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【相方たずねて三千里】西シャンバラ一人旅(第2歩/全3歩)

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【相方たずねて三千里】西シャンバラ一人旅(第2歩/全3歩)

リアクション


5 海京

「温泉だっ! いっちばーん!!」
 と、元気よく飛び込む七那勿希(ななな・のんの)
「こらっ! 飛び込むな、勿希」
 七那禰子(ななな・ねね)が注意するも、勿希は反省する様子がなかった。
「本当にすみません」
 と、先客へ謝る七那夏菜(ななな・なな)
 昨日の山登りで酷使した体を温泉で休めていたトレルは、大して気にもかけずに言う。
「別に大丈夫だよ」
「ちょっと騒々しいですけど、ごめんなさい」
 と、風呂の中ではしゃぐ勿希を見る。
「他の人もいるんだから大人しくしなさい!」
 そう言って禰子が勿希を捕まえ、大人しくさせる。
「だってぇ、こうやってお出かけするの初めてなんだもーん」
 と、にっこり笑う勿希。
「あの子たち、君のパートナー?」
「え、ああ、はい。そうです」
 トレルは息をつくと言った。
「羨ましいな。俺さ、今、パートナー探してる最中なんだよね」
「あ、そうなんですか。どのような方を探してるんですか?」
 と、夏菜。
「特にこだわりはないよ。どうやったら出逢えるか、全然分からないし」
 夏菜は少し考えると、話を始めた。
「たぶん、お話してもお役に立てないかと思うんですけど……」
「いいよ、どうぞ話して」
「あ、はい。あの、ねーちゃんは、ボクが地球で殺されそうに……いえ、すっごく危ない目に遭いそうになったときに、助けにきてくれたんです。ねーちゃんがいなかったらボク……」
「危険、かぁ。それも有りかな」
「って、え!? ダメですよ、わざわざ危険なところに行くのは!」
 と、慌てる夏菜。トレルは「分かってるって」と、笑う。
「そうですか? そんなことしなくても、きっといつか会えますよ」
「うん、そうだよね」
 その様子を少し離れた所から見ていた禰子は、珍しいと思った。夏菜は女性が苦手なはずなのに、普通に話をするなんて。
「へぇ、パートナー探してるんだ?」
 と、いつの間にか禰子から逃げ出してきた勿希がトレルへ問う。
「え、ああ、うん」
「契約は一生のことだから、この人かな、あの人かなって迷うこともあるかもしれないけど、こういうのって勢いも大事だと思うよ。自分の運と勘を信じて、えいや! って」
 と、笑う。
「それにね、契約して一緒に過ごすことで見えてくるいいところって、いっぱいあるしね」
「……なるほどね」
 トレルは一つ息をつくと、タオルできちんと胸から下を隠し直す。
「素敵な話をありがとう。お先に失礼するね」
 と、風呂から上がっていった。その姿を見て夏菜がはっと目を伏せる。どうやら夏菜は、トレルのことを男性だと思っていたらしい。
 禰子はそうと気付くと、呆れたように息をついた。

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38 :名無しの情報提供者:2020/10/16(金) 09:10:56 ID:777nA777
ヒラニプラの湯治場の混浴の露天風呂でお見かけしました。
最初、男の方かと思ったんですけど……。

