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【十二の星の華】黒の月姫(第3回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第3回/全3回)

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 事の顛末にメイベル、コハク、そして黒龍も黙り込んでいる。と、その時、黒龍は漸麗がいないことにハッと気がつく。
「あいつ…!! 目が見えないくせに…!!」
 話を聞いて、真珠のことを本気で助けようと決意したのだろう、漸麗は屋上に向かったようだった。
「馬鹿かあいつは…!」
 黒龍もすっくと立ち上がって、屋上へ向かって走り始めた。

 漸麗は躓きながらも、転びながらも、屋上へ向かって走っていた。すでに服は汚れ、手足にも擦り傷が出来ている。しかし、漸麗は痛みを感じることすらなかった。息が上がる。階段で足を滑らせると、2,3段、転げ落ちてしまう。
「あっ…つう…」
 さすがに、痛みにうずくまってしまった漸麗。
(…させない…君を、…君達を、暗殺者になんてさせない……「彼」と同じ道は辿らせない!! …見えないから、何だって言うの…彼女の空しさの答えを知った以上、僕は止めなきゃいけない。彼女の銀細工と同じように、その魂もきっと綺麗なはずだから、人の血なんかで汚しちゃいけない…!! 彼女に会ったら抱き締めてあげたいんだ。真珠ちゃんはここに確かにいるからずっと皆一緒だから大丈夫、って…僕の無二の親友と、同じ目にはあわさない…! 絶対!!)
 漸麗は体を起こして、階段を這い上がっていく。


☆   ☆   ☆   ☆   ☆    ☆   ☆   ☆   ☆   ☆


「はーい、結構重要な事がわかったみたいよ。大事だからしっかり聞いてね」
「なにが解ったんだい!?」
『アッサシーナ・ネラ』と三池 惟人がほぼ、同一人物だと突き止めていた羽入 勇(はにゅう・いさみ)浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい) 北条 円(ほうじょう・まどか)影野 陽太(かげの・ようた)らの元に、ニセフォールが戻ってくる。
「あ・わ・て・な・い…って言ってる場合じゃないわね。ワタシ、爺やさんから聞いたこと全て、お話しするわ。まず、資料にはルクレツィアさんと真珠ちゃんのお父さん、真一さんの事故は昔の記事として、残っていたわ。ルクレツィアさんと真一さんが亡くなったのは間違いないの」
「じれったいわ、続きを早く教えて」
 円がじれたように言う。
「まあ、落ち着いて。爺やさんが言うには、ルクレツィアさんには兄弟同様に育った『ミケロット・ダ・コレーリア』という人物がいたらしいの。ルクレツィアさんとは11才くらい、歳が離れていたそうよ。彼、ミケロットはルクレツィアさんのお兄さんのおつきをしていたらしいのね。恐ろしいのはルクレツィアの兄。その名も『ケセアレ・ヴァレンティンノ』。ルクレツィアさんに対する執着が凄まじく、真珠ちゃんのおじいさん、真言さんが真一さんとルクレツィアさんの結婚を反対したのも、本当はそれが理由だったらしいわ。欲しいものを手に入れるためには、容赦のない男らしいわ。それにどうやら、その頃から、何か闇組織に関わる行動をしていたみたいなの。ヴァレンティノ家は、一種のマフィアのような存在だったそうよ。それをルクレツィアさんは嫌がって、家を出たそうなのよ。ちなみに真一さんとルクレツィアさんは考古学者で、遺跡の発掘にあたっていたそうよ。その時、なんらかの形で二人が赫夜ちゃんを保護したらしいわ」
「それで?」
「恐らく、そしてミケロットなる人物は、ルクレツィアの兄、ケセアレ・ヴァレンティンノに指示され、真珠ちゃんを操っているのよ。爺やさんたちは『ミケロット』に直接会ったことはないけれど、真珠ちゃんを何かの形、たぶん、あの指輪よね、で操って、爺やさんたちにも、爆発物の仕込みや、アリバイ作りを手伝わせたってわけ」
「…さっき、緋山 政敏様から、HCを通して三池 惟人が物憂げに『ルクレツィア様』とつぶやいていた、のを聞いた、と連絡がありました」
 翡翠が皆に報告する。
「ほぼ、決まりね」
 円がふうっとため息をつく。
「少し整理をしてみよう」
 勇がホワイトボードに書き出す。

・ルクレツィア・ヴァレンティンノと藤野 真一は夫婦で、考古学者。
・発掘にあたっていたとき、なんらかのきっかけで赫夜を保護。
・真一夫婦は事故死。真珠を一人残す。
・藤野 真言、真一の父。真一の死後、真珠を引き取る。
・藤野 真言、旧友、弓削 光政から赫夜を引き取り、藤野家当主に据える。
・ケセアレ・ヴァレンティンノ ルクレツィアの兄。怪しげな組織と関わっていた。ルクレツィアに執着心を抱いていた
・ミケロット・ダ・コレーリア ケセアレ・ヴァレンティンノの従者。そしてルクレツィアとも幼なじみ。

「ミケロットは確実に三池 惟人ね。それにケセアレの存在や、赫夜がルクレツィア夫婦に庇護されたというのも、不思議な因縁だわ」
 円はそうつぶやく。
「そうだね…三池 惟人が『ミケロット・ダ・コレーリア…』」
 勇がつぶやくと陽太は
「俺はミルザム様を守りにいきます!」
 と、ガタン! と椅子から跳ねるようにして、外へ駆け出していく。
 他の面々も、自分たちで出来ることを遂行するため、動き始めた。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆    ☆   ☆   ☆   ☆   ☆


 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、爺やに真言の携帯電話の番号を聞き出していた。
「どうするつもりですかな…」
 静麻はルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)の携帯を借り、藤野 真言のもとへ電話をかける。
「本当は地球まで行って、事情を詳しく知りたかったが、2、3日はかかる。だから爺さん、あんたが仕える『藤野家当主 藤野 真言(ふじの しんげん)』に直接、話をきくことにする」
「な、なんと、恐れ多いことを…!」
 爺やは慌てて身を起こし、静麻を止めようとするが、それを静麻は制止する。
「あんたたちにとっては、雇い主であり、畏怖すべき相手だろう。だが、俺には関係のないことだ。俺、いや、俺たちにとって大事なのは、真実を知り、赫夜と真珠を助けることなんだ。あんたたちが知らないことも、真言さんとやらは知っているはずだ。…俺にとって大事な人はもう、この世にはいない。そんな目に赫夜と真珠を遭わせたくないんだ」
「…そういうことなら、まず、私が真言様にお取り次ぎしましょう」