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【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル

リアクション公開中!

【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル
【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル 【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル

リアクション



●序盤、まだいつも通りのバトルです

「あなたたちぃ、蒼空学園の生徒ごとき、軽くあしらってやりなさぁい!
 カンナのデコに敗北の二文字を刻んでやれですぅ!」


 まるで使役するかのように、無数の豆を宙に漂わせたエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の命令を受けて、イルミンスール魔法学校の生徒たちがフィールドを翔け、手にした大小の豆に魔法の力を付与して放つ。

「蒼空学園の生徒として相応しい行動を心がけなさい。
 エリザベート? いっそ豆の中に埋めてしまえばいいわ。
 どうせここが寝床のようなものだから、ぐっすり眠れるでしょう」


 対して御神楽 環菜(みかぐら・かんな)も自らの銃に豆を装填し、生徒たちに指示を飛ばす。科学の恩恵を受けた武器防具を駆使して、豆を防ぎそして飛ばす。

 世界樹イルミンスール内、魔法修練場で開催された『ハイブリッド豆撒き』は、本来の意味である『邪気を追い払い、一年の無病息災を願う』から大分外れているようないないような雰囲気の中、最初からクライマックスの展開を見せていた。

「おまえもその怪しげな装置を使っておるのか。私には未だにさっぱりじゃ」
 その、激闘が繰り広げられているフィールドの脇、今回はサッカーコートという設定故階段状になっている場所で、とりあえず日和見を決め込んでいるアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が、横で篭手型HCを操作しているリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)に話しかける。
「理系が蒼空だけだと思ったら大間違いなのだよ。使い方次第ではなかなかいけるのだよ」
「環菜さんが開発に携わっているのですから当然ですわ」
 アーデルハイトのところに来ていたルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)が、環菜の功績を称えるように頷く。
「この他にも最新の装備を与えられているクイーン・ヴァンガードが、注目されるのも分かる気がするのだよ」
「ふん、例え装置の力があろうとも、それを使用する者が優れているとは限らんじゃろうに。かりそめの命と違って人間じゃ、女王親衛隊だか何だか知らぬが、何やら思惑が飛び交っておるのではないかの?」
「それはお答えできかねますわ。そういうアーデルハイトさんも、他人事ではないでしょうに」
 視線を合わせたアーデルハイトとルミーナ、それぞれが意味深な表情を浮かべる。
「……私は魔女じゃからの。魔女は謀が好きなのじゃ♪」
 先にアーデルハイトが視線を逸らし、外見年齢相応の口調で話も逸らす。
「話を逸らしてるのがバレバレなのだよ」
「やかましいわ。どれ、私にもその怪しげな装置を見せてくれ」
 その後、渋るリリとアーデルハイトのやり取りが交わされるが、結局「私を誰だと思っておるのじゃ?」と権力の差で迫ったアーデルハイトに分があり、リリが浮かび上がるモニターにフィールドの様子を映し出す。
「はい、ナナ。これで頑張ってきてよね。ボクが運動苦手なのは知ってるでしょ?」
「ええ。では、手筈通りに頼みますね」
「リリから相手のディフェンスラインに関しての情報は随時送られている。私は先に行こう、それを参考にして付いてくるんだ」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)に加護の力をもらったナナ・ノルデン(なな・のるでん)が光学迷彩で姿を消し、リリから俯瞰情報をもらったララ サーズデイ(らら・さーずでい)が先行して相手陣地へと駆けていく。
「私のスピードに付いてこれるか!?」
 元々動きが速い上に、ディフェンスの死角を突いての移動であるが故に、ララへの攻撃は散発的なものに過ぎなかった。
「おっ、イルミンのヤツらか!? ……っと、女の子か。俺、女の子には豆はぶつけられないなあ。カンナ様ゴメン、悪ぃけど自力か他の連中使って相手してくれ!」
 そして何より、ララの動きに追従出来る可能性のあった鈴木 周(すずき・しゅう)が、相手が女の子と見るや環菜から借り受けた豆を弾とする機関銃を下ろしてしまったことが、ララ、そしてナナとズィーベンの接近を容易にしていた。
「この辺かな〜。じゃあ行くよ……
 氷の精霊よ、彼の地へと導く道標を示せ……
 アイシクルブリッジ!

