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【2019体育祭】目指せ執事の星! 最高のおもてなしを!

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【2019体育祭】目指せ執事の星! 最高のおもてなしを!

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最強の執事様?

 エルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)はエメラルドを思わせる緑色の瞳を向け、舎弟であるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に言い放った。
「ジェイダス校長との記念写真が欲しいわ。用意して頂戴」
「畏まりました、エルサーラさま」
 エースは身体を折って挨拶し、彼女の胸元に、すっとある物を刺した。
「……これは?」
 真紅の薔薇が一輪。
 それがエースがエルサーラの胸元に刺したもの。
「とてもよくお似合いです。今日一日のご挨拶としてお受け取りください」
 にっこりと微笑むエースだったが、エルサーラの願いはすぐには叶えられなかった。
 肝心のジェイダス校長がいなかったのだ。
「何か用があるからっていなくなっちゃったって、百合園の校長先生が言ってたんだけど……」
 様子を見に行ったクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)ペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)がそうエースに報告し、エースはエルサーラに頭を下げた。
「エルサーラさま、しばしお待ちいただけますでしょうか?」
「仕方ないわね」
 エルサーラは心の中で心配しつつ、大きな態度で用意されたお茶を飲み、待つことにした。


 エルサーラが写真を撮りたいと願っていたジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)は意外な形で会場に現れた。
「え……ええっ!?」
 モディーラ・スウィーハルツ(もでぃーら・すうぃーはるつ)は執事服姿で現れたジェイダスにビックリして、銀色の細い瞳を見開いた。
「どうかなさいましたか、お嬢様」
「え、ええと……なんで、ジェイダス校長が……」
「執事の数が合わぬのはこちらの不手際。ならば、私自らがお相手するのが筋だろう」
「そ、そう……」
 モディーラは怯みながらも、ジェイダスが用意した高価そうな椅子に座り、お嬢様をやることにした。
「ま、まあ、ジェイダス校長であろうと今日は執事。こんな体育祭の競技、馬鹿馬鹿しいとは思いますけれど、百合園生としてやれというのですから、やらせていただきますわ」
「はい、本日は執事でございますゆえ、どうぞ、ご希望をおっしゃってください」
 ジェイダスとは思えない言葉遣いに緊張しながら、モディーラは負けないようにジェイダスを見つめた。
「私の執事をやるならば、年収もお屋敷もそれなりでないと……」
「年収? 屋敷?」
 その言葉にジェイダスはモディーラに回答を耳打ちする。
「…………」
 モディーラの表情が一変し、それからコホンと気を取り直すように、モディーラは咳払いをした。
「そ、それではお茶でも……」
「畏まりました、お嬢様」
 ジェイダスはモディーラに紅茶を入れ、一礼した。
「どうぞごゆっくり、お嬢様」


 神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)はモディーラの後だったため、少し余裕を持って、ジェイダスに対応できた。
「一定の時間、尽くしてください」
 エレンの希望はそれだけだった。
 他のお嬢様たちと違い、何も言わない。
 ただ、ニコニコ微笑んでジェイダスを見ているだけだった。
「かしこまりました。どうぞ、お嬢様」
 ジェイダスはエレンのために椅子を用意し、足元に電気ストーブを用意して、さらに彼女の足の上にひざ掛けを用意した。
「さ、どうぞ。足元を暖めるのが一番ですので」
 こくりと頷き、エレンはひざ掛けをかけてもらう。
 さらにジェイダスはエレンの肩にショールをかけてあげ、テーブルが用意され、そこに花が飾られ、紅茶が用意された。
「……」
「お砂糖ですね、少々お待ちを」
 ジェイダスはエレンの表情を読み取り、紅茶に砂糖を入れていく。
 そんな感じで、エレンは一言も喋らないまま、競技は続き、しばらくもてなされた後、エレンは笑顔を見せた。
「素晴らしい執事さんでしたわ。ありがとうございます」
「お褒め頂き光栄です」
 エレンは自分の制服につけた黒百合を取り、ジェイダスに渡した。
「今日のお礼に貴方に」
 その黒百合をジェイダスは大事そうに受け取るのだった。
 
