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リアクション
「一緒に苦労を分かち合えば、50キロなんて苦じゃないわ!!」
「水泳、自転車とチームメイトの方々がつないできた『たすき』を、私達が途絶えさせるわけにはまいりません!」
そう言ってスタートしたのは、芦原 郁乃(あはら・いくの)と秋月 桃花(あきづき・とうか)。
ですが、30キロを過ぎた辺りで疲れが表面化してきました。
(……とはいうものの、50キロはやっぱりきつい……本当に桃花と走っててよかったわ。
これ、1人じゃ絶対途中で逃げ出してるよね……)
「郁乃様と走るのだから50キロなんて大丈夫って思っておかないと、明日の筋肉痛のことに想いを馳せてしまいそう」
すっかりへろへろでよろよろの2人は、もはや走っているとは言いがたい速度。
どちらかというと歩行に近いくらいの足運びで、少しずつ少しずつ、進んでいる状態です。
「多分、止まったらもう一度走り出すのはムリ……でももう少しがんばるぞ。
勝つか負けるかでなく、『たすき』はチームメイトの想いを繋ぐもの。
しっかり最後まで届けたいわ!」
「えぇ、死ぬ気で走ってしっかりゴールまで届けなくてはいけませんね」
郁乃も桃花も、互いを、そして仲間を想って、この状況を何とか乗り切ろうと気合いを入れ直しました。
【こりいとさ】の2人は、肩を組み合います。
(一緒に走る桃花との呼吸は、問題ありません。
見えてなくったって、お互いに考えてることやいる場所が分かるほどの仲だもの)
郁乃は、すぐ隣の桃花と視線を合わせました。
にっと笑ってから前を見据え、1歩ずつ確実に歩を進めます。
「静香さまや、以前助けたことのある東シャンバラ代王のセレスティアーナちゃんも遠くで見てるかも……がんばらなきゃ!」
「生前ほどの全力は出せないが……不敗の将たる軍神として名を馳せた我が力、見せてやらないこともないんだからなっ」
現在6番手の【東】、走者は 真口 悠希(まぐち・ゆき)と上杉 謙信(うえすぎ・けんしん)です。
2人とも志高く……あれ、もしや謙信はツンデレ?
(百合園は女の子が多いから体力勝負は参加してる方も少ないなぁ……ボクくらいかも知れないっ。
そのぶん、最後までリタイアせず完走しつつ上位を目指せたらっ!
男の子のボクががんばらなきゃ!)
(悠希は最近失敗続きだから、自信をつけるきっかけにでもなれば、な……)
何やら口には出せぬ考えをめぐらせ、悠希は拳を握り締めました。
その横顔を、謙信が見下ろします。
「ん?」
「あ、いや……がんばると言うても考えなしに猛進するのは蛮勇というもの。
それでは勝利はおぼつかぬ……か、勘違いするんじゃないぞっ!」
「うん、ありがとう」
不意に見上げられて気恥ずかしくなった謙信は、スキル『ファイヤプロテクト』を発動しました。
暑さ対策に……というのは口実で、悠希の注意をそらすことに眼目があったのですが。
「でも、こう見えてもボクおと……いえ何でもないです」
(危ない……性別は秘密でした)
謙信から心配されたことを受けて、素直にありがたく思いつつも、自分が心配する立場なのになぁとか。
ちょっと複雑な感情の悠希は、誰にも知られてはならない真実をついつい話してしまいそうになります。
どうにか抑えて走り続けていると、前方に巨木が倒れているではありませんか。
謙信を胸中に引き寄せ、ひょいっと跳び越えて見せる悠希。
必殺防御『全力の罠回避!』とスキル『超感覚』の効果です……ただし、この樹は自然に倒れたものと思われます。
(……ちょっと見ないあいだに、少し男らしくなったかな……?)
「……どうかなさいましたか、謙信さま?」
「な、何でもないっ、勘違いするんじゃないぞっ!」
その無駄のない身のこなしに、謙信は心中で感心します。
またもや悠希につっこまれてしまい、慌てて否定するのでした。
(疲労感でドリンクの味も分からない後半のマラソンにターゲットを絞るぜ!)
怪しいことを考えながら、給水所を手伝うジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)。
スポーツドリンクを手持ちサイズの容器に移し替えて、希望の選手に渡すのが仕事です。
(『自称小麦粉』だもんな……さて、何の効果も出ないかも知れないし。
突然気分がハイになって疲労感がなくなり、ある意味敵側のチームを助ける結果になるかもしれないな。
だが、薬の効果が切れると、一気にいままでの疲労感が襲ってくると思うんだ)
しかしジャジラッドの目的は、単なる給水に留まりませんでした。
アイテム『自称小麦粉』の実力を知りたくて、選手達を待ち構えているのです。
「幸運をもたらすかもしれない『妖精の粉』入りドリンクだ、がんばってくれ!」
と、トップ争いをする西シャンバラチームの選手達に、意味深な言葉をかけてみたり。
「トップとは10キロ以上も離れてるぜ?
ここに魔法のドリンクがあるんだが飲んでみる覚悟があるかい?
