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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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「『美男ヒーロー(1716)競歩の快感』。今までの徳川幕府の腐った性根を叩き直すべく、詩穂は第8代将軍徳川吉宗になります☆」
「ああっ、語呂合わせは上手いですけど勝手に行かないでくださいー!」
 新しい歴史を作るとばかりに騎沙良 詩穂(きさら・しほ)=徳川吉宗ちゃんが、他の生徒をも巻き込んでまさに『改革』を始めようとしていた――。

「南鮪殿、それパラ実の『自称小麦粉』の苗じゃないですか〜!」
「あぁ!? いいんだよ、こっちの方がよっぽど金になんだろ。……ったく、オッサンをエサに豊美に近付いたと思ったら、このザマかよ……
 稲の代わりに自称小麦粉の苗を植え付けようとした鮪が吉宗ちゃんに窘められ、アレコレと愚痴をこぼす。もちろん従う気はさらさらなく、一旦稲を植える振りをして再び自称小麦粉の苗を植え付ける。ただ稲作と畑作の違いを鮪は分かっていないので、放っておいても育つことはない。もしうっかり育ってでもしまったら、それ以降の江戸の町には怪しげな粉と小判が飛び交っていたことだろう。

「美味しい! ですー。なんという……これが絹ごし。よろしい! 椎名真殿を【江戸幕府膳所台所頭:豆腐奉行】に任命するッ☆」
「お、俺は何故ここに……? どうしてこうなった?」
 絹ごし豆腐を掲げた吉宗ちゃんに半ば強引に任命されてしまった真が、まったく状況を理解できぬまま称号を与えられてしまう。

「しゃくらんぼぉー! 優梨子とあたし錯乱暴ッ♪」
 おそらく酒ではない何かに酔っ払った吉宗ちゃんが、寝間に優梨子を招き禁断の世界に足を踏み入れようとする――。

「もー! どれもこれもムチャクチャなことしないでくださいー!」

 確かに改革らしいといえばらしいのだが、やっぱりやり過ぎたようで豊美ちゃんのお仕置きを食らい、吉宗ちゃん=詩穂がぷすぷす、と煙を立てる。
「ちなみに、この本にも吉宗さんは少女の姿で描かれているんですー。やっぱり吉宗さんは『暴れん坊』のイメージなんですねー」
 苦笑交じりに豊美ちゃんが、次の時代へ一行を案内する――。

 江戸幕府第10代将軍、徳川家治。
 吉宗の寵愛を受けたとされる家治は、しかし幕政を田沼意次に任せきりにして趣味に没頭していたという過去から、暗君としてのイメージが強い将軍である。
 一説には将棋に熱中していたという家治、しかしここでは少々趣が異なるようである――。

「開発状況はどうなっている?」
 江戸城地下、家治と家治が認めたものだけが出入りを許されたその空間は、当時最新のカラクリに溢れていた。
「外形はおおよそ出来てるよ。動力部は今調整中だけど、それも後1ヶ月くらいしたら出来るかね」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)=徳川家治に促された平賀源内が、書物をペラペラとめくりながら答える。彼は幕政を任されていた田沼意次と懇意になり、「お前カラクリ得意なんでしょ? ちょっと将軍の趣味に付き合ってあげて。身分は保証するからさ」と誘われ、こうして家治の真の趣味である『ろぼっと』の製作に従事しているのであった。
「でも、ちょっと資金が足らないねぇ」
「どのくらいだ?」
「ちょっと1万両くらいだねぇ」
 ちょっと、と平賀源内は言っているが、確実にちょっとでは済まない量である。しかも既にこの『ろぼっと』というカラクリには十数万両が注ぎ込まれている。明らかに幕府の財政はこれのせいで傾いていた。
「ぐ……しかし、日本のからくりの底力を見せつけるためにも、これは必ず完成させねば……! デーゲンハルト、御触書を出しておいてくれないか」
 唸りながら家治が、傍らに立つデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)の名で御触書を出すように告げる。実際、民衆の前に現れたデーゲンハルトは『龍神の遣い』と称され、家治や意次並に権威を持っていることになっていた。
「またか……あまり程度が過ぎると、民衆に反旗を翻されるのではないか?」
「このロボが完成すれば、必ずや日本の新しい夜明けとなるはずだ! それまでは民には苦労を強いてもらうことになるだろうが」
 そう言う家治だが、デーゲンハルトはこの事業がほぼ、家治の個人的な趣味であることを察していた。
(……まぁ、本当に程度が過ぎれば、豊美殿が止めてくれるであろう。何せこの空間を作った張本人であるからな)
 そのようなことを思いつつ、デーゲンハルトが家治の指示を取り次ぐべくその場を後にする。家治はなおも源内と、乗って操縦出来るには特別な因子が必要になった方がいいのかとか、近距離用の武装に使用するのは剣タイプか槍タイプか斧タイプかなどを話し合っていた。
「いや、漢ならば己の拳のみではなかろうか?」
「わしは剣が好きだねぇ。大きければ大きいほどいいぞ」
「私はやっぱり矛ですかねー。『ヒノ』に使い慣れてますからー」
 聞こえてきた第三の意見に、家治と源内が互いの顔を見合わせ、「俺じゃない」「わしじゃないねぇ」と呟き合う。
「エヴァルト……家治さん、まさかこういうのが趣味とは思いませんでしたよー? で、その趣味のために皆さんがどれほど苦しんでいるか分かってますかー?」
 あくまで微笑みを浮かべたまま、豊美ちゃんが『ヒノ』を未完成の『ろぼっと』へ向ける。
「ま、待って豊美先生! これは日本の新たな夜明けのために必要なんです! 完成した暁には豊美先生の手で好きに改造してもいいですからッ!」
「うーん、そう言われてしまうと少し興味が惹かれますねー」
 家治の言葉に、豊美ちゃんがすっ、と『ヒノ』を降ろす。畳みかけるように家治の言葉が続く。
「名称だって例えば……『からくり武者トヨミンガア』とかどうでしょう?」

