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リアクション
【2・会話】
「はぁ……まったく、どうして私がこんな苦労を……」
ビルの屋上から屋上へと軽やかに飛び移りながら、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は面倒そうにぼやいていた。
しかしぼやきつつも、携帯電話での状況把握を欠かさないでいる。
『はわ、見覚えの、ある顔……見るからに寒そうな、格好の人……だから、名前が見る寒(ミルザム)なの?』
ふいに、通話中だったパートナーのひとりエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が驚きの色を含んだ声をあげる。
「どうしたの、エリー。見つけたの?」
『う、うん。そう。間違いないよローザ。東の大通りを走ってる。追っ手の数は三人、見るからに怖そうな感じの男の人』
「わかった。そのまま追いかけて。私達は先回りするから」
『うん! このまま行くと多分、あっちの空京ゲームセンター前を通る筈だからっ!』
そこまでで通話を切り、屋上を駆ける足をより速く動かしていく。
(全員の服に小型集音マイクをつけてあるから、さっきの会話は聞いてる筈。ふたりも先回りできるといいけど)
他ふたりのパートナー、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)と上杉 菊(うえすぎ・きく)のことを思い浮かべ、そしてまた屋上を飛んだ。途中で携帯が鳴った。
器用に飛んでる最中に通話ボタンを押し、
「もしもし?」
着地と同時に受けるローザ。
『もしもしローザ、わらわなのだよ』
「ライザ。さっきの聞こえてたわよね?」
『勿論。わらわ達は運がいい、今そのゲームセンター前にいる』
「そうなの? わかったわ、じゃあ私も急ぐわね」
再び電話を切り、またビルを飛んで。
やがて空京ゲームセンターから少しだけ離れた位置にある、手頃な五階建てビルの屋上に辿り着いた。
(ここがよさそうね。さてと、それじゃ……)
ローザは、そこにてきぱきとスナイパーライフルを設置していく。
そんな彼女の耳に、屋上を全力ダッシュしてくる足音が響いてきた。かと思うと、その足音の主は別の屋上から飛び。
そのままアリス特有の背の羽を羽ばたかせつつホバリングし、最後は一気にローザの隣へと着地したのは、エリーだった。
「おまたせ、ローザ。シリウス達はもうすぐこっちに来るよ」
「了解よ。遠目にも見えてきたわ」
ローザの言うように、やがて喧騒がここまで届いてきた。
「急いでホイップさん!」「ああもう、こんなに早く次の追っ手に見つかっちゃうなんて」
「待てやこらあぁあぁあ!」「カンネンするですう!」「ふんごぉぉ」
シリウス達は今にも捕まってしまいそうな距離で駆け、
やがてローザの射程範囲内に突入する。
「さあ、皆。仕掛けるわよ!」
その叫びと同時に、エリーはあるものを放り投げた。
それは事前にハンドガンの弾丸から取り出しておいた火薬と、硝安、そして粉々に擂り潰したアルミホイルを混ぜたもの。それらの相乗効果が何を生み出すかと言うと、
シリウスとホイップの背後で、軽い閃光が弾けた。
そう、簡易の閃光弾だったのである。
「な、なんじゃあぁあ?」「まぶしいですう!」「ふんごぉぉ」
追っ手の三人が思わず目を覆う頃には、エリーは既に彼らの背後へ華麗に着地していた。
更にローザが先頭にぼけっと立っていた男へと、シャープシューターを用いたとどめの一撃をくれてやり。
一番騒いでいた男は、最後はうめき声すらあげられず気絶した。
「よし、わらわたちも行くか!」「了解です!」
それを確認し、ライザと菊も物陰から飛び出した。
まずライザが処刑人の剣を振り上げて斬り込んで行く。
「わっ! あ、あぶないですう!」
真ん中に位置していた男は、ようやく視界を復帰させて攻撃を交わしていくが、
「いえ。あぶないのはこれからですよ?」
できた隙を狙われ。菊の和弓によって放たれた矢を右肩に受け、血を噴出させた。
最後尾の男は慌てて駆け寄ろうとしたが、
「くぅっ。お前はあっしらに構わずあいつらを追うですう!」「ふ、ふんごぉぉ!」
「殊勝な心がけですけど、それはもう無理ですよ?」
その意味がわからず男達が前を見ると、
そこかしこが氷術によって凍結しており。倒れた状態で固まっている看板やゲーセンのマスコット人形、放置自転車などが邪魔で、容易く追える状況ではなくなっていた。
「ふ、ふんごおぉぉっ!」
なぜか唸ってばかりの男は、状況が振りと見るや仲間に肩を貸し、ライザとエリー達に追われながら路地に逃げていく。
しかし。それさえも彼女達の作戦だった。
狭い路地では、進行方向は当然制限される。
つまり……格好の的になるということだ。
「はい。作戦終了よ」
ローザのライフルが、再び轟音を奏でた。
ちなみに余談ではあるが。
戦闘後に、シリウス、ライザ、菊、あとホイップがこんな掛け合いをしていた。
〜シリウスとライザの会話と、ホイップの思考〜
「其方が女王候補か。成程、善い眼をしている――だが、まだ弱く迷いを抱えているな」
「え、そうですか? それはありがとうございます」
(シリウスさん。後半部分についてはスルー?)
「迷うでない。女王とは、民を導く存在ぞ。例え迷うても、決を下したなら、後はただひたすらに一本道を征くのみ。怯むも戻るも叶わぬ事と胆に命じ、前のみを決然と見据えねばならぬのだ」
「そうですね。前を向いて進むのは大切ですよね」
(シリウスさん。まさかとは思うけど、適当に返事してないよね?)
「善き女王たろうとするならば、広く家臣より意見を募りてその言を聞き、奸臣の跳梁跋扈、専横壟断を断じて許さぬ事だ。頼みとする蒼空学園の者達を信じ、その者達に過ちが在らば是を正し、そして纏め導くは其方の役目ぞ。彼の者達を忠臣とするか奸臣とするか、全ては其方の胸三寸なのだからな」
「素晴らしい言葉です! 私、感動しました!」
(シリウスさん。私、難しい言葉多くて言ってることの半分もわかりませんでした)
「妾が名はエリザベス1世。縁あらばまた会おう」
「はい!」
(…………)
〜シリウスと菊の会話と、ホイップの思考〜
「貴方様の瞳――いつも、斯様に憂いの色を帯びておられるのですか?」
「え、そうですか? ごめんなさい」
(シリウスさん。彼女は別に、謝って欲しいんじゃないと思いますよ)
「女王となられたなら、もう貴方様の御身は貴方様のものだけではなくなります。無私の心で、時に非情な決断を下さねばならない時もあるでしょう。しかし、それでも貴方様が貴方様である事には何ら変わりは無いのです」
「そうですね。私は私、それは大切ですよね!」
(シリウスさん。本当にちゃんと理解して答えてるんだよね……?)
「愛だけでは国は立ちません。利も、益も、理も、義も、全てを兼ね備えた君主となられませ。そして、善き国を、お造りになって下さいましね?」
「はい! 必ず!」
(…………理解、してるんだろうな、きっと。この人は、ちゃんと答えてるんだろうな)
やがて彼女らは別れて、それぞれの道へ歩いていった。
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