 
 自分の番が回ってきて、リアクライス・フェリシティ(りあくらいす・ふぇりしてぃ)はオロオロした。
「ステフ……あとで覚えていなさいよ……」
 涙目になりながら、リアクライスは用意された机と椅子に突っ伏す。
 パートナーにハメられての参加とはいえ、せめて薔薇の学舎の生徒とか、他校生とかと友達になれたらいいかな〜とか思っていたのだけど……。
「なんで執事がジェイダス校長なのー…………」
 恋人のいない執事さんとかと巡り合えたら……というリアクライスの淡い期待はあっさりと裏切られ、ジェイダスに接待されると言う事態になってしまった。
「お嬢様、しかし……」
「は、はい、なんでしょう?」
 ジェイダスに声をかけられ、声を上ずらせながら、リアクライスが返事をする。
 そんな彼女を見つめながら、ジェイダスは小さな笑みを浮かべ、彼女に言った。
「大会の受付係によると、『ジェイダス校長のあのもふもふに触ってみたいです』とおっしゃったとのことで……」
「そ、そ、そうですが、そうですが……」
 パニックになって、リアクライスが謝罪した。
「ごめんなさい、ごめんなさい。ワガママって何言えばいいか分からなくて、困っちゃって、思わず言っただけで、失礼なことをしようと思ったわけじゃないんです」
 許しを請うリアクライスに、ジェイダスがあるものを差し出した。
「どうぞ、お嬢様」
 それはリアクライスが『モフモフ』と表現した、ジェイダスの背後にいつもある赤いあれだった。
「あ、あ、あ…………ありがとうございます」
 リアクライスはどうすればいいのか分からなかったが、断るのも失礼と思い、差し出されたそれを触った。
 本人はパニックになっていて、何がなにやら分からなかったのだが、ジェイダスに憧れる皇祁 黎(すめらぎ・れい)などの薔薇学生は、ジェイダスのふさふさを触ることができて、ちょっとリアクライスを羨ましそうに見るのだった。

 
 筑摩 彩(ちくま・いろどり)はパートナーのイグテシア・ミュドリャゼンカ(いぐてしあ・みゅどりゃぜんか)がいるせいか、もう少し気楽だった。
「いっぱいお買い物したいから、手伝ってほしいの!」
 彩のお願いは普通のお願いではあったが、競技場の外に出ると言う、体育祭の枠を超えたワガママだったため、大会を裏側から支える藍澤 黎(あいざわ・れい)たちは、ジェイダスの護衛をするため、慌てて武器を手にして付いていくという事態になった。
「クライスがいてくれれば楽だったのに……」
 黎は今日の体育祭に来られなかったライバルのことを思いながら、買い物についていった。
 彩の行き先は大型手芸専門店・コザワヤ。
「手芸道具ならば、重くないのではないですか?」
 ジェイダスに代わり、黎が尋ねると、彩は指を小さく振った。
「重いからだけじゃないよー。お店が広いから、探すのが大変なの」
 彩はお手製のぬいぐるみバッグの中から、メモを取り出し、ジェイダスたちに見せた。
 そこには見たこともないマイナーな手芸道具や材料の名前などが書いてあり、見た人たちは面を食らった。
「動眼(黒)……目が動く?」
「ぬいぐるみさん用だよ!」
 もうそれ一つからして、名前から実際のものが想像つかない。
 しかし、十数分後。
 ジェイダスはすべてを用意した。
「こちらでよろしいでしょうか、お嬢様」
「うん! じゃ、お会計よろしくね」
「かしこまりました」
 彩のお願いに頷き、ジェイダスが会計に行く。
「後で払うなら、今払ってもらわなくてもいいでしょうに」
 ジェイダスにちょうど良い温度のコーヒーを提供されたイグテシアは、そうパートナーにつっこんだ。
 缶コーヒーでも用意してもらおうと思ったイグテシアだったが、執事であるジェイダスはそれを超え、わざわざちゃんとしたコーヒーを用意した。
 なので、触れても熱すぎずと言うコーヒーが出たので、イグテシアはそれを満足して飲んでいた。
「執事さんとお嬢様の競技だし! あ、せっかくだからジェイダス様人形作って後でお渡ししよう」
 彩はお会計が済む間にぬいぐるみの作成を始めるのだった。