「可愛くないので却下です!」

 どうやら名称がお気に召さなかったらしく、豊美ちゃんのお仕置きをもろに食らった『ろぼっと』がぷすぷす、と煙を立てていた。
「家治……エヴァルトさん、行きますよー」
「ああっ豊美先生、せめて動く様をこの目に……いたたたたゴメンなさい、我侭言いませんから許してー!」
 『ヒノ』に引っ掛けられてずるずる、と運ばれていく家治、もといエヴァルトであった。

「もー、皆さん将軍としての心得がなってませんよー。皆さんをまとめるって大変なことなんですよー」
 はぁ、とため息をついた豊美ちゃんの頭上で、ひゅるるる、と音が響き、やがてお腹に響く音と大輪の花が夜空に咲く。
「わー、今日はお祭ですねー。綺麗な花火ですー」
 目を輝かせて花火に見入る豊美ちゃん、同じ空の下では十六夜 泡(いざよい・うたかた)に連れられて祭というものを体験していたレライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)が同じように目を輝かせて花火に見入っていた。
「花火のようなもの、だったら見たことがあるだろうけど、『本物』を見るのは初めてだよね、レライアは」
「はい……! これが、打ち上げ花火というものなんですね」
 打ち上げの時に鳴る音で、観客にあっ、来るんだな、というドキドキを与え、花開くことで溜まったドキドキを弾けさせて一種の気持ち良さを与える。現代のものとは色も形も違いはすれど、花火自体がもたらすものは今も昔も大差ない。
 軒先を提灯が彩り、それに照らされた人々の顔は一様に明るい。羽目を外し過ぎてべろんべろんに酔っ払った人が芝居の登場人物の真似をしようとしてひっくり返ったり、あるいは川に飛び込んだりと、下品かもしれないが当人たちはきっと楽しそうな光景がそこかしこで見られる。
「賑やかですね、泡。……それにしても、私みたいな存在がいて大丈夫なんでしょうか」
 泡の胸ポケットからぴょこ、とリィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)が顔を出して泡に尋ねる。折りしも一行の前には見世物を上演している小屋が立ち、役者の演ずる声が外まで聞こえてきていた。
「心配するほど皆、気にしてないと思うよ。いちいち人の持ち物を探るような時代じゃないんだもの」
 確かに戦国時代ならば、フェスタスが顔を出した瞬間誰何を受ける可能性も否定出来ないが、今は江戸時代。大きな戦のない基本的には平和な時代の中では、「面白いもん持ってんなぁ」程度で済まされるであろう。
「そうですか……って、私は物扱いですか。でも……平和な時代って、いいですね」
 フェスタスの言葉に、泡もレライアも頷く。やがて一行の前には提灯の灯に照らされたやぐらを囲んで、大勢の人々が響く太鼓の音色に合わせて踊っていた。
「レライア、私達も混ざっちゃおう」
 泡がレライアの手を取って、盆踊りの輪の中に入っていこうとする。
「わ、泡さん、わたし踊りなんてしたことないですっ」
「こういうのは見よう見まねで何とかなるものよ。まずは一度経験してみなくっちゃ」
「は、恥ずかしいです……」
 提灯のように頬を赤く染めつつ、握られた手の温かさにレライアが微笑んだ。

『このまま平和であればいい』

 夜通し続けられた祭は、人々の無意識の思いの結晶でもあった。
 ――しかし、やがて時代は幕末へ、様々な思惑飛び交う激動の時代へと移っていくのであった。