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金の機晶姫、銀の機晶姫【前編】

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金の機晶姫、銀の機晶姫【前編】

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〜マヨイビト〜

 

 エレアノールの遺跡の地下水路にたどり着いたゴスロリ少女桐生 円(きりゅう・まどか)は友人の七瀬 歩(ななせ・あゆむ)と共におやつをほおばりながらじめじめした遺跡の中を見渡していた。石造りでしっかりと作られたその水路は、コンパスによればまっすぐ南へと伸びているのがわかる。

「うん、ここの水質自体はごく普通の水のようですね」

 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が簡単な水質調査の道具で試験管の中の水が真水であることを確認すると、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が小首をかしげた。

「あれぇ? でもたしかここには破棄される機晶姫さんが流れてきていたんじゃ……」
「それはあそこかもしれないな」

 閃崎 静麻(せんざき・しずま)が指差した所には、元機晶姫たちの残骸が摘みあがっていた。サビと腐食によって崩れ落ち、既に原型はとどまってはいなかった。その下はどうやら編みになっているようで、捨てられた水はそこに落ちているようだった。

「更にしたがあるってことですか」
「やっぱりね」

 そこへ姿を現したのは、第四陣の霧島 春美(きりしま・はるみ)たちだった。金の三つ編みを揺らしながら、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)はその編みの向こうを覗き込もうとする。その奥は暗くて何も見えない。

「前回来た時、降りたときの靴音がおかしかったから不思議に思ってたのよ」
「春美すご〜い♪」

 ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が拍手をしながら歓声を上げると、桐生 円も残骸のほうに歩み寄る。

「それじゃ、ボクらはこの下を調べてみようか」
「りょーかいっ」
「まずは、これらをどけなくてはいけませんわね」

 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は早速残骸を気遣いながら丁寧によけ始め、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、どこから出したのか花をその残骸のそばに添える。それにならって他のメンバーも手持ちのお菓子などをお供えし始める。

「そんなもの備えたところで、元は兵器、今は鉄くずではありませんか」

 冷たくいい放ったのは、東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)だった。ため息をつくその青年を真っ先に睨んだのはアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だった。だが口を開いたのは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が先だった。

「なにそれひどいっ!」
「ルーノ・アレエという機晶姫に関してもそうだ。自分の力を使えば思いのままだというのに、私たちのようなか弱い生き物に助けを求めるなんて」
「私たちが好きでルーノちゃんのためにやるんだもん、強いのとかは関係ないよっ」
「ミルディア……」

 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が声を張り上げた。和泉 真奈(いずみ・まな)は珍しく怒りを露にしているパートナーの肩にそっと手を置いた。ミルディア・ディスティンは
それににっこりとした笑みを返す。その様子に、橘 舞(たちばな・まい)ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)も頷いた。

「私はこの遺跡の古代の情報にしか興味ありません。班分けされたとはいえ、目的がみな一緒とは思わないでいただきたいですね」

 背中を向け、辺りの石版を見に行くその背中に冷たい視線を送られたが、それに対して、頭を下げたのはミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)だった。

「ルーノさんという方の力になりたいとは思います。わたくしが協力できるのは、あの方の気が向くところだけですけれど」
「それでもいいよ。人手は多いほうがいいからね」

 アリア・セレスティはため息混じりにそう言い放つ。それでも彼女が譲歩して語りかけてくれたのだとわかったからだ。東園寺 雄軒の後ろをぴったりとついて離れないのはバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)だ。見た目はただの鎧にしか見えない機晶姫だが、その気迫は卓越した戦士のようだった。
 彼らのことはひとまずおいて、機晶姫たちの残骸をよけた下にあったのは、大きな鉄格子だった。鉄格子は容易に避けられ、その下にライトを当てても良く伺えないようだった。閃崎 魅音(せんざき・みおん)が光術を中に打ち込むと、光の球体が中を照らし出す。

「コレで見えると思うから、降りてみよ〜」
「お前はすぐに先行しようとするな。俺たちは後だ」

 閃崎 静間が今にも降りそうな勢いの閃崎 魅音の肩を掴んで押さえる。アリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)がおどおどした様子で中をうかがう。その後ろで白乃 自由帳(しろの・じゆうちょう)がため息交じりに腕を組む。

「で、でも、降りても大丈夫なんでしょうか……」
「それよりも、お客さんのようよ」
 
 低い唸り声があたりに響いたと思うと、数体の魔獣が姿を現す。白乃 自由帳はすぐさま呪文の詠唱を開始し、浅葱 翡翠は銃を構えると颯爽と駆け出し、先頭の魔獣の脳天に銃で殴りつける。

「殴るくらいなら魔法を使いなさいといってるでしょうっ!」
「ここで撃ったら跳弾するかもしれないんですよっ?」
「あははは、あーそーびーまーしょっ!!」

 軽快な笑い声を上げながら、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が武器を振り上げて魔獣たちを蹴散らしていく。間の抜けた詠唱をしているのはオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)だ。雷術が大地を這い駆けてくる魔獣たちをすっころばせると、白乃 自由帳が止めといわんばかりに特大の雷術を叩きつける。

「まだ油断してはいけませんよ」

 神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)が雷術を更に残りの魔獣たちにお見舞いすると、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が氷術でこげた魔獣たちを凍らせる。ようやく、魔獣たちの襲撃にひと段落がつくと、しばらく休んで体力や魔力の回復に努めた。

「この地下にあるのは水源じゃないと思うんだ」

 超感覚でうさみみをはやした霧島 春美が、地面に耳をすませてそう呟いた。すると、アリア・セレスティは【クリスマスコスメ詰め合わせ】をおもむろに取り出し、あまった香水を自らの身体に振りまく。

