イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

エリザベート的(仮想)宇宙の旅

リアクション公開中!

エリザベート的(仮想)宇宙の旅

リアクション


第4章


「近くに衛星群の第一陣が控えているわ」
 リカイン・フェルマータが言った。
「さっさと吶喊して蹴散らしてしまいなさい」
「血の気が多いな」
 彼女の指示に、ダリル・ガイザックが苦笑する。
「一番近くの衛星まで高度80キロメートル差、距離にしても100キロ以上離れている。お互い狙おうとした所でそうそう当たらん」
「……理屈では分かっていても、にわかには信じられませんね」
 エオリア・リュケイオンが、手元の籠手型HCに映る表示に眼を向けた。
「探査機探査機〈迷子ちゃん〉を経由しての地球帰還の軌道を計算したんですけれども、、往路・復路中の被弾確率は3パーセント以下ですよ。
 ダリルさん、失礼ですが、パラメータや条件付けに何か抜けはありませんか?」
「あらあら。ダリル、作ったソフトにケチつけられちゃったよ?」
 エオリアの異論に、ルカルカがいたずらっぽく笑う。
「何か言ってやんなよ。言ったれ言ったれ」
「俺なりに全力は尽くしたつもりだが、完璧なものとは思っちゃいない。何せ、星の数ほどの迎撃衛星が待ち受ける空に宇宙船が飛ぶなんて、有史以来例がないからな」
 その時、スピーカーから声が入った。
「こちら『OvAz』サンドラ。管制、聞こえますか?」
「はい、こちら管制ルカルカ・ルー。感度良好」
「現在『禁猟区』を使っていますが、特に危険はないようです。そちらから見た状況はどうでしょうか?」
「こちらエース。現在雨アラレと攻撃が降り注いでいる所だぜ」
「……冗談でしょう?」
「本当だ。掠りもしちゃいないがな」
 メルカトル地図の画面、太平洋の真ん中にまた別なウィンドウが開いた。飛行中の「OvAz」に向かって、上空の雲のようなものから、雨のようなものが降り注いでいる。「雲のようなもの」が衛星群で、「雨のようなもの」が光学兵器やレールガン等の攻撃手段であることは、簡単に見て取れる。この図の限り、攻撃の密度はかなり濃いように感じられる。
 が、縮尺が変わり、「OvAz」周辺に図の視点が切り替わると、降り注ぐ攻撃は見当外れの方向に向けられているようにさえ見える。
「いちばん近くて、半径3キロのあたりに弾道が通るかどうか、ってなもんだ」
 模式図を見て、「はぁ」とエオリアが声を出す。
「下手な鉄砲は何とやら、とは言いますが……ここまで下手だと数に意味がありませんね」
「彼我の距離100キロ1000キロ単位ともなれば、精密狙撃は、極めて至難、って事だ」

(……まぁ、そうなるでしょうなぁ)
 魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)は、ひな壇から正面モニターを見ながらそう思った。彼もまた、自分なりに集められる情報を分析し、「財産管理」で予想してみたのである。
(高速飛行する飛翔体への狙撃がそう簡単なら、SDIはとうの昔に実現している事でしょうな)

「提案がある」
 翠門静玖が手を挙げると、管制メンバーの顔が一斉にそちらを向いた。
「現状、『OvAz』への危険度は極めて低いと判断しうる。この間に、攻撃系スキルの能力や射程を確認したいと思うのだが、どうだろう?」
 管制担当メンバーの視線の向きが、静玖からダリルに変わる。ダリルは「ふむ」と少し考えた後、
「……エオリア。〈迷子ちゃん〉回収軌道に乗るまでは、あとどの程度余裕がある?」
「一時間以上ありますよ。それまでは〈素子〉活性状態の維持と、防御性能維持の為のスキル使用ぐらいしかやることはありません」
「フライトは第2第3まで予定されているしな……よし、観測機器の精度を確認した後、テストを開始する。搭乗員各位、準備が終わったら連絡するので、攻撃系スキルを『OvAz』から使ってみてくれ」

 ──数分後、「OvAz」からアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)の「サンダーブラスト」、アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)の「バニッシュ」、師王 アスカ(しおう・あすか)の「遠当て」が放たれた。
 「サンダーブラスト」と「バニッシュ」の射程はおおよそ20から40キロメートル前後と観測。一方、「遠当て」の射程距離は事実上無限大と推測される(反応が観測されなくなった空間が仮想宇宙の「外壁」にあたり、それ以上の「先」が存在しない事が確認されたのだ)。
 テスト結果に、アルスは冷や汗をぬぐった。
「危険すぎるな……仮想とは言え、この乗り物はあまりに桁外れよ」
 スキル使用者のコンディションや調子に左右されるとは言え、射程数十キロの攻撃が普通に出せて、しかも、宇宙を経由しての移動ができるとなれば、最早これは戦略兵器だ。軍事方面に応用すれば、その価値は計り知れない。
「本当に桁外れなのは、宇宙の方と思うがのう?」
 アストレイアは頭を振った。
 射程数十キロというのも実感が伴わないが、飛行高度が「100キロ」とか回収すべき探査船が高度「3万9千キロ」上空(「上空」という言葉がどこまでふさわしい?)にいるとか。自分のピンと来ない所で、莫大な数字だけが勝手に踊っているようにさえ思えてくる。
「天文学的数字、とはよく言ったものじゃ」