 環菜に肉薄したズィーベンが、魔力で特大の氷の橋を作り上げる。
「じゃ、これでボクの仕事はおしまいっ! それ!」
 ズィーベンの掌から光が放たれ、それは蒼空学園のディフェンス陣に目眩ましの効果を与える。○陽拳さながらの技を繰り出して退却するズィーベンを、ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)が出迎える。
「あら、もうお帰りですか?」
「後はナナが頑張ってくれるよ。ボクはここで一休み〜」
「では、撒かれた豆を年の数だけ食べていってはいかがでしょうか?」
 言ってユリが、既に大量に散らばった大小様々の豆を指して言う。
「と、年の数ぅ!? むーり、絶対無理だからそれ! ……あ、でもボク以上にアーデルハイト師匠――」
 ズィーベンがそう呟いた直後、頭上から巨大なゲンコツがズィーベンの頭を直撃する。
「聞こえとるぞ、たわけ。……ふむ、これは便利じゃのう。今度教室に秘かに仕掛けておこうかの」
 アーデルハイトが上機嫌に呟く中、モニターの中ではピクリとも動かないズィーベンにユリが『死体』と書かれた札を掛けていた。豆で倒されたわけではないが、まあ、『死体』であることに変わりはない。
 そして前方では、氷の橋を駆け上がったナナが環菜へ向けて飛び込み、手にしたクルミ大の豆に闘気を込めて放つ。
「! 上!?」
 すぐ傍に着弾した豆に、環菜が上を見上げてもしかし、何の姿もない。
「一体どこから――」
 視線を元に戻した環菜は、自らの背中に何かが押し当てられる感触に、思わず両手を上げてしまう。
「……確かに、科学や魔法は便利でついつい頼ってしまいます。でも、それにかまけて自らの精神と肉体の鍛錬を怠っては、いつかツケがきますよ」
 環菜の背後に回ったナナが、もう一つの豆を環菜の背中に押し当てながら呟く。
「……なるほどね。例えばこんな風にかしら?」
 フッ、と環菜が微笑む。
「それと、とやかくいうのもあれですが……もっと皆とフレンドリーに楽しみませんか? 失礼ながら申し上げますと、環菜さんはいつも利益やデータを求めて、心から楽しんでいないように見えましたので」
 ナナの次の言葉に、環菜が意外とでも言うように首を振って答える。
「あら、私は十分楽しんでいるつもりよ。……こんな風にね!」
 一瞬屈んだ環菜が、次の瞬間には両手に銃を構え、一発を背後に、もう一発を前方に見舞う。飛び上がるナナを置き捨て、眼前に姿を見せたララに環菜が銃を向ける。
「やあオデコちゃん、なかなかの歓迎だね。君に怨みはないが、これも運命だ」
 言ってララが、懐から豆を掴んで環菜に見舞う――。
「……む?」
 違和感にララが動きを止め、掌の中身を確認すれば、そこにはクルミ大の豆ではなく何故かみかんが握られていた。
「……間違えた?」
 呟くララの耳に、カチリ、と豆が装填される音が聞こえた――。

「相変わらずエリザベート校長も御神楽校長も無茶なことを考える……だが」
 面倒くさそうに溜息をついたエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が、眼鏡の奥の瞳をキラリ、と輝かせて顔を上げる。
「折角の機会だ、たまには他校を相手に思う存分暴れさせてもらうとしよう」
「おぉ〜、エリオットくんが今日はやる気だ〜! じゃああたしも張り切っていっちゃうよ! エリザベートちゃん、準備はオッケー?」
「いつでもいいですぅ〜。おっきいの一発かましてくるですぅ〜」
 メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)がクルミ大の豆を掲げたのを合図に、エリザベートが魔法をかければ、それは瞬時に巨大サイズの豆と化す。
「蒼空学園最大の失敗は、我々というコンビがイルミンスールにいたことだ。それを思い知らせてやろう!」
 一方エリオットは、両手に豆を装填し、その腕を前に掲げ、自らに雷術を行使して電流を流し、さながら『人間レールガン』と化して加速された豆を撃ち分けていた。
「よ〜し、アラ○ちゃんの一発をくらえ〜!」
 エリオットがまるで錯乱しているかのように豆を乱射する横で、両手の加速ブースタで音速の一撃を繰り出す要領で、メリエルが巨大豆をぶん投げる。それは放物線ではなく直線軌道で、環菜に迫る。
「イルミンスールの生徒は全力で馬鹿をやってくるから怖いわね。……だけど、一つ教えてあげるわ」
 その環菜は、巨大豆に対して逃げることも迎撃することもせず、悠然と立ち尽くす。

