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第3章 力と頭脳の戦い

 ゲーム開始から10分後。
「邪神だから取られも問題はない。まぁ、勘違いしてくれればそれはそれでいいのである」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は自分のペンダントを机の引き出しにしまい、その中に毒虫の群れで呼び出した蟲をみっしり詰める。
「(この状況・・・反撃されたら私に全部ダメージがいくのよねきっと)」
 彼女に装着されているアルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)が、心の中で深いため息をつく。
「生徒がこっちに来ているようね」
 狂血の黒影爪で影に潜み、隠形の術で隠れる。
「この辺りで物音が聞こえたみたいだけど?」
 6階のオフィスにやってきた透乃たちが、大佐が仕掛けたトラップ地帯へ接近する。
 ガタタタッ。
 机の中から物音が聞こえ、そっと近寄る。
「私が開けるわ。―・・・毒虫!?」
 芽美が引き出しを開けた瞬間、ブィイインッと毒虫の群れが飛び出す。
「フッ、こんなものが私に効くと思っているの?」
 鳳凰の拳で虫どもを一瞬にして塵にする。
「ロケットペンダントがあるよ、芽美ちゃん!」
「こんなところに隠しているなんて女神かしら?」
 透乃の声に芽美はペンダントを手に取る。
「確認してちょうだい透乃ちゃん」
「うん。―・・・あっ、これ邪神だよ!」
「そう・・・残念ね。でもこっちに痛手はまったくないわ」
「(黒髪の子がペンダントを複数持っているね。どっちかが女神に違いない)」
 自分が持っていたやつに透乃たちが気を取られている隙に、陽子が持ってるやつを奪い取ってやろうとそっと忍び寄る。
「(何か私の方に近づいているようですけど、姿を隠していますね。おおまかな位置は分かりますが、隠れられていては正確な場所までは・・・)」
 陽子は近づく大佐の気配をディテクトエビルで探知し、姿なき敵を周囲を見回す。
「(クククッ見つけられないようである。少しサービスして位置を教えてあげようか?ここだと分かるようなマネはしないけどね)」
 自分を探している彼女を姿をおかしそうに見ながら、大佐はキリキリッと椅子の足をひっかくような音を立ててやる。
「陽子ちゃん気をつけて・・・。きっとペンダントを狙っているのよ」
 物音を耳にした芽美は警戒し、陽子を守ろうと傍へ寄る。
「(3人いようとも、気づいてなければ1対1に持ち込めるね。そっちの殺気看破で気づくのが早いか、我が仕掛けるのが早いか・・・楽しみである!)」
「ぁっ、くぅ!」
 見つけられないと分かると大佐はニヤリと笑い、煙幕を投げつけ毒使いでたっぷり毒を塗った爪の餌食にしてやろうと得物を襲う。
 避けきれず片足を掠めてしまい、陽子は苦しそうに床へ膝をつく。
「(優しくぺったんこにしてあげよう)」
 大佐はサイコキネシスで棚を浮かせ、潰してやろうとする。
「(潰すって・・・、それって優しいの!?)」
 まるで彼女の心の声を読んだかのようにアルテミシアが心の中で突っ込みを入れる。
「よくも陽子ちゃんを!出てきなさいよっ」
 芽美は悔しそうに舌打ちをし、鳳凰の拳で陽子をプレスしようとする棚を床へ殴り飛ばす。
「もう大体位置は分かってるのよ」
「(パージしてもう少し仕掛けてみたいが、失敗してしまったら我が不利になるね。ここらが潮時のようである)」
 場所を確かめるように徐々に近づく芽美から大佐は逃げるように離れてく。
 大佐たちが逃げたその数分後、透乃が引き出しから取った彼女のペンダントは運営に回収され、持ち主の元へ戻された。



「私のペンダントは邪神ですか・・・。女神を持っていない時点で誰かに襲われる心配はなさそうですね」
 手にしているペンダントの中身を確認し、朱宮 満夜(あけみや・まよ)はほっと息をつく。
「とは言ってもいきなり主催者がルールを変更して、邪神を持っている人にもペナルティ的な借金を背負う可能性あるかもしれません。まさか・・・そんなはずないですね。ははは・・・」
 嫌な予感がすると思いながら乾いた笑いを漏らす。
「勝利するにも満夜は嘘をつけない性格だ。他の者よりもかなり不利だろうな」
 ネガティブな想像をする彼女に対して、そのままでは勝機が薄そうだとミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)がゆっくりと近寄る。
「まぁ本当にそうなってしまっては我も危なそうだ。だったらこうするかない」
「ミ、ミハエル?」
