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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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第二章 『物体』の正体、判明!

「助かったぜ。ありがとよ!」
 物体の上までやってくると、武は玲奈の小型飛空艇から手を離してどこかへ行ってしまった。
「まったく、非常識なやつもいたもんだよ」
 玲奈は、そんなことを言いながら彼の後ろ姿を見送った。
「さて、気を取り直して調査といこう。色々スキルを使って、反応を見てみるかな。まずは……」
 玲奈は『殺気看破』を使った! 近くに害意をもった者はいないようだ。
「ふむ、次はこれよ」
 玲奈は『ツインスラッシュ』を放った! しかし何も起こらない。
「それならこれでどうだ!」
 玲奈は『先の先』で先手をとりやすいように構えた! しかし何も起こらない。
「ふふ、やるわね。でも今度は今までとは違うわよ!」
 玲奈は『ギャザリングヘクス』で魔力を高め、『雷術』を発動させた! 流れるような連携技!
「うお、危ね! 何すんだ!」
 近くの生徒に怒られた。
「おおおおお、私のばかあああ!」
 玲奈が崩れ落ちて嘆く。残念、彼女は調査向きのスキルをもっていなかった。玲奈は、光学迷彩で姿を消した。

「ラーメンどんぶり」
「巨大機晶姫だったら面白いんやけどな」
「あからさまに船だろ……」
 高村 朗は、物体についての情報をみんなから集めている。そこに、武が入ってきた。
「きっとこれUFOだって、絶対UFOだって、ホントだって!」
 朗は武を無視して話を進める。
「やっぱり、船だと考えるのが妥当だよなあ。羅針盤もあることだし」
「きっとこれUFOだって、絶対UFOだって、ホントだって!」
「となると次に調べるべきなのは……」
「信じてねえな! 俺が掘り出して証明してやる!」
 武はパラミアントに変身すると、ドラゴンアーツを使い、拳で物体の発掘作業を始める。それを見て、発破を行う予定の影野 陽太(かげの・ようた)は、自分も彼を手伝おうと思った。
「でもその前に、リフルさんに挨拶しておかないと」
 リフル絡みの事件に関わったことはあったが、リフル本人とは今日が初対面だ。陽太は、リフルに礼儀正しく挨拶をした。
「初めまして、影野 陽太です。今回は邪魔な土砂を取り除くことでお役に立てればと思っています。よろしくお願いします」
 ――防毒マスクをかぶったまま。
 用心のためとはいえ、それは周りから見ればなかなかシュールな光景だった。しかし、リフルは気にしない。彼女にとっては、そんなことより陽太が手に持っているものの方が重要だった。
「リフルさん?」
 陽太はリフルの視線を辿る。
「これ……ですか? いります? どうせすぐ溶けちゃいますし」
 陽太はパラソルチョコをリフルに差し出した。彼はこれで物体の上までやってきたのだ。
「ありがとう。よろしく」
 リフルはパラソルチョコを受けとる。これで、陽太は『パラソルチョコの人』としてリフルの記憶に残ったことだろう。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ……ゼェハァ……ぽりぽり(SPタブレット)……オラオラオラオラオラオラオラオラオラ……」
 武は狂ったように発掘作業を続けている。そろそろ手を貸して上げた方がよさそうだ。陽太はリフルへの挨拶を済ませて武の横にやってくると、爆薬使用の意志を伝え、武を下がらせた。
「結局、この物体の構造や材質は分かりませんでしたが、強度はかなりのもののようです。となると注意すべきは周りへの被害ですね……」
 陽太は綿密な計算をして、爆破すべき場所を決めていく。
「よし、あとは爆薬をセットして、破壊工作のスキルを使うだけです」
 そこで、陽太は重要なことに気がついた。
「あれ……し、しまったあぁ! 爆薬を持ってくるの忘れたあぁ!?」
 ※破壊工作のスキルを使用する際には、爆薬の調達過程を明確にしましょう!
 おろおろする陽太。そんな彼の肩を、後ろから叩く者があった。
「ん?」
 陽太が振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。その代わり――
「おや、こんなところに爆弾が! 親切な人もいるもんです。姿を見せないのは、きっとシャイな方だからですね。ありがたく使わせてもらいましょう」
 陽太は爆弾の大まかな威力を予想し、そこらに設置していく。全てを設置し終わったとき、彼は再び重要なことに気がついた。
「あれ? この爆弾、遠隔操作で起爆するタイプみたいだけど、スイッチはどこにあるんでしょう?」