「コメディ補正は、普段絶対コメディノリにならないだろうと思われている人がするほど、高くかかるものなのよ!」

 高々と宣言した環菜が、もはや自らを象徴するといっても過言ではないお凸を極限に光らせ、巨大豆に向ける。

「理事長兼校長兼生徒会長ビーム!」

 次の瞬間、環菜の光るお凸から放たれた極大の光線が、巨大豆を一瞬で蒸発させてそのままメリエルに迫る。

「そ、そんなあああああぁぁぁぁぁ!!」

 ちゅどーん、と爆発がして、メリエルがぷすぷすと音を立てながら飛ばされ、ハートマークのナースキャップを付けた看護婦さんに『死体』のカードを掛けられる。
「馬鹿な……あの出力、一体どこから――」
 メリエルをやられ、呆然とするエリオットの足元を、豆が穿つ。
「へへへ……やっと女の子がいなくなったぜ……しかも目の前には何だかモテそうなイケメン面の男……こりゃもう撃つしかねぇよなあ……」
 機関銃を手に、ちょっとイッた目をした周が、エリオットへ銃口を向ける。
「ふふふ、見ろ! イケメンがゴミのようだぜ! ……あん? ひがみ、私怨? 違うぜ、幸せ者にはちょっとくらい手荒い祝福が丁度いいんだぜ。……ほ、本当だぞ? べ、別に悔しくなんか……うわぁぁぁん、愛と悲しみの豆をくらいやがれー!」
 明らかに私怨で無数の豆を食らったエリオットが、メリエルの後を追うように『死体』を演じることとなったのであった――。

「環菜校長、あなたに恨みは無いですが、うちの自慢の機晶姫カーラのため、利用させて貰いますよ」
 相手陣地内で、環菜を視界に捉えた鳥羽 寛太(とば・かんた)が意気込むその横で、伊万里 真由美(いまり・まゆみ)カーラ・シルバ(かーら・しるば)が寛太の言葉をものの見事に無視して準備を始める。
「環菜って簡単に儲けててムカツクのよね、おでこのくせに」
「ですが真由美さん、彼女も所詮は力無き地球人の一人。この私の力の前にはただひれ伏すのみです」
「……ふふふ、そうね。さあ、行きなさいカーラ。生意気な地球人に制裁を!」
 脚部装甲からスパイクが穿たれ、地面に固定される形になったカーラに、真由美が加護の力をかけて命じる。
「これが、機晶姫の力だ!」
 会話に参加させてもらえないのを無理矢理割り込んで、寛太が雷術をカーラに見舞う。それを引き金とするかのように、カーラが握ったクルミ大の豆に雷の力を付加して飛ばす。放たれた豆は蒸発するまでの一瞬の間、全てを貫く弾丸の如く飛び荒び、蒼空学園のディフェンス陣はおろか、攻勢に回っていたイルミンスールの生徒までもを巻き込んで吹き飛ばす。
「うわ、あんなのに巻き込まれたら大変だね。じゃあ私たちはこっそり背後から狙いに行こっか」
「そうだな。おそらく相手も超感覚や殺気看破でこちらの気配を察知してくるはずだ、慎重かつ大胆に潜り込むぞ」
 寛太たちの攻撃に注意が向けられている中、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)ジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)が環菜を目指して光学迷彩で姿を消す。
「うおっと! イルミンスールの奴ら、本気だな!」
 飛んでくる豆をかわしながら、風祭 隼人(かざまつり・はやと)が光術や光精の力を借りて相手の目眩ましを狙う。その攻撃に一端は照準が逸れるが、またすぐに照準を合わせてくるため、防戦一方に追いやられていた。
「だが、俺たち蒼空学園生には環菜校長を輝かすっていう使命がある! 皆、準備はいいか!」
 隼人の声に、未だ無事なディフェンス陣が一斉にサングラスをかけ、反撃の準備を整える。
「あー、環菜校長、ちょっといいですか……そう、その向きで」
「……あなたたちが何をしようとしているのか大体検討がつくわ。あなたたち、そこまでして負けたら今月の学費、三倍にしておくわよ」
 隼人の意図を察した環菜が呆れつつ、指示に従い自前レールガンで攻撃するカーラの正面に自らのお凸を向ける。
「自らの校長を矢面に立たせるなんて、人望が見えるわね。ダメよツンツンじゃ、たまにはデレないと」
「そうだね、デレは大事だね! よしカーラ、環菜校長のおでこに青痣を作るんだ!」
 そしてカーラが環菜のお凸に照準を定め、出力調整を完了して豆を放とうとしたその瞬間――。

