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たっゆんカプリチオ

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たっゆんカプリチオ
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リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「これが、今噂のたっゆんサプリメントか。ふむ、どうしたものかなあ……」(V)
 購買にやってきた白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)は、小さな木の箱に収められた丸薬を面白そうに見つめました。
「おっちゃん、これを一つくれではないか」
「はいなんだな」
 購買でバイトをしているモップス・ベアー(もっぷす・べあー)が、紙袋に入れたたっゆんサプリメントを白絹セレナに手渡します。
「ふふふふふ、これで……」
 怪しい笑いを浮かべながら、白絹セレナは図書室の方へと行ってしまいました。
 さすがに明倫館の宅配便用の駕籠いっぱいに入れられたサプリメントは、数としてはもの凄い数です。それを見て、大ババ様も、単価としてはもの凄い安い値段で売り払ったのでした。おかげで、飴玉程度の価格のたっゆんサプリメントは飛ぶように売れて被害を拡大してしまったというわけです。
「これちょうだいよね。あ、それとそれも。もう、ぜーんぶちょうだいなんだもん」
 大量の品物をかかえて、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がレジに駆け込んできました。
「はいなんだな……って、こ、これは、ブ、ブ、ブラジャーなんだな」
 レジカウンターに大量に積みあげられた色とりどりのブラジャーを前にして、さすがにモップス・ベアーも顔を赤らめました。
「いいから、早く精算するのである」
 カウンターテーブルの上に顔を出そうとしきりに背伸びしながら、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がモップス・ベアーを急かしました。
「ああ、それから、このデータカードも一緒なのである」
 携帯電話用の画像記録用のカードをブラジャーの山の上に放りあげながら、ジュレール・リーヴェンディが言いました。
「はいはい、なんだな」
 あまりのんびりしているとますます恥ずかしいからと、モップス・ベアーはさっさとブラジャーの山を紙バックに詰めてカレン・クレスティアに渡しました。
「まいどありーなんだな」
「さあ、ジュレ、これで大儲けするわよ」
「うむ、期待しているのだ」
 思惑を秘めた目をキラキラと輝かせるカレン・クレスティアに、ジュレール・リーヴェンディは淡々と言いました。
「変な薬を売ってるのはどこ!? ここ? ここなの!!」
 入れ替わるようにして購買に駆け込んできたのは日堂 真宵(にちどう・まよい)です。
「いらっしゃいなんだな」
 のんびりと、モップス・ベアーが日堂真宵を迎えます。
「だあかあらあ、どおこおにあるのよお」
 完全に血走った目で、日堂真宵がモップス・ベアーに詰め寄りました。
「あ、あそこに、積んであるんだな」
 迫力に押されながら、モップス・ベアーが購買の中央に作られた特製ワゴンを指さしました。
「これね」
 日堂真宵が、つかつかとワゴンに近づいていきます。
 彼女としては、この丸薬は非常に危険でした。アーデルハイト・ワルプルギスに仕えるぺったんこ騎士団としては、たとえ男にしか効かないとはいえ、たっゆんになる薬など言語道断です。まして、風の噂では説明書に書かれている原材料には輝睡蓮の名前が挙がっているというではありませんか。輝睡蓮といえば、葦原島の原生林の奧にある湿地帯にだけ生えている特別な植物です。しかも、そのほとんどはいつぞやの海賊との戦いで焼き払われてしまいました。焼いたのは海賊たちだとはいえ、日堂真宵はその場に居合わせながらそれを許してしまったのです。責任は重大……かもしれません。
 ――もし、明倫館の人たちが、事の顛末をすべて知っていてこれを送ってよこしたのだとしたら……。まさか、環境破壊への報復? さすがに、そんなことは……。でも、もしそうだとしたら、はっきりいって当事者であったわたくしたちは……。ええい、たっゆんなど、何を恐れるものですか。こうなったら、ぺったんこ騎士団の名において、たっゆんに関わるものはすべて証拠隠滅……、いやいや、抹殺しなければ……。
「これが、諸悪の根源なのね。カレー色のオーバードライブ!!」
 積みあげられたたっゆんサプリメントを目の前にした日堂真宵は、いきなり禁忌の書を手にとると、それでワゴンを叩き割りました。
「きゃあああああ!!」
 それを目撃したベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が悲鳴をあげます。
「はうあ」
「間にあわなかったか」
 気を失って倒れ込むベリート・エロヒム・ザ・テスタメントをだきとめながら、土方 歳三(ひじかた・としぞう)が言いました。