明日を捨てた者だけが飲むことを許された魔法のドリンクさ」
と、5位とか7位とかの西シャンバラチームの選手達に、運命を選択させたり。
(地獄を見るか天国を見るかは本人次第、ドーピングしようと勝てばいいのさ)
必殺サポートの効果でしょうか……どうやら見ている限り、悪い影響は与えていなさそうです。
ジャジラッド特製ドリンクが東西両チームにもたらすものは、乞うご期待っ!
「目標は制限時間内に完走すること。
もちろん、チームの勝利に貢献することも忘れちゃいないぜ!」
「マラソンのコース、たぶん罠いっぱいです。
走りながら、2人で進路上をよく見て罠を警戒します」
出発前の宣言は、やる気に満ち溢れていました。
しかし雨月 晴人(うづき・はると)とアンジェラ・クラウディ(あんじぇら・くらうでぃ)は、視界の奥の光景に思わず足をとめそうになります。
何やら、地面から煙が上がっているのです。
「2人3脚でフルマラソン以上の距離を走るだけでも、パラミタのオリンピックは半端じゃないと思っていたのだが。
こんな障害まで設置されているとは、やっぱりパラミタのトライアスロンはすごいんだな!」
「ハルト……あんまり喜べる状況じゃありませんよ?」
えらく嬉しそうに、晴人はアンジェラに視線を移しました。
逆に、アンジェラの表情はくもり気味です。
眼前の障害物に対する有効な対策を、見いだせずにいました。
「2人でともに困難を乗り越える。
その体験が、これからの俺達の原動力になると思うんだ。
気持ちを奮い立たせて一気にいくぜ!」
「しかたありませんよね……あやしいところ、あったらよけていきましょう」
晴人のプラス思考に、アンジェラも気をとり直します。
少しだけ速度を落とすと、一帯を慎重に走り抜けることで意識を合わせました。
「『精神感応』を活用して……心の声で歩調を合わせていくぜ!
ペースがきつかったら教えてくれな、相棒」
(1、2、1、2!)
「えぇ……いっきますよ〜運動会プロテインパワー!
フォオオオ!!」
そうして42キロ地点までたどり着いた、晴人とアンジェラ。
揃って、テンションを最高潮まで持っていきました。
これこそ、アンジェラの必殺技であり、晴人の必殺サポートなのです。
残る力を最大限に出しきり、一気にゴールまで駆け抜けます。
ちなみにハイテンションになるとアンジェラは奇声を上げますが、お気になさらず。
「きえぇえぇ〜!」
「ラストぉっ!」
超高速のままで、アンジェラと晴人はゴールテープへ突っ込みました。
勢い余って、砂浜に足をとられてしまいましたが。
「やったな相棒、おつかれさん!!」
「ハルトこそ、お疲れさま……です!」
転んだその場で仰向けになり、大の字で夕空を仰ぐ2人。
すがすがしい笑顔で、晴人は親指を立てました。
未だ興奮冷めやらぬ息づかいで、アンジェラも晴人の真似をします。
【UPW】、結果5位でのフィニッシュとなりました。
(手前はマラソン区域を担当しておりましたが……特に反応ある輩はおりませんでしたね)
口許を扇で隠し、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は息を吐きます。
それは安堵の吐息でもあり、残念のため息でもあり。
スキル『ディテクトエビル』を常時発動して観客のあいだを散策していたのですが、異常は見付かりませんでした。
(皆と合流して、他の区域の話も聞きましょうか。
何もなければ……まぁ、よいのですけれど)
契約者達を探して、狐樹廊は休養所へと向かいます。
冷たい飲み物を受け取り、4人でテーブルを囲むのでした。
「筋肉痛には……ならねぇと思いたいな」
「おぬしがなっても、我はならんぜ……」
休養所のベッドの上では、ラルクと『闘神の書』が、白衣を着た人達にマッサージをされています。
他にも競技に出場する予定があるため、疲れを残してはおけないのです。
そんな【イーシャン】は、落とし穴に落ちた悔しさを原動力にして、なんとトップでゴールテープを切っていました。
つまり。
『さぁ、全組がゴール地点へと戻ってまいりました!
優勝は【イーシャン】、東シャンバラチームですっ!』
以下、順位は【西シャンバラ】、【ウエスト】、【WWW】、【UPW】、【東】、【こりいとさ】となっております。
どの組も諦めることなく、脱落もなく、最後まで全力を出し切りました。
「完走できて、本当によかったです。
今日のがんばりを、百合園のみんな、東シャンバラのみんな……そして、東代王としてがんばっているセレスティアーナちゃんに届けます」
「謙信もです、みんなありがとう!」
表では、選手達への競技後のインタビューが始まっています。
6位でゴールした【東】の悠希と謙信は、ビデオカメラに、そしてすべてのチームメイトに、手を振りました。
ちなみに、名の挙がった東代王は、2人共通の『心の友』です。
『選手の皆さん、本当にお疲れさまでした。
それでは、これより閉幕式に移ります!』
陽もどっぷりと暮れ、空には月星が輝き始めました。
本競技も、クライマックスを迎えます。
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