「今だ! でこフラーッシュ!」

 隼人が環菜のお凸目がけて光精の助力を得た光術を放てば、その光がお凸に反射してカーラたちを襲う。
「うわっ!」
「くっ、目くらまし!?」
 寛太と真由美、カーラが行動不能に陥るのを見やって、隼人自身も加わっての反撃が見舞われる。
「おでこの光のせいで照準が……」
「回復するまで耐えなさいカーラ、ヒールは任せて」
「まだだ……僕は諦めない……環菜校長に豆をぶつけるまでは……!」
 放たれる豆の攻撃を盾で受け止めながら、真由美が無防備のカーラを癒しの力で守る。そしていつの間にか矢面に立たされた寛太が一斉射撃をくらい、最期の力を振り絞ってカーラに電力を供給する。
「……機能回復。チャージ完了。力無き地球人が小賢しい……消し飛べ!」
 そんな寛太の想いを受け取ったか捨てたか知らないが、カーラの放った豆が蒼空学園のディフェンス陣を吹き飛ばし、ほとんど威力を失いながらも環菜のお凸にぺし、と当たる。
「やってくれるわね。なら私が直々にトドメを――!」
 崩壊したディフェンス陣を気にかけることなく、銃を構えた環菜が引き金を引きかけたその時、バイザーに敵の接近を警告する文字が浮かび上がる。
「気付かれた……が、この距離なら!」
 飛び退いた環菜の先ほどまでいた場所を、ジャックのトミーガンから放たれた普通サイズの豆が穿つ。
「ここまで近づけば避けられないよね! そのデコ、覚悟ー!」
 着地した隙を狙って、玲奈が豆に火術を乗せて撃ち出す。ぱちん、と弾けるような音がして、環菜のお凸に豆が当たり紅い痣を遺す。
「ああっ、環菜校長のおでこが! おのれよくも!」
 ようやく態勢を立て直した隼人たちディフェンス陣が、二人に照準を定める。
「うわ、えと……ジャック、後は任せたよ!!」
 言って玲奈が、ジャックを突き飛ばすように前に出し、自らは再び光学迷彩で姿を消す。
「お、おい、玲奈!? オレを置いていくなんて――」
 慌てて後を追おうとしたジャックが、ただならぬ殺気にビクリ、と身体を震わせ油の切れたロボットのように背後を振り向く。
「……散々ネタにされるのは気に入らないけど、それでも、傷つけられるのはもっと気に入らないわ。覚悟は出来ているんでしょうね?」
 お凸に青痣と赤痣を作った環菜が、静かな殺気を醸し出しながら銃をジャックの額へ押し付ける――。