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「途中まで護衛がいたんだけど、はぐれちゃってさ」
 と、ヒラニプラの中心街へ向かいながらトレルが言った。
「え、じゃあ一人なの? 大丈夫?」
「大丈夫だよ、たぶん。あとはもう家の方角に帰るだけだから」
 そう言われても、と九条イチル(くじょう・いちる)は心配に思う。用事があってヒラニプラに来ただけの自分では、詳しい案内をしてやれないのが惜しい。
「何かしてあげることは出来ないけど、せめて話をするね。参考になると良いんだけど」
「おー、ありがとう」
「……俺は、ルツとパートナー契約をした時、それがどういうものなのかってことをよく考えてはいなかったんだ。恥ずかしながら」
 と、苦笑するイチル。
「彼女は俺の先祖の力で封印されていて、俺がそれを解いてしまった。それが、俺とルツの初めての出会い」
 ルツ・ヴィオレッタ(るつ・びおれった)は自分の話をされているのが気にくわない様子で、二人の前を歩いていた。イチルの言葉に過去を思い出しながら、不機嫌に道を行く。
「正直、俺は……怖かった。ルツが俺とはまったく別の世界の生き物に思えて、ただ俺が解いてしまったのならもう一度封印しなければ、って……それだけを考えて、ルツと契約したんだ」
 そう言ってイチルは恥ずかしそうに俯く。
 ――今にして思えば、初めて会った時のイチルはわらわを見て怯えた表情を浮かべていたように思う。当初はそんなこと気にもしなかったからな。あの頃のわらわにとって人は、ただ人であって、そこに個体としての区別はなかった。どうでもいいものの名称の、ひとつだった。
 地面の小石を蹴りながら、ルツはそんなことを考える。
「だけど彼女は、言葉も話すし感情もある、普通の人となんら変わりはなかった」
 真剣な声がそう言って、ルツは思う。――そんなわらわにイチルは、わらわのことを知りたいと言った。自分の世界を変えたわらわに、何か恩返しがしたい、と。……正直、そんなことどうでもよかったのに。
「そしたら俺は、もっと彼女のことが知りたいと思うようになったんだ。パートナー契約はそのきっかけを与えてくれたんだと、俺は思ってる」
 ――だがイチルのことを知るうちに、生まれ育まれたものがある。これは、絆というのだろうか……?
「なるほどね。本当に契約って、いろいろあるんだね」
「うん、契約する相手にもよるからね」
 それから目的の場所まで来ると、イチルは言った。
「あぁ、そうだ! もしパートナーが見つかったら、俺にも紹介して? ね、約束」
「おう、良いよ」
「じゃあ、気をつけてね」
「そっちこそ気をつけてー。話聞かせてくれてありがとう」
 互いに手を振りながら、イチルはイルミンスールの方角へ、トレルはヒラニプラ鉄道の駅へ歩いて行った。 

