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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

リアクション

   拾弐

  第三回戦
○第四試合
 神崎 瑠奈VS.クリスティー・モーガン

「あのクリスティーって人は手強いですよ」
 ずっと試合を見ていた瑞樹が瑠奈に言った。
「そうなの?」
「うん。圧倒的勝利っていうのは一度もないんだけど、いつもギリギリで必ず勝つんです。瑠奈ちゃん、気をつけてくださいね」
「ありがとう、お姉ちゃん。ボク、頑張るにゃー」

 瑞樹の助言を考慮に入れ、瑠奈は試合開始早々、【隠れ身】を発動した。クリスティーの背後に回り、【ブラインドナイブス】でクリスティーを狙う。
 だがクリスティーは【殺気看破】でそれに気づいた。ほぼ同時に【チェインスマイト】を発動。瑠奈の撃った弾は、叩き落された。
【ブラインドナイブス】の効果で、瑠奈は再び隠れた。ほんの一瞬だ。その間、【鬼眼】を使った。コンマ何秒かだが、クリスティーは完全に無防備になった。すかさず、瑠奈は引き金を引いた。
 側頭部を撃たれ、クリスティーの意識は一瞬途切れた。
「クリスティー!」
 どこへ行っていたのやら、自分の試合後、姿を消していたクリストファーが観客席から呼んだ。分かっている、とクリスティーは頷いた。
 続けて瑠奈が狙っているのが分かった。そうはさせない。
 ほとんど条件反射のようなものだった。クリスティーは槍をしごき、瑠奈の胸を突いた。そのまま、がくりと膝をつく。
 ぜーぜーと息を切らしながら顔を上げると、麻羅がクリスティーに手を向けていた。――勝ったのだ。
「瑠奈ちゃん!」
 瑞樹が客席から飛び出してきた。銀とミシェルも続く。
「あ……」
「気にするな」
 青ざめるクリスティーに銀は言った。
「お前はいい試合をした。誇っていい。後は任せろ」
「そうです。救護なら任せて。すぐに治るから。あなたは次の試合のことだけ考えて!」
 ミシェルが元気付けるように言う。
 クリスティーは頷き、二人を見た。任せる、と。
 瑠奈が担架で運ばれていく。誰かがよくやった、と声をかけた。どちらへの声援だったかは分からない。


○第五試合
 空京稲荷 狐樹廊VS.ゲイル・フォード

「あ、ほらほら、キツネさん、出てきましたよ!」
 サンドラが指差した先には、しれっとした顔の狐樹廊がいる。
「凄いっス! 三回戦まで勝ち抜くなんて!」
「あの『ももたろう』相手に引き分けたんだから、褒めてあげるべきかしらね」
 どうも狐樹廊に対しては殊更厳しい気がする。これって世に言うツンデレ? とサンドラは考えた。

「あなたのような方と戦えるのは、望外の極み」
「こちらこそ。先程の戦いを拝見したが」
と、ゲイルは言葉を切った。同じ敵と戦い、同じような結果になった者同士にしか分からない、奇妙な共感がある。
「始め!」
 麻羅の声に、二人は距離を取った。ゲイルは、今度はクナイを取り出した。もちろんこれも、殺傷能力のない竹製だ。使いづらい。
 狐樹廊が扇を構える。そこに短刀が隠してあるのは、ゲイルも承知している。それをクナイでやり過ごし、逆の手で狐樹廊の喉元を突いた。
 狐樹廊は咳き込みながら扇で顔を隠した。
 ――来る!
 その扇の下からひげめがねが現れたが、覚悟していたゲイルには、何ら精神的ダメージはなかった。もらった、とばかりにゲイルは踏み込んだ。
 と、次の瞬間、吹き戻し――あの舌のような、くるくる巻いてあり、プピーと伸びるあれである――が鳴った。
 ゲイルは硬直した。
緋扇・曼珠沙華
 狐樹廊の短刀の先から細い筋が幾つも流れ出る。彼岸花のように美しいそれが、炎となってゲイルを襲った。
「くそ!」
「お覚悟を」
 狐樹廊は膝をついたゲイルの頭を狙った。
「何の!」
 ゲイルはその姿勢のまま、クナイを飛ばした。狐樹廊のふくらはぎを強かに打つ。
 今度は狐樹廊が膝をつく番だった。ゲイルは狐樹廊に飛び掛り、短刀を奪い、それを突きつけた。

