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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その2

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その2

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第3章


 石化したホイップの側。


「なんだよ、タマ! 急にいなくなるから驚いたぜ?」
 狭山 珠樹(さやま・たまき)から連絡をもらって駆けつけた新田 実(にった・みのる)は開口一番、珠樹を心配していた事を告げた。
「すみませんですわ! でもあまり説明をしている時間もありません。十二星華であるホイップをティセラから守って下さいですわ!」
「はっ? ホイップ? 十二星華? ティセラ? まぁ、良くわかんねーけど、ミーに任せな!」
 実はビシッと親指を立て、ポーズをとると大きなリーゼントが上下に揺れた。
「では、我は、我の出来る事をしてまいります!」
「おうっ!」
 珠樹はそう言うと空飛ぶ箒に跨り、思いっきりかっ飛ばしてどこかへと飛んで行った。
「うっし! なんとしてもタマの信頼に応えるぜ」
 以前、危険な場所へと向かう珠樹に置いてきぼりを食らったと思っていた実は重大っぽい事を任され、だいぶ意気込んでいるようだ。

■□■□■□■□■

(ボビン……どこに行っちゃったんだろう?)
 一緒に村まで来たはずのパートナーを心配しながらカッチン 和子(かっちん・かずこ)は村へと足を急がせていた。

(ふ、ふあ〜〜〜ぁ)
 その頃、グランの鞄の中で欠伸をしているのは和子のパートナーボビン・セイ(ぼびん・せい)だ。
(こうも暇だとなぁ……鞄の中でも漁ってみるか)
 ごそごそと鞄の中を漁ろうとするが、鞄の中の為暗くて良く見えない。
(ん? これは……?)
 ボビンの手はよく知った感触に手が止まった。
 頑張ってそれを開けると、光が鞄の中を照らしだした。
 携帯電話だったのだ。
 ついでに怪しげな発着信履歴がないか調べるが、あったのは宿屋の番号やホイップの携帯番号、そしてアルバイトの子の番号があるだけだった。
(つまらねぇなぁ)
 次に、明るくなった鞄の中を探すと、財布、包帯、文庫本、ボールペンが見つかった。
 そして、違う仕切りの方へと携帯をなんとか移動させた。
 そこにあったのは何やら良く解らない薬の瓶だ。
 どれも小さく、そして見たことが無い物ばかり。
 薬の瓶だけでなく、細かな粉末や何かのヒゲっぽい物……等など。
(これはなにか意味があるのか?)
 自分には分からないな、ともう一度元の場所へと戻るとボビンは欠伸を始めた。

■□■□■□■□■

 石化ホイップへと近付いてきて、その手から石化の薬の瓶をそっと取ったのはリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)だ。
 底の方に残っている一滴を確かめると、自分の鞄を探った。
 鞄の中から出てきたのは小指ほどの資料瓶。
 その資料瓶に最後の一滴を移す。
「ホイップ、必ず助けてやるのだ。……だが、それはそれ。この薬の秘密は調べさせてもらうのだよ」
 資料瓶のふたをすると鞄の中へと大事そうにしまった。
 すると、背後から馬の蹄の音が聞こえてきた。
 リリが振り向くとそこには、白馬に相乗りしてやって来たララ サーズデイ(らら・さーずでい)ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)がいた。
 2人は馬から降りるとリリの元へと近寄る。
「大変な事になってますね」
「何か手伝えることがあると良いのだが」
 ユリとララは口ぐちに言う。
「いや、遅くはない。何か起こるとしたらこれからだろうからな……」
 リリは2人に告げたのだった。

■□■□■□■□■

「僕、村に行ってくるね!」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)の肩を叩いて、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が言った。
「へっ?」
 色々な情報が頭の中でぐるぐるしている為、メイベルは少し呆然としていたようだ。
「村でどうするのです?」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が聞いた。
「厨房を借りれないかと思って。ホラ、杖を取り返してきた人達が帰ってきたらお腹空いてるかもしれないから」
 そう言うとセシリアは村へと向かう為、森の中へと入って行った。

