校長室
マホロバで迎える大晦日・謹賀新年!明けましておめでとう!
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第三章 カウントダウンイベント 7 「うふふ……貞継さんと年越しデート!」 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)はいつもより念入りにおしゃれをしている。 カウントダウウンの花火を二人きりで過ごしながら眺めるのだ。 「まさか、この年で子供ができるとは思わなかったけどね」 緋雨はフリルリボンと安産祈願のお守りで飾った可愛い腹帯で巻いている。 一見、妊婦には見えないだろう。 緋雨が庭影で待っていると、貞継がやってきた。 彼はなんだかぼーっとしている。 「貞継さんどうしたの?」 「……ああ、いや。どうにも、もう花火を見たような気がする……」 「ふふ、どこかで居眠りでもして夢を見たんじゃない?」 「そうかもしれないな」 貞継は辺りを見渡してから、緋雨を誘った。 「こちらの方がよく見える。池の水面に花火が映って、天と地と両方に花火をみることができるぞ」 「へー、すごーい……あっ!」 緋雨が小石につまずいたので、貞継は血相を変えて彼女を支えた。 「気をつけないと。その身体はもうお前だけのものではないのだぞ」 「う、うん。ごめんね……」 貞継はそのまま緋雨を抱えあげ、お姫様抱っこでカウントダウンが始まるのを待った。 「ちょっ、ちょっと……! お姉さん恥ずかしいよ」 「いいから。はら、始まったぞ」 やがて合図と共に数が呼ばれ、冬の大空に新年を告げる大輪の花が咲いた。 「綺麗な花火……」 緋雨はつぶやき、そのまま彼の胸に顔を埋めた。 男の人で香水は付けてないはずなのに、何となくいい匂いがする。 貞継さんはいつも新品の着物だからかな? ……と、緋雨はぼんやり考えた。 「どうした?」 「……うん、本当に良かったと思って。こうして貞継さんが生きてくれて。生き続ける決心をしてくれて……優しい貞継さんのままでいて……」 「何を言ってるんだ?」 「貞継さん……!?」 優しく微笑む貞継の顔が次第にぼやけて見える。 「ちゃんと生き……てる……ろう?」 声もだんだん遠くなっていく―― 「やだ……そっちにいっちゃ――」 ・ ・ ・ 「――イヤ!」 「……緋雨! いい加減起きるのじゃ。元日だからというて、いつまでも寝てるでないぞ。さあ」 緋雨のパートナー天津 麻羅(あまつ・まら)が彼女を揺り動かしていた。 起き上がった途端、緋雨の失ったはずの左目から大粒の涙がこぼれる。 「私……どうして?」 緋雨は布団の端をぎゅっと握り締めている。 「……取り戻したい……お心を……貞継さんの」 「緋雨……ふむ。今日くらいゆっくりとしておるのじゃ」 麻羅はそっと緋雨の肩に着物をかけてやった。 緋雨の背が丸くなる。