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リアクション
第3章 a Day in the Life(1/3)
「愛がなせる素敵なエピソードだぁ〜〜!?」
怒りの拳でテーブルを叩き、フリューネは勢い良く立ち上がった。道明寺玲からパパの言葉を聞いたフリューネは怒りマックスである。古代戦艦の甲板に集まった生徒たちは、彼女の火のような抗議に目をしばたかせた。
「感情のない機械みたいな男子を生み出しといて、どこが素敵なのよ、最悪よ! 最悪の極みよ!」
玲としてはパパをフォローしたかったが、残念ながら言葉が思い浮かばなかった。
「……あんなぁ、実はパパさんから俺ら仲直りを手伝ってくれって頼まれてん」
口を開いたのは七枷 陣(ななかせ・じん)である。
「リーズのアホが調子こいて十人前も食っちまった所為で手伝う羽目になってんけど……」
「ちょっと、人前でそんな事言わないでよ、恥ずかしいよ」
リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が顔を赤らめて服を引っ張ると、陣は耳を塞いだ。
「あー、聞こえへん聞こえへん」
「……なんか知らないけど、あの人の事だから、ろくでもない手段で手伝わせてるんでしょう」
流石は娘、勘が鋭い。
パパを毛嫌いしているフリューネだが、リーズはパパの言い分にも正しい事はあると思っていた。
レストランであったパパはウザそうではあったが、悪い人間には思えなかったのだ。ウザそうだったが。
「フリューネさん達は騎士の伝統に反して金儲けに走るパパさんが嫌いなんだよねぇ」
「……まぁ、それ以外にも嫌いなところはあるけど、一番はそこよね」
「でも、お金がなきゃ服もパンも買えないんだよ。くぅくぅお腹が空きました……、だもん。そうなったらどうするの、強奪なんてするわけにはいかないよね。食べるだけのお金があるから、強奪しなくても大丈夫、だから騎士道に反しなくて済むんじゃないかなぁ。お金儲けって、遠回りに伝統を守ってる事になると思うんだけど……?」
「それはまぁ、そうかもね……」
リーズの言葉にフリューネはしぶしぶながら頷いた。
「リーズのくせにまともな事言うやないか」
「リーズのくせには余計だよっ」
陣の言葉に、リーズは頬を膨らませた。
二人の親戚【スケルツァーノ・ロスヴァイセ】と【カークウッド・ロスヴァイセ】は、その様子を遠目に見ていた。
「……気になりますか?」
ふと、御凪 真人(みなぎ・まこと)は二人に声をかけた。
「ええ……、私達も胸を痛めております。お嬢様もいい加減旦那様と和解出来ればよいのですが……」
「和解出来ても、ヒルデガルド様が旦那を許さんだろうがな」
丁寧に語るスケルツァーノに対し、カークウッドはぶっきらぼうだ。
「お二人はパパゲーノさんに悪い印象は持っていないようですね?」
「型破りなところがありますが、お優しい方ですから」
「俺も旦那のことは嫌いじゃない。なんだかんだでお嬢を大切にしているのはわかるからな」
そこにパートナーの名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)から着信があった。
『頼まれていたパパゲーノの会社の業績と奴の素行、調べがついたぞ』
「お疲れさまです。で、どのような感じですか?」
『例のフリューネグッズとやらは相当な売れ行きらしい。フリューネ景気に便乗する形でかなり業績を伸ばしている。部下や取引先からの信頼も厚いぞ。人間としてはアレだが、仕事に関しては敏腕と評判、一目置かれているようだ』
「なるほど……」
『娘をグッズ化するのは痛すぎるがな。男親はウザがられると言うに、あの溺愛ぶりでは尚更ウザイ事じゃろう」
「でも……、俺と実家のようにこじれる前になんとかしてやりたいですね」
『……ふん、おぬしもお人好しだな』
◇◇◇
「やっぱり実際にパパの仕事を見てもらうのが一番だと思うのよ」
カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)はどすんとダンボールを置いた。
パパがフリューネグッズを作ったのはフリューネが好きだから、きっとグッズからはパパの愛が垣間見えるはず。カレンはそう考えて、むすめカンパニーからたくさんの商品を借りてきたのである。
カレンが商品を並べてる間、相棒のジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が話しかけた。
持参したラジカセのスイッチを入れ、なんだかもの悲しい音楽を流す。
「……な、なに、この辛気くさい空気!?」
「我は機晶姫ゆえ、親と言う存在はいない。しいて言えば、我を造ってくれた人間が親と言えぬ事もないが、我には以前の記憶が無い。親はいないも同然だ。いない者とは喧嘩も出来ぬ、それはちと寂しいものだ」
そう言って、フリューネを羨ましそうに見つめた。
「例えケンカをしていても、家族は家族。粗末にあつかってはならんのだ」
「……それはわかったけど、このBGMはなに?」
「雰囲気作り」
そうこうしてる間に準備が整った。
「それじゃ、最初に紹介するフリューネグッズはこれ、1/8フリューネフィギュアよっ。丁寧に作り込まれたディティールもすごいけど、注目すべきはこの衣装、なんとこれ実際のフリューネさんの服と同じ素材で出来てるの。このこだわりには、フリューネファンも脱の帽の一品だよ。やっぱ、いいものを作るには愛が不可欠なんだよね〜」
「……ちょっと待って」
フィギュアを握りしめたまま、フリューネは固い声を出した。
「これ、衣装を脱がせられるみたいなんだけど……、この下はどうなってるのかな?」
「えっと、その……、そこのディティールも納得の作り込みようだって……」
「あのクソ親父っ!」
バキィというすごい音と共に、フリューネの手の中でフィギュアが砕け散った。
「じゃ、じゃあ別のやつ。フリューネのブロマイドなんだけど……」
「あの、このブロマイド、どれもアングルが妙な気がしません?」
カレンの配ったブロマイドに、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は眉をひそめた。
「たぶん、これ隠し撮りじゃないですか。カメラ目線が一枚もありませんし、しかも、スナップ写真みたいなのばっかりです、望遠レンズで遠目から撮ってたんじゃないですかね。きっと訴えれば勝てると思いますよ」
「年頃の娘の盗撮写真で金儲けなんて……、ゆ、ゆるせないわ!」
夜叉の形相でフリューネはハルバードを握りしめる。
「い、いけないわ!」
カレンは慌てふためいてダンボールをまさぐった。
こんな最低な商品ばっか紹介していたら、二人の溝はますます広がってしまう。いや、既にもうこの二商品でレッドゾーンに突入している。ここは彼女の琴線に触れるアイテムでなんとか溝を埋めたい。例えば、フリューネが子供の頃、パパが子守唄で聞かせた曲のオルゴールとか、そんなハートフルアイテムがあればきっと……、全ては上手くいくはず!
