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 多比良 幽那(たひら・ゆうな)の提案を受けて「それじゃあ、一番大きな円形の花壇は、みんなで花時計にしましょう」と、相談が始まった。今回のガーデン作りは、中庭の入り口になっているアーチから、現在、休ませていた円形の花壇、5区画を使って良いことになっている。
「全部の区画、まずは土台作りからがんばるアル!」
 チムチムは、エプロンに三角布をつけた完全装備姿で、手押し車をころころと引っ張ってきた。なかなか重そうで、バランスを取るのが難しそうだ。
「土台を作るグループ、花時計を作るグループ、他の区画に彩りよく好きなお花を植えるグループ、それから、ハーブ園のほうに行って、ハーブティーを入れるグループ……あと、えっと、お茶会の準備をしてくれるお菓子を作ってくれた人たちのグループ、だいたいこんな感じかなっ」
 レキは、チムチムと同じく完全武装姿で、みんなで相談した結果を確認した。当然レキは土台を作るグループである。
「そうだねっ!どうせならしっかりとキレイにお花を咲かせてほしいから、まずは準備をしっかりしないとね」
 恵は、シャベルとバケツを持って、小さくガッツポーズをしている。エーファも腕力には自身があるのか、けっこう重そうなクワを立てている。
「じゃあ、あたしたちはハーブ園のほうを見てくるよっ!美味しいお茶を楽しみにしてて!」
 ミルディアはそういうと、真奈の腕を取り、ハーブティーを入れるというグループのみんなとハーブ園に向かって歩き出した。
「ハーブティーを楽しみに、がんばろうね!」
 レキはさっそく腕まくりをして、一番大きな花時計用の花壇のベース作りに取りかかった。
「なかなか、雑草が多いね!」
 恵は花時計用の花壇のすぐ隣の花壇で、エーファ、グライス、レスフィナと一緒に雑草たちと格闘中だ。
「大丈夫です。しっかり掘り返せば、根からとれますよ」
 エーファは、ざくざくと花壇を掘り返している。グライスはエーファが掘り返したあとの雑草や大きな石を、黙々と分けて袋に入れている。レスフィナもエーファと同じように、クワを使ってざくざくと掘り返しているおかげで、この花壇のベースはすぐにできそうだ。肥料はいま、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が取りに行っている。
「肥料、二人で運ぶのは大変ですぅ」
 と、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たちが手伝いに行こうとしたが、佐々良 縁(ささら・よすが)佐々良 睦月(ささら・むつき)が、お手伝いを買って出てくれた。メイベルたちは、お菓子を運んだり、テーブルのセッティングのための準備をしたり、それはそれで忙しそうだ。
 力仕事の担当を買ってでたグループは、さすがに手際よく、5区画に花壇を掘り返しては、細かい草や石を取り除いている。ともかくベースを作ってしまわないことには、なかなか作業もはかどらない。力仕事に自信がなくても、熊手で雑草を集めたり、細かい仕事をしたりするのも、良いお天気の下だと十分に楽しい。
「これ、肥料ですぅ」
 日奈々たちが戻ってくる頃には、ベース作りはあらかた終わっていて、細かい掃除が始まっていた。
「おつかれさまー!いま、みんなでお花の苗を運んできたところだよっ」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)はそういうと、花の苗のたくさん乗っている台車をごろごろと転がしてきた。
「日奈々ちゃん、千百合ちゃん。植えたい花、この中にあるかなっ?」
「歩ちゃん、ありがとう。えーと……スターチスと千日紅はあるかな」
「うんっ!さっき、見た中にあったと思うよっ」
「良い香り……です……」
 日奈々は、千百合からスターチスの苗を受け取ると、花に顔を近づけた。
「今、幽那さんとレキさんたちがお花のカラーと植える場所を相談していたから、どこに植えたらいいのか、中央の地図を見て確認するといいと思うよっ」
「歩ちゃん、は……何を植える、んです……?」