(そうだ! 厨房を貸してもらえたらお礼に何か作ろう!)
 セシリアは何を村の人に作って、何を杖奪還の人達に作ろうか楽しそうに考えている。
 すると、前の方から男性が大きな水筒を持ってやってきた。
 村人だろうか。
 素朴で清潔な長いマントを着、人の良さそうな好青年だ。
 ぺこりと頭を下げ、先へ行こうとすると声を掛けられた。
「村の火事を消して下さった方ですよね?」
「うん、僕は救護の方にいたけどね」
「そうですか! 良かったらコレを。村からのお礼です」
 そう言うと、男性は水筒のふたを開け、紙コップに温かな湯気を湛えた金色のスープを注ぐ。
 そして、セシリアの目を見て、しっかりとその手にスープを渡した。
「有難う!」
「いえいえ、では」
 男性は蓋を閉めると、ホイップの石像がある方へと歩いて行った。
 セシリアはその背を見ながらスープに口を付ける。
「あ、おいしい〜。コンソメスープだね……どうやって作るか聞いておこうかな」
 スープを飲み干すと男性を追いかけようとしたが、その足が止まる。
 何かを呟くとセシリアは手にしていた紙コップを地面に落とし、村ではなく、今来た道を戻っていった。


 石化ホイップの近くでは、先ほどセシリアにスープを渡した男性が来ていた。
「村を助けていただき有難うございました。お疲れでしょう? 村の皆からお礼……と言っても大したものではないのですが、どうぞ飲んで下さい。疲れが取れますよ」
「村が大変な時に……すみません」
 グランは男性に声を掛けた。
「気にしないでください」
 そう言いながら、持っていた大きな水筒に入っているコンソメスープを皆に手渡しで配って行く。
 紙コップからは、ほかほかと湯気が立ち、吸い込まれるように口の中へと黄金色した飲み物は入っていく。
 剣の花嫁の前では少しだけもたついているように見えた。
「助かります」
「いえいえ、助けていただいたのはこちらですから」
 男性は配り終えると、人の良さそうな顔で答えた。
 水筒のふたをしっかり閉めると村の方へと去って行った。
 去ったのを見たグランは紙コップに残っているスープを飲み干した。


 現在、金欠によりホームレス中の仏滅 サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)は自分の分を飲み終わると、スープを配っていた男を追いかけ森の中へと入って行った。
「おい! 待てや!!」
 スタスタと歩いていた男性を歩いていた男性を呼びとめる。
 男性は無視して先を行こうとしたのだが、行く手を塞がれてしまった。
「なんでしょう?」
「そのスープもっとよこせやっ!」
「水筒ごとどうぞ?」
 男性はあっさりと水筒を渡してしまった。
「おっ? 良いのか?」
「ええ」
 嬉しそうに(白塗り悪魔メイクで分かりづらいが)、水筒を受け取るとホイップの元へと戻って行った。
 そして、男性は今度こそ村の方へと歩いていった。


 ホイップの周りではスープに舌鼓を打ちながら談笑している姿が見られた。
「ホイップまで十二星華だったとは……」
 ララはホイップを見ながら言う。
「うむ、全く気付かなかったのだよ。……ユリ、まさかユリは十二星華ではないだろうな?」
 リリは剣の花嫁であるユリに話しを振った。
「ワタシは違うのですよ」
 笑いながら言う。
「いや、わからないさ。そう、Dクラス十二星華とか、四天王があれだけ居るんだから十二星華だって12人とは限らな……」
「……」
「ユリ?」
 リリがユリが黙りこくってしまい、いつもと様子が違う事に気が付いた。

「ホイップ……元気な姿で会いたいな……」
「私も話してみたい」
 スープを手に如月 玲奈(きさらぎ・れいな)如月 葵(きさらぎ・あおい)は会話していた。
「ちゃんと元に戻ったいっぱい話そうね!」
 玲奈はぐいっとスープを飲み干した。
「そうね」
 葵もそれに倣って最後の一滴までしっかりと飲んだ。
「今日は頑張ろうね!」
「……」
 玲奈はガッツポーズを取ったが、それに返事をしてくれると思っていた葵が全く反応してくれない事に疑問を抱き、顔を覗き込んだ。
「お姉ちゃん?」
 葵の目には、もう玲奈が映っていなかった。

「おいし〜」
 コンソメスープを一口飲むと閃崎 魅音(せんざき・みおん)は、ほっぺを押さえて本当に美味しそうな表情をした。
「おっ、本当だ。うまいな」
 その横で一緒に飲んでいるのは閃崎 静麻(せんざき・しずま)レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)だ。
「口にスープが付いてますよ」
 レイナは綺麗にアイロンがかかったハンカチを取り出し、魅音の口元を拭いた。
「ありがとー」
「いえいえ」
「…………ティセラ様の為に……」
「え……?」
 気が付いたときには、魅音はマジックワンドを取り出し戦闘態勢に入っていた。