「よし、御神楽校長狙いで一発かましに行くぜ! アヤメ、準備はいいか!?」
「またそんなに張り切ってるのか紗月……だが、校長に挑む、か。まぁ、面白そうだな」
 デコに一発当てる! と意気込む椎堂 紗月(しどう・さつき)に、溜息をつきつつも椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)が付き合う準備を整える。
「リアはどうすんだ?」
「んー、僕はここでしばらく様子見。ルイが何か準備してるみたいだし。……にしてもルイ、鬼の姿はまり過ぎ」
 紗月に声をかけられたリア・リム(りあ・りむ)が、リアに背を向けて何やら準備をしている様子の、鬼のコスプレをしたルイ・フリード(るい・ふりーど)を指して可笑しげに笑う。
「本当だ、間違って当てちまいそうだな。俺のえーと何だっけ……そう一本足打法、あれに巻き込まねえようにしないとな」
「紗月、一本足打法って……また馬鹿なこと考えてない? どうせまたやられると思うけど、ま、行ってらっしゃーい」
 リアと一緒にお茶をすすっていた有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)が紗月に加護の力をかけ、手をひらひらとさせて見送る。紗月とアヤメの姿が見えなくなったところで、準備を終えたルイがリアを呼ぶ声が届く。
「あ、呼ばれた。じゃ僕行ってくるね」
「はいはい、怪我しないようにねー」
 凪沙の見送りを受けてリアがルイのところへ赴くと、ルイが用意していたミサイルをリアに渡して言う。
「これを、相手のゴール付近、今ちょうど御神楽環菜さんがいる上空目がけて撃って下さい」
「って、撃っちゃっていいの? そもそも豆まきと関係あるのこれ?」
「大丈夫です。全く問題ありません!」
 グッ! と暑苦しいスマイルを見せるルイに、呆れつつリアが言う通りにミサイルを装填する。
「ワタシが合図しますから、そうしたら撃って下さいね」
 ルイが目を凝らし、前方の戦況を確認する。
「くらえ必殺! 燃える魔球!」
 そこでは、野球で使用するバットを握りしめた紗月が、環菜目がけてクルミ大の豆をトスバッティングの要領で思い切り打ち返す。炎の力を受け取った豆は紗月の言葉通り燃えながら飛び荒び、環菜のデコを炎に包むべく襲いかかるが、単発であったため流石に回避される。
「へっ、それは予想の範疇! 本番はこっからだ!」
 バットの代わりに豆を握りしめ、紗月が超感覚の発動を示す狐の耳と尾を生やし、禁猟区で危機を察知しながら環菜を目指す。当然ディフェンス陣は紗月に攻撃を集中させるが、それこそが彼らの狙いであった。
(影に潜み敵を撃つ……御神楽校長、紗月のため、覚悟……!)
 アヤメの接近に環菜が気付くのと、姿を現したアヤメが豆をぶつけにかかるのはほぼ同時のこと。飛んでくる豆を体勢を崩しつつも避ける環菜、体勢を整える隙を与えまいと尚も豆を振りかぶったアヤメの眼前に、地面からホウセンカの果実を模した装置が飛び出す。
「『鳳仙花』、行けっ!」
 宮坂 尤(みやさか・ゆう)が事前に環菜の周辺に設置したトラップの一つ、『鳳仙花』が弾け、大量の豆を周囲に撒き散らす。それはアヤメを撃ち後退を余儀なくさせるものの、周囲にいた味方までも巻き込んでしまう。
「ちっとばかし予定が狂ったが、問題ねえ! 安心してるようならまだ終わりじゃねーぜ、御神楽校長。これで……ラストォ!」
 前方の守りが崩れたのを好機と取り、壁を抜けた紗月が手にした二つの豆を力の限りぶん投げる。
「まだです! 『彼岸花』!」
 尤の呼び掛けに応じ、トラップの二つ、『彼岸花』が放射状についた花弁を飛んできた豆に向け、そこから機関銃のように豆を発射する。勢いを弱められた豆は『彼岸花』を二つとも破壊するが環菜にまでは届かず、足元をコロコロと転がって止まる。
「うそっ!? これでも駄目なのかよ!」
 必中を確信していただけに落胆の表情を浮かべる紗月へ、無数の銃口が向けられる。
「冗談きついぜ、御神楽校長……」
「残念だったわね。……覚悟はいいかしら?」
 進み出た環菜が微笑んで、自らの銃口を向ける――。
「リア、今です! そのミサイルで、友達の危機を救うのです!」
「そ、そうか! こんな時のためにミサイルを用意してくれたんだな! 分かった、行くぞ……ファイヤー!」
 ルイの合図に従い、リアが目的地を設定してミサイルポッドを起動させる。煙をあげながら飛んだミサイルは環菜の上空まで飛び、そして着弾……することなく弾け、最後の火薬の力を受け取った無数の豆が雨のように降り注ぐ結果を生む。
「いてててててて! 何だこりゃあ!?」
「ああ、私の『彼岸花』と『鳳仙花』が!! ですが有用な試験結果が取れました、今はそれでよしとしましょう……!」
 無差別に降り注ぐ豆は紗月とアヤメ、尤、そして環菜のお凸と蒼空学園のディフェンス陣に攻撃を加える。
「……………………どーいうこと?」
 一方、撃ったリアはその光景をただ呆然と見つめていた。
「んー、多分ルイさんがやったんだろーね。はぁ……結局、私が紗月とアヤメを連れ帰らなくちゃかぁ……」
「皆さん、存分に豆まみれになるといいのです!」
 凪沙が溜息をついてお茶をすすり、前方でルイが満足気に微笑んでいた――。

 その後、『死体』の札を掛けられた紗月とアヤメを凪沙が連れ帰り、ルイは鬼のコスプレをしたまま、鬼と化したリアに一方的に豆をぶつけられていた。
「変なもの作るな!! 当然、覚悟はできてるんだろうな!?」
「リア、たまにはワタシだってはっちゃけたい時が――」
「問答無用!!」
 リアのミサイルポッドが火を噴き、そしてまた一つ『死体』の数が増えたのであった。