「やっぱり、百合園女学院に相応しく、百合の花かなっ。きっと、そう思っている人がいっぱいいると思うから、みんなと一緒に植えようと思うんだ!……でもね」
 歩は内緒話をするように、日奈々と千百合にそっと話しかけた。
「お花でメッセージを作れたらいいなぁって思うんだけど。花時計も作れるなら、できないかなぁ……?」
「素敵な考えだね!せっかくだから、花時計の一部にメッセージを入れたもらったらいいんじゃない?」
「そうだねっ!あたし、幽那さんたちに相談してみる♪」
「いってらっしゃい!さぁ、日奈々……あたしたちは、ほら、あっちに植えようよ」
 千百合は日奈々の手を取った。
「千日紅の花ことばは『変わらない愛情を永遠に』。あたしたちにぴったりだと、思わない?」
 日奈々は千百合の言葉に、つないだ手をぎゅっと握り返して、応えた。
「スターチスの花ことばは『永遠に変わらない心』かぁ。日奈々さんにぴったりだねぇ……」
 二人仲良く花を植える準備をしている後ろから佐々良 縁(ささら・よすが)が声をかけた。その手にはストケシアの苗を抱えている。
「私も、植えるのに混ぜてもらってもいいかなぁ?おじゃま、かな……?」
「ねーちゃん、おじゃまはよくないぜ」
 佐々良 睦月(ささら・むつき)は縁の服のすそをひっぱりながら言った。
「そんなこと……、ない、ですぅ……」
 日奈々は頬を赤くして言った。
「キレイな花だね。一緒に植えようよ!」
「ありがと。色を考えたら……うーんと、こっちだねぇ」
「じゃあ俺、掘ってあげるー」
 睦月は、シャベルでざくざくと穴を掘っていく。すでにベース作りの終わっている花壇なので、土が柔らかい。
「ねーちゃん、これくらい掘ればいいかー」
「そうだね。たくさん植えたいから、もっとたくさん掘ってくれるかなぁ」
「おう!しっかし、ねーちゃん、いつもは野菜ばっか育ててんのに、その花は大事にしてんねー」
「うん。……思い出がねぇ、ある花なんだぁ」
「……ねーちゃん?」
 睦月は縁の思いがけない悲しそうな反応に、思わずどう返していいものかわからなかった。だから、ただ目を逸らして、縁のために掘り続けてあげるしか、できなかった。

 花時計を美しく作るためには、配色が重要だ。
 もちろん、適当に花を植えるのではなく、バランスや咲く季節を考えて、見目楽しく作らなくてはならない。
 歩の提案したメッセージも、花時計の横に添えることにした。百合でメッセージを書くというのは、百合園女学院の良いシンボルとなるだろう。同じように、百合の花を植えたいという谷中 里子(たになか・さとこ)と{SFL0036282#ドロッセル・タウンザントブラット}と一緒に、歩は百合の花を運んだ。レキとチムチムが土をならして場所を作ってくれている。
「百合の香りは、やはり素敵ですね」
「そうですわね。でも、色も移りやすいから、気をつけないといけませんわ。歩さん、ちゃんと長い手袋をしたほうがよろしいですわよ」
「えっ、あたしこれしか持ってないです!」
「ちゃんと予備がありますわ」
 里子はそういうと、エプロンのポケットから、予備のロング手袋を出して、歩に渡してあげた。
「メッセージを作るなんて、ワクワクしますわね。一緒にがんばりましょう」
「はいっ!」
「歩おねーちゃんっ!ボクもお手伝いするよ!」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)も、百合の鉢を持って追いかけてきた。
「ありがと!ヴァーナーちゃんは、みんなと花時計を作るんじゃなかったの?」
「レキおねーちゃんがね、まだ花時計の場所ならし、全部は終わってないから、こっちを手伝ってって!」
 ヴァーナーはにこにこしながら鉢を抱えているけれど、小さな身体に大きな百合は、少し重そうに見える。
「大丈夫ですか?」
 ドロッセルも心配して、手を貸そうとするが、ヴァーナーは
「こう見えてもボク、力持ちだからだいじょぶです!」
 ヴァーナーは、百合の鉢を上に掲げて見せた。
「みんなも、他の花壇が終わったら花時計作りのお手伝いにくるそうです!がんばるですっ!」
「じゃあ、それまでにメッセージを作ってしまいますわよっ!」
 里子はそう言うと、シャベルをしっかりと握りしめて花壇へと向かっていった。