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第三回ジェイダス杯

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第三回ジェイダス杯

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「ほう…良い獲物がいるじゃねぇか」
 一昔前に不良達が愛したカマキリハンドルの自転車に乗った吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は、見るからに何か企んでいそうな邪悪な笑みを浮かべた。
 彼の視線の先には、自転車から降りて葡萄を採取しているナナ・ノルデン(なな・のるでん)の姿があった。
 光学迷彩で姿を消した竜司は、密かに近づくと、無理矢理ナナの自転車のサドルを引き抜いた。
「これでコイツらの足止め完了だ」
 タイヤをパンクさせないのは、竜司にも僅かに残っていた良心によるものだ。
 気がつかれないうちに引き抜いたサドルをポイッと捨てると、竜司はサッサとその場を後にする。
 しかし、自覚はなかったとはいえ、ナナのパートナーである独眼猫 マサムネ(どくがんねこ・まさむね)が、シャンバラ教導団のチューリップことトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)をひき逃げしていたという事実を竜司は知らなかった。
 ちなみに竜司は何かと規律に煩いシャンバラ教導団と、美こそ正義と考える薔薇の学舎が大嫌いである。自ら敵と見なす相手の仇をとってしまったという事実に、彼が地団駄を踏んだのは後の話だ。



「糞ッ、作戦失敗だ!」
 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は苦虫を噛みつぶしたような顔で自転車を疾走させていた。
 ナガンは効率よく果物を回収するために、パートナー達にそれぞれ異なる場所に向かわせる作戦をとった。しかし、よりによって自分が向かった先が2カ所とも悉くハズレ。最後の望みを託して最後の一カ所に向かっているのだが。
 どうやらそちらも先客がいたようだ。
「お先なので〜す!」
 安定性に優れたBMX仕様の自転車にまたがった蒼空学園の桐生 ひな(きりゅう・ひな)が、すれ違いざまに声をかけていった。
 ひなの背中のバックパックには林檎がたっぷりと入っている。
 追いかけていって奪ってやろうと思ったが、ナガンよりもひなの方が足が速いようだ。無駄な努力をするよりも、さっさと目的地に向かって回収した方が、まだ早い。
 またしてもジェイダス杯優勝の夢が敗れたことを自覚しつつも、ひなに遅れること数秒、林檎を回収したナガンは一路ゴール地点へと向かったのだった。



 シャンバラ教導団の金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は、見事になった栗の枝の前で足を止めた。
 栗は背伸びしても届かない位置になっている。健勝はパートナーであるレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)を肩車しようとしゃがみ込む。
「僕の肩に乗ってください、レジーナ」
 促されたレジーナはむっつりと押し黙ったまま健勝の肩に手を掛けた。
 実はレジーナ、健勝が一週間をかけて自転車のチューンアップをすると聞いて期待していたのだが、蓋を開けたら迷彩塗装が施されただけだった…という事実に腹を立てていたのだ。
 そんな暇があったら、サスペンションのひとつでも付けておいてくれれば良いのに…本当に勝つ気があるのかどうか怪しいものだ。
 その上、最初に採りに行った果実はハズレだった。こんなことでは優勝など夢のまた夢である。それでも今度こそは…と願いつつ、レジーナは健勝の肩に乗っかった。
 健勝の肩にレジーナの体重がかかった瞬間、彼がぼそりと呟いた。
「あれ?…レジーナ、意外と重い…」
 もちろんこれは女性に対して絶対に言ってはいけない一言である。
 すかさず報復のエルボースタンプを決めたレジーナは、満面の笑顔を浮かべて健勝に謝った。
「ごめんなさい、バランスが上手くとれなくって」
 これはどう考えても、乙女の秘密をむやみに暴いた健勝が悪いと言えるだろう。