イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

学園生活向上! 部活編

リアクション公開中!

学園生活向上! 部活編

リアクション

 タキシードに身を包んだ格好良い男性陣がケーキを食べさせてくれたりと、中々繁盛した愛!部の喫茶店。
 しかし、その薔薇の学舎からの出店を嘆くように、店の正面では豊臣 秀吉(とよとみ・ひでよし)が署名運動を行っていた。
「薔薇の学舎共学のため、ぜひ御一筆お願い致しますじゃー!」
 薔薇を名乗る割に、この学園へ通うのは男ばかり。
 女性が男装しているんじゃと噂話が出るくらいに可愛らしい男性はいるけれど、この学舎は華の潤いはなかった。
(御影殿たちが卒業するまで枯れきった日常を送らすなど、わしには耐えられん!)
 なんとしても潤いを手に入れるのだと躍起になる秀吉と違い、北条 御影(ほうじょう・みかげ)は大人しいものだ。
(新入生、か。俺にもここがエリート校だと信じていた純粋な時期があったな……)
 どこを見ても薔薇が目に付く派手な校舎、生徒代表はマントや仮面をつけ、さらにパワーアップしたような校長。
 そのおかげか、授業内容はエリートのはずなのに、薔薇の学舎は色物集団に見られている気がする。
(まぁ……そうだよな。理想と現実なんて、そんなもん、だよな……)
 キラキラと輝く新入生の笑顔が眩しくて、羨ましさ半分今後めげなければ良いがと先輩として心配になるのも半分。
 御影は爽やかな春の風を受けながら、重い溜め息を吐いた。
 「なんだか面白いことやってるわね」
 そんな御影の前に現れたのはサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)。黒に金色の刺繍が入り一見薔薇学の制服のようだが、どう見ても彼女は女の子だ。
 裾だってふわりと広がるスカートだし、薔薇や蔦をあしらったアクセサリーをつけているが、そんな制服は見たことがない。
「あれ、知らないの? 今年度から薔薇学は共学になったのよ?」
「おお! それは真かの!? 薔薇学にも華がやってくるんじゃなぁ」
 さめざめと嬉し泣きする秀吉に、さすがのサフィも困惑する。
(嘘に決まってるじゃない……でも、こんなに喜ばれたら調子狂うわね)
 ちょっと驚かして、一緒に校長へ直談判でも出来れば良かったのにとサフィは適当な愛想笑いを浮かべる。
「サフィさん、どこに行ったんですかー?」
 運動部を見学するつもりだったクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)は、振り返るとサフィがいないことに気付き急いで戻って来た。
 しかし、その背後には電波を受信したらしいマルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)が追って来ており、逃げて来ているようにも見える。
「烏龍様を一緒に崇拝するアルよー! この出逢いこそ、烏龍様のお告げ……!」
「知りませんってば。僕は運動部の見学に行くので、他の人をあたってください」
 もっと信憑性のある宗教であったなら、折角の勧誘なので耳を傾けていたかもしれない。
 けれどマルクスの勧誘内容はあまりピンと来るものはなくて、どこか電波じみている。
 クライスはやんわりと断りながらサフィの元へと向かうと、秀吉に泣きつかれて困っている彼女を見付けた。
「あ、クライス。どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ。振り返ったらサフィさんがいないので探しに来たんですよ」
 秀吉は、パートナーの薔薇学生が現れたことで余計にサフィの言葉を真実だと思い込んだのだろう。
 がっしりとクライスの手を握り、感謝の気持ちを込めて何度も頭を下げる。
「おお、そなたがこのおなごのパートナーですか。さぞご苦労されたことでしょう……」
「え? はぁ……」
 サフィが何かしたにしても、秀吉は怒っていると言うより嬉しそうな顔をしている。
 一体何が言いたいのか分からなくて、クライスは驚いたように目を瞬かせるだけだ。
「これからも、ご活躍に期待しておりますぞ!!」
(……一体、サフィさんってば何をしたんだろう)
 隣で苦笑いをしている彼女を見ても、全く見当がつかない。
 一先ずマルクスが御影に取り押さえられている間に逃げだそうと、クライスはサフィと共に運動部のコーナーまで走って行くことにした。
(薔薇の学舎の共学、か)
 遠目から見守っていた直は、そんなものが学舎に望まれているとは知らず、やり取りを見て思案顔だ。
 様々な特色を持った学校があり、女性には百合園女学院もあるので共学化は望まれていないとばかり思っていたが、実際はそうでもないらしい。
 署名やオリジナル制服を作ったりと、活動内容は活発かもしれないが、それでは校長の意志を動かすのは到底無理だろう。
(その代わりと言っては何だけれど、他校と交流することで女性と知り合う切っ掛けを作れればいいな)
 そう思いながらまた見回りに戻ろうとすると、何かを探しているのかキョロキョロとしている薔薇学生が目に入る。
 真新しい制服に袖を通しているところを見ると、新入生だろうか。
「どうしたんだい? 目当ての部活でもあるのかな」
 急に声をかけられたことで、驚きながら振り返るのは志位 大地(しい・だいち)
 直の顔を見て一瞬何かを言いかけて口を開き、一拍間があってゆっくりと指さしかけた手を下ろした。
「……お久しぶりです、直さん。ちょっとよその学校の気分を味わってみようと思って」
 自分も一般生徒の制服に着替えて見回りつつ楽しめればと思っていたので、大地の気持ちはよく分かる。
「この近くには、薔薇学生の出店があったから、新入生として楽しめるかもしれないね」
 部長は講座に出席していた人だから、もしかしたらバレてしまうかもしれないけれど。
 苦笑しながらそんなことを付け加える直は、思い出したように大地へ尋ねる。
「そう言えば、体調はもう大丈夫? この前の講座で倒れたと聞いたけど」
「ええ、大丈夫……なんですが、倒れたせいで幸せな一言は現実だったのか夢だったのか、よく思い出せなくて」
 保健室に運ばれてから暫く目を覚まさなかったと報告を受けたが、どうやら体調不良が原因では無いらしい。
 特にトラブルも報告が無かったので原因がわからぬままだったが、当人の元気そうな様子に一先ず直は安堵の息を吐く。
「うーん……確信がないなら、夢だと思ったほうが良いかもしれないね」
 無闇なことは言えないし、落胆するくらいなら最初から期待しない方が良い。けれど、後ろ向きな理由で直はそう言ったんじゃない。
「その言葉に見合う自分になってから、相手に確認してみたらどうかな?」
 大地の言う幸せな一言が何かは分からないけれど、幸せだと言うのだから願いが叶ったのかもしれない。
 贈り物などの話し合いをしていたので、もしかしたらプレゼントをもらう約束でもしたのかもしれない。
 どちらにしても、それに相応しい自分になってからなら、もっと幸せになるだろうと思ってのアドバイスだった。
「相応しい自分、ですか……」
 その考えは最もだが、何を持ってして相応しいと考えるかは自分自身に妥協するか否かにかかっているようで、大地は暫し考え込む。
「でも、その幸せが夢でなければいいね」
 にっこりと微笑みながら直に言われ、その瞬間を思い出した大地は急に顔を真っ赤にして狼狽える。
 どんな幸せを手に入れたのかは口にしなかったけれど、大地にとってとても大切な思い出のようなので、直も無理矢理聞き出すことは無かった。