……なんだけど、そんなものはこの世には存在しなかった。
「うう……、ゴミしか出てこねぇや……」
◇◇◇
「あーもう! うだうだと! 面倒ですわ!」
しびれを切らしたノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が飛び出した。
「騎士らしく、剣で勝負しましょう。貴女が負けたら仲直りする、その方が話が早いですわ!」
「あの、お嬢様。説得なら私が……」
契約者の風森 望(かぜもり・のぞみ)が止めようとするも、彼女はどうにも止まりそうにない。
「元を辿れば、わたくしが料理を食べた所為です。望さんはおすっこんでいらして!」
おもむろに盾を突き出し、フリューネに体当たりを仕掛けた。怯んだ隙に、翼の剣で斬り掛かる。
だが、盾をどけるとフリューネは既に飛翔していた。
「くっ、チチゲーノ様ととっとと仲直りしなさい!」
「誰よ、チチゲーノって! 人の家で暴れないでっ!」
ハルバードをくるりと回し、おもくそノートの脳天をぶっ叩いた。
その衝撃たるや凄まじく、脳がころんころんと左右に揺れて、彼女はパタリと倒れた。
「騎士の誇り、商人の誇り……、そこに貴賎などありませ……、ん……」
完全に気を失ったノートを、望はため息まじりに抱き起こした。
「申し訳ありません、フリューネ様。お嬢様がとんだご迷惑をおかけしまして……。ロスヴァイセ家は名門なので粗相のないようにと言っていたのですが、ちょっと頭のほうがアレでございまして……」
「それなら仕方ないわね」
「そう言って頂けると助かりますわ」
それで済ませていいのだろうか。
「ところで、お嬢様が先走ってしまいましたが、どうか私の話もすこし聞いては頂けませんか?」
「またパパと仲直りしろって話?」
望は頷き、話を続けた。
「私が言いたいのは、人は突然いなくなってしまう事もある、と言う事です。例えどんなに大切な相手であっても、伝えたい言葉があったとしても。明日、いえこの瞬間ですら、どのような事が起きるのかわかりません。今出来る事は思い立った時に行うべきではないか、と」
「オレもその意見に賛成です」
リュースが言った。
「……オレは幼少の時に両親を目の前で殺されました。あなたはお父上を嫌いだと言いますが、それはお父上が生きているからこそ出来ることです。和解しろとは言いません。けれど、話すことが出来る幸運は知っておいてください」
すこし苛立った調子で話すと、彼は目を伏せた。
「……すいません。でも、オレからすれば、とても贅沢な悩みです。生きてるから、嫌いって言うことも出来るし、話をするしないって選択も出来る……、両親を失ったオレには出来ない選択なんです。オレみたいな人間もいるんです、どうか今を無駄にしないでください」
「リュース……、ごめん、私……」
かける言葉を探したが、持たざる者ではないフリューネに言葉は見つからなかった。
辛そうなリュースの肩に、望はそっと手を置いた。
「先ほど、貴女はパパゲーノ様の商品に怒ってましたよね。それで構いません。それが文句であるにしろ、伝えてみる事が肝心です。結果は二の次、とにかく一度会ってみてはどうでしょうか?」
そして、ユーフォリアのほうに目をやった。
「ユーフォリア様からも一言言ってあげてください」
「……わたくしから言う事は何もありませんわ」
「え? どうして何もおっしゃってくれないのですか……?」
望の言葉にユーフォリアは答えなかった。
昨晩、パパがフリューネを大切に思っている事はわかった。
しかしだからと言って、仲直りの橋渡し役する事は出来ない。もし、彼女が仲直りを勧めたら、フリューネは『ユーフォリアが勧めた』という理由で仲直りをするだろう。それでは根本的な解決にはならない。
「これは家族の問題です。どう決着を着けるかは、パパさんとフリューネさんが決める事ですわ」
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