「ようやく準備が整いましたね。派手な発破で、みなさんの求めるお山の秘密を、白日の下に晒して差し上げます。それはもう、歴史に残る大規模な地滑りが起こる勢いで!」
「……お嬢、本当にやるんですかい?」
 宙波 蕪之進が、不安そうな目で藤原 優梨子を見る。優梨子の手には、爆弾の起爆スイッチが握られていた。
 最初にヒラニプラの闇市で買った手榴弾は、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)の起こした風にさらわれて爆発してしまった。しかし、その後も闇市を探し回り、優梨子は怪しげな爆弾と起爆装置のセットを手に入れたのだ。
「ポチッとな」
「あ」
 優梨子は、前触れもなく起爆装置のスイッチを押す。凄まじいとともに、山中に仕掛けられた爆弾が爆発した。陽太が設置した爆弾も爆発する。
「うわあ!? これって、もしかして減点ものぉ!?」
 爆風で宙に投げ出されながら、陽太は自分の身よりもそんなことを心配していた。御神楽 環菜(みかぐら・かんな)にぞっこんの彼は、己を磨いて環菜に認めてもらうべく、人の役に立てたと思う度に自分の中でポイントを加算しているのだ。
「悪の組織の仕業だって! 絶対悪の組織の仕業だって!」
 武は嬉しそうだった。

  ☆ ☆ ☆

 陽太が爆弾をせっせと設置しているころ、久途 侘助(くず・わびすけ)香住 火藍(かすみ・からん)は、スタナードのことを監視していた。
「機晶姫の組み立てや修繕ができるなんて、只者ではなさそうですね」
 火藍が言う。
「確かにな。一体何を考えてるのか、直接説明してもらおう」
 侘助は一番手っ取り早い方法を選び、少し離れた場所にいるスタナードに向かって歩き出した。スタナードのところにたどり着くまで、二人は物体についてあれこれと話し合う。
「しっかし、このでっかいの何だろうな。十二星華に関わるものなら、5000年前に存在していたものなんかな?」
「その可能性はあるでしょうね」
「飛行艇やゴンドラあたりかねぇ。観覧車……だったらかわいいもんなんだが」
「それはないでしょう」
「あ、乗り物とは限らないのか。規格外の刀だったら、振るってみたいもんだ」
「あんた、本気ですか」
 いつも通りの会話をしているうちに、二人はスタナードの目の前にやってくる。
「ちょっと聞きたいことが……」
 侘助がスタナードに話しかけたそのとき――
 派手な爆発音とともに物体周辺から土砂が舞い上がり、物体が斜面を滑り落ちてきた。
 侘助は禁猟区のスキルで物体が動かないか注意していたし、火藍は女王の加護を受けていた。おかげで、二人は咄嗟の出来事にも反応することができた。
「危ない、下がってろ!」
 侘助は土砂を氷術で凍らせ、奈落の鉄鎖で氷塊を地面に落としていく。地盤の緩さを危惧して今回奈落の鉄鎖は使わないつもりだったが、やむを得ない状況だ。
「ここは危険です。速やかに退避してください!」
 侘助を信じ、火藍は近くの生徒たちを下がらせる。
「おりゃあああっ!」
 干渉可能な範囲が限定的である奈落の鉄鎖で対処しきれない氷塊は、スタナードが背中の特大ハンマーで豪快に粉砕した。