「狐樹廊」
と、選手専用通路に戻る狐樹廊にリカインは声をかけた。
「おや、いらしたのですか。試合に集中していて、全く気づきませんでした」
 これだから、とリカインはこめかみを軽く揉んだ。
「あなたここまで勝ち抜いたのは大したものだけど」
「恐れ入ります」
「凄かったです!」
「どうやったらあんな戦いが出来るか、教えて欲しいっス!」
「……習うのはいいけど、あれだけはやめて」
「何です?」
「あれよ、あれ。あのひげめがね! 聞こえない!?」
 観客席からは笑い声が絶えない。
「賑やかでございますな」
「誰のせいだと思っているの?」
「たとえ笑われようと、戦いを有利に進めるためです。何ら恥じることはありませぬ」
「感動したっス!」
 アレックスが観客席から飛び降り、狐樹廊の手を握った。
「その戦い方、教えて欲しいっス!」
「アレックス。あなた私の弟子じゃなかったの?」
「それはもちろんっス!」
「それなのに狐樹廊の弟子にもなるの?」
「そ、それは……」
 アレックスは硬直した。強くなるために狐樹廊にも教わりたい。だが、師匠の嫌がることは出来ない。
 その身を二つに裂かれそうなアレックスたちを置いて、狐樹廊はさっさと控え室へ戻った。


○第六試合
 よいこの絵本 『ももたろう』VS.神崎 輝

「まあ。何やら可愛らしい取り合わせでございますね」
と、白姫がにこにこしながら言った。
「ももたろうさんは、葉莉の良いお友達になれるのではないかしら?」
「はい! あたし、ももたろう殿とお友達になりたいです!」
「あらあんた、何なら私が友達になってあげるわよ」
とイランダ。
「本当!?」
「ええ、いいわ。その代わり、うちのももを応援するのよ」
「はい!」
 イランダと葉莉、ももたろうの並ぶ姿を想像した北斗の頬が思わず緩んだ。なごみトリオとして売り出したら、神崎輝以上に売れるかもしれないな。

 その輝は、焦っていた。瑠奈が担架で運ばれたからだ。試合が間近だった彼女は、動けなかった。
 おどおどびくびくしているももたろうに、輝は一度唇を噛み、意を決して言った。
「ごめんね、ももたろうさん。ボク、急いでいるんです。だから……試合、早く終わらせたいんです。いい?」
「は、はい」
 分かったのかどうか、ももたろうは頷いた。
 試合開始の礼を、これほど心を込めずに行ったのは、輝は初めてだ。
 とんっと地面を蹴り、それでも出来るだけ力を入れずにももたろうの足を打つ。
「きゃんっ!」
 ももたろうは痛みに飛び上がり、竹刀を振り回した。それが輝の横顔に当たった。
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「いいの。その代わり――ごめんね!」
「え?」
 音速を超える一撃が、ももたろうの竹刀を破壊し、その頭部に炸裂した。
 痛みより驚いたのだろう。輝が頭を下げて去った後も、ももたろうはぴーぴーと泣き続けていた。やむなく北斗が試合場に降り、小脇に抱えて出ることとなった。イランダと葉莉、それに白姫が懸命にあやしたが、どうやら驚きから試合終了の安堵の涙に変わってしまい、更に三十分ほど泣き続けたのだった。


○第七試合
 サー・ベディヴィアVS.シエル・セアーズ

 シエルもまた、焦っていた。輝と同様、早く試合を終わらせて瑠奈の元へ駆けつけたい。
 ベディヴィアはそれを察してくれた。
「余計なことは結構。試合をしましょう。わざと負けるわけにはまいりませんが」
「ありがとうございます。ではいきます!」
 麻羅の合図も待たずに、シエルは飛び出した。注意しようとした麻羅を、構わないから、とベディヴィアは手で制した。
 ベディヴィアは待ち構えて、【ライトニングランス】を発動した。雷撃を伴う打撃が、シエルを打ち据えた。
 しかしシエルはへこたれない。回復する間も惜しいらしく、【バニッシュ】を発動した。――その分、避ける暇もなくベディヴィアは軽く吹っ飛んだ。
 更に剣と槌が打ち合う。二度、三度、四度……決着はつかず、麻羅は二人の引き分けを宣言した。
 シエルはぺこりと頭を下げて試合場を出ようとしたが、足がもつれて転んでしまった。立ち上がる力もない。
 ベディヴィアは観客席に声をかけた。唯斗が立ち上がり、シエルを背負うと風のように走り去った。
 それからベディヴィアは、選手専用通路でしゃがみ込んだ。
「格好付けすぎじゃろ」
と、麻羅が言った。
「騎士ですから」
 しれっとして、ベディヴィアは答えた。