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ラスボスはメイドさん!?

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ラスボスはメイドさん!?

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モンスターたちの努力
 まゆみたちがいる所よりも、少し奥。
 ここでは、次の仕掛けを担当するメンバーたちが、準備と打ち合わせを入念に行っていた。
 今回は『冒険ごっこ』とはいえ、全員真剣だ。まゆみに怪我をさせず、なおかつ冒険のスリルを体感させてあげようと、一生懸命準備を行っている。
「その木刀はちょっと鋭すぎです。丸めておいてください!」
 モンスター役の見回りをし、やりすぎのないよう指導をしているのは安芸宮 和輝(あきみや・かずき)だ。
「あ、あとそこちょっと暗いから、攻撃のフリしてさりげなく足元照らしてあげる感じで」
 指示を出している和輝自身も、モンスターとしての出演に備え、長い耳と長い鼻を装着している。
「和輝様、お疲れ様! このあたりの準備はいいですか?」
 犬神役のともが、和輝に声をかけた。
「もう最終チェックの段階です。こちらは心配いりませんよ!」
 和輝が受け持ったエリアでは、既に台本の最終読み合わせや衣装スタンバイは完了しており、最終の安全確認を残すのみとなっていた。

「みりちゃんさん……じゃなくて、みりちゃん」
 衣装を準備していた待田 イングヒルト(まちだ・いんぐひると)が、不安そうにみりに声をかけた。
「どうしたんですか?」
「私、ちゃんとモンスターに見えますよねっ?」
 イングヒルトはボロボロの服を着て、フランケンシュタイン風のモンスターに化けている。
「うーん……。ここにもうちょっと傷跡なんかがあった方がそれっぽいですよ」
 かきかき。みりは油性ペンを取り出し、イングヒルトの顔にいくつか傷跡を書き込んだ。
「よしっ。カンペキです!」

「おーい。ちょっとハシゴおさえてて〜」
 洞窟の天上付近に仕掛けを施しているのはプレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)
 何かを、念入りにヒモで結んでいるようだ。
「大丈夫ですよ! ちゃんとおさえてますから!」
 みりが走ってきて、ハシゴをしっかりと握りしめた。
「これで、楽しんでもらえるといいんだけどねぇ」
 イタズラの準備をするプレナは、楽しそうに顔を輝かせていた。
「ここの準備はこれで完了〜」
 よいしょっと、プレナはハシゴから降りてきた。
「みりちゃん、少し休憩しましょ〜」
 プレナは保温ができる水筒といくつかの紙コップを取り出し、あたたかいココアをいれた。
「あ、いい香り〜! いただきますっ! 皆さんも少し休んでくださぁい!」
 みりは、周囲に声をかけた。
「ココア、欲しいな!」
 がちゃ、がちゃ。金属的な足音をさせながら、朝野 未沙(あさの・みさ)がココアをもらいにやって来た。
 自身のファクトリーから持ってきた鉄板を体中につけている未沙は、歩くのも大変そうだ。
「ココア……ココア!」
「カッコイイですわね、『さまよう鉄板』。でもまだ時間はありますから、兜だけでも脱いで、ココアを召し上がってください」
 みりが、モンスター『さまよう鉄板』役の、未沙の兜を脱がせた。
「どうぞ、ココアです〜」
 プレナがココアが入った紙コップを未沙にそっと持たせた。
「わぁい、いただきます!」
 ぎぎっと腕を持ち上げて、未沙はプレナのココアを美味しそうに飲んだ。

 罠の仕掛けや着替えなどを済ませ、しばしの休息。
 モンスターやライバル役のメンバーは、お茶やお菓子を食べながら談笑していた。
「……きた! まゆみちゃんたちだ!」
 見張り役が知らせに走ってきた!
「それじゃあみなさん。よろしくお願いします!」
 ともの声に、全員が力強くうなずいた。