 ジェイダスが戻ると、エースはジェイダスに事情を話し、写真を撮ってもらえることになった。
「美の記録として、また思い出として、形あるものとして残したいのです」
 そのエースの言葉とお嬢様の我が儘ということで受け入れ、ジェイダスは承諾した。
 エースは準備をしつつ、あまりうれしくなさそうな顔をしているラドゥに気づき、彼にも提案した。
「ラドゥさまも、素敵な思い出を形に残しませんか、校長と一緒に」
「ふむ……」
「大切な方との想い出の一枚というのも良いものかと」
「だ、誰が大切な方だ!」
 ラドゥは不満そうに言ったが、それでも撮らないとは言わなかった。
「これがツンデレかー……」
 クマラが最近覚えた言葉を、誰にも聞こえないように、ポツリと口に中で言った。
 そして、もう1人のツンデレであるエルサーラのために、クマラがレフ板を持ったり、写真が趣味のペシェが光の当たり方を考えた撮影位置などを決めたりしていく。
 準備が整った後、紅茶を飲んで休んでいたエルサーラが呼ばれ、エルサーラは完璧な歩き方で優雅に滑らかにジェイダスたちのところに行った。
「私の申し出をお受け下さり、心からお礼申し上げます」
 エルサーラは綺麗な姿勢で礼をし、ジェイダスたちの傍に立った。
 白いドレスを身に纏ったエルサーラは美しく、ジェイダスたちの傍に立っても、見劣りしなかった。
(ちゃんと、お近づきのチャンス作れたのかしら)
 そんなことを心配するエルサーラは、どこか昔の、人に裏切られる事を知らなかった頃の彼女のような表情になっていた。
「それじゃ撮りますよー」
 ペシェに三脚の設置をしてもらい、露出、シャッター速度、構図の確認と指示をしてもらったエースが、シャッターを押す。
 エルサーラとジェイダス、ラドゥとジェイダスで撮影をし、エースがお礼を言う。
「ありがとうございました、ジェイダス校長、ラドゥさま」
 しかし、撮影はそこで終わらなかった。
 クマラがジェイダスたちにこうお願いしたのだ。
「せっかくの記念っていうなら、エースとも撮ってあげて欲しいな」
「こら、クマラ……」
 エースが嗜めようとしたが、ジェイダスは少し考え、エルサーラの方を見た。
「それもお嬢様のお望みと考えていいのかな?」
 その問いかけに、エルサーラは迷った後に頷いた。
「はい」
「よろしい。お嬢様の希望とあればかなえよう」
 ジェイダスは申し出を受け、クマラがエースとジェイダスの写真を撮った。
「ありがとうございました。全競技終了後に、皆様の集合写真を撮らせていただきますね」
「先生たちの写真は、後日引き伸ばして、額に入れてお贈りしますね」
 ペシェのその言葉通り、後日、体育祭の様子を記録した写真も含めて、両校に写真が進呈されることとなる。
 写真を撮り終え、ジェイダスとラドゥが戻ると、エースはエルサーラにお礼を言った。
「今日はありがとうございました」
「アンタの為じゃないわ。淑女が出来ないとか思われたくないだけよ」
 ぷいっと横を向くエルサーラに、エースは可愛くラッピングされた向日葵の種を手渡した。
「私は貴女の執事です。お困りの時はいつでも駆けつけます」
「……なによ、それ」
 考えた挙句、口から出た言葉がそれで、エルサーラはちょっと自分が嫌になった。
 しかし、贈られたものを返そうとはしないエルサーラを見て、エースは小さく微笑むのだった。