「樹、約束は本当なんだろうな!?」
「ええ、もちろんよ。イルミンが勝ったら、あとで美味しいもの食べに連れていってあげる」
 大小の豆が飛び交うフィールドを駆け抜けながら、カジカ・メニスディア(かじか・めにすでぃあ)水神 樹(みなかみ・いつき)に問いかける。
「その言葉、忘れるなよ。……行くぞ!」
 微笑んで頷いた樹に吐き捨て、カジカが前もって用意しておいた布の巾着を相手ディフェンス陣が固まっている付近へ投げる。それに狙いをつけて樹が撃ち抜けば、破裂した巾着から豆がばらまかれ、蒼空学園の生徒を襲う。
「おーおー、たまんないねこりゃ。盾がなかったらあっという間に蜂の巣だわ」
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)が構えた盾に豆が次々と当たり、金属製の盾であるにも関わらず当たった部分に痕が残っていた。
「夜空、無事かぁ? 早々にくたばったりしてねーだろな?」
「皐月、あたしを誰だと思ってんだい!? このあたしがこの程度の攻撃でくたばるわきゃねーだろっての!」
 むき出しになった皮膚のあちこちに痣を作りつつ、如月 夜空(きさらぎ・よぞら)が笑い飛ばしてバイクに跨り、エンジンを吹かす。
「んじゃちょいとぶちかましてくるから、その前にノビてんじゃねーぞ!」
「へいへい、あんまはしゃぎすぎんなよ!?」
 無駄だと分かりつつも釘を差して夜空を見送った皐月が、ふぅ、と息をつく。
(また七日は鬱陶しがってんのかな。……おう、いたいた。オレでもうっかり見失っちまうほど、気配消すのうめえのな)
 盾の隙間から皐月が、気配を消して敵陣に潜り込んでいる雨宮 七日(あめみや・なのか)の様子を伺う。
(全く……なんで私がこんなことをしなければならないんですか。それもこれも全てあの馬鹿夜空の所為です。どれだけ人に迷惑をかければ気が済むのですか、あの馬鹿は)
 大切なことなので馬鹿を二度心の中で呟きながら、七日が周囲の様子を伺う。
(目標は……あの二人でしょうか。せっかく参加したのですから、勝たせて頂きましょう。お相手にはいささか悪いですが、この鬱憤、晴らさせて頂きます)
 照準を前方の樹とカジカに定めた七日が、すっ、と姿を消す。その樹とカジカの前に、バイクを駆る夜空が現れる。
「さーち、あーんど、
 でぇぇぇぇぇすとろぉぉぉぉぉぉい!!」

 爆走する夜空のバイクを逃れた樹とカジカだが、夜空は尚も追いかけてくる。
「……しつこい!」
 吐き捨てたカジカが、豆の詰まった巾着の紐を切り、中の豆を地面にばらまく。そこを走ったバイクに豆が絡まり、車体が一時的に制御不能に陥る。
「樹、今だ!」
 カジカの合図で、狙いを定めた樹の放った豆が、バイクの動力源を撃ち抜く。爆風が駆け抜け、煙幕が立ち込める光景を、あくまで微笑を保ちながら樹が見遣る。
「相手が誰であろうと容赦しない、それが私流よ――」
 呟きかけた樹が咄嗟に飛び退いたその位置を、放たれた豆が穿つ。煙幕が切れたそこには、あちこち焦げながらも未だ闘志衰えない夜空の姿があった。
「ヒャッハー! あんたら全員地獄行きだあぁ!!」
 もはや精神がどこかにトリップしたかのような雰囲気で、夜空がギターの形をしていたモノ――ヘッドが折れ、ネックからバレルが伸び、ボディからは放熱板のようなパーツが飛び出した――を脇に抱え、そこから無数の豆を乱射する。
「本当にしつこい! オレが相手する、樹は校長を!」
 カジカと別れ、一人校長を仕留めに向かおうとした樹は、一瞬漂う敵の気配に素早く反応して銃を抜く。
「……驚きました。私の気配を事前に察知する方がいらっしゃるとは」
「……ここまで接近を許すとは、手練者とお見受けします」
 七日の額に銃口を向ける樹、樹の胸元に豆を押し当てる七日、双方の視線が交錯する。一瞬微笑み合ったような気がして、次の瞬間には厳しい表情を浮かべて互いに用意した豆をぶつけ合う。
「みんな楽しそうにやってんじゃねーか。ま、気持ち良く終われんなら、それに越したこたぁねーな。……さて、二人が戻ってくるまで、もうちっと気張りますかね」
 そんな光景に笑顔を浮かべて、皐月が再び盾を構え、防御の姿勢を取る。
 バトルは、まだまだクライマックスだ。