 彼に睨むように見下ろされた満夜はズリッと後退りをする。
「きゃあっ、何するんですか!?」
 ペンダントを持つ手をいきなり掴まれ、思わず叫び声を上げてしまう。
「これは胸の中にでもしまっておけ。そうすれば女神を誰かから奪ったと思うやつがいるかもしれん」
「そうですね・・・。(あぁびっくりした・・・)」
 襲われると思った恐怖感から開放された満夜は、気の抜けた炭酸のようにへにゃっと床に座り込む。
「(でも狙われたらまずいのでは・・・、場所が場所ですし!?)」
 胸の中にしまいつつ彼女は無理やり奪われそうになることを想定し、さーっと顔から血の気が引く。
「相手が男じゃなければ・・・いえ、女でもちょっと・・・」
 ぶつぶつと呟きながらキョロキョロと周囲を警戒する。
「そうきたのねぇ。勘違いした他の人が取ろうとしたらどうなのかな」
 ミルディアはジュースに口をつけ、観戦室から優雅に眺める。
「嘘すらついてない生徒もいるよね?」
「えぇ、アヤ。倒して奪おうとしている方が何人かいますね」
 うーんと首を傾げる綺人にクリスが言う。
「力づく・・・ですか」
 モニターを見ながら瀬織は眉を潜める。
「それならアヤでも参加出来たかもしれませんね・・・」
 小声でクリスがぽつりと呟く。
「さぁ、果たしてそうかな?」
「っていうと?」
「あのね、どんなに凄い術を使えても、頭脳だけで攻める者がそれに劣るとは限らないってことなの」
 ハテナと疑問符を浮かべて聞く綺人に、ミルディアは冷静にモニターを見ながら教える。
「ねぇ、あたしたちも賭けをしてみない?このゲームに力だけで攻める者が勝つか、頭脳のみで女神を奪う者が勝つか・・・」
「えぇっ!?」
「同じ額の1000万Gでどうかな」
 焦り顔をする綺人を見据えて彼女は口元をニッと笑わせる。
「ぼ、僕にそんな予想出来ないよ!」
 綺人はそんなの無理だと騒ぎ、ガタッと椅子から立ち上がる。
「冗談よ、冗談。本気にしないで♪」
 ゲームに参加してないのに借金フラグを立てられ、慌てる綺人の姿を見てクスクスっと笑う。
「やだなぁびっくりさせないでよ・・・」
 冗談だと分かった彼はほっとし、椅子にトスンと座る。
「(―・・・生徒が泣きながら歩いているな。階段でペンダントを奪われたと泣いていた女子か)」
 ユーリがモニターを覗くと風華がとぼとぼと廊下を歩いている。
「生徒のようですけど、何か・・・表情が暗いですね?」
 1人で歩いている少女の姿を見つけた満夜が首を傾げる。
「気をつけろ。こちらを油断させてペンダントを奪いにくるかもしれないぞ」
 演技かもしれないとミハエルは眉を潜めて風華を睨む。
「風はそんなことしないよ」
「生憎だが我はバカ正直な満夜と違って簡単に信じないんでな」
「疑うなんて酷ぃよぉ。うっ、うぇええーん!」
「あー・・・ミハエルったらこんな小さい子を泣かしてしまって・・・」
「な、涙なんかで騙されないぞ!」
 わんわんと泣かれてしまい、ミハエルは思わずたじろぐ。
「もしかしてペンダントを取られてしまったんですか?」
「うん・・・」
 優しく声をかける満夜に、少女はこくりと頷く。
「お母さんの病院代を稼がなきゃいけないのに、もし借金を背負うことになったら風は・・・風はっ」
「そうなんですか・・・可哀想に」
 ぐすぐすと泣く風華の頭を満夜が撫でる。
「だからね、ペンダント集めを風と協力して欲しいの。そっちに借金が加算されちゃったとしたら、賞金で風がその分払うよ」
「協力してあげましょうミハエル。私たちに何かしようっていう気はなさそうですし」
「そうホイホイと簡単に信用するな。いつ裏切られるか分からないぞ」
「風を信じて」
「こんな幼い子が裏切るとは思えません。協力してあげましょう!」
 袖にしがみついて見上げる少女を信じようと、ミハエルの意見を聞かず満夜は協力することにしてまった。
「どうなっても知らないぞ。おい聞いているのか、満夜ーっ!くっ・・・何で我の言うこと聞かないんだ!」
 風華と先に行ってしまう満夜に対して、ミハエルは苛立ち紛れに柱を蹴りつける。



「ここら辺でいいかな。―・・・えいっ!」
 ニコは他の生徒がいないのを確認して、氷術で小さな氷を作り額や頭部を殴りつけ、傷口からボタボタを血が流れ出る。
「ちょっと痛いけどこんな感じかな?」
「あぁそんなもんでいい」
「次は体温を冷やすんだよね。うぅ、氷が冷たいよ」
 氷を腋にぎゅっと挟み、ブルブルと震える。
「我慢しろ、これも勝ち残るためだ」
「分かってるよナイン。んーっとその後は床に倒れて・・・ふぐっ!?」
 ナインに背後から手刀を叩き込まれ、バタンと倒れてしまう。
