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ひとひらの花に、『想い』を乗せて

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ひとひらの花に、『想い』を乗せて
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終章 『想い』の行く先

「……閃崎 静麻、レイナ・ライトフィード、神曲・プルガトーリオ、クァイトス・サンダーボルト、泉 椿、赤嶺 霜月、ジン・アライマル、グラフ・ガルベルグ著 『深海祭祀書』、赤嶺 卯月、芦原 郁乃、秋月 桃花、御凪 真人、セルファ・オルドリン、小鳥遊 美羽、コハク・ソーロッド、榊 孝明、益田 椿、草薙 武尊、源 鉄心、エリシア・ボック、ノーン・クリスタリア、リリィ・クロウ、ナカヤノフ ウィキチェリカ、ネージュ・フロゥ、蓮花・ウォーティア、ルカルカ・ルー、ダリル・ガイザック、ルカ・アコーディング、カルキノス・シュトロンデ、エース・ラグランツ、メシエ・ヒューヴェリアル、神狩 討魔、なずな、五十鈴宮 円華、御上 真之介、卜部 泪。今回、環菜に花を贈ってくれたのは、以上78名だ。」

 山葉 涼司が、たった今読み上げた名簿を、うず高く積まれた化粧箱の上に置いた。

 化粧箱の中には、一つ一つ名札の付いた包みに入ったミヤマヒメユキソウが、仕切りの中に、丁寧に収められている。1箱10ヶ入りで全部で8箱ある。

「こんなに沢山……」

 御神楽 環菜は、その花を前にして、言葉もなく、ただ、涙を流していた。見る者の胸を熱くする、美しい涙だ。

 泪が、その光景を余す所無くカメラに収めている。

「ほらほら環菜!泣いてないで、ひとつ食べてみてよ」
 ルカルカ・ルーが、自分の手折ってきた花を、環菜の手に握らせる。このままでは、もらい泣きしてしまいそうなのだ。

「……うん、有難う。でも、折角だから治癒魔法をかける前に食べないと……」
「それなら、アタシがかけるわよ!ホラ、早く!」
「分かったから、そんなに急かさないで」
 根負けした、というカンジで環菜は包みを開く。そこに現れたキラキラと輝く花を、そっと手に取り、口に含む。環菜は、ゆっくりと目を閉じた。

「どう……?美味しい?」
「うん。美味しい。それに、嬉しい」
「嬉しい?」

「うん。嬉しい。あなたが、こんなに私のコトを、思ってくれてたなんて……。それに、『嬉しい』って思いが、こんなにココロを暖かくするなんて、知らなかった……」
「や、やーねぇ、もう。今更、そんなコト言っちゃって。アナタをナラカから連れ帰るの、大変だったのよ?」
「……ゴメン」
「……馬鹿野郎」
 ゴンッ!と音のする勢いで、ダリルがルカに鉄拳を落とす。

「す、スマンな、環菜。この女、デリカシーにかける所があって」
「そんな……。いいのよ、ダリル。ホントのコトだもの」
 自嘲気味に呟く環菜。

「イテテテ……。本気で殴らなくてもいいじゃない、もう……。それじゃ、環菜。魔法かけるわよ」
 頭をさすりながら、《ヒール》をかけるルカ。

「……どう?効いてる?」
「……うん。なんていうか、こう、スゴくすっきりした感じがする」
「それだけ?」
「さすがに、1個でそんな劇的な効果は出ないだろう。こういうのは、積み重ねて初めて、効果が出るモノじゃないのか?」
「私も、そう思う」
「そっか……」
 どこか残念そうなルカ。

「御神楽さん、そろそろ、診察の時間です」

 看護婦が、面会時間の終了を告げる。
「それじゃ、環菜。俺達は帰る。花のコトは病院側にも伝えてあるから、そちらの指示に従ってくれ」
「分かったわ」
「じゃね、環菜」
「またな」

 慌ただしく病室を出て行く3人。パタン、とドアが閉まると、病室は、先程までの喧騒がウソのように、静かになる。



「コンコン」
 しばらくして、誰かが、病室のドアをノックした。

「どうぞ……!あ……」

 てっきり医者が来たものだと思っていた環菜は、ドアを開けて入ってきた人物に息を飲んだ。そこに、影野陽太が立っていたからだ。

「ただいま、環菜」
「陽太……」
 笑いかける環菜に、どこかぎこちない笑みを返す陽太。

「環菜。これ、俺が取ってきた花です。受け取って下さい」
 陽太は、懐から可愛らしい包みに入った花を取り出した。
「みんなと一緒に渡してもらおうかとも思ったんですが、どうしても、自分で手渡したくて……」
「陽太……有難う」
 環菜は、少しはにかみながら、包みを受け取った。

「それとこれは、バレンタインなので……」

 陽太は、懐から小箱を一つ、取り出した。たどたどしい手つきで、それを開ける。
 中には、小さな指輪が一つ、入っていた。陽太の『想い』を込めた、【約束の指輪】だった。

「これ、受け取って下さい!」

 ガバッと頭を下げ、勢い良く、指輪を差し出す陽太。
「えっと、あの……環菜、ルミーナさんを取戻すまでの間、一緒に暮らしませんか?」
 一語一語、搾り出すようにして言う陽太。一世一代の、告白だ。