「だいいち、それは俺のヒロイックアサルトではない!」
 もの凄く不満そうに、土方歳三が言いました。
 少し前に、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントと日堂真宵は言い合いをしていたのです。たっゆんになる薬の原料が輝睡蓮であることに焦っていた日堂真宵に、勘違いしたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、胸の大きさが機能を決めるわけではないみたいなことを言ってしまったので、日堂真宵が別の意味でマジギレしてしまったのでした。
「本が実体化した十三歳のくせして、並の大きさだからっていい気になってるわね」
 むんずとベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの胸をつかんで言うと、日堂真宵は「たっゆんに関わるものすべてを破壊してやるー。これはもう聖戦なのよー!」と叫んで飛び出していったのでした。
 いきなり胸をつかまれたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントはもう涙目です。
 普段から、悪の魔王になるのだとか妄想を垂れ流している日堂真宵ですが、今回は酷いですとベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは土方歳三とアーサー・レイス(あーさー・れいす)に言って、あわてて後を追いかけてきたのでした。
 結果、彼女は自分の本体を打撃武器に使われて気絶してしまいました。
「ああ、売り物に何をするんだな」
 あわてて止めようとしたモップス・ベアーを、日堂真宵は殴り倒しました。新たな気絶者が出ましたが、今度は誰も受けとめてくれません。ごろごろとモップス・ベアーは転がっていって、購買の隅で止まりました。
「こんなもの、こんなもの……」
 日堂真宵は、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体を使って、たっゆんサプリメントを叩き割って粉々にしていきます。
「お手伝いするんだもん!」
 その場に居合わせた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、マイクロミニスカートからすらりとのびた足で容赦なくたっゆんサプリメントを踏みつぶしていきました。たっゆんに対する敵意の表れでしょうか、踏まれたたっゆんサプリメントはほとんど粉末になっています。
「男のくせに、私よりたっゆんになるなんて、絶対に許されないんだから」
 バンバン床を踏みならしながら、小鳥遊美羽が叫びます。
 どうも、今回のたっゆんサプリメントは、ぺったんこな女子たちの高鳴る胸の希望を無残にもどん底までえぐってしまったようです。まして、同性ではなく、よりによって男に負けたという屈辱を与えられたという恨みは、計り知れないのでした。もちろん、女子としては、男に胸囲で負けたからと言って、本当はどうでもいいことです。けれども、たっゆんな胸になった男子生徒から、哀れむような視線をむけられて、「ふっ」とつぶやかれたら、堪忍袋の緒も切れようというものです。
「あーあ、もう、もったいないデース」
 アーサー・レイスが、二人が砕いたたっゆんサプリメントの破片というか粉末を、箒とちりとりで掃き集めながら言いました。
「アーサー、それ、即刻迅速かつ確実に処分しなさい!」
 むきーっと、日堂真宵が叫びました。
「分かっていマース」
 適当に、アーサー・レイスは答えました。
 彼としては、確実に処分するのであれば、それはカレーに混ぜて人に食べさせるのが一番だと心の中で思っています。きっと跡形もなく、この世から消えてしまうはずです。えっ、その後のこと? 彼がそこまで考えているはずがありません。
「ふむ、この薬は、実に古来の製法に忠実に作られた物であったようだな。石田散薬の製法と同じとは、明倫館侮り難し」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントをお姫様だっこしてかかえた土方歳三が、日堂真宵と小鳥遊美羽に粉砕されていく丸薬を見つめながら言いました。
「そうデース。明倫館には、ちゃんと御礼をしなくてはいけないデース」
「そうよ、お礼参りなんだもん!」
 アーサーの言葉に、別の意味で小鳥遊美羽が叫びました。
「御礼と言えば、カレーデース。このサプリメントを利用して、レトルトカレーを作って、明倫館にお中元返しをするのデース」
「それはいい。それなら、石田散薬を一緒につける意味がありそうだ。よし、ではさっそく準備をするぞ」
 土方歳三はアーサー・レイスをうながすと、まだ暴れている日堂真宵たちを放置して、集められるだけのたっゆんサプリメントの粉末を集めてその場を後にしました。
「こら、そこの生徒、校内での破壊活動は風紀委員が許しません。みんな、確保よ!」
 購買で暴れている者がいるという知らせを聞いた天城 紗理華(あまぎ・さりか)が、連れてきた風紀委員たちに命じました。
「かかれー!」
 風紀委員たちは二人に飛びかかると、折り重なるように上に乗って押さえ込みました。