 誘拐未遂の件を耳にした源鉄心(みなもと・てっしん)は、ティー・ティー(てぃー・てぃー)へその護衛をするよう言っていた。ヒラニプラでは何も無かった様子だが、一歩外へ出たら何があるか分からない。
 駅で張っていたティーは、何も知らずにやって来たトレルが車内に乗り込むのを確認し、後を追う。
 トレルが窓際の席に着いたのを見ると、彼女がよく見える位置――二列後ろの向かいの通路側――へ着く。
 誘拐未遂を起こした犯人は未だに分かっておらず、掲示板で情報を確認している園井もまた不安に胸を痛めている様子だった。鉄心は目賀家の企業情報などをネットで調べたが、事件になりそうなことは見つからなかった。
 発車時刻が近づいてくると、トレルに接触する者が現れた。城紅月(じょう・こうげつ)だ。
「あれ? トレルだ、久しぶりー」
「ああ、こーげつくん」
 と、トレルの顔がぱっと明るくなる。どうやら知り合いのようだ。
「何でこの電車に?」
「え、空京帰るからだよ」
「え、タシガンにかえ……あれ、方向間違えた?」
 と、連れと顔を見合わせる紅月。レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)は紅月を見て、くすっと苦笑するだけだった。この鉄道が稼動するのはヒラニプラから空京の間だけである。
「良いとこだよ、空京」
 トレルもそう言って笑う。発車のアナウンスが流れると、空京に向けて走り出した。
 紅月は大きな溜め息をつくと、トレルの隣へ腰を下ろした。
「まあ、いいや。着くまで何か話そうぜ」
「おうよ」
 と、トレル。その前の席にレオンは座ったが、すぐさま二人の方に顔を向けてきた。会話の中身が気になるらしい。
「そういや俺、シャンバラ教導団の第四師団【鋼鉄の獅子】小隊に入隊してきたんだ」
 思い出して嬉しそうにする紅月へ、トレルは声を上げる。
「おー、それは良かったね。何だかよく分からないけど」
「何だよ、それ。でも、トレルは何でヒラニプラに?」
「ああ、俺はパートナー探し。空京から出発して、葦原島にツァンダ、ヒラニプラって回ってきたの」
「まだパートナー、見つかってないのか」
「うん」
 紅月はふとこちらをじっと見つめるレオンに目を向けると、トレルへ言った。
「レオンとは、卒業旅行の時に出逢ったんだ。未契約者だったのに運よくタシガンまで行けたんだけど、研究所の中みたいな遺跡に入り込んじゃって、そこにレオンがいたんだ」
 山間を抜け、窓外の景色ががらりと変わる。
「寝顔見て、白雪姫みたいだなーとか思って……思わずキスしちゃった」
 と、紅月は笑って言った。
「そーしたら目を覚ますし」
「キスしてきた時には驚きました……でも、好みでしたので……」
 と、レオンが口を開く。
「最初は女の子だと思ってましたから、男と知ったときには……やはりショックでした」
 でも、とレオンが語気を強める。
「愛に男も女もありませんから!」
「……」
 反応に困った。紅月は呆れたように言う。
「まぁ、俺専用の光条兵器が出たから、契約できたって分かったけどね」
「ふぅん」
 すると、レオンの方から何かがぴょこんと飛びだしてきた。
「こーげつは、れおんのお菓子が欲しかったんだじぉ。本読んでたから、わかんないかなって思ってテーブル登ったところで捕まったんだじぉ!」
 じぉ こーげつ(じぉ・こーげつ)、体長二十五センチのゆる族である。
「最初は殺されるかと思ったじぉー。だって、れおんが抱きしめたり、ほっぺたぷるぷるしたり、ぎゅうぎゅうしてくるから何の拷問かと思ったじぉ!」
 紅月がその時のことを思い出しながら言う。
「こーちゃんの時はね、レオンが俺の小学校の時のアルバム見てて、本棚の影から出てきたんだって」
「へぇ……」
 こーげつはトレルの膝の上にちゃっかり着地していた。
「だっこされて俺の前に現れた時は、レオンが怪しい魔術とかで創ったのかと思った……。俺は身の危険を感じたよ。いじられてもヤダし、ヤバいからお菓子で釣って……つーか、契約した」
「紅月がお菓子あげるから友達になろうって言ってくれたんだじぉー。友達になってくれて、お菓子までくれるし。こーげつは幸せじぉ」
 と、嬉しそうに両手を振るこーげつ。
「れおんはお風呂入れてくれたり、ご飯食べさせてくれるじぉ。こーげつのママみたいなんだじぉ。ときどき、お尻むにむにするけど……」
 その言葉を受けてか、レオンがこーげつの頭を指先で軽く突いた。うわっ、とよろけるこーげつ。
「楽しそうだね。っつーか、幸せそう」
 トレルが紅月に顔を向けると、彼は微笑んだ。
「うん……契約して良かった、って思う」
「そう」
「だってさ……、好き……だもん。キライなら、契約しないだろ?」
 と、紅月は先ほどよりも小さな声で言う。その顔は真っ赤で、レオンがすかさず言った。
「私も紅月以外のパートナーなんて考えたくありませんね。お陰さまで、紅月が可愛くて可愛くて……あぁ、幸せです。あ、痛っ――!」
 紅月に頭を殴られ、レオンが痛みに悶える。
「本当に幸せそうだねぇ」
「ええ、とても幸せですよ。あ、やめっ――!」
 二度目を食らわした紅月は、しばらく恥ずかしさのあまりふるふると震えていたが、落ち着いてくると言った。
「まあ、そういうわけだから……トレルも、良いパートナーが見つかると良いな。トレルにも幸せになってほしいから、さ」
「……うん、ありがとう」
 嬉しそうに微笑むトレルの様子に、ティーは窓の外へ目を向けた。知り合いがそばにいるなら、車内で何かあったとしても大丈夫だろう。
 ――ちょっと、お腹が空いてきました。今の季節は、日本ならお芋やかぼちゃが美味しいですよね。天ぷらだとなおさらです。……そうだ、空京に着いたら何か食べましょう。それで、プリンを買って帰るのです。

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40 :名無しの情報提供者:2020/10/16(金) 14:55:20 ID:K0uGetSU
ヒラニプラから空京へ向かう車内で見たよ。
ってゆーか、今、トレルは目の前にいるんだけど。
あ、俺はこの前のパーティーで彼女と遊びに行った人間です。

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