 俯いたままの環菜から、応えはない。
 陽太は、それでもじっと、環菜の返事を待ち続ける。

 ポタリ

 環菜の手に、涙が一粒、落ちた。

 驚いて、顔を上げる陽太。
 環菜は、肩を震わせていた。

「か、環菜……?」
 突然のことに、陽太は、どうしていいか分からない。

「……有難う。陽太」
 環菜はようやく、それだけを言った。
「え、そ、それじゃ――」
 喜びのあまり、立ち上がる陽太。

 しかし環菜は、俯いたまま頭を振った。
「でも……。ゴメンなさい。それは、受け取れないわ」

「え……?」

 意外な言葉に、陽太は凍りつく。

「私には、まだやることがある。ルミーナを、ナラカから連れ戻さなくては」
「だ、だから、それは俺が――」
「ダメなの。ルミーナをナラカに置いたままでは、私は、アナタの気持ちに応えられない。分かって……、陽太」
 病室を静寂が包む。

「私、一度死んで、ナラカから帰って、そしてさっき、この花を食べて、分かったの。人の『想い』を受け取るってことが、どれほど大変な事か。今までの私は、まるで分かっていなかった。人を、ただの駒のように。あれ程想いを寄せてくれている人を、私のためにあれ程のコトをしてくれる人を、まるでゲームの駒のように、扱っていた。それは、ルミーナも同じ。きっと私は、ルミーナが私に寄せてくれる想いの万分の一、百万分の一も、分かっていなかったんだわ」

「環菜……」

 環菜の、血を吐く様な告白を、陽太は、ただ黙って聞くことしか出来ない。

「お願い、陽太。私に、時間をちょうだい。せめて、ルミーナをこの手で取り戻して、そして今までの全てを謝るまで。そうでもしないと、あのコに許してもらえないと、私、自分を許せない。一人で、幸せになる訳には行かないの。お願いよ、陽太……」

 流れる涙を止めようともせず、陽太の手を取る環菜。

 陽太は、その手を握り返すと、そっと、彼女を抱いた。

「いいですよ、環菜。それなら、この指輪は、このまま持って帰ります。その代わり、約束して下さい。俺も、連れてってくれるって」
「陽太……?」
「一緒にナラカに行って、一緒に取り戻しましょう、ルミーナさんを」
「……本当に、いいの?」
「……もちろん。それが、貴女の望みなら」
「私、また、死ぬかもしれないわよ」
「いいですよ、その時はまた、俺が生き返らせます。今度は、ルミーナさんも一緒に。この間、宣言してきましたしね。みんなの前で」
「……ナニ、それ?」

 まるで訳の分からない話という風に、笑う環菜。
その彼女の涙を、そっとぬぐう陽太。

 二人の唇が、自然に、重なった。



「ふぅ……」

 安堵のため息と共に、校長室の豪奢な椅子に身体を埋める涼司。内心、今回の登山行の成否を危ぶんでいただけに、重圧から解放されたという感覚も一入だった。

(これで元気になれば、きっと環菜は、ルミーナを取り戻しに行くだろう。その時、俺は何をすべきなのか……)

 思考の海に沈んでいこうとする涼司の視界の端に、白いモノが写る。

「ん……?」

 身体を起こした涼司は、そこに、白い花が2つ見つけた。今日環菜に持っていったのと同じ、ミヤマヒメユキソウだ。一つは、青いリボンが結ばれ、もう一つは、洒落た包みに入っている。

 涼司は、環菜が、この花を口にした光景を見ている。それに、この花が伝え得るモノのコトを考えると、おいそれと、花を口にする気にはなれない。
 しばらく悩んだ挙句、涼司は、2つの花を両方共カバンにしまい込むと、足早に学校を後にした。



 そして、数週間後――。

 泪達が撮影したテープを元に作成されたドキュメンタリー、『白雪の想い 〜白峰の守護者達〜』が放送されると、番組は大変な評判となった。
 特に、地球での反響は物凄く、これによって五十鈴宮 円華とそのブランド『マドカ』は、一気にその知名度を上げることになった。

 その一方、三道 六黒と両ノ面 悪路の両名が際立たせた、シャンバラ内部に存在する不和の存在もまた、広く人々の間に認知されることになったのである。

 シャンバラ、ひいてはパラミタという新たな世界が持つ『力』の強大さを、人々にまざまざと見せつけたこの番組は、この新世界とどう接していくべきなのかを、改めて、人々に考えさせるきっかけとなったのであった。

担当マスターより

▼担当マスター

神明寺一総

▼マスターコメント

皆さん、こん〇〇わ。神明寺です。
まずは、遅延をお詫び致します。申し訳ありません。

 今回は、久々に(!)自前のシナリオだった訳ですが、『手に入れた花を誰かに贈る行動は、むしろオマケです(断言)』とかうっかり言い切ってしまったためか(汗)、中々参加者が伸びず、一時はどうなることかと内心ヒヤヒヤしておりましたが、終わってみれば、ちょうどいい人数だったのかな?などと思っています。

 とゆー訳で、ふと気がつけば、シナリオガイドでさんざ縛りを入れたにもかかわらず、「ダブルアクション?ナニソレおいしーの?(笑)」というリアクションになりました。

 個人的に、今回のシナリオは会心のネタだったと自画自賛(汗)しているのですが、それを十分に生かし切れたかどうか……というフリをしたところで(笑)、毎度毎度のお願いになって大変恐縮ですが、よろしければ感想スレにゼヒ感想を、お願いします!

 ……とまぁ、ココロの叫びをブツけてみた所で、今回はこの辺で。

 また、マスターページに、なんか書きます。

 それでは皆さん、次回もよろしくお願い致しますm(_ _)m

平成辛卯 春如月

神明寺 一総