「わー! 福ちゃん、どうしよう!」
『ドウシヨウッテ、ソンナコト言ッテルヒマアッタラ、逃ゲナサイヨ!』
 侘助たちの気付かないところで、橘 カナ(たちばな・かな)は迫り来る土砂に飲み込まれようとしていた。カナとハプニングとは、切っても切れない縁にあるのだ。しかし、この危機的状況にあっても市松人形の『福ちゃん』片手に一人二役をこなしているのは、あっぱれと言うよりほかない。
「まあ、悪くない人生だったわ……」
『チョットかな! 諦メルノ早イワヨ!』
 カナが目を閉じる。その瞬間、彼女の体がふわりと浮いた。
「……あれ?」
 次にカナが目を開けたとき、彼女は無事だった。先ほどまで立っていた場所とは大分離れたところにいる。やがてカナは、自分が誰かに抱えられているのに気がついた。
「ったく、なにボサっと突っ立ってるんだ」
 カナを抱きかかえた男、武ヶ原 隆(むがはら りゅう)が彼女を地面に下ろす。
「だ、大丈夫か?」
 隆のパートナーリニカ・リューズは、心配そうにカナの顔を覗き込んだ。
「うん、大丈夫よ」
『助カッタワ』
 カナが隆たちに礼を述べていると、隆の背後から声が聞こえてきた。
「あー、武ヶ原。やっぱり来てたんだねー」
 甲斐 英虎(かい・ひでとら)だ。英虎はいつもの通り、機嫌のよさそうな顔をして近づいてくる。
 英虎の後ろでは、甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)がこっそりと隠れるようにしていた。英虎とは対照的に不安そうな顔をしたユキノは、英虎の制服の袖を引っ張って言った。
「……申し訳ありません。武ヶ原さまが怪我をしたり、危ないことをされたりしないよう注意しろ、とのことでしたのに」
「武ヶ原の姿が見えなかったんだから、ユキノが気にすることはないよー。さしずめ、どっかに隠れて様子を見てたんでしょ」
 英虎は優しくユキノの頭を撫でると、隆に視線を移した。
「ところで、この間みんなが遺跡から帰って来たとき、なんで武ヶ原はボロっちくなって髪が焦げてたの?」
「……」
 隆は言葉に詰まる。その反応を見て、英虎はニマニマと笑みを浮かべた。
「何となく想像つくよ。みんなと一緒に行動し辛くて、別行動でもしてたんでしょー」
「それは……」
「あ、図星? やっぱりそうなんだ。ふっふっふ」
「貴様!」
「わー、暴力はんたーい」
 逃げ回る英虎と、それを追いかける隆。ユキノは、どうしたものかとおろおろしながら二人を見守っていた。
「ははは、ちょっとからかいすぎた。このくらいにしとくから許してよー」
 英虎が足を止めて、ごめんごめんと手を合わせる。
「ふん」
 隆は「絶対誰にも言うなよ」という目で英虎を睨んだ。
「隆は隆なりに、リフルに悪かったと思ってるんだ。でも――」
「おい、リニカ、余計なことを言うな!」
 フォローしようと口を開くリニカに、隆は声を荒げる。
「まあまあ、そんな言い方しなくても」
(なるほどね)
 隆を宥めながら、英虎はリニカの気持ちに気がついた。
「さ、そろそろ俺たちも働こう。咄嗟に爆発に対応してくれた人がいたおかげで、生き埋めになった人はいないみたいだけど、怪我してる人とかはいるかもしれないからねー」
 英虎が物体の方を見て言う。侘助や火藍、スタナードの他、医学の心得があるクレア・シュミットなどは、率先して行動を起こしていた。
 英虎が敢えてリニカに話かけなかったのは、部外者が口を挟むのもどうかと考えたからだ。それよりは隆に協力することでリニカの信用を獲得し、彼女が自分から話してくれるのを待とう。そう思ったのだが――
「あなたが武ヶ原くんね!」
 橘 カナ。この少女がなかなかやってくれる。
「あたしカナよ。こっちは福ちゃん」
『アナタノコト知ッテルワヨ。りふるヲ避ケテルデショウ。意地ッ張リハもてナイワヨ』
「もー、福ちゃんてばー。でもリニカも偉いわよね、いつもそばでサポートして」
『モシカシテ彼ノコト、好キナノカシラ?』
「えー!? そうなの!? そうなの!? キャー!!」
 カナは一人で盛り上がり始めた。
「はあ?」
「わーわーわー!」
 隆は、カナが何を言っているのか分かっていないようだ。リニカは、カナの肩を掴んで思いっきり揺さぶった。
「ど、どうか落ち着いてください」
 カナがガックンガックンなっているのを見て、ユキノはポシェトからキャンディを取り出す。そして、それをリニカの口に放り込んだ。
「わーわーわー! ……あ、甘い?」
 ようやくリニカが手を止める。
「あ、頭が……」
 カナはふらふらになっていた。
『トニカク、セッカクダカラ、アナタタチヲ手伝ッテアゲルワ!』
「何かしてほしいことある? 友達作りの手助けから恋のキューピッド役、夕飯の献立のアイデア出しまで、何でもやってあげる!」
 カナはハートの機晶姫ペンダントをちらちらさせつつ、ハイテンションで言う。
「何もしなくていいから、帰ってください……」
『残念ナガラ、ソウイウ邪道ナオ願イハ受ケ付ケテナイノ』
 リニカの願いはあっさりと却下された。
 結局、爆発の被害状況を見て回るという隆たちの仕事を、カナが手伝うことになった。
「お、おい、何するんだよ」
『イイカラ黙ッテナサイ!』
 カナは隆とリニカを必要以上にくっつけて歩かせる。
「……これでいいのかねー?」
 疑問に思いながら隆たちの後をついていく英虎に、ユキノはいつもより更に寄り添うのだった。