 カツン、カツン、カツン。
 まゆみを先頭に、勇者チームが歩いてきた。
「もう洞窟の真ん中は過ぎたはずですけど……」
 まゆみは、地図を見てうなっている。人質になった娘が連れ込まれたのは、やはり洞窟の最深部なのか……。まゆみは、必死に考えていた。
 地図にばかり気を取られていたまゆみは、足元も頭上も、気にすることを忘れてしまっていた。
「今ですっ!」
 フランケン・イングヒルトが、勢いよくヒモを引っ張る!
 どさどさどさっ! ぽむぽむっ!
「きゃああ! わ、罠っ!」
 まゆみの頭上から、やわらかいぬいぐるみが大量に降ってきた!
「ゆ、油断していましたわ……」
 ぬいぐるみに埋もれてしまったまゆみ。
「ええっと……セリフセリフ。こ、こうも見事に引っかかるとは……愚かなり、まゆみちゃんさん!」
 棒読みになっているが、イングヒルトは忘れずにきちんと台詞を言い切った。
「う、うかつでした……」
 まゆみは急いで、ぬいぐるみの山からはい出した。
「もう引っかかりませんよ。周囲に警戒して……」
 まゆみは周囲に目を走らせた。
「あ、ああっ! 見つけた!」
 なんと洞窟の天井に、大きな金だらいがくくりつけてあるのを発見した!
「真下を通ったらアレが落ちてくるのでしょう。そうはいきません!」
 まゆみは、たらいの下を避けて歩いた。
 ぴーーーんっ!
「わ、わ、わっ!」
 まゆみの足にヒモが引っかかる!
「えへへ。かかったぁ〜。タライはフェイクだよぉ」
 この罠を仕掛けたプレナが、ぴょこんと飛び出してガッツポーズをした!
 狡猾なモンスターらしく悪魔のしっぽをつけているが、飾りのはずのしっぽがぴんっと上向きに動いたようにも見えた。
 プレナも一応まゆみに怪我をさせないよう計算していて、ヒモは引っかかっても転ばないよう、すぐに切れるようになっていた。
 ちりんちりん!
「きゃ、な、何っ!」
 ヒモにどうやら鈴がつけてあったらしく、かわいらしい音が鳴り響く!
「ひゃああぁぁ!」
 そんな鈴の音でも、まゆみを驚かせるには充分だったようだ。びっくりしたまゆみは、足元がおぼつかず、ふらついた!
「とととと……」
 転びそうになったまゆみだが、誰かがすっと体を支えてくれたお陰で、転ばずに済んだ。
「さすがにここで転んだら、怪我をしてしまうでしょう」
 さりげなくまゆみを支えたのは橘 恭司(たちばな・きょうじ)だ。
「あ……今支えてくださったのは、恭司様ですか?」
 まゆみが恭司を振り返って尋ねた。
「お気になさらずに。さあ、まだ罠があるかもしれませんから気をつけて」
 恭司は明るい声でまゆみに言った。
「は、はいっ!」
 再び歩き出したまゆみの背中を見て、恭司はふっと微笑んだ。
「……ま、安全な罠しか残していませんけどね」
 誰にも聞こえないようにそうつぶやいた恭司。実は恭司、さっきまでまゆみの数歩先を歩き、シャレにならないほど危険な罠をいくつか破壊しておいたのだった。
 もちろん、まゆみに余計な心配をさせないため、見えないようにそっと作業をした。
「敵チームも、冒険を盛り上げようと力を入れすぎてしまったところがあるみたいですね。まあ、全部解除してしまっては面白くありませんから、あとはまゆみさんに楽しんでいただきましょう」
 もちろん恭司は、残りの罠がどこに設置されているのかも、把握していた。
「ほら、また足元……」
 恭司が、まゆみに聞こえないような小声で思わず声に出した。
「あ……」
 さすがに今度のヒモには、まゆみも気付いたようだった。
「ふふん。さすがに分かりますわ。これは引っかけないようにまたいで……っと」
 まゆみがヒモをまたいだその時!
 ぴーーーんっ!
「あ……しまった……」
 もう一本のヒモが足元に設置されていたのだ!
「今度は何が起こるの!?」
 まゆみは、頭を抱えて伏せた! だが……。
「……」
 何も起こらない。
「……ん? 何ともない……」
 罠の失敗か、転ばせるためのヒモだったのか。とにかく何も起こらなかったので、まゆみは安心して先へ進んでいった。

「あれぇ? 罠が発動しない?」
 鉄板を全身に身につけた未沙が、ギギギと音を立てながら首をかしげた。
「あのヒモを引っ張ったら……」
「大量の矢が飛んでくる仕掛けだったのでしょう?」
 いつの間にか鉄板未沙の横には、恭司が立っていた。
「え、ええ。よくご存じで」
 ぎぎ。未沙がうなずくと、鉄板の兜がきしむ。重たそうだ。
「あの罠はシャレになりませんよ。本物の矢が仕込んであったじゃないですか。さすがに破壊させてもらいました」
 恭司は、ため息をつきながら未沙にそう言った。
「あ、やっぱりダメ……。頑張って作ったんだけど……」
 ぎぎ。鉄板が少し下を向く。どうやら落ち込んだようだ。
「まゆみちゃんは一般人ですからね。本気の罠はいけませんよ。でも、ちょっと一生懸命になり過ぎちゃっただけですよね」
 恭司は未沙を責めず、にっこりと微笑みかけた。
「うん。楽しんで欲しかったんだもん……」
「だったら一緒に、まゆみさんの冒険を見守りましょう。安全に、楽しく終われるように」
 恭司は励ますように、未沙の肩を……といっても鉄板の角だが……ぽんっと叩いた。