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豆の木ガーデンパニック!

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第1章 夢の国ムアンランド 2

 ちょうどネット配信生放送が強制終了させられた後で、環菜は衿栖に非難めいた目を向けられていた。
「もう、あれは言いすぎですよ〜、環菜さま」
「いいのよ。もとよりとっ捕まえるつもりなんだから。もちろん、横領罪ってわけじゃないけど、それなりの責任はとってもらうわ」
「夢安さんも、お気の毒ですね」
 天空のことは我知らずといったような環菜にお茶を差し出して、{SNL9999004#ルミーナ・レバレッジ}は苦笑した。きっと捕まったときには、前回を上回るお仕置きが待っているに違いない。
「いずれにしても、これでこの事件に関わる人は制限されたはずです。調査に関わる人たちに夢安がすがらざるを得なくなり、やりやすくなるかと思います。この映像を見てもなおかつ、悪用しようとする方は、環菜様と敵対したいんでしょうし、それは現地で対処していただくしかないですね」
 パソコンを操りながらネット上に映像を配信していた本郷 翔(ほんごう・かける)は、パタリとそれを閉じて窓の外を見つめた。
「これで懲りてくれるといいのですが……」
「ふん……馬鹿につける薬はないわ。私という手段以外わね」
 環菜の厳しい物言いに、翔もルミーナも、苦笑を浮かべざる得なかった。
「だから、こうして私自ら出向こうってわけじゃない。御神楽環菜がね」
 そして、それまでソファに座りながらなにやらごそごそと顔をいじられていた者が立ち上がると、今度は苦笑の顔が感嘆へと変わった。
 同時に、愛用の道具をしまった中原 鞆絵(なかはら・ともえ)が立ち上がる。
「想像以上ね……。自分でも信じられないぐらい」
「これでも、回数を重ねてますので。ただ、さすがに声などはあたしではどうにもならないんで、その辺は気を付けてくださいね」
 呆然と声を漏らした環菜に遠慮がちに答えた鞆絵は、横のカンナへと注意を投げかける。
「分かってるわ。いつもよりもより注意して、ね」
 カンナはそう言って頷き、再度環菜へと向き直った。
「こっちの案に乗ってくれて、感謝するわ」
「豆の木の上はお願いするわね」
「任せてちょうだい。上にはカンナ、下にも環菜。もしひっかかってくれたら、さぞかしガッカリすることでしょうね」
 近しい者が見ない限りほぼ同じに見える顔が、お互いを見合って不敵な笑みを浮かべていた。御神楽環菜が二人いる。そんな目の前の現実を見て、衿栖は思ったものだ。これ以上の悪夢は、きっとない。



 ネット配信の力をみくびるなかれ。誹謗中傷もさることながら、環菜様のお怒りまでもが勢い任せに広がっていくのである。そして、そんな環菜様の言葉に突き動かされた連中から逃げるのは、ムアンランドのオーナー、夢安京太郎であった。
「はぁ、はぁ……くそっ、なんだっつーんだよ、これ」
「は……はぁ……こりゃあ、身がもたないってもんだねぇ」
「で、でも、なんとか撒いたわね」
 いつの間にか一緒に逃げていた美羽と一緒に、夢安たちは出店の裏側へと逃げ込んでいた。そもそもがオーナーである。文句を言われる筋合いはない。
「すみませーん、くーださーいなー」
「おっと、客だな」
 金銭本能だろうか。客の声が聞こえると、夢安は無意識の内に立ち上がって巨大豆を取り出した。これだけ大きな豆を買いに来る珍しい客と相対する夢安。
 すると、ふいに目を放した隙に、目の前の青年の目がギラリと光った。
「ダアァーイ!」
 瞬間――奇妙な気合とともに青年の拳が夢安の懐を狙う。しかし、飛び込んできた拳に夢安が気づくと同時に、それは寸前で止まった。
「おっほ、ほれいひょうはひゃらせねぇよ」
「…………っ!」
 口に豆でできた串焼きを咥えながら、トライブは青年の拳を受け止めていた。それまできっとこの辺で食べ歩きをしていたのであろうことは、一目瞭然である。
「おまえ、用心棒の仕事ちゃんとしろよ……」
「わかってねぇなぁ、京太郎。こちとら自由家業よ。代金後払いな分、自分も楽しまなきゃ……なっ!」
 夢安に声を返す勢いで、トライブは青年を弾き飛ばした。弾き飛ばされた青年――エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、怒りに満ちた目でトライブを睨みつける。
「きさまああぁ、邪魔をするなぁ!」
「おいおい、なんだこの般若野郎は」
「こっちはそいつのせいで、装甲張り替えだけならまだしも、消耗品まで全とっかえすることになったのだ……! いっぺん殴らんと気がすまーん!」
 殴りかかってきたエヴァルトに、トライブが対抗する。お互いの拳が幾度もぶつかり合うも、それが致命的なところまで届くことはなく……。
「んじゃ、あとはよろしく」
 トライブを残して逃げた夢安を見て――
「あ、こらまてこのカーネ野郎! ロートラウト、追え!」
「捕まえてボコボコにするの? まっかせて! ボクの友達を経済的に苦しめた原因だっていうなら、手伝うよ!」
 実のところエヴァルトの言っていた装甲費云々が自分のせいだとは気づいていないロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は、エヴァルトの指示に従って夢安を追っていった。続けて、エヴァルトはトライブの拳をかわしてそのままロートラウトを追う。そして、
「あ、やべ……京太郎が捕まったらどうしようもねぇな……」
 事の重大さに気づいた用心棒は、先回りするために別の道を走り出した。



 葉っぱを跳躍しながら登ってくるのは、一つの影であった。とはいえ――
「……そんなに嬉しいか?」
「うん、嬉しい」
 影は二つ重なっており、はっきりとすればそれが少女をお姫さま抱っこで抱えている若者だと知れる。樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)。それが二人の名だった。
「あ、あれ、京太郎かな?」
「……ぽいな。ったく、またなにか迷惑起こしてやがる」
 遊園地を見上げられるぐらいの位置に辿り着く頃には、騒がしい音と姿を遠目で確認することができた。