「うう、少しきついかも……」
「ですが、これで万が一道に迷ってもアリアさんのところにはたどり着けそうですね」
「うん。向こうにも伝えてあるんだ。香水の臭いが向こう側でしたら、つながってる証拠だって」
「え、でもどこがつながってるんです?」

 レイナ・ライトフォードが不思議そうな顔で問いかけると、それに答えたのは浅葱 翡翠だった。

「封印されている遺跡とは違うものがあります。あの村には、今は使われていない機晶石発掘用の洞窟があるんですよ」
「そう、そこともつながっているかもしれないの。だからコレを使ったってわけ」
「とりあえず、下の様子がわかるまで俺たちはしばらくここで待機していよう。この様子だと、またこいつらが復活したりどっかから沸いて出てくるかもしれないしな」
「お願いしますねぇ〜」

 メイベル・ポーターがのんびりとした口調でそういうと、早速下に下りるための縄梯子を作成する。それを残骸の中でもひときわ大きなものに「お願いしますねぇ」と声をかけて縄梯子を引っ掛けさせてもらう。一番乗りで降りようとしているのは、桐生 円だった。

「さ、いくよ〜」
「気をつけてくださいね?」
「もちろんだよ、何かあればロザリンド君にも連絡するし」

 橘 舞が声をかけると、意気揚々と降りていく。その後をオリヴィア・レベンクロン、ミネルバ・ヴァーリイ、七瀬 歩が続き、暗い穴に下りていく。後述の球体がふよふよと舞っているおかげ内部は明るくなっていた。足元がぬかるんでいるのがわかると、桐生 円は顔をしかめた。辺りを見回すと、残骸のかけらが落ちて反射してきらきらと光っているが、基本的は沼地のようだった。

「壁、壁……っと」

 独り言のように呟きながら、壁に手を当てて歩き始める。石壁の雰囲気は上のつくりと変わらず、ひんやりとした温度が手に伝わってくる。
 にゅちゃにゅちゃと靴に重たいものがどんどんへばりついていくのがわかり、時折壁に靴を当てて泥を落とす。少し歩いたところで、この空間が丸い空洞になっているのがわかる。そろそろ一周と言った所でどうやら更におくに行くための通路があるようだった。それに気がつく頃には七瀬 歩が桐生 円に追いついていた。

「あれ、コレも南に通じてるね?」
「春美君、聞こえてるかい?」
『円さん? どうかしたんですか?』
「こちらからも南に向かえそうだ。ボクたちもこっちから向かうことにするよ。閃崎くんにも伝えて後から来てもらえるかい?」
『わかりました。気をつけてくださいね』

 桐生 円は口元をうれしそうに歪めると、暗がりの道へ足を進める。

「さ、私たちも行くわよ」

 橘 舞の言葉に一同が頷き、水路に沿って南へと歩き始める。その道は下と違い光源には困らないが、不気味な空気はいまだに変わらないようだった。アリア・セレスティは初めての場所だからという理由で火術で火の玉を手のひらに作り出し、その火の揺らめきがどこへむくか、細心の注意を払っていた。霧島 春美は口元に手を当ててしばらくしかめっ面をしていたが、ディオネア・マスキプラが彼女の服のすそを掴んだ。それに気がついて、霧島 春美はにっこりと笑った。

「ディオ。四葉のクローバーにかけて、みんなの幸せをつかみとろうね」
「うん。笑顔の未来のために、がんばろう。ボクもがんばるからさ!」

 みみをぴょこぴょこさせながら、ディオネア・マスキプラがそういっているのに対して、ミルディア・ディスティンも強く頷いた。

「みーんな終わったら、またお茶会やろーねっ!」
「ミルディ!」

 和泉 真奈が鋭く声を上げたので振り向くと、また魔獣たちがこちらに向かって唸り声を上げている。霧島 春美に火の玉を預けて飛び出したのは、甘い香りを身に纏ったアリア・セレスティとミルディア・ディスティンだ。鋭くきりつけた後、ミルディア・ディスティンの武器によってなぎ払われ、バルト・ロドリクスが轟雷閃で止めを刺す。ミスティーア・シャルレントは魔獣たちの目や足を狙って火術を打ち込む。ピンポイントでの攻撃は彼らの機動力をうまくそいでくれたようだった。東園寺 雄軒がそれらに背を向けて先へと進もうとする。

「さ、先に進みますよ」
「そう急がなくってもいいじゃないっのっ!」

 霧雨 透乃がそういいながら拳で飛びついてくる魔獣たちを叩き飲めす。そしてようやく静まったところを、緋柱 陽子が氷術でまとめて凍らせてひと段落が着いた。そのとき、霧島 春美の手の中にある火の玉が南ではなく、壁に向かってゆらめいた。

「アリアさん!」
「なにこの壁……」

 誰もが思わず呟いた。その壁には魔法文字が円の形で描かれており、その中心には何かをはめ込むための穴があった。東園寺 雄軒がその文字に指を滑らせて、読み上げていく。


「古代シャンバラ文字ですか……
 天に舞う光の水は、空の大地を埋め尽くす
 川を流れる炎の壁は、風のその先海を割る
 星が落ちる、陽が滴る
 影が上れば、沈む銀河
 愛すべき仇を、殺したいのは恋人

 あなたを壊し、
 あなたを輝かせた罪
 あなたが放つは破壊の音
 私が歌うのは絶望の呼び声……なんでしょう、暗号でしょうか?」

 東園寺 雄軒の言葉に、ルーノ・アレエを知る者たちは驚きの声を上げていた。