサービス!」

最後の扉
 石の扉の前に、ことのは、ゆずき、みり、ともの4人が並んで立っていた。
「ここに刻まれているのは模様じゃなくて、ある言葉なの」
 すっかり友達になったピクシーが説明する。
「これはね、5000年前シャンバラ女王に仕えていた侍女が残した言葉なの」
「どんなことが書かれているのですか?」
「メイドさんがご主人様やお客様を最も喜ばせる、究極の言葉」
「究極の言葉……ですか」
「この言葉を、メイドとしての道を歩んでいる者が心を込めて読み上げれば、この扉は開くんだよ」
 トントンっと、石の扉を手で叩きながら、ピクシーは言った。
「その言葉はね……」
 こしょこしょっと、4人のメイドに耳打ちをする。
「……わかりましたわ」
「声を揃えて、言ってみましょう」
 4人は、呼吸を整えた。
 5000年前シャンバラ女王に仕えた、現在のメイドの原点ともいうべき侍女が残した、メイドとしての究極の言葉。それは……。

『い、いけませんわ……ご主人様ぁ!』

 ズズズズズズ……。
 重く冷たい石の扉は、ゆっくりと確実に開いていった。