「ニコは行動が読めねーからな。さてと、女神は飲み込まない程度に隠してっと」
 ナインは邪神のペンダントを身体に身つけ、女神の方は鵜のように隠す。
「ちくしょぉおっ、ニコが参加者の誰かに殺されちまったーっ」
 ナインは助けを求めて廊下を走る。
「殺し合いなんて聞いてねェ!目印をつけたニコの女神を犯人が持っているはずだ。全員ペンダントを見せろ」
 やってきた2人の生徒を鬼眼で脅し、手持ちのペンダントを見せるように言う。
 他の生徒たちは身に覚えがないと知らんぷりをし、スルーされてしまったのだ。
「脅されてもオルフェは人にあげちゃったから持ってないですよ」
「何だと!?じゃあそっちのヤツ、見せろ」
「にゃーは殺してないにゃ!ちゃんと身の潔白を証明するにゃ」
 御影はナインにペンダントを見せて女神だと教える。
「確かに・・・。じゃあ・・・それをいただくとするかっ」
 ぱっと御影の手から毟るように奪い取る。
「―・・・にゃ!?それはにゃーの女神にゃ。返すにゃーっ!」
 怒った彼女は奪い返そうと、ジャキーンッと爪を出しナインに飛びかかる。
「フンッ、騙される方が悪りぃンだよ」
 爆炎波を放ち御影たちを追い払う。
「うわぁん酷いにゃーっ、騙されたにゃぁああ!」
「あんなやり方汚なすぎるですーっ」
 彼女たちはわんわんと泣き叫びながら廊下を走り去っていく。
「こっちの方で何か声が聞こえしたよね?」
 ナインの騒ぎ声を聞きつけた満夜たちは、声の主である彼を探す。
「あの方でしょうか?何だか誰か殺されたと騒いでいたようですが。(―・・・その方向から泣きながら走っていった生徒のことも気になりますね)」
 御影たちのことが気になりながらも満夜は視線をナインへ移す。
「ペンダントを見せな。安心しろ、無理やり奪う気はない。ニコが持っている女神かどうか確かめるだけだ。(へっ、またカモが来たな)」
 取り上げた御影の女神を鵜の要領で隠したナインは3人を見てニヤッと笑う。
「本当に死んでいるんですか?さっき泣いている生徒を2人見かけましたよ」
「あぁ、こういうゲームだからな。それにその現場から走ってきたなら怪しむのも当然だ。我らのペンダントを見せる前に、そっちから先に確かめさせてもらう」
 満夜とミハエルは訝しげに言い、倒れているニコへ近寄る。
「死体を見てどうすンだよ。そんなにニコの死に顔を見たいのか!?」
 パートナーが生きていることがバレてはヤバイと、ナインは2人を近づけさせないように怒鳴る。
「さっきも言ったはずだが?これは騙し合いのゲームだ、言葉だけでは安易に信じるわけがない」
 ミハエルはニコの手首に触れて脈があるかどうか確認する。
「―・・・生きているではないか!?我らを騙してペンダントを奪おうとしたな?」
「生きているのか!よかった・・・身体が冷たいから殺されたのかと思ったンだ」
 ここで完全にバレてしまってはまずいとナインは演技を続ける。
「でも、近づけさせないっておかしいよね」
 首を傾げて風華も嘘じゃないかと疑う。
「大丈夫ですか?」
 満夜がニコの頬を軽くペシペシッと叩いて起こす。
「(死体のフリがバレちゃったんだ?女神の方は元々ナインが持っているものだからね、フフフッ)うっ・・・うーん」
 ニコは意識が戻り、目を覚ましてゆっくりと起き上がる。
「目が覚めたようですね、大丈夫ですか?」
「ナインが僕に死体のフリをさせて、誰かが僕を殺して女神を奪った芝居をして集めようって言ってきたんだよ。それなのに僕を殴って無理やり気絶させたんだ、酷いと思わない?身体を冷やしすぎると本当に死んじゃうかもしれないのにっ」
 心配してくれた満夜に、ニコはナインを裏切ってネタバラシをする。
「ちょ、ニコ!何ばらしてンだ!?」
 ばらされた彼はおろおろと慌てる。
「身体の中にナインがペンダントを隠してるはずだよ」
「おい・・・そんなことまで言うなっ!なぁ、ここは1つ協力しないか?その方が効率よく集められると思うンだ」
「騙そうとしたやつに誰が協力するかっ」
「や、やめ・・・っ」
 詰め寄るミハエルから逃げようとナインは必死に走る。
「逃がさんっ」
「ぎゃぁああーー!!」
 サンダーブラストの落雷をくらってしまい絶叫する。
「身体のどこかにあるのなら、吐き出させてやる」
 ドスッとナインの腹を殴り、首に隠し持っている女神を吐き出させる。
「ねぇ元々の持ち主が借金を背負うんだよね?頑張って♪」
 ニコはぐったりとして動けないナインを見下ろしてクスッと笑った。
「これは我がもらう」
 ペンダントをティッシュに包み、ミハエルが床から拾い上げる。
 残り時間、後30分。
 運営から女神のロケットペンダントを渡された3名が、借金支払いがほぼ確定した。