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ぶーとれぐ 愚者の花嫁

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第五章 マフィア「スコット商会」を代表

それじゃあ、もう一つ。あんた達が食べるつもりの卵。それだって、立派な命だって自覚してる?
あんた達はこれから一つの命を奪おうとしてるってこと、わかってる? 茅野菫(ちの・すみれ)(ロック鳥の卵を奪取せよ!!)


みなさん、お元気?
イルミンスールの茅野菫よ。
最近、あたしは、クラッシックロンドン再現した空京のテーマパーク、マジェスティックに下宿してるの。
ああ、でも、英国趣味が好き、古代シャンバラの遺跡に興味がある、っていう、よくいるマジェっ子と一緒にしないでね。
あたしが間借りしてるのは、蒸気と異臭がたちこめる貧民街の娼館よ。
それも観光客用のゆるい店じゃなくて、血気さかんなガッテン系の地元住民に愛されてる実用的なやつ。
あたしはそこに部屋を借りてるの。
一応、娼婦じゃないわ。
ただの学生よ。
店のお姉さまがたには、よく遊んでもらうけどね。
なぜ、そんなところにいるのか? って、それはあたしの夢と関係があるの。
普通の良識的な常識人のみなさんには理解できないかもしれないけど、説明してみましょうか。
あたしは裏社会を牛耳るのが夢なんだけどね、二重人格の犯罪常習者のショタ探と何度もかかわるうちに、そっちの世界の連中ともそれなりに知り合えて、そこで考えたわけよ。
悪とはなにか?
犯罪とは悪のなのか?
フフフ。
ウソ。
そんなのみじんも考えてないわ。
あたしが考えたのは、ショタ探が荒らして、ノーマンもメロン・ブラックも、ルパンも去ったこの街には、やっぱり悪が必要なんじゃないか、ってこと。
連中のかわりになる街の必要悪、個人ではなくて、街のニーズにあった悪の組織よ。
そういうものがあった方が、個々の悪が野放しにならなくて、街の治安維持にも役に立つし。
あたし、この娼館「牝牛の乳房」に滞在しながら、街の子たちに声をかけて立ち上げたの。
マフィア「スコット商会」。
いま、メンバーは五十人を超えたわ。子供ばっかりだけどね。
だからこそ、怖いもの知らずよ。
以上、代表の茅野菫からマフィア「スコット商会」の宣伝でした。
困ったことがあったら、マジェのダウンタウンへいらっしゃい。
商会メンバーの溜まり場は、穴あき屋根が目印のカフェバー「尻軽女給」よ。
歓迎するわ。
「スコット商会」の名前はね、あたしがお世話になってる「牝牛の乳房」の女将マダム・バルサモがつけてくれたの。
品があって色っぽくって頭もキレる才色兼備、年齢不詳の素敵なマダムよ。
「スコット商会」は、彼女が昔やってたお店の名前らしいわ。


「菫姉さん。大変だ。人さらいだよ」

お客たちがくるにはまだ少し早い夕方、娼館の飾り窓から薄汚れたダウンタウンを眺めて、ぼんやり時間をつぶしていたあたしのところへ、商会の治安維持部隊(パトロール隊)の子たちが血相をかえてやってきたの。

「人さらいぐらい、めずらしくもないでしょ。
おもしろ半分で、貧民街をのぞきにきた観光客にはいい勉強よ。
どうせ、ほどほどの身代金で解放してやるんだし、商売熱心で結構結構」

「違うんだよ。もっとタチの悪いやつさ。
小さな子供さらって、バラしてよろこぶ変質者だよ。
最近、なりをひそめてたけど、あいつだ。あいつがまた」

最後まで聞かずに、私は走りだした。
面倒くさいけど、悪にも愛せるものと、そうでないものがあるのよね。

「菫。私も行くよ」

なぜだかマダム・バルサモに気に入られてる、あたしのパートナーの菅原道真(すがわらの・みちざね)がついてきたわ。
革ジャンとジーンズが似合う、男前の大人の女よ。
あたしが現場につくと、噂の誘拐魔らしき男が、たぶん、商会の誰かにブチのめされて、二度と悪さも呼吸もできない様になって倒れてた。

「こいつの片づけは、私がやる。
あんたたちも手伝って」

道真が声をかけてみんなを動かす。
この街には、身元不明の死体の捨て場所なんて、それこそいくらでもあるから、なにも困らないわ。
ヤードもここには、めったに踏み込んでこないの。
血の気が引いた青い顔した坊やが、あたしの前にきた。
体はデカイけど、歳はいくつぐらいかしら。名前はたしか、マロイ。

「ね、ね、姉さん。
オレ、やっちまった。
つい、カッとしてあの野郎を石で」

「おい。そこのデカイの。
菫に甘えるのは後にして、そこの大きな荷物を担いでおくれよ。
それとも死体にさわるのは、怖いのかい」

マロイは、道真に呼ばれても、涙目で私をみていた。

「ここは、原因不明の事故やケンカで一日、何人もの変死体がでる街よ。
あんたがやられなくて、よかったじゃない。
あんたが死んだら、デカくて片づけも大変そうだしね」

「姉さん。
俺は、俺は、子供をいじめるやつは許せねえんだよ」

「さっさといかないと道真に嫌われるわよ。
いいから、行きなさい」

黙って頷いて、マロイは道真の方へ。

「遅いんだよ。デクの棒が。
あんたもこいつと一緒にモグルに捨ててこようか」

「道真さん。俺」

「マジェの酸素がなくなるから、余計な口はきかなくていいんだよ。
ほら、持って」

「は、はい。すいません」
少なくとも道真は、マロイを嫌いじゃないようね。
商会のメンバーたちが、小柄な痩せた女の子を連れてきた。
彼女は、この街に迷い込んで、襲われてしまったらしい。
落ち着いた雰囲気の子ね。

「私はシェリル・マジェスティック。
マジェスティックの占い師。
茅野菫。あなたは、私の運命の人を知っているはずよ」

マロイが体を張って守った女の子は、あたしの名前を知っていた。

「運命の人って誰よ」

「それは私にもまだわからない。
でも、あなたの運命はその人と過去に交わったり、また、いつか交わる時がくるわ。
その人とあなたは、似ているもの」

「くわしい話を聞くしかなさそうね」

あたしは彼女、シェリルを